第二百五十五話 空とグループ完成②
「失礼します……遅れてすみませんでした」
と、時雨はなにやら見てわかる程に疲れた顔をしている。
けれど、それも仕方がないことに違いない。
なんせ。
「またサインとか握手?」
「はい……大変ですよまったく」
時雨は空の隣までやって来ると、ひょこりと腰をおろしてくる。
これで左右を胡桃と時雨に挟まれたかたちになる。
もっと他に席はあるのだから、そちらに座ればいいのに。
空がそんなことを考えていると、再び聞こえてくる時雨の声。
「大変ですけど……これもヒーローの仕事ですからね」
「おつかれさま、時雨」
「ただ一つ理解できないのは、どうしてヒーローコスを着ているときだけ、みんなサインを求めてくるのか……ですかね」
「そういえば、私服の時ってあんまり声をかけられてないよね。時々ファンクラブの人たちが、時雨ちゃんって叫んでるけど」
「ファンクラブの話はやめましょう」
と、手の平を空へと向けて静止ポーズしてくる時雨。
空は「ごめんごめん」と、時雨へと言う。
「多分だけどさ、わきまえてるんじゃないかな? コスチュームを着ている時はヒーローの時雨、着ていない時は生徒の時雨」
「オンとオフ、プライベートとそうでないとき……みたいな感じですか」
「そうそう、そんな感じ。なんせ、ここはヒーロー養成学校だからね。意識的にしろ、無意識的にしろきっとわかってるんだよ、最低限の線引きを」
「さすがは兄さん……合理的な回答です」
「はい、そこまでよ」
と、兄妹の会話を断ち切ってくるのは氷菓である。
彼女は続けて言ってくるのだった。
「会議中に普通のトーンで二人だけの会話は禁止です」




