第十三話 ヒーロー見参
「か、勘弁してくだせぇ!」
「いいから有り金全部だせ! 殺されたいのか!?」
時は少し遡り、空が《技能書》を読んでいる頃。
場所は裏路地にある質屋。
そこでは二人の男のやり取りが行われていた。
一人はこの世界において、一般的な身なりの中年男性。
もう一人はボロ布を纏い、顔を隠した男性。
「うちだって、そんなに儲かってないんだ! 金をとられたら生活が――」
「うるせぇ! そんなこと知るか! 早く出しやがれ!」
と、再び聞こえる声。
前者は中年男性こと店主。
後者はボロ布の男性こと強盗である。
強盗は店主へ短剣を突きつけながら、さらに言う。
「めんどくせぇな! こっちはてめぇを殺してから、金を奪ったっていいんだぜ?」
「そ、そんな――」
「俺がそれをしないのはなぁ、探すのが手間だからってだけだ! だから、殺されたくないなら、早くしやがれ!」
「か、家族が……子供もいるん――」
「知るか! 刺すぞ、いいのか!?」
「う、ぅぅ……」
と、店主は渋々ながら男の命令に従う。
ここで殺されて困るのは自分だけではない。
それこそ、本当に家族を支える者が居なくなってしまうからだ。
店主は金庫から金を取り出し、全て強盗へと渡す。
しかし。
「おい! 客が質に入れてる物も全部よこせ!」
強盗は更に要求してきたのである。
だが、それを店主がいやいや飲むより早く。
「そこまでだ!」
響く声。
それと同時、勢いよく開く入り口の扉。
「な、なんだてめ――」
と、強盗のそんな声を完全無視。
店内へ飛び込んできた人物は、強盗の片腕を掴み。
「その人から離れろ!」
そう言いながら、強盗を勢いよく店の端へと投げ飛ばすのだった。