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第29話:サムの計画と想定外

〇3月19日:月曜日、5時起床、あくびをしつつサイドラインへ、サムはよろよろと歩き始めると、体を左右に回して背骨をボキボキと鳴らす。そして一声 「よし!」 と言うと、作りかけの燻製窯の作成を始める。村人たちは今は崖の壁面の集落に籠っているので、一人作業だ。それでも、窯作りの作業は見ていたのでゆっくりしたスピードではあるが、窯は形になっていく。そして時たま既に建造済みの窯の火と煙とを見て薪と香木を足す。グール浄化のスピードだが、神在窯となってからはそれは顕著に上がり、一日で人三人分くらいは浄化できるようになった、なので、シチナには粘土化したグールを適度な大きさに切り分けてもらっている。そしてヌバタマとサクラ、チイには香木採集を、オモカゲ達には食料採集を、そしてクウヤ達には灌木の伐採を行ってもらっている。要はこれまでと同じように暮らしているのだ。



灌木を一纏めにして、窯のそばまで持ってきたクウヤは 「_サムよ、何回でも言わせてもらうが、本当にこんなことをしていていいのか? お前は村主連の力を計り間違えているのではないのか?」 「_いえ、ダイフクにも確認してもらったので大丈夫でしょう。それに、向こうも急ぎの道行きではない様子。こちらはしっかりと準備もできます。」 「_準備? これがか? この木を集めるのがか?」 「_そうです。村主連対策は立てました、生き残ったコボルトも粗方集めました、後は一にも二にもグールの浄化、死んだコボルトや人の浄化です。だから、もっともっと灌木を集めてください。」 とサムは笑顔で、それでいてゆっくりとした口調になるのを心がけて話す。 「_クウヤさん、村主であるあなたが落ち着かないと、村の方々も落ち着かなくなります。ここは努めて余裕をゆとりを持ってください。」 「_、、、俺はお前が分からんよ。一体どこからそんな余裕が出てくるんだ?」 と呟きながら元の灌木伐採作業に戻っていくクウヤ。



そしてサムも元の窯作りに戻る。コウロはただ黙って窯の火を虚ろな目と姿で眺めている。虚ろな姿と言ったのはコウロはどうやら窯から出る煙の化身のような存在で、煙が濃く出ているときにはその姿ははっきりと見え、薄くなると、まるで薄霞のように存在が希薄になる。なので今は煙があまり出ていないらしい、さっき薪も香木も足したので、もうしばらく待てばその姿も明瞭になることだろう。サムは窯から上がる煙を何とはなしに眺めていたが、ふと思いつきで、 「_コウロさん、この窯から登る煙ですが、操作、、、動かすことはできませんか?」 と問うが、コウロは何事もなかったかのように、窯を眺めているばかりであった。 「_生まれたばかりの赤ん坊と同じか、、、ならまだ、早いか、、」 とキャミーに言われたことを独り言ちながら、また作業に戻るのだった。



〇3月20日:火曜日、5時半起床、サイドラインへと向かうと、ちょうどダイフクが索敵から戻ってきたところだった、「_やあ、フクお疲れ様、向こうの動きはどうだい?」 「_ご主人様只今戻りました。奴らめはこれまでと同様の速度でこちらに向かっております。今の速度ですと、まだ三から四日はかかるかと、それよりもどちらかと言うとグールの方がグングンとこちらに向かってきております。こちらは後二日程で、第一陣がやってきそうです。」 「_そうか、そっちの方が早いか、、、そうだね、、フク、ちょっと一休みしてからでいいから、兄姫村のむらかみ様と村主様にアレの返事をもらってきてくれないかい?」 「_アレですか? よい返事を頂けると良いですが、、、」 「_どうだろうね。でも村主連に一泡吹かせる良い機会だろうから、、、乗ってくれると嬉しいんだけどね。。。」



〇3月21日:水曜日、5時半起床、窯作りをしていると、懐かしい声に話しかけられる。 「_サムさん、お久しぶりです。」 「_おお、萩ノさんお久しぶりです。もうよろしいので?」 「_ええ、兄姫村での事は一段落つきました、もうこちらでサムさんのお力になれますわ。」 「_助かります。さしあたっては、、、そうですね。今日はシチナさんにグールの動きを遅らせてもらうようにお願いするつもりだったので、それのお手伝いをお願いできますか? あ、もうシチナさんにはお会いになりました?」 「_ええ、わたくしめのもとを出たときにはこーんなに小さかったのに、あんなに逞しくなって、お嫁さんまで貰って、嬉しい限りですわ、それにまた出会う機会を頂きサムさんには感謝してもしきれませんわ。」 「_いえいえ、これからその何倍もお願いすることがあるので、申し訳ないですが、、、」



ここで言ってしまうとサムの作戦は、単純に萩ノの戦力でもって村主連を懲らしめる、というもので何か小難しいことなどでは全くなかった。これを言ったとき、クウヤは半信半疑だったが、シチナとヌバタマは萩ノが来れば何も恐れるものはない、と余裕の表情を見せたものだった。さらに雲龍さんも助っ人参戦可能と言ったら、それはあまりにも恐れ多い、と恐れおののいていたのでやめておいた。なので、サム達の残る作業は戦う事ではなく、グールを粛々と浄化するという事だった。



「_これ、お前、吾輩は何かすることはないかよ?」 「_、、、お、おお、ガマ仙人、本当にお久しぶりです。」 「_お前、吾輩の事わすれておったじゃろ?」 「_、、、正直に言えばそうですね。」 「_これ、そこは嘘でも片時も忘れていないとか言うところじゃよ。本当にお前は馬鹿正直な、、」 「あ!」 「_お? なんじゃよ、急に大きな声を出して。」 「_そうだ、ガマ仙人、あそこにいる子供型の神様なんですけどね。お話し相手になって貰えませんか?」 「_ん? あの、いるんだかいないんだか分からんような奴かよ?」 「_ええ、コウロ様と言います。まだ生まれて間もないんですけどね。いろんな人に話しかけるようには言っているのですが、神様だと恐れ多いらしくて、、、その点ガマ仙人は一応は神様だし、カゲトキよりはしっかりしていそうだし、でお願いできませんか?」 「_こら、一応とはなんじゃ、一応とは、、、まったく、水はえらく使って世話になっているくせに、扱いが雑じゃよ。お前は。。。けしからん。。。まぁよい、若い奴の相手でもしてやるよ。」 「_よろしくお願いしますね。ガマ仙人。」



〇3月21日:水曜日、5時起床、今日くらいにグールの大群がやってきそうなので、いそいでサイドラインへ向かい様子をみる。しかし辺りはシンと静まり返っており、グールの呻く声も聞こえない。近くにいたヌバタマに聞いてみると、昨日からグールの進軍速度が急激に下がったらしく、今日来る見込みは無いらしい、昨日萩ノとシチナが二人でグールに粘弾を放ったので、それが利きすぎたのかもしれないとのことだった。 「_うーん、ならグールと村主連はほぼほぼ同時にやってきちゃうのかな? それとも、村に来る前に両者でぶつかるんだろうか。」 「_その可能性も考えて、明るくなったらダイフクに索敵しに行ってもらう予定です。それと、サム様が兄姫村に行っていた打診ですが、良い返事を貰えて、目的の権能を持つ者を派遣していただけました。」 「_おお、それはいい情報、いいね。で、その方は今どちらに?」 「_今はあの窯の辺りで居られます。」 サムが視線を巡らすと、兄姫村で見た顔の女性が一人いたので、きっと彼女だろうとそちらに歩いていく。



「_ご足労頂き感謝します。話したことは無いですが、会ったことはありますよね? 僕は兄姫村の離れに住まわせてもらっているサムと言います。あなたは?」 「_、、、」 「_?」 「_ご主人様、少々お待ちください、この者めは今ダイフクめが飛んで連れてきたところなのですが、高いところが大変に苦手でありまして、、、」 そういわれてみれば顔色が悪い。 「_、、、それは大変な旅でしたね。大丈夫ですか?」 「_す、すみません、私は霞の精なのに高いところが苦手で、、、でも、言えなくて、、、ずっと目を瞑っていたのですが、、、ぐすん。。。」 「_、、、ガマ仙人、こちらの女性に水を、、、」 と涙ぐむ霞の精を落ち着かせてから、サムの行いたいことを伝えると、可能だと言うので、一安心し、そして恐怖の旅も無駄ではなかったと元気づける。あと名前はそのままカスミという名だった。



カスミにお願いする作業は、燻製窯から上がる煙の操作だ、今はいちいち燻製窯に入れないとグールの浄化が出来ないが、煙の流れを操作出来れば遠隔でグールの浄化が行える。サムは兄姫村の葬儀殿から常に真っ直ぐに上がる煙を見て、おそらく村の中に風に影響されずに煙を高く上げる、もしくは操作できる式が居ると踏んで、その力を貸してもらえないかむらかみと村主に依頼していたのだった。最初はむらかみたちも式を貸し出すのを渋ったそうだが、兄将村群に一泡吹かせられると聞くと、その身を必ず守ることを条件に、一時的に貸し出してくれた。これでもう一つの窯も出来上がれば、グールの浄化速度は飛躍的に上がることだろう。さらに煙の操作をコウロが見て覚えてくれればいいなぁと淡い期待も抱きつつ、その日も窯作りに精をだす。



〇3月21日:水曜日、20時頃、兄将子村近くのすでに瓦礫の山となって、生者もいない関所にて、 『ズルリズルリ』 という音が聞こえてくる。 中村主は 「ふぅ」 と一息つくと、 「_ここにも人は居らんか、兄将薬村にも人っ子一人居らなんだし、薬村主め、全部喰ろうてこのざまか。」 と目前に見える、なよなよとした真っ黒なムカデ型をしたものを眺める。 「_わらわを見ても恐れ1つも感じぬか、肝が太い、と言うよりもただの何も感じぬ屍人じゃの。ただの屍人なら喰ろうて供養の1つでもしてやらんことは無いが、薄汚れたものに用はない。」 と誰も返さぬ言葉を発すると、 『シュッ』 という音が小さく聞こえたかと思うと、ムカデ型をしたものは、その形を保つことが出来ずにぐずぐずに、ゴボゴボと音を立てながら溶けていってしまう。 



「_つまらんの。。。それにしても遠いの、、、あぁ、そろそろ姿を現したらどうじゃ?」 「_あ、ばれてました?」 という声と共に一片の紙が天より舞い落ちてくる、そして 『ボンッ』 という音を立てると、一片の紙に器用に座る青年が姿を現す、親村主だ。 「_この汚らわしい奴をわらわ一人に押し付ける気かの?」 「_うぇぇ、僕だってこんなの相手したくはないですよ。。。そうだ人村主さんを待ちませんか? 1人遅れて来るなんてずるいですからね。そうしましょう。」 「_、、、そうじゃの、年寄りの振りして楽している奴に働かせるかの。」 というとその袂からキセルを取り出すとたばこをふかし始める中村主、 「_わ、危ないなー、僕は火は苦手なんですから気を付けてくださいよ。」 「_いつも言うとるが、本当かの? 一度試したくなって来たぞ。」 と言うとふわりと笑う。 「_あ、そんな顔したって駄目ですからね。ちょっと僕は離れているので、勝手にやっていてください。」 



〇3月22日:木曜日、8時頃、西より 『ズドン、ザザザザ、ズドン、ザザザザ』 という轟音と何かを引きずるような音が響いてくる。そしてそれは歯の隙間から空気が漏れるような声で語り始める。 「_なんじゃぁ、親村主の小僧も、中村主の小娘も、こんな所で油を売ってからにぃ。」 「_ようやっと追いついたかの?」 「_もー遅いですよ。人村主さん、追いついたついでにどうです? ひと暴れしておきませんか? なんか気色の悪いものが湧いていて2人して困っていたんです。」 「_ちぃ、薬村主を下した奴らか、、、汚らしいの。儂のこの真っ白い姿が汚れるのはかなわん」 と人村主がその右腕を 『ブン』 と振りまわすと、周辺の木々を軒並み引き抜かれ、弾き飛ばしていく、「_おー、おー、助かります。流石は長生きなだけはあります。それじゃこっちの道を行きましょう。中村主さん」 「_この小僧どもめ、兄将院様の命でなければ磨り潰してやっているところじゃぞぅ。」 と仲が良いのか悪いのか、村主連はグールを相手にせずにサム達のもとへ向かう。



〇3月23日:金曜日、4時起床、サイドラインへ、まずヌバタマとダイフクの顔を表情を見る。 「_まだ来ていないみたいだね。何しているのかな?」 「_ご主人様、奴らめはグールを相手にせず、森を切り開いてこちらに向かっている様子、その為到着は今しばらくかかりそうです。」 「_そうか、、、まぁグールはもともとこちらで何とかしたかったら、都合が良いと言えば良いのかな、準備する時間もとれるし。」 と話しているとクウヤとオモカゲがやってくる。「_サムよ、一体いつまで俺たちは木の伐採をしていればいいんだ?」 「_そうだ、オレたちも狩りが本領とは言え飽きて来たぞ、それにこれではこの辺りの獲物を狩り尽くしてしまうぞ。」 「_、、、そうですねぇ、なら、シチナさんも呼んで壁面の集落の拡張でも行いましょうか。コボルト達を住まわせる場所も必要ですし、あ、出来れば雄と雌を分けて住まわせたいですね。それに、、、」 「_おい、村主連がもうすぐそこまで来ているのだぞ、本当にこんなことをしていてよいのか!」 「_そうだ、オレ達は戦うのだぞ!」 「_いえ、戦わないでください。」 「_サム、キサマ!!」 「_オモカゲ、怖い怖い、でも実際一方的な戦いになると予想してます。オモカゲは瀕死の相手に爪や牙を立てるのを良しとしますか? それならやってもらって構いませんが。」 「_なんだと、オレ達がそのようなことをするとでも思っているのか! オレ達は最初から戦うぞ!!」 「_うーん、でも僕たちはそもそもオモカゲを含むコボルトを救うために活動しているのですよ。。。だから死なないことはもちろん、怪我をされるのも防ぎたいんですよ。」 「_オレ達の恨みを晴らすのに怪我がなにか! 死がなにか!!」 「_うーん。」 「_サムよ、本当にお前は思想と行動が終始一貫行徹底しているな? お前にとっては村を守ることはついででしかないのか?」 「_いえ、村を守るのは僕の責任において行います。兄将始村におけるコボルト保護のほうは、そうですね。僕の仕事です。」 クウヤは半ば呆れ、オモカゲはサムをずっと睨み続けている。それにはサムも 「_、、、分かったよ、オモカゲ、君は戦いたいんだね。何とかしてみよう。でも多分出来てもオモカゲだけになるけど良いかい? もし全員でとなるなら絶対に許可できない。」 「_グルル、、、それで良い。」 「_そうか、じゃぁ待っててね。」 というと壁面の集落へと歩いていくサム。



〇3月24日:土曜日、4時起床、最近は村主連来週に備えて早起きプラス毎晩のログインシフトが続いているので、疲れが蓄積されてきている。今日こそ来るかと思いながら、サイドラインへ、着いてみると窯の周りは煙で充満している、一体何事かと思って、手を顔の周りでパタパタしているいると、カスミが話しかけてくる。 「_すみません。今コウロ様に煙の操作を教えているのですが、私の説明不足でこのようなことに、、、」 「_ゴホッ、、、おお、でも十分な進歩ではないですか? 流石です。」 「_いえ、私は全然、、でもコウロ様の呑み込みが早いのはその通りで。」 「_いえいえ、双方が素晴らしいと思います。このまま続けてください、よろしくお願いします。」 とサムは言うと、きょろきょろとヌバタマとダイフクを探す。 「_コホッ、ご主人様、ダイフクめはこちらに、村主連の奴らめは今晩辺りに到着するかと」 「_そうか、じゃぁ軽く萩ノさんに話して、またその時間になったら来ようかな。」 とせき込みながらまた壁面の集落へと向かう、煙は窯の周りだけでなく集落部分も覆っており、村全体が燻製されているような様子だった。



〇3月24日:土曜日、18時頃、サムは早めの夕食を終えると副業部屋へ、今日この時は大事な用事とシホにお願いしてこちらに専念することにする。その分ノドカをワンオペすることになるシホへの埋め合わせは明日以降のサムのタスクに組み込まれている。何をするか、何を買うかとか別の事を考えながら、サイドラインへ、村を覆う煙は依然そのままで、窯の周りには、クウヤ達、オモカゲ達、そして萩ノにシチナ、ヌバタマ、ダイフクが集まって来ていた。サムの様子に気が付いたヌバタマは 「_サム様、耳をお澄ましください、そう遠くない距離から音が響いて来ております。村主連到着は今少しかと。」 と言う。サムは窯の先へと赴き耳を澄ませる。すると 『ドゴッーー、ズズン、、、ドゴー』 という音が聞こえてくる。確かに近いようだ。サムは皆の元に戻ると、萩ノに話しかける、「_萩ノさん、お待たせいたしましたが、よろしくお願いしますね。それと頼んでいた物の件ですが。」 「_はい、出来ておりましてよ。」 と萩ノがさらりとした布を取り出す、ありがとうございますとサムはその布を受け取ると今度はオモカゲの場所へ、そしておもむろにオモカゲにその布を広げる。 「_ぬぅ、何をする!」 「_いいから、いいから、ちょっと! オモカゲ、動かないで!」 とその布でオモカゲをすっぽりと覆ってしまう。 「_グルル、なんだこれは!!」 「_いいかい、これは萩ノさんに織ってもらった頑丈な布だ、これで君の耐久力は上がったはずだ、これを着てなら、多少戦うことを許そう。。。ダメかな?」 「_むぅ、動きづらいぞ。」 「_まぁまぁ、そうかもしれないけど、少し動いて慣れておいてよ。」 と言うと、次は皆の顔を見る、「_さて、そろそろ村主連が到着するようです。皆さまはこちらで戦いを見るつもりですか? 結界などは準備できませんでしたので、危ないかもしれませんよ?」 それにはクウヤは 「_ふん、俺は村主だ、むらかみの座をおいて自分だけ集落に引っ込んでいるわけにはいかん。」 と答え、シチナは 「_母上殿の戦い、見逃すわけにはいきません。」 と若干楽しそうでもある。そう話していると。近くから



『ズドーン』 という音が響き、木々や土砂が空から降ってくる。萩ノは懐から大きな布を一枚出し広げると、難なくそれを払い流してしまう。すると 「_ほう、なかなかに力のあるものが居るようじゃの、これで終わってしまったらどうしようかと思って居ったぞ。」 とゾクリとするような冷たい声が聞こえてくる。 さらに変に気に障る歯から抜けるような声が 「_ぬはははぁ、ちとやりすぎたかのぅ」 と聞こえると、次は何とも軽い 「_おー、やるじゃないですか、で、誰から行きます。」 という声が聞こえてくる。どうやらここに来たのは三名らしいと判断したサムはその三名の姿が見える場所まで向かう、傍らにはヌバタマとダイフクが仕える。そしてその目に入ったものは、巨大なヘビの下半身、そのしっぽの先はここからでは見て取れない、と人型の上半身を持つ、禍々しくも口の裂けた女性と、これまた巨大な美しい投機家のような真っ白な人骨で、その姿は立ち姿ではなく、這うような姿勢の者、最後が一片の紙に座るいかにも軽薄そうな笑みを浮かべる青年の姿だった。



サムはその三名を見渡すと 「_さて、村主連の方々とお見受けいたします。一応伺います。こちらには何用で?」 「_こうも雁首揃えているという事は、わかっておろう、この目障りな村を討ち滅ぼしによ。」 「_かかか、おんし達は儂らをたのしませてくれるのか?」 「_僕は上の指示とだけ付け足しておきましょう。」 「_なるほど、戦いは避けられないと?」 「_お前様達は戦っても戦わなくても良いぞ、どちらにせよただわらわたちに蹂躙されるのは変わらんからの。」 「_いや、戦ってもらわねば、退屈でしょうがないぞぅ。」 「_まぁ、ただの暇つぶしですよね。」 「_別にこんなちっぽけな村、見逃したって良くないですか?」 「_お前様、先程からうるさいの、それに見てみればただの人風情が何を偉そうにわらわたちに物を申して居るーーー」 



中村主がそう言った瞬間にそれは起こった。突如として村主連のいる地中より、土砂とともに何かが飛び出してきたのだ、それらはどこかムカデを思わせる形をしていたが、瞬時のことでサムが判断できるのはそのくらいだった。そしてサム達の周囲は一体何が起きたのかも把握する前にすっぽりと完全に暗闇に覆われる。


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