第二百七十八話 空と真・猫パンチ
「わかりました。今は何を言っているかわかりませんけど……もし何を言われているかわかる状況になったら、ちゃんと考えますよ」
「ありがとう、空……おまえはやっぱり優しくて、バカで、愚かで、イライラするけれど、とっても大事なわたしの玩具よ」
と、悪口ばかりいいながら可愛らしい笑みを浮かべてくる氷菓。
空がそれに対し悶々としていると、彼女は空へと続けてくる。
「ところで、おまえに聞きたいことがあります」
「聞きたいことってなんですか? なんだか氷菓さんには悪いこともしちゃったし……今回の任務で、僕ほとんど役に立てなかったんで、なんでもこたえますよ」
「今なんでもって言ったわね……誓いなさい、本当になんでも答えると」
「え、はい。そんな怖い顔しなくても、氷菓さんになら別になんでも――」
「剣技ってなに」
「…………」
「あの剣、どこから出したのかしらぁ?」
「…………」
まずい。
そういえば、ちゃっかり盛大に氷菓の前で魔法と剣技を使ってしまっていた。
こうなった以上、することは一つだ。
「あ、氷菓さんあれ! ほら見てくださいよ、八百屋で野菜がすっごく安く――」
「空……手」
と、こちらに手を差し出してくる氷菓。
よくわからないが、空がその手を握ると。
「ちょっ――な、なにやってるんですか!」
空の手が氷漬けになった。
氷菓はそれを見て、ニコニコしながら言ってくるのだった。
「ほら、すごいわぁ。おまえ、とっても頑丈になっているもの……普通なら今ので、手が言葉に出すのも恐ろしい状態になるのよぉ」
「いや……だったら、そんな恐ろしいことを笑いながらしないでくださいよ」
「大丈夫よ、私はおまえを信じていたもの」
「変な信じ方しないでくださいよ! っていうか、そういうアニメのヒロインみたいなセリフ言っても、僕はごまかされませんからね!」
「えぇ、そうね。私もごまかされないわぁ」
と、突如真顔になる氷菓。
彼女は空に一歩寄ってくると、ジッと空を見つめてきながら言ってくる。
「女の子の後頭部をガツンした罪と、わたしに恥をかかせた罪……これはその罰よ。さぁ、時雨と梓胡桃の間で共有している『異世界』とやらの情報を言いなさい」
「っ!」
「あぁ……あと、シャーリィとやらの情報も聞きたいところねぇ」
この日この時、空は理解した。
空がいかに氷菓の情報収集能力を舐めきっていたのかを。
と、空がそんなことを考えていると。
「シャー!」
言って、空に向けて届かない猫パンチし始める猫。
その様は、まるで氷菓の気持ち代弁をしているかの様であった。




