第2話:ゴブリンの生態
6月5日(月)4時半起床、台所で皿の上に八枚切りの食パンにハムとチーズをのせ、そしてコップにグレープフルーツジュースをいれると、副業部屋に向かうサム。今朝は三つの出窓の内ひとつから朝の光がさしていた。サムはテーブルに腰かけると、メモを広げ、ゴブリン追いの計画を見直す、いくつか修正点が見えてきたので、それを修正してからパンとジュースを流し込み、サイドラインにLog Inする。
視界が切り替わると、そこは無為の家の中だった。家人たちはサムが来たことに気がつくと、朝の挨拶をしてくる。サムもおはようというと、テーブルへと向かう、そこには幾枚かの木の板を並べたものに村周辺の地図、等高線が大きく描かれていた。おおと思わず声が漏れる。自動書記の権能の応用の広さに驚きを隠せない。昨晩無理だろうと思いながら自動書記に地図を書くように指示をだしたが、みごとに仕事を終えていたのだった。ただ流石に立ち入っていない所は空白となっているが、そこは今後見て回れば良いだけだ。ちなみに地図上の無為の小屋のところにはユベシが丸くなって陣取っていた。サムは優しく抱きかかえて、そのままの姿勢で、みんなちょっと良いかなと呼びかけると、皆が集まって来る。
「_みんなには昨日行ったと思うけど、これから本格的なゴブリン追いを始める。まず最初にお願いなんだけど、すでに引いてもらった警戒網の外側にもう1ライン注意網を引いてもらえないでしょうか。」 「_ほう、どうしてじゃ?」 「_それは今後むらかみ様の結界の範囲が狭まるからです。もしゴブリン達に結界の範囲縮小に気がつかれたら、大挙して押し寄せて来る可能性があります。その為、今は森からだいたい15キロに警戒網を引いてもらっていますが、念のため、30キロのラインを注意網として持っておきたいのです。」 「_ふむ、それは分かったが、1日2日で出来ることではないぞ、半月からひと月はかかろう、それまではどうする?」 「_ゴブリンが村に侵入して来る場所はこれまでの活動から大体わかっています。これからしばらくはそのポイントの中心、大体ここからEastNorthに15キロくらいの場所に仮の拠点を置いて、日中は自動操縦で警戒網にかかったゴブリンを追い払い、朝と夜はこの家に戻って食事と状況の共有を行うつもりです。」
「_萩ノさん、昨晩お願いした蜘蛛一族の加勢の方はどうでしょう、可能そうですか。」 「すみません。サムさん、一族で召喚により呼び出せるのは、お爺様とわたくしめのみで、他のものは直接こちらに向かうしかなく、また最寄りのものも現在問題を抱えており、そうそう動けぬ状況にございます。」 「_そうですか、ちなみにその問題って、そちらの一族でなんとかなりそうですか?」 「_そのものはそう申しております。」 「_わかりました、もしそちらに何かあったら言ってください、場合によっては協力しますので、といってもしばらくはこちらも動けないですが。。。」 「_いえサムさんにそういっていただければそのものの力になりましょう。」 「_それではご隠居、萩ノさん注意網の方はNorth側から進めてください。」 「_わかったぞい。」 「_わかりました。」 「_それから、タマ、フク、2人は僕と、仮の拠点の作成だ。朝食を食べたら行くことにしよう。」とサムが言うと、そろそろ降ろせとユベシが鳴くのだった。
6月6日(火)4時起床、サムはおにぎりとお茶をもって副業部屋へ、テーブルにはサムが簡単に書いた村の周辺地図がある。そこには色付きのマーカーで一つのバツ印と四つの半分の楕円と長方形とが描かれている。バツ印は仮の拠点の場所で、楕円はこれまでゴブリンを観察してきたのをまとめた生息予想範囲だ。円が半分しかないのはそれより西側へはまだ立ち寄っていない為、生息域がわかっていないからだ、最後の長方形はむらかみの結界の範囲をしめしている。村は五キロ四方の正方形をした外垣に囲まれているのに対して、結界の範囲が長方形なのは、むらより南側は少しの森を抜けると牧草地帯が広がっていて、そこで放牧している家畜が襲われないようとそこから出て行かないようにそこだけは結界を伸ばしているとのことだった。これで、今出来ることと、分かっていることはまとめきれているはずである。
サムはおにぎりを食べ終わるとバーチェアに座りLog Inする。視界が変わりきるとサムは樹上約二十メートルの快適空間でハンモックに揺られていた。ここはサム達が村の北西部に昨日設営した仮の拠点“仮の庵”だ。現在はこちらで警戒にあたっているようだった。ちなみに周囲は蜘蛛の糸と木の葉でカーテンが作られており、外から見ても一見ではただの生い茂った木に見える作りになっている。サムはヌバタマとダイフクに挨拶をすると、状況を確認する。 「_サム様、昨夜より幾度かゴブリン達が警戒網にかかり追い払った為、現在はこちらで警戒にあたっています。」 「_そうか、夜中に大変だったね。朝の時間が終わったら家で少し休もう。」 「_はい。」 「_ピ。」 「_そういえば攻めてきたゴブリンは何グループだった?」 サムはこれまでのゴブリン観測から、村にやってくるゴブリンにはおそらく四つのグループがあると判断していた、一つ目は村の南西側、二つ目は西側、 三つ目は北西側、四つ目北西から北側である。サム達は形式上それぞれを北のほうから順に、”アルファ”、”ブラボー”、”チャーリー”、”デルタ”と呼ぶようにしていた。グループがあると気がついたのは、たまたまゴブリン達の諍いを何度か観察できたおかげであった。さらに気がついたのは、ゴブリンの活動範囲は東西に広がる楕円形をベースとしておりその為、西端の斥候部隊の位置から、それぞれのグループの活動範囲が予測出来ることも分かっていた。そこからさらに分かったのは、南北はゴブリン同士がやり合う為、手を出す必要もなく勝手に数を減らしてくれる。だから西端の進行さえ留めてやれば、村にはやってこないということだった。因みにゴブリン同士でやり合って死んだ個体からは、その耳を削ぎ取って、サム達が狩った事にして村主達に報告していた。そんなことを考えていると早速、
「_サム様、ブラボーグループがきています。」 「_よし行こう、タマ、フク。」 「_ピ。」 と急いでロープで地上に降りると南側に走っていく。ゴブリンをギリギリ視界に捉えた時、いつもと違う様子に気が付く、普段は三匹を一班とし行動する彼らだが、今回はその三〜五倍の分隊クラスでイノシシを相手にしていた。複数の班でイノシシ狩りをしているのを見た事はそれまでにもあったが、今はそれだけでは無く、親イノシシを相手にしながら、その子イノシシを攻撃する事なく攫っている。そしてゴブリン達は子イノシシを痛めつける事はせずに大事そうに抱えて運んでいっているのだった。 「_サム様どうしますか?」 とヌバタマが 「_ご主人様どうされますかっ?」 とダイフクが聞く、サムはしばらく考えて、 「_タマ、大蜘蛛になって僕を木の上まで運んでくれるかい、ちょっと子イノシシをどうするのか様子を見てみよう。」 サムはその思いつきに任せて樹上を通り、子イノシシを攫っていくゴブリンを追いかける。このあたりはまともに間伐を行なっていない為、樹上とはいえ動きやすい、20キロほど進んだろうか、集落のようなものがその視界に入る。ゴブリンの居住地を見るのは初めてだった。
サムはゴブリンが社会性のある生き物だとは思っていたが、まさか集落を築く程とは、と驚きを隠せない。そして子イノシシは三メートル四方の区切られた苔むした石垣の中に入れられる。その石垣は村の物と違い自然の石を積み上げて作られているように見える。さらにいくつかの小さい石垣が組まれているところをみると、ゴブリンの文化の高さがうかがい知れる。。。いや昔の人の集落跡を使っているという可能性もあるかもしれない、苔むした石垣や、森に一部のまれている石垣を観るとむしろそちらの方がありそうである。 「これは他のゴブリングループの居住地も見てみる必要があるかなぁ。」 とひとりごちるサム。そしてサムは一つの石垣の囲いの中に目を移す。そこには、子イノシシの上に子ゴブリンが乗っているのが見られた。子ゴブリンはイノシシに振り落とされないようにしっかりと毛を掴み、その背に揺られていた。更に集落の中には大人のイノシシにまたがった大人のゴブリンの姿も見られる。正直にいうと、サムは子イノシシはゴブリンの儀式の生贄などに使われると考えていて軽い気持ちでゴブリンの儀式を見てみようと考えていたのだが、まさか騎乗用とは、これもまた大きな驚きだった。それは結界の範囲の縮小に関わらず、警戒範囲を広げるのが必要であったと気づかされる。なぜなら、歩兵ゴブリンと騎乗ゴブリンとでは機動力にかなりの差がでそうだからだ、それにしても、村人の話では騎乗ゴブリンの話は聞かなかった。
サム達は驚きを持って集落を観察していたが、しばらくすると急に集落が騒がしくなる。何が起きたかとゴブリン達の動きを見ていると、何匹かが此方を指差しているのに気がついた。 「_あら、見つかっちゃったか、たま、少し離れよう」 すると、突然空中より木の枝が何かに巻き込まれたように、 『ザザザザザザ!!』 と散り散りに飛ばされていく、そしての風の塊はこちらへ向かってやってきて近くの幹に着弾すると 『ドドゥワァー!!』 と音を立てながら周囲に強烈な風が吹き荒れる。途中に巻き込んだ木の枝が差すように飛んでくる。サムは急いでダイフクを懐にいれると 「_タマ、逃げよう。」 と叫ぶ 「_サム様、逃げますおつかまりをーー」 と這々の体で仮の庵に向かって木の上を飛ぶように走る。
休憩所につき 「_タマ、ありがとうお陰で助かったよ。」 と言うと、 「_いえ、危のうございました、わたくしがもう少し早くに逃げれていれば。。。」 とヌバタマがサムの右手を見つめる。サムはその視線に気付き見てみると衣が破けていて、さらに右肘の近くに小枝が浅く刺さっていた。 「_そうだフクは!?」 とダイフクの心配をすると 「_もがもがもがもが、ご主人様苦しゅうございます。」 と返事が返ってくる。サムはそっと懐からダイフクを出して怪我をしていないかしげしげと見つめる。ダイフクは 「_ご主人様、危ないところをお守りいただきありがとうございます。あっご主人様お怪我をなされているではありませんか、おのれ彼奴等め、今度会ったら我が必殺の地走り風で…。」 と怒り狂い鳥のままでぴょんぴょんと飛んでいて、とても可愛い。 「_フクは怪我してないようだね。タマはどうだいどこか怪我してないかい?」 「_はい、わたくしの地肌は硬いので、直撃さえ受けなければ大丈夫です。」 「_直撃はまずいか、タマ、フク、さっきのはなんだろう?」 「_ご主人様、あれは彼奴等めの神通力でございましょう、あの距離でしたが微かに力を感じました。」
「_神通力?彼らも持っているのかい?」 「_サム様、神通力は全てのものが持つものにございます。」 「_そうか、タマやフクもそもそも持っていたものな、神通力は人や式だけにあらずか、いや、気をつけないといけないね。それに。」 とサムは先ほど見た光景を思い返す。少なくとも、今後のゴブリン狩りに関して大いに考えさせられる光景だった、ゴブリンの大集落に神通力を操るゴブリンメイジにゴブリンライダーか、いや衝撃的な発見だったとサムは感じた。そして 「_そういえば、木の上で隠れていたのに見つかったのはなんでだろう」 「_そうですね、姿は糸と木の葉で隠しておりましたので、あとは我らの神通力かサム様の、その、人の匂いでしょうか。」 「_どちらかか、まぁ可能性のあるものから潰していくか、タマ、フク、一回家に戻ろうか、ちょっとゆっくり考えよう。」 と右ヒジ辺りに刺さった小枝を抜く、少し血が出るが、見た目ほど痛くはない。実際に痛くないのか、こちらの世界の痛みは軽く感じるように出来ているのか、考えるべき事は多いが、順序立てて一つずつ解決、解明していくしか手段はない。
今後の方針を考えなから無為の家に向かう、サムはゴブリンは元の世界の猿程度の知能、社会性と考えていたが、それよりももっと知能と社会性を備えていると感じた。原人クラスと考えれば良いのだろうか。ゴブリンから村を守るにはもっとちゃんと生態調査ときちんとした警戒と対策が必要そうだと思うサムであった。 「_ああ、でももういい時間だね。僕は向こうの世界に戻るよ、タマ、昨日剥いだイノシシの皮があったろ、それで全身を覆えるような衣を作るように萩ノさんにお願いしてもらえるかい。あとタマはご隠居と萩ノさんに、フクは村まで飛んでむらかみ様や村主様に、それぞれゴブリンライダーやゴブリンメイジについて何か情報がないか聞いておいてもらえるかい。自動操縦はこのまま無為の家へ向かって、あと自動書記は今日見たゴブリンの集落の図と大小様々なゴブリン達の絵を木の板に書いておいてくれ。あと食後はゴブリン達が来ない限りそれぞれちゃんと休むこと、フクも集落へ聞きに行くのは休んでからで良いよ。それじゃあ、またみんな夜に会おう。あ、もし僕が不在時にゴブリンがやってきたら今日は殺してしまって良いことにする。ゴブリンメイジのような奴が来たら危険だからね。遠方からの投擲で倒してしまっておくれ。」 と言うとサムはLog Outする。今日は大きな発見に初めての危険と盛りだくさんだった、今日は色々考えちゃって本業の方が手につかなそうだなぁ、と考えるサムであった。
6月7日(水)午前四時、 「_匂い、どうだろう。」 「_だいぶ紛れてはいると思いますが、あとはゴブリン供の嗅覚次第かと。」 と昨日頼んだゴブリンの衣を身に纏い匂いを嗅いでもらうサム。 「_そうか、こればっかりは試してみるしかないね。」 「_フクは村主様から何か話しを聞けたかい?」 「_はい、ご主人様、ゴブリンライダーとゴブリンメイジですが、そのものを把握はしているそうです、ただ村周辺では見たものは皆無で、街の狩人を交えて森の深い所までゴブリン狩りに行ったものが稀に見た事があるそうです。ただ戦ったものとなると情報が無いようです。」 「_タマはどうだい?」 「_はい、我ら一族は広くこの森に生息してはいますが、高い知能のある蜘蛛は稀でして、そのもの達に聞いてみましたが情報はほとんどえられませんでした。」 「_そうか。2人ともありがとう。」 「_そして萩ノさん、イノシシの衣、ありがとうございます。」 「_いえいえそのくらい良いのですよ。そうだ、ゴブリンの神通力では切れぬ様な衣を作って差し上げようかしら。」 「_え、そんなことが可能なのですか?」 「_はい、わたくしめは一族の者が作れる糸であればどのような物でも生成が可能です。なので、刃物に強い糸も、布も織れますわ。」「_それは助かります。ではまずはダイフクの分から、そのあとは蜘蛛の皆さんの分、最後に僕の分でおねがいします。」 と言うと一同ぽかんとする。どうしました?と聞こうとすると萩ノさんがやんわりと 「_いえいえサムさん、お気遣いには感謝いたしますが、式は多少の怪我ではビクともしません。サムさんより頂いた神通力のおかげですぐさま治ってしまいます。なので、なによりもまずサムさんの分から作らせていただきます。そしてそれはそれとして、皆にも用心の為衣は必要でしょう。」というと萩ノさんの目が光り、すごい速度で、全員の全身の計測を始める。どうやら萩ノさんの何かに火をつけてしまったようだ。みんなが目を白黒とさせている中、ご隠居だけが、涼しい顔をしていた。嵐のようなひと時が過ぎる頃、サムはブラボーグループが相当稀なのかなんなのか、確かめる必要が出てきたと感じる。少なくともゴブリンライダーやゴブリンメイジは放っては置けない。大事になる前に潰しておいた方が良いかもしれないと思うサムだった。
「_じゃとりあえず行ってみるか、今日は家から一番近いデルタグループの行動範囲から集落場所を探してみようか、たま、警戒ラインには掛かっているかい?」 「_今はどのグループもかかっておりません。」 「_そうか、では、一先ず前回デルタグループと遭遇したポイントまで行ってみよう。そこからは、たま、またその背に乗せてくれるかい?」
イノシシ服だが、暑い、臭い、動きにくい、これは普通に移動する時は脱いだ方が良いと遅まきながら気がつくサムだったが、もうポイントについてしまったので、脱ぐことはせず、そのまま、近くの木の上に大蜘蛛化したたまに運んでもらう。そうしてあとはゴブリンを待つことにする。昨日のゴブリンメイジを見る前であったなら、集落がありそうなところを虱潰しに巡っていたところだが、あれ程の攻撃力を見てしまうと、警戒が必要である。なのでこの日はゴブリンが集落に帰るのを距離を置いて追うつもりだったが、朝と夜で二時間程粘ったがどのグループも警戒ラインに掛かることはなく終える。
6月8日(木)
朝に防刃衣試作品が出来たとのことで着て出掛ける。これまでの毛織物の服よりも軽くて暖かい、またツヤがあり感覚としてはフリース地からライトダウンになったような感じであるが本物のダウンのようにシャカシャカ音は出ない、そこは流石萩ノさんの腕というところなのだろう。この日は夜にチャーリーグループがラインに掛かるも暗くて見失う。村にそれ以上接近はしなかった為、そのままにして一日が終わる。
6月9日(金)
朝にアルファグループが警戒ラインに掛かるが、追っ払っているうちに時間が来たので元の世界に戻る。自動操縦での観察はやれるかわからないし、やったとて記録には残せないだろうと言う考えからやるには至っていない。なので自動追っ払いモードにしている。なおタマとフクの防刃衣が出来たので、この日の朝からまたゴブリン追いに戻しているが、ゴブリンメイジを警戒してこれまでより距離を置き、間に障害物を置く配置で威嚇するようにしている。そしてその夜は時間が取れずサイドラインには行けなかった。
6月10日(土)
この日は時間がある。この日は他グループの観察ではなく、最初に見つけたブラボーグループの集落に明るくなってから向かう。念のため前回よりも距離をとってイノシシ衣を纏っての観察だ。今回は集落の個体数の確認をすることにした。見ていて最初に気がついたのは、ゴブリンメイジは今の所見分けが付かないという事と、ゴブリンライダーは常にイノシシに乗っているわけではなく、やっぱり降りたら他のゴブリンと見分けが付かないという事だった。更に見ても分かるのは大小の違いと赤子とそれ以外の違いくらいだった。ゴブリンは皆割と小太りで、更に前の大事なところを布状の何かで隠しているので性別の違いすらはっきりしなかった。と言うことは、そう、個体数も既に数えた個体なのか判別がつかず個体数はハッキリしなかった、ざっくり四十匹程度だろうか、村の外に出ている者たちもいるのでブラボーグループは大体百人弱という所だろう。ただ他に比較対象が無いので、多いのか少ないのかは不明だ。今日分かったことは、集落中での行き来の頻度は高く、ゴブリンライダーが騎乗した状態で集落を出る事は無かったということくらいだった。
6月11日(日)
本日も、ブラボーグループの観察、今日はやり方を変える。集落全体を見ようとするのでは無く、特定の個体に注目することにする。その為には、何か特徴の強い個体を探すところからだ、ゴブリンたちは見れば見るほど皆同じ顔に見えてくるので困るがしばらく探して、胸から肩にかけて大きな傷をもつ個体を発見し、観察することにする。仮の名としてブラボー1と名をつける。忘れぬようブラボー1の絵を自動書記に描かせる。自動書記の絵は実に写実的で、、ふと気付くが自動書記は自分の視力を超えていて、その細部までを事細かに捉えていた。それを見て、ブラボー1はややO脚気味で右眉の上にも傷があることが分かった。
だが、ブラボー1は動かない、集落の中央付近の日当たりの良いところに座って以降は他の個体に毛繕いさせていて、ブラボー1は目を瞑ってじっとしている。ちなみにゴブリンの体毛は茶色で、頭から首の後ろそしてそのまま背中から腰までがつながって生えていて、腰回りの大事な部分は布状の何かで隠している。その皮膚は緑と茶の間の色をしているが、微妙に個体差があるようにも見える。暫く様子を見ていると明らかに他より大きな個体が、ブラボー1の所にゆっくりと歩いてやってくる、ブラボー1はその存在に気が付いたのかこれまでいた日当たりの良い場所を譲る。そして特に大きな個体がその場所にドカリと座って周囲をグルリと見回すと、周囲の個体がそのゴブリンの毛繕いを始める。
どうやら大きな個体はブラボー1よりも上位格のようだ。パッと見、それよりも大きな個体は見つからなかった為、ブラボーリーダーと呼ぶことにする。ブラボー1は少しの間リーダーを眺めると、数匹のゴブリンを引き連れてすごすごと枝葉の生い茂る森へと姿を消してしまう。サムはそこまで見て、リーダーを描くと、そこで切り上げて家に戻ることにする。帰り道、村の中から薄く煙が上がるのが目に入ったが、特に気にすることなく、家に着くと同時にサイドラインを後にする。
6月12日(月)四時起床、サムはサイドラインへとlog inすると、今日と明日はlog inせず自動操縦で過ごすことを告げると早々とサイドラインを後にして、副業部屋で読書を始める。本は図書館で借りた猿の観察概論と原人の生活様式だ。正直なんの知識もなくただ見ているだけでは気づきが得られないし、読んでみたら、あの時のあの行動はとかになるかもしれないと思い、今は知識と知恵を蓄える時間と考えることにする。
6月13日(火)
読書して過ごす。
6月14日(水)
延長して今日と明日もlog inせず自動操縦で過ごすことを告げるとサイドラインを後にして読書して過ごす。
6月15日(木)
読書して過ごす。
6月15日(金)
読書して過ごす。
6月16日(土)
四時起床、いや専門書は読み辛い、二日で読むつもりが五日もかかってしまった。そして読んで分かったのは観察を続ける以外にはないということくらいだった、まぁでも読まずに観察するよりは読んだ後の方が気付きが多いだろうとは思われた。
サムは急いでサイドラインへ、視界は無為の家の中に移る。家にはキャミーが来ていた。「_キャミーさん、どうしました?」「_どうしましたじゃないわよ。」