第11話:六日目、決戦
突如として現れたドラゴンはまた突如として去り静けさを取り戻した兄姫村、そのほど近くの森からフードを被った人影が姿を現す、人影は持っていた荷物を木の枝にぶら下げると森と外垣に挟まれた道にそっと足をつける。人影はジッと耳を澄ませ村の音を探る、太陽は空高くに上がっているというのに村からは人の気配は皆無だった。人影はこれなら誰にも見られずに済むと思いながらも気配を消して道を北に進み、しばらく歩いて村の北東にある掘っ建て小屋を見つける。人影は更に静かに歩き小屋の背後から近づく、そうして地面から手頃な石を拾うと、小屋の入り口側に高く石を放り投げる。それは放物線を描いて 『ガンッ』 と音を立てて落ちる。すると小屋の中から一人の細い目の男が姿を現して辺りを窺う。人影はその隙に掘っ立て小屋の隙間から小屋の中にいた一人の老人の口を押えて静かに引きずり出し、急いで森の中へと連れ込み、老人にナイフを見せてるとそのまま猿轡をかまして腕と足とを紐で括り付ける。老人はフードを被った者の顔を見たがその顔色は真っ黒に塗られていて性別すら判別できなかった。フードを被った人影はしばらくして、掘っ建て小屋の正面に周り口笛を一つ鳴らす。中からはまたも細い目の男が姿を現し、フードを被った男と目を合わせる。
「_やぁやぁ、すっかり全ての仕事を終わらせたようですね。」 と細目の男は拍手しながら芝居がかった様子で話しはじめる。 「_ドラゴンの幼生体を攫ったのち、全ての関係者を葬り去る。。。キジシロさんハチワレさんに始り、今一人残ったチャトラさんも小屋から消して、、、流石の腕前ですね。」 するとフードをかぶった男は静かに 「_、、、キジシロとハチワレは違う奴がやったがね。メホソさん。」 と呟くように話す。それを受けてメホソは 「_それで? もうドラゴンは遠方まで運び終わったでしょうし、後は僕たちも帰るだけだ。。。それなのにどうして僕に殺気を向けてくるんです? エノグさん。」
フードをかぶった男はゆっくりとフードを下ろすと、「_それは、こっちのセリフだな、メホソさん。おらはあんたが向けてくる殺気を反射しているだけだ。」 と困ったそぶりを見せながらまたその男の癖で呟くようにして話す。 「_おらが思うには、メホソさんお前さんの仕事には続きがあって、おらを消して去るというのがそれなんだと思うだな。」 「_ふふふ、そこまで分かっていながらどうしてここに姿を現したんです? チャトラさんも消して貴方は依頼は達成した。あとはどこにでも逃げれば隠れてしまえばよかったのでは?」 「_確かにおらの目的は達成した。が、どうにも逃げ隠れして過ごすのは面倒でね。お前さんにはこの件に関わったものは、おらも含めて皆全て死んだと報告して欲しいんだ。」 「_ふふふ、、、それをすることに僕に何の利益があるというのです?」 「_うん、利益はない。が、不利益も無かろう? お前さん達にとってはおら達の命なんぞ有っても無くても、浜の砂一粒ほどの価値すらないだろうに?」 「_まぁそうですね。エノグさんが生きていても蚊ほども影響ありません。ですが、貴方にはドラゴンの捕獲法の秘密を知られてしまっています。そこが一つ厄介なところです。それに、、、」 「_それに? まだ厄介な理由があるのか?」 「_ええ、これは酷く個人的なことなんですがね。。。」 と言いながらメホソは細い目を更に細めて笑顔を作ると、 「_単純に僕が暴れたりないんですよ。せめて、キジシロさんやハチワレさん、それにクロさん何かも、僕の為に残しておいてほしかったなぁ。。。でもいいんです。エノグさん貴方も十分に強そうだ、いや、貴方は今回集まった人の中で一番強いはずだし自分でもそう思っているはずだ。僕はね、、、エノグさん、僕は自分が強いと思っている人をみると我慢できなくなるんです。その何の確証もない自信を自惚れをゆっくりとズタズタに一つずつ引き裂いてやりたくなるんです。」
「_、、、それはそれは、、、それがメホソさんの本性という事か?」 「_ええ、でもそうは見えなかったと思いません? 今回はとても、とても我慢したんだ。だから分かるでしょう?」 とメホソの表情と声色が変わり、その背中から一本の細剣を取り出す。 「_楽しませてくださいよ?」 そう言うと恐ろしく素早い動きで突きを繰り出してくる、エノグは咄嗟に横に跳び躱すが、細剣がそれを追うようにしなるとエノグの右肩に突き刺さる。それでもメホソの攻撃は止まらず、目にも止まらぬ動きで連続で突きを繰り出してくる。左腕、右足、左足、右頬とを掠め薄くエノグを切りさいていく、エノグはこの狭い小屋では不利と考えるとドアから外に出ようとするが、それはメホソの細剣が先回りして外への脱出は失敗に終わる。 「_逃がしませんよ?」 メホソは薄く笑みを浮かべると剣先をしならせ攻撃の出先を絞らせないようにしながら 「_さて、次はどこを刺しましょうか? ははは。」 と言うとまた俊足の踏み込みから連続で突きを繰り出してくる。するとエノグは体勢を変えて、構えをとる、左半身を前にして左腕は軽く上げ右腕は顎の辺りへ、そうして量の腕を軽く握るとなんとそこから一歩踏み込み、腕の甲側で細剣の一撃を捌き始める。何度目かにそれをした後エノグはメホソの攻撃に慣れたのか話し始める。 「_、、、お前さんの剣は虚剣、、、その不可思議な剣先の動きから出合頭でこそ威力を発するだ。。。だが慣れてしまえば、捌くのは容易い。最初の一撃で急所を突いておくべきだっただが、それは性格上出来なかったというところか? しかしその攻撃はもう当たらんぞ?」 「_ふふふ、ははははは、面白い、面白いこれが俺の全力だとでも? いいでしょういいでしょう。」 とメホソは言うと小屋の隅にゆっくりと歩いていくと、布の塊の下から細剣の束を取り出す。そうしてそのうち一本を取り出すと両の手に細剣を持ちニヤリと笑う。エノグは冷や汗を流しながら、背後に急いで下がり、扉をぶち抜いて扉ごと外へと飛び出す。
エノグが小屋から少し離れると、小屋の中から剣の束が投げ出され地に着く刹那にメホソが飛び出してきて、俊足の四段突きを繰り出してくる、両の手により放たれるそれは先ほどまでの倍以上の速度としなりでエノグを襲う。エノグはとても捌ききれないと判断すると、後方に距離をとって何とか躱す。さらに三段突きからの横一閃は手の甲で受ける。メホソは腕を一本貰ったと思ったが、それは何か硬い感触で遮られる。よくよく見ればエノグは小手を装備していたが、どうやら今の攻撃はそれでガードされたらしい、 「_なにか小癪な物を持っているようですね?」 「_はっは、金属板を荒縄で縛っただけのもんだがね、案外よい仕事をしてくれる。それとメホソさん、お前さんの剣術、相当にアレンジされているが見たことがある。それは西方の剣術だろ?」 「_、、、、、そういえばエノグさんも西の出身でしたね、僕の使う剣術はね、西方剣術をより攻撃的に最適進化させた奔放流というものです。秘匿ですがこれには百の戦型があります。だから、まだまだ楽しめますよ!」 とそういうとメホソがまたも左右の高速突きからの十字切り、右剣の振り上げ、左剣の二段突き、エノグが躱した方向への右剣三段突きと息をつく間も持たせぬ連続攻撃が続く、さらに右剣のしなる突きが繰り出されたとき、エノグは後方へは下がらす左拳を素早く振るう、するとパキッと音がしてメホソの細剣が刀身の真ん中から折れる。しかしメホソは驚いたそぶりも見せずに更に左一閃、折れた右剣でも一閃、止めに左五段突きを見舞う、エノグは全てを躱すことは能わず左胸に二段突きを喰らい、後ろに大きく距離をとる。
「_ははははは、武器破壊も我が流派の想定内、その程度では僕の攻撃は止まりませんよ。それに、、、」 と言うとゆっくりと剣の束の所に戻り、右剣をとりかえる。 「_それに、武器の代えはまだまだ沢山ある、だからまだまだ楽しめますよ。」 「_うん、剣を取り換える邪魔をしようにも、近づけばさっきまでの連撃がまっていて全くそれが出来ん。メホソさん、お前さん思っていたよりも強いな。」 「_いやいやいや、それはこちらの方こそ、いい動きでしたよ、エノグさん。僕は楽しい、とても楽しいですよ。こんなにいい餌は久しぶりだ。」 エノグは先ほどの胸に受けた突きが肺にまでは達していない事を深い呼吸をして確かめると 「_メホソさん、西方ではな、皆子供の時分に剣術の手習いに出されるんだ。だがちゃんとした師匠と言う者がいないことが多くてね、町や村ごとに微細が異なって場所によってはまるで別流派といえる程変化することがあるんだな。」 「_へぇ、、、そうなんですか、、、それで、エノグさんが習ったのはどのような流派なので?」 「_おらか、おらの所は特に防御に特化した流派でね、名前は特にないが、防御の護型が様々ある。」 「_そんなつまらない流派が? 防御特化なのにエノグさんなかなかに手負いじゃないですか? もっとちゃんと習った方が良かったですね。」 「_そうだなぁ、、、」 「_それで、今の会話で少しは休めましたか? 僕はもう待ちきれないんですけどね?」 「_ふぅ、ばれたか、、、」
メホソはゆっくりとエノグに向かって歩き出す。防御の護型?それを一つずつ我が奔放流で崩していくのも楽しそうだと思いながら剣先を下げ走り出す。まず右剣を左から右に一閃、エノグが後方に躱したので、それを追いかけるように左剣を突き入れるがそれはエノグが左側に避け、そのまま蹴りの体勢に入る。メホソは蹴り脚に右剣の突きを合わせる、エノグはそれを察し、後方に二回跳ぶ。逃がさないと今度は左の五連突き、頭、両肩、胸、腹を狙う。腹には当たったがこれもまた浅い手ごたえ、全くちょこまかとよく躱すと思いながら、右剣でエノグの眉間を狙った高速の突きを放つがそれは小手により撃ち落される。少し自分の上半身が前に流れてしまったので左剣の連続突きで弾幕を張ると一度後ろに下がる。それに合わせてエノグが前に出てメホソの腕を狙った拳を放ってくる。メホソは一度両腕を引いてそれを躱すと次の瞬間には左右の剣を同時に突き入れる。それでエノグが下がったらまた連続突きを繰り出そうと考えていると、そこで驚いたことにエノグはさらに一歩踏み込むと両腕の甲側で両剣を挟んで受け止めるとさらに前進し、刀身を根元から叩き折ってくる。エノグの口元が少し緩むのが見え、さらに前進してくる。エノグは先ほどの動き、両剣で突きを放つところを想定し待ち構えていたのだ、とメホソは感じた。だが両方の武器が破壊されるのもメホソは想定内だった、メホソは顔でこそ驚いた表情をしていたが、心の内ではエノグにもっと近くに寄ってこいと考えていた。そしてエノグが拳を放とうとするその瞬間まで待つと、右腕を首の後ろに回し隠していた剣を握ると、エノグの拳より早く抜刀しそのままの勢いでエノグの正中に切りかかる。
エノグは咄嗟にそれに反応し両の小手で受け止める、しかし剣が下まで振り切られたあとに剣先が変化し、下から上への突きが繰り出される。これには抜刀からの強振を受ける為腰を落としていたエノグは遅れて後進するも腹から胸にかけてを切り裂かれ血が飛び散る、がまだ傷は浅い。戦型が百もあるというのは伊達ではないらしい、だがこちらとてまだ負けたわけではないし、今も二本の武器を破壊して見せた。一本のみとなれば格段に手数は減る。ここでどうにか攻勢に出たい。しかし、メホソは武器が破壊されても驚くそぶりを見せず、淡々と攻撃を繰り出してくる。しかも今度は左右への揺さぶりをエノグに仕掛け、まずエノグの背面に回り込もうとするのを前進でさけ、メホソに対し向きなおすと目を狙った突きを仕掛けそれを上体を仰け反らせて躱せば剣先を変化させ肩口を薄く切り裂かれる。更に後進するも、今度は左手から回り込まれ左太ももを狙った突きを、これは小手で捌こうとすれば剣先が三角を描くように振るわれ膝下を切られる。それでもメホソは止まらない、再度エノグの後ろに回り込む動きを見せると、それを陽動として大きく背面から回転するようにして、丁度バックハンドブローを繰り出す要領で切りかかる。それは何とか小手で防ぐ。
メホソはなかなか決まらぬ戦いに苛立ちを見せるわけでもなく、ただただ徐々に追い詰めていく感覚を楽しんでいた。 「_ははは、今のはちょっと粗い一撃でしたね。」 「_、、、」 「_あれあれ、どうしたんですかエノグさん、口数まで減っちゃって、、、もっと楽しませてくださいよ?」 「_ふむ、武器が一本になって楽になるかと思えば、左右に揺さぶってくるし剣先を遊ばせてくる。中々手ごわいね。メホソさん。」 「_やぁやぁ、うれしいなぁ、楽しいなぁ。それにしても防御特化の流派の技はどうしたのです? もっとその技を見せてもらいたいなぁ。僕の方の技はまだ戦型一式から三十式までしか使ってないですよ。まだまだ実戦で使いたい技はいっぱいあるんだ。」 「_、、、そうだな、出し惜しみしていては、傷を重ねるだけか、、、護型三式、流。という技でも見せてやろう。」 とエノグが言うと今までの構えから、拳の握りはかるくそしてより腕を自分の身から遠ざけ、さらに上半身を前傾させるようにして構えなおす。 「_ふふふ、もういいですか? 行きますよ?」 「_ああ、来い。」 メホソは言われるや否や真正面から踏み込み三連突きを繰り出す。エノグは今度はそれを躱そうとはせずに全て小手で受け流すようにして捌いていく、メホソが剣先を変化させようとしても、剣の根元に小手を添えられている為、変化の幅が小さく攻撃に転じられない。突きは当たらない、ならばと剣を横薙ぎに振るがそれは逆にエノグに剣元を抑えられ剣先を曲げられてしまって空振ってしまう。まずい、と思った刹那、エノグに距離を詰められてわき腹に掌底を喰らってしまう。さらに拳を伸ばしてくるのを感じると後ろに跳び剣を五芒星を描くように振り剣の膜をはる。エノグはそれ以上は追わずに先程の護型何式とか言っていた構えに戻る。やはり侮れない相手である。まさか攻撃の機先に手を加えることで剣先を曲げ自身に当たらないようにするとは、、、しかしその技は完全に待ちの型らしい、こちらが動かなければ向こうからは動かないようだ。メホソは一度エノグ側に踏み込み、攻撃のそぶりを見せると、次の瞬間には全力で後方に跳び、剣の束が置いてある場所まで向かい、再びの二刀となる。
エノグは護型三式の構えのままそれを見ていた。ふむ、メホソはこの型の弱点をいち早くつかんだらしい、この型は確かに完全に待ちに徹する型の為、相手に下がられてしまうとすぐさま追うという事が出来ない。それにメホソの剣術は素早く、おそらくは後方に跳びながらも攻撃の手があるはず、うかつに追えばそれの餌食になりかねないと思うと、二重の理由で、武器を手に入れようとするメホソを追うことが出来なかった。しかし、先程ようやくこちらからも一撃をお見舞いすることができた。まぁまずますの結果と言えるかもしれない。あとは二刀になって尚この構えが通用するかである。エノグはこちらの様子を窺うメホソを眺めながら、首を左右にふりコキコキと骨を鳴らす。さてどうしようか、メホソはまだ剣の束の所にいるし、このまま全力で走って逃げて隠遁するという手もないではないが、せっかくのこの良い戦いを楽しみたいという気持ちもある。はてさてと考えていると、ゆっくりとメホソがこちらに歩いてくる。ではしょうがない戦うかと考えていると先にメホソが動く、なんといきなり剣を投げつけてきた。しかしエノグは焦ることなくそれを捌くと、メホソはその投げた剣の陰になる様に突きを繰り出していた、エノグは咄嗟に体を反転させ回避すると今度もメホソのわき腹を狙った攻撃を仕掛けようとするがメホソが体を回転させてそれをよけるとその勢いそのままに横薙ぎの一振りを繰り出してくる。しかしそれは手甲でなんなく受け流す。するとメホソはまた隠し持っていた三刀目を取り出すと、左右同時に五連突きを見舞ってくる。エノグは更にもう二段階ほど意識を集中してその攻撃を捌き受け流す、だが流石に全弾回避はならず、右太ももに一突きされる。
メホソは興奮を抑えきれないでいた、自分とここまで対等に戦えたものが過去にいただろうか、いや自分の師匠ですらここまでの型式を出す前に葬った。それ以降は自分の技を研げば研ぐ程に戦いは短くつまらないものとなっていった。だから自分の研いだ技の数々を空気や木材相手ではなく、人相手に向けられるのが楽しくてしょうがなかった。それに今今振るう中でも自分の技は進化しているとも感じるし、多くの新たな戦型を生み出せるとも感じていた、今や自分の攻撃手段は無限にある様にも思われ、心の中には慢心ではない全能感に満ち満ちていた。そして再び左右同時の連続突きを放つ、それは先ほどよりも早く、切っ先は変化し、五段では収まらず、七段突きとなった。今度はエノグの右肩、左わき腹、左右の太ももに突き刺さる。更に右剣の横薙ぎからの左剣の五段突きを見まい、それにはたまらずエノグが後方に跳び退る。おそらくエノグの今まで使っていた護型というのは足を下げずに腕だけで相手の剣を捌くのを意図した型であったはずだ、それが後ろに下がるという事はその型を破ったということに他ならない、メホソはさらに全能感に襲われる。それは恐ろしく強烈な物で、自身の中で大きくなった気持ちが体から溢れて、体の隅々までいきわたり、更には全身の外側にまで感覚がいきわたり研ぎ澄まされている感覚に包まれる。今メホソは全てにおいて満たされていた。いまこの気持ちのままエノグを葬り去ることが出来ればさらなる感覚に包まれることだろう。メホソは戦いを急ぎたくなる気持ちを抑える。そこに慢心は無かった、最大限に冷静にこの感覚を保持したままで倒そうと考えていた。するとエノグがまた構えを変える。それは左半身を前に両足は肩幅にそして左腕はだらりと下げ右腕は顎先にそして両の拳は開いている、それは一見して最初の型のようにも見えるが、今は幾分腕が体の近くにあるように感じる。新たな護型か、メホソは考える、おそらくエノグは今手傷も増えて劣勢であると考えいているはず、ならば自分ならどうするか、おそらくは攻勢に打って出たいはず、ならばあの型から繰り出される一撃はどのようなものか、しかし少なくとも防御に特化した流派であること、これまでの攻撃が全て相手の動きに合わせてカウンターに近い技であったことから、どのような攻撃にせよこちらの動きに合わせたものであるに違いない、ようは後の先を狙ったものであろうと当たりをつける。ならば自分が成すことは後の先をとられない最速の一撃を先に繰り出すことだ。メホソはその場で軽く二三度跳ぶと体を前傾させて、その一撃を繰り出す準備をする。それは野生動物が獲物を捕食する瞬間に似ていた。全身の研ぎ澄まされた感覚はまだ鮮明にあり、今動かすべき筋肉の場所はまるで急流の滝が流れているかのように脈打っているのを感じる。たいしてエノグの方はというと池の水のごとく静かでこちらの動きを窺っているかのようだ。急流の滝と池の水の対比が面白いと感じながら、その瞬間を迎えようとしていた、奔放流最速奥義戦型の百、瞬終、そう心の中で呟くと攻撃の起点である右足の親指に力を籠める、そこからは導火線に火が付たごとく一瞬にして全身に火が燃え移りまるで頭の中が爆発したような感覚に包まれる。




