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第7話:絵描きの帰還

夜もまだ明けきっていない時間、エノグ達が森から戻り家の敷地にたどり着くと、家の中から喧騒が聞こえてきた。 「_ほら見てみろ今朝も戻らないじゃないか! あいつらが森に入ってもう10日以上は経つっていうのに連絡も何もない。やっぱりあいつらは自分達だけ人質を助けようと町に行ったに違いない!! 残された私たちは馬鹿を見ただけだ、おいお前ら! エノグ達を信じるといったな! いったいこれからどうするんだ!! 言ってみろ!!」 この声は動物学者のシロだろうか大きな声である、エノグはその場で立ち止まり、クロとサビとグレーの足も止め、事の成り行きを外から窺う、趣味の悪いことだとは承知しているが、今は各人がどういう風に動くのかを知っておきたい。すると少し怯えた声でパステル女史の声が聴こえてくる。 「_まだ、彼らが帰らないと決まったわけではないわ。今は人を疑っているような時間は無い、今本当にやるべきはDの確保に向けて必要な情報を精査するべきだわ。」 「_Dの情報? いったいそんなものがどこにあるんだ? それにあったとてどれほど確証のある情報か、そんなことは寝る前のお伽噺ででもやってくれ!」 「_シロさん落ち着いてくれ、それにこんな時間から声が大きい、外に聴こえてしまうぞ?」 と低い声でシロを落ち着かせようとするのは、、アメショだろうか 「_外に聞こえる? そんなことは構わないんだ! 一体これから如何するのか、それを決められる奴はいないのか!!」 「_もし、もし本当にエノグさん達がDを探しに行っていないとすると、我々でDの住処を見つける必要があるだろうな。」 これはトビの声。 「_それで? 時間はあと20日を切っているんだぞ! ああなんて時間を無駄にしたんだ! おれは最初からあいつらは信用ならんと言っていただろう!!」 「_まぁまぁシロさん、大声を出したところでなにも解決しない、今は別の策を考えるべきだ。」 「_そんなものはもう無いんだよ。もう必要な時間が無いんだ。時間切れだ、これならみんなで元居た場所に戻って人質を取り返したほうがまだましな作戦だろう!」 「_しかし、、、」 とアメショは言葉を途切れさせてしまう。エノグはやれやれと思いながら止めていた足を動かして家の中へと入る。



「_今戻っただが、、なんだやけに騒がしいな?」 と声を掛けると皆が一斉にこちらを見る。 「_エノグさん!」 「_これはパステルさん、どうだ? 必要な議論は出来ただか?」 と先ほどの喧騒からそれが全くできていないことは分かりきっていたが、全く何もしていないだろうことに少々苛立ちを感じてそんな言葉がでてしまう。そうして家の中の全員をゆっくりと眺める。シロは怒りの表情をこちらに向け続け、他の者は目を臥してしまっている、おや今はメホソは居ないようだ。まぁメホソが居ては先ほどのような会話は出来まいとエノグは一人納得するとため息を吐きながら言葉を続ける 「_なにも、、、出来ていないようだな。」 するとそれが癪に障ったのかシロが大声で詰め寄ってくる。 「_おいお前ら、お前らは今まで一体何をしていた! その恰好どうせ森に等入っていないのだろう、よくもまぁ戻って来られたものだな!!」 「_この服は借り物だ、そうかこの雰囲気はシロさんのせいか。」 「_雰囲気なんぞどうでもいい! こっちはお前らのせいで全てがもうダメになっちまったってのに!! 何をこんな上物の服を着て、」 とエノグの胸倉をつかんでくる、それには、クロがさっと横に来て小声で、 「_エノグの旦那、コイツはダメだ、いっそやっちまうか?」 と呟く。エノグはそれにはゆっくりと首を横に振り 「_いや、何もダメになってはいないだよ? クロさんちょうどいいこの地図を広げてもらえるだか?」 クロに指示を出す。



クロはテーブルの一つに蠟引きの紙に包まれた地図を広げる、そこにま無数の印が書き込まれていた。 「_シロさん、その地図をよく見てくれ、Dの住処までの地図だ。」 「_地図だと? こんなものがどうした! 印を入れるだけならひと時ほどの時間も必要あるまい!!」 「_シロさん、この辺が振り上げた拳を収める時だぞ?」 「_、、、いや、信用ならん、本当に森に入ったのならそんな綺麗な格好はしていないはずだ!」 「_これは借りものだと言っただろう、、、、それにしても何か幸運で何が不運になるか分からんもんだな。 いいか、これは全身泥だらけで戻ったところを集会所の主人が憐れんで貸してくれたものだ、どうせ今日も集会所の酒場に行くんだろ? そこで聞いてきたらいい。」 「_そんな、虫のいい話があるか!」 「_いいかシロさん、人を悪く言おうと思えばどこまでも悪く言える者なんだぞ? 例えばシロさん、シロさんはなんでそこまでおら達全体の活動を止めさせてまで自分の意見を通そうとするだ?」 「_俺はお前たちが信用ならんだけだ!」 「_それは答えになっていないだ。おらならこう考える、シロさんはこの中に在って唯一この計画が失敗してほしいと考えているんじゃないかと。」 「_馬鹿か! それでは人質はどうなる!!」 「_そうだ、人質だ、人質の事を本当に考えるならばこの計画を何とか成功させようとするはずだ、しかしシロさんはその邪魔となる意見しか出さない。。。そうか、シロさんは本当はその人質に死んでもらいたいのじゃないのか? だから計画を失敗させたがっている。。。うんうんそれならば納得できるだ。」 「_ぐぐぐぐ!! なんだと貴様言わせておけばー!!」 とまた胸倉をつかみにかかるので、エノグは今度はその腕をつかみ捻り上げると、 「_ははは、すまないすまない、ほれみろこうやれば誰だって悪く言えるだろ? それにこれは散々悪く言われたただの仕返しだ。」 と笑顔でその腕を放してやる。 「_どうだいシロさん、おらはシロさんは本当は計画が成功してほしいと考えていると思っているだ。だからこの辺で、納得してもらって計画を進めるために皆で知恵を出し合おうじゃないか。」 しかしシロは 「_ちっ、知らん、勝手にしろ!」 と言うと家から出て行ってしまう。



「_やれやれ、失敗しちまったみたいだなぁ、火に油を注いじまったか。」 「_そうだなエノグ、シロも興奮しすぎだったが、あんたもさらに興奮させることを言ってしまってはああなるだろう。」 とエノグはサビに注意される。 「_まぁでも、おら達が森に入っている間に、こっちを停滞させていた罰だ、多少は文句を言ってやりたかった。手を出さなかっただけありがたいと思ってほしいくらいだ。」 「_まあ、そうだな、俺達が何日も森の中を這いずり凍える思いをして回ったってのに、何やってんだとは思うな。」 とサビが言うと、いやそれ以前から家の中は全く静まり返っている。「_ああ、今ここに残っている人たちを責めるつもりは無いだぞ?」 「_いやエノグの旦那、時間的にも確かにこれ以上責めるべきではないが、各自責任は感じてほしいもんだね。みんなさんも俺たちはそれくらい苦労したってことを知ってもらいたいね。まぁそっちもそっちで大変ではあったんだろうがね。。。」 とサビとクロが目を伏せた者達をゆっくりと眺めているとパステルが  「_エノグさんにクロさん、サビさん、それは大変に申し訳なかったと思っているわ。ごめんなさい。。。それと、おかえりなさい無事に戻って来てくれて嬉しいわ。」 と言う、エノグはああ自分はこの言葉を聞きたかっただけなのかもしれないと少し思った。でもそもそも信頼関係が築かれていないところに班別行動をしたところにも問題があったかと考え、自分の中にある怒りの感情にそっと蓋をすると、努めて笑顔で 「_ただいま、こちらも無用に怒りを発散してしまって済まなかっただ、さあ、D確保の為の計画を練ろうじゃないか。」 と皆をテーブルの地図の周りに集める。

 


「_さって、こんな身綺麗な衣をまとっているだがな、おら達はDの住処の近くまで行ってきただ、ほぼ点はあったがその姿もこの目に収めてきている。ただ惜しむらくは幼生体の数までは把握できなかったというところだな。」 「_ああ、エノグの旦那、でもそれを見られるまで近づくことのリスクの方が高かったし、何よりもDが恐ろしくてね、それはみんなさんに済まないとは思う。」 「_そうだな、だが元は何も目印のない地図を作れるくらいだ、幼生体の数もメホソ達は把握可能だろうという判断もあったとは言っておこう。」 「_そう、じゃぁDに近づく術も未達ということで良いかしら?」 「_一応皆で全身泥を被ってぎりぎり目視可能な距離までは行っても向こうは警戒したそぶりも無かったからな、まぁこれで大丈夫なんじゃないかと思う?」 「_おいおい、そんな不確かな状態で俺に矢を放てと言うんじゃないだろうな?」 「_だがなトビの旦那、俺達は考えたんだがね、実際矢を放つのはDが巣にいるところでは無くて、巣から離れたところの方が、好都合なんじゃないかと思ったんだよ。だって考えてもみろ、そんな鼻の利かなくなるような匂いを嗅がされたら普通なら暴れるだろ? そんな中で幼生体をかっさらってこれるもんか?」 「_ということはわざと見つかってこっちに向かってきたところに矢を、匂いを放つということか?」 「_ああ、そうなる。」 「_、、、」 「_もし、無理そうなら言ってくれていい、その時はおらが投げてぶつけるだ。」 「_いや、いい、むしろこっちに向かってくる方が狙いやすいかもな。」 「_そうか助かるだ。」 「_では頼むぜトビの旦那、それで俺達だな、森の中で攫うまでの計画は今みたいに立てたんだが、攫ってからをどうしようというのが悩みでね。それをここで相談したいんだ。」 「_攫ってから?」 「_ああ、森に入ってから攫うまでは一つの班で行えばいいが、いざ攫ってから幼生体を村まで運搬するのまで同じ班がやるってんじゃ体がもたないし、親の鼻が何時利くようになるかも分からん、だから運搬は急を要するはずだ。だからそれをどうやって最速で村まで運ぶかを考えなきゃなんねぇ。この場合の最速ってのは親に追いつかれない速度ってことだ、それでだなミケの旦那、件の調合薬はどの位の間効いていそうなんだ?」 「_知らん、俺はこんな薬の調合は初めてだからなそれに相手がDとなったらさらに想像がつかねぇ、この調合書を持ってきた奴に聞くんだな。」 「_あ、そういえばメホソさんはどうしただ?」 「_それも知らん、だがお前たちが出て行ってからはやたらと家を空ける時間が出てきたのは確かだ、だからシロもあんなに自由に自分の意見をくっちゃべっていられたし、俺達もお前たちを疑う理由にもなったんだ。」 「_そうか、、、サビさん、これはあれか? お前さんが前に言っていた遠隔透視をどっかでしていたってことだろうか?」 「_! その可能性はあるな、メホソ自体が使うのか、誰か他の者が使うのかまでは分からんがな。」 「_遠隔透視?」 「_まぁそれは運搬方法を相談してから話すだ。」 と日が出て高くに登り始める。



相談事も形を成す中、メホソが家に帰ってくる。 「_あ、エノグさん達、やっと戻られたんですね。お帰りなさい、お疲れさまでしたね。」 「_、、、」 「_どうしましたやけに神妙な顔をして。」 「_いや、心が籠っていないことはよっく分かるだが、そんなでも言われると嬉しいものだな。」 「_いやいや、心、籠ってますよ! 籠めまくりですよ!! それに戻るなり議論ですか? 熱心だなぁ。エノグさん達が出ている間は会話すらまともに無くて心配していたんですよ。それで? Dの居場所まではたどり着けましたか?」 「_ああ、ぎりぎり目視で確認できるまでは近付けただ。」 とエノグは言いながら、実際はどこかでそれを見ていたのだろうと思う。 「_そうですか、それもまた安心しました、」 「_ただ、幼生体が何頭いるかまでは分からなかっただ。それと匂いの調合薬だがね、あれは一体どの位の期間効果が続くだか?」 「_さあ、そこまでの情報は僕は持っていませんから。」 「_、、、」 「_待って、エノグさん、Dの伝承の中に一つ今の問題を解決しそうなものがあるわ。」 「_おお、それはなんだパステルさん。」 「_ええ、それが、Dは巣から離れた幼生体は育てない、ようは放棄しちゃうらしいの。」 「_ふむならば例え一瞬でも親の隙を作って攫ってやればあとは追いかけては来ない、ということになりますね。。。好都合じゃないですかエノグさん、パステルさん。」 「_そうだなぁ、本当ならばうれしいことだな。」 「_なんです? パステルさんを疑うので?」 「_いやこの情報一つでもって安心してはいかんということだ、やはり幼生体の運搬は可能な限り最速で行うことにしよう。パステルさんにはすまないが。」 「_そうだな、エノグの旦那。」 「_ええ、エノグさん問題ないわ、これはあくまでも伝承だから。。。」 「_さって、じゃぁ話は一段落しましたかね。僕は遅くなりましたが朝食の準備をしますね。」 というと台所に立って調理を始めるメホソ、ナイフ使いも様になっている。



夕方、エノグはクロと連れだって集会所へと向かう。村の中を歩くと村人からの視線を感じる、 「_なんだかすっかり警戒されちまってるな。エノグの旦那。」 「_そうだな、森に入る前はここまで露骨ではなかっただがな。」 「_まぁシロの旦那辺りが暴走しちまったのかね? それにしてもあの旦那はどうして俺たちを目の敵にしたもんかね?」 「_、、、どうだろうなぁ、、、不安は不安なのだろうし、それにキジシロ達の後ろ盾を失ってなおハンターたちのイニシアチブを取りたかったのかもだな。」 「_ふん、あんな小さな集まりでの権力闘争か、、つまらんな。」 「_、、、だからってまた人死にを出すのは関心せんよ?」 「_分かってる。そこまでしなくとも言って聞かせるさ。。。」 「_まぁでもキジシロ達の事はしょうがないとは思っているだよ。」 「_ああ、あれは仕事の邪魔にしかならないし、それにあれは人助けでもあったからな。ちなみに俺は元盗賊であって、そっちの専門でもないからな。あれはあいつらが隙だらけだから上手くいったのさ。」 「_そうだな、それにそっちの専門は向こうの方だったんだろうな、やり方に手慣れている感じがあっただ。」 「_、、、だろうな、闇討ち専門でなければあの位の力量で賞金稼ぎで稼ぐなんてことは出来んだな。」 「_、、、しかしこの仕事、お前さんは上手くいくと思うだか?」 「_なんだエノグの旦那、怖気づいちまったのか?」 「_いんや、そういうわけではないんだけどもな、、、成功するにしても失敗するにしても何人が生きてこの仕事を終えられるのかと思ってな。」 「_いやいや怖気づいてるじゃないか、頼むぜ旦那、今や俺たちハンターは反発はあっても旦那を中心に回っているんだ。」 「_、、、そこが気に入らないんだよなぁ、あのハンター達は焦りはあるが必死さが足りないだ。」 「_なんだい旦那、酒を飲む前から絡んじまって。」 「_、、、まぁ森から帰って少しは飲みたい気分だがなぁ、残された時間も殆ど無い、それに長居してしまってはまた何か言われかねないからな。さっさと集会所に行って家に戻るとしよう。」



集会所兼酒場は仕事終わりに人が集まっているのかそれなりに賑わっていた。各テーブルはうまり、そのテーブルの周りをくるくると回りながら今朝初めて会ったサクラと呼ばれた少女が給仕をしている。エノグ達が酒場の灯りの下に現れると、一瞬酒場の会話が途切れる、やはり我々は警戒されているなと感じる。そんな中をカウンターに立つ女性店員が片手を上げる。 「_依頼の品と衣の準備は出来ているわよ。」 エノグはゆっくりと店員に近づくと 「_ああ、有難いだ。」 といって目的の物を受け取り金を渡す。 「_今日は何を飲む?」 「_いんや、今日はやめておくよ。」 「_そう、残念ね。ちなみにね、荷物は軽い方が良いわ。」 「_ん?」 「_いいいから。覚えておいて。」 とだけ言うと店員は酒の入ったカップを片手にテーブルに運んびに行ってしまう。エノグがその後姿を見ていると、クロが話しかけてくる。 「_どうした、エノグの旦那。」 「_いや、何でもない、目的は達成した家に戻ろう。」 と言いながら、さて何の暗示なのだろうと考えを巡らせるエノグだった。


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