第二百七十七話 空と猫パンチ②
「…………」
「…………」
沈黙が痛いとか、沈黙が重いとか。
そういった表現は、今こういう時にこそ使うべきに違いない。
時は氷菓大暴走事件から数十分後。
現在、空は時雨たちと合流するため、駅前へと向かって歩いている最中だ。
「ぶっすぅ~」
と、わざわざアニメのようことを口に出す氷菓。
彼女は猫を胸の前で抱きしめながら、空へと言ってくる。
「私は今、とっても傷ついてるにゃん……ぶっすぅ」
「それ自分で言いますか……っていうか、猫キャラまだ続いてたんですね」
なんにせよ、こうして話しかけてきてくれたのはありがたい。
氷菓には言いたいことが沢山あったのだ。
「さっきは僕もすみませんでした。頭ぶつけてましたよね、大丈夫ですか?」
「別に大丈夫よ。私の自業自得だし、少しヒートアップし過ぎたわぁ……私らしくもない。本当に何をしているんだか」
と、ため息交じりな氷菓。
彼女は猫をきゅっと優しく抱きしめると、空へと再び続けてくる。
「ねぇ、空。おまえは気が付いているかしら? おまえの周りの女の子が、おまえのことをどう思っているか」
「胡桃ですか?」
「そうね、まぁあの子が筆頭かしらねぇ」
「えっと……それが――」
「私も抱いている気持ちは一緒よ。それは冗談でもなんでもない……それだけは絶対に忘れないで。おまえは鈍感だから、何を言われているかわかっていないだろうけど……もしもあの子の気持ちに気がついたら、私の気持ちにもしっかり気が付きなさい」
なんだかすごい命令をされている気がする。
けれど、空は直観的に理解した――これは断ってはいけない話だ。
故に、空は氷菓へと言うのだった。
「わかりました。今は何を言っているかわかりませんけど……もし何を言われているかわかる状況になったら、ちゃんと考えますよ」




