第二百四十話 空とリーシャと危ない出来事②
「優しくて、強くて……クウ様は理想通りのお方です」
と、至近距離から上目遣いで言ってくるリーシャ。
彼女は瞳を潤ませ、見てわかるほど頬を赤く染め、空へと言葉を続けてくる。
「先ほども言った通り、わたしは幼少の頃から勇者様のことを考えていました。一緒に旅をしたり、一緒にお話をしたり、一緒に困難を切り抜けたり」
「この前の一件で、僕はリーシャの夢を叶えられたのかな?」
「はい、クウ様はわたしの夢を叶えてくれました。クウ様のおかげで、わたしはわたしの存在価値をようやく見いだせました……ようやく、わたしにわたしを与えてくれました」
「リーシャ?」
「怖かったんです。予言を受けて聖女になったのに、自分にはなんの力も出せなくて……いつまで経っても勇者様を見出せなくて……わたしはなんなのかって。いつか勇者様と旅をする夢を見ている一方、わたしに夢を見出す人々を裏切り続けるのが――」
「たぶん、誰もそんなこと思ってないよ」
空が言うと、弾かれたように顔を上げるリーシャ。
空はそんな彼女の頭を優しく撫でながら、言葉を続ける。
「優しくてとっても綺麗な心を持っているリーシャは、僕と出会う前からしっかり聖女だったよ。今なんて、もとから聖女だったのが余計に聖女になってさ、すごいことになってるんじゃないかな?」
「……もとから聖女だったのが、今はどうなっているのですか?」
「え、うーん……スーパー聖女とか?」
「…………」
「…………」
完全にスベッた。
沈黙が痛いとはこのことだ。
とりあえず何か言ってフォローしなければ。
と、空がそんなことを考えていると。
ドッ。
と、空の身体に伝わって来る衝撃。
背中に回される小さくも暖かい手。
「ちょ……な、なにしてるの!?」
見れば、リーシャが空へと無言で抱き着いてきていたのだった。




