第二百七十四話 空と猫氷菓
「にゃんにゃん……猫だにゃーん」
と、近づいてきたと思いきや、そんな事を言ってくる氷菓。
彼女は四つん這いになり、空の足にほっぺをすりすり続けてくる。
「にゃーん、氷菓はご主人様にマーキングをするにゃん」
「いやいやいやいや、意味わからないんですけど! っていうか、いつから僕がご主人様になったんですか?」
「今からよ。これはそういうプレイなの……しっかりと演じ切りなさい」
「あ、そこだけ素に戻るんですね」
「にゃんにゃん♪」
すりすり。
すりすりすり。
猫氷菓はひたすら空にマーキングしてくる。
けれど、されていることは所詮足に顔を擦り付けられるだけ。
(ちょっと恥ずかしいけど、この程度で氷菓さんが満足するなら問題ないかな。これを我慢すれば、今後氷菓さんが僕に『恋してる』とか『一目ぼれ』したとかって、からかってくることが――)
と、空の思考は断ち切られる。
その理由は簡単だ。
空が生ぬるいことを考えていた罰に違いない。
突如、視界がぐわんっと回ったのだ。
「!?」
いったい何が起きたのか。
空が周囲を見回すと、顔のすぐ近くに地面があることがわかる。
「にゃんにゃん……次はご主人様のお腹とお胸にマーキングするにゃん♪」
と、言ってくるのは空の身体に跨った氷菓である。
要するに、空を縛り付けていた十字架が半回転。
結果として、空は地面に寝そべるように縛り付けられる格好になったのだ。




