第二百六十四話 空と時雨は水入らず?③
「兄さんはわたしのこと、なんでも知っているんですね……」
と、言ってくる時雨。
彼女は空の胸に頭を預けてくると、さらに続けて言ってくる。
「ちょっと、今日の件で疲れてしまいまして……恥ずかしいことですが」
「今日の件って、朝の説明のやつ?」
「はい……まぁ他にも、校長の代わりに学生ヒーロー制度について、みんなに説明したことなどもありますけど」
たしかに、時雨は気だるげな表情から見てわかる通り、あまり面倒事を好まない。
人前で喋るなどはもってのほかに違いない。
しかし……と、空は思い当たったことを時雨へと言う。
「いつもヒーロー活動してるとき、みんなの歓声に答えたり、イベントに呼ばれたりしてるよね? あれよりも、ここ最近の説明の方が疲れたの?」
「そうですね……最近の活動の方が疲れました。なんせ、誰かに説明したり教えたりするのは、今回が初めてだったので」
「あーなるほど」
慣れないことをやったのならば、誰しも疲れるのは当たり前だ。
しかし、時雨は立場上疲れを表立って見せることができない。
それ故に、こっそり空の部屋にきたに違いない。
まぁ、空の部屋に来ることで、疲れが取れるかどうかについてはわからない。
けれど、時雨がそう判断してくれたのならば……。
「は、はぅ……な、何ですか兄さん!?」
空の膝の上で身体をビクンとさせる時雨。
彼女は身体をもぞもぞさせながら、空へと言ってくる。
「ど、どうしていきなり……その、抱きしめてくるんですか?」
「んー、ほら。時雨って小さい頃、雷怖がってたでしょ?」
「忘れましたよ、そんなこと……だからなんですか?」
「だから、あの時みたいに抱きしめれば、少しは疲れが取れるんじゃないかなって」
「はぁ……疲れと不安は別物ですよ、兄さん」
言われてみればその通りだ。
それによくよく考えてみると、空の行動はやばいのではなかろうか。
(年頃の妹を後ろから抱きしめるってこれ……見る人が見なくても、完全にシスコンと勘違いされるよね?)
それは困る。
空はノーマルなのだから。
と、空が時雨を解放しようとしたその瞬間。
「兄さん……もう少しだけ、このままでいさせてください」
時雨がそんなことを言ってくるのだった。




