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第13話:絵描き色を作る

兄姫村が位置する高山地帯にも緩やかに春が訪れ、様々な花が道行くものを楽しませる。今もそんな花々を眺めながら村から出てくる人影が複数。しかしドラゴンの幼生体を確保するために集められたハンターたちは村の外の屋敷にもう何日も閉じ込められていた。それはメホソの仲間たちが完全に村からいなくなるまでの措置、彼らからは死亡したと思われないといけない、である為しょうがないことだとは認識していたが、皆些か暇を持て余していた。家主のサムと言う男は気の良い男でこの大勢の客が暇にならぬように、料理や書物、家人のダンスなどと趣向を凝らしてはくれていたが、それも二週間が限界であった。しかしその中の一人は今も尚真剣な表情でぐつぐつと煮えたぎる鍋を真剣に凝視している。その男、エノグが鍋に向かい始めて今日でもう十日目、何をしているかといえば当然料理ではない、フードマントを被った女性、ドラゴンの母より貰ったものを絵の具にするために試行錯誤していた。最初は削って粉にしてから膠と混ぜようとしたが、その素材は恐ろしく硬く何をもってしても削れるという事がなかった、なので今は煮出してみようと鍋に入れてみたが、鍋の水は透明なまま一向に変わることはない、始めてすぐは他のハンターたちが何を始めたのかとあれこれ見に来たが、今では周りには誰も居ない。エノグは透明な湯をしばらく眺め、ため息をつくと、箸でその素材、おそらくはドラゴンの鱗であろうものを持ち上げてざるに上げる。その時にふとドラゴンの鱗が柔らかくなっていることに気が付く、試しに箸を刺してみると中までスッと入る。それに気が付いたエノグの行動は早く、すり鉢とすりこぎを手にとると、一気に磨り潰していく、そうして団子状になったものを一部は薄く平たく伸ばしてざるに乗せる、一部は丸い団子のままにして置いておく、そして残った一部はすぐさま膠と混ぜて、エノグが作った小さな白いカンバスの上に塗り広げていく、上の方は厚く下の方はより薄く塗り上から下へグラデーションになる様にする。エノグはそれをもってすぐさま庭に飛び出し、日の光の上でそれを眺める。



それはドラゴンの母が来ていたようなフードマントの色を深い深い青色を湛えていた。それは空のうんと深いところ、もしくは海のうんと深いところの色に似ていた。そしてそれはエノグがこれまで探しても探しても作っても作っても手に入れられなかった色に近い色だった。だがこれを基にすれば望んだものを手に入れられるそんな手ごたえがあった。エノグはこの色の製法の調整や他の色との混色について思いめぐらせる。絵の素材はドラゴンの母から貰ったもの以外にもドラゴンの巣に立ち入った時にいくらか拝借していたので、自分が今後各分には困らない分はあった。後はゆっくりとこの色と付き合っていこうか、もうここ半年は気の詰まる生活を強いられてきた。そろそろ気を抜いてしまいたい。そうエノグが空の深みとカンバスとを眺めていると、屋敷の表の方から回り込むようにして庭の方に家主が姿を現す。 「_その表情を見ると、いい結果が得られたようですね。」 「_ああ、おらが探していた色に到達できそうなきがする。」 「_それはそれは、良い事でしたね。良い事ついでに、漸く僕たちの様子を窺っていた者達の最後の者達が先ほど村を出ましてね。なので今日は僕たちの復活祭です。それにエノグさんも長年の目的を近づいたようですし。今日は酒場で宴会でもしようかと。」 「_そうか、、、因みに、今日はフードマントの女性は来るかね?」 「_そうですね、、彼女はうちの度数の高い酒はみんな飲み切ってしまって、、、だから次の入荷までは来ないと思いますよ。特に連絡手段もないので、何か伝言でも残します?」 「_いや、それなら別にいい。」



「_そういえば、、、ヒガシノ都市で大きな災害が起きたそうですよ。噂によればドラゴンの罰だそうですが、、、」 「_、、、そうか、、、それはどの位の災害だったんだ。」 「_なんでも都市の中心地を含めた半分を地上から上どころか地下の土ごと根こそぎ失ったそうです。」 「_、、、」 「_パステルさんといいましたか、彼女のお子さんなんですがね。元居た町では育ててくれる者もいないようで、今こっちに連れてきてもらおうかと考えているんです。」 「_、、、連れてきてどうする? まさかお前さんが育てるのか?」 「_いえ、まだ何も考えてはいないのです。」 「_パステルさんとこの以外にも、人質だった者は皆ここに連れてくるのだか?」 「_ええ、一応は皆さん死んだことになっている身ですから、、、この世界の東の果ての村で静かに暮らして貰うことで各人はもとより、この村の村主様からも了承は得ています。」 「_、、、本当に、本当に呆れる程何から何まで手配してしまえるのだなお前さんは。」 「_ははは、全て僕の力ではありません、みな家人の人脈と村の懐の深さの賜物です。全てを自分の力のみで成し遂げたエノグさんに比べたら僕なんか自分では何もしていないですから、エノグさんの方がすごいですよ。」 「_ふふ、お前さんちょっと自己評価が低いんじゃないか?」 「_よく言われます。」 エノグは微笑みながら空を眺め、「_バステルさんの子供、たしか息子さんだったか、何歳になるかね?」 「_まだ6歳だそうです。」 「_そうか、、、おらが住んでいた西の都市町村ではな、子供は皆6歳になると、剣術の修行に出されるんだ。」 「_へぇ、そういう文化が、、、」 「_どれ、一度その息子、おらに預けてみんか?」 「_エノグさんがお育てになるので? 別にパステルさんの事は責任を感じる必要はないと思いますよ。」 「_そういうわけではないだがな、、、実はおらが家は代々格闘術の師範をやっていてね。弟子は何人も見ていたこともあった、、、親が死んでからは趣味の絵にかまけて道場は閉めちまったが、また久しぶりにここで初めて見るのも手かもしれん。パステルの息子には一番弟子として育ててみてもよいと思うだ。」 「_子育てって大変ですよ?」 「_そうだな、想像は出来んが大変だろうね。だがドラゴンの間近までいくのに比べれば何という事もあるまい。」 「_ふふふ、そうですね、僕も間近で見ましたが、間違っても手を出すようなものでは無い。今思い出しても背筋が凍ります。」 「_まさかお前さんアレに手を出したのかね!?」 「_、、、えぇ、芝居上の演出としてでしたがね。。生きた心地はしませんでした。」 「_やっぱりお前さんはすごい男だな。」



するとエノグは何かを思いついた様な表情をすると、手に持ったカンバスをサムに見せて、 「_そうだ、店主さん。お前さんならこの色になんと名前を付けるかね?」 「_へ、色の名前ですか?」 「_ああ、そうだ。このドラゴンの鱗より作り出すこの深い青のだ。」 「_、、、そうですね。群青色、とはどうでしょう。」 「_グンジョウ?」 「_ええ、僕の国の言葉で青が群れるという意味です。今回の件には実に多くの人が関わりました。中には命を落としたものも居ます。ですが、その方たちも含めて全ての方が居たおかげて、この色は生まれたと思うのです。」 「_、、、多くの者が群れた結晶ということだか。」 「_ええ、それで群青と言う言葉がうかんできました。」 「_うん、いい響き、いい意味だ。」 とエノグが言うとカンバスを見つめる。



カンバスの群青色は兄姫村から見る遠くに見える海にも空の連なりにもそして山の深い連なりにも見えた。

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