第27話:新たなむらかみと村主
「_サム、またあなたなの?」 とキャミーが頭を押さえ、ため息をつきながら言うと、 「_、、、お手数をおかけします。でも狙ってやってるわけではないですよ?」 とサムが半笑いで返す。 「_それで? あなたはこの村の村主にでもなるわけ?」 「_!? いえ、そんなつもりはないです。それは、、、クウヤさんかシチナさんが妥当かと思いますが。」 「_ちょっとちょっと、村主になるつもりもないのに何で村なんか、、、って、サムならやっちゃいそうよねぇ。」 「_そうみたいですねぇ。」 「_はい、そこへらへらしなーい。」 と注意されるサム。 「_全く、しょうがない人だわね。。。いいわ。何もしないとまた変なことを起こしちゃいそうだし、説明してあげるわ。」 「_はい、お願いします。」
「_サ、サム殿、こちらの方はどなたなので?」 「_おいサム、こいつは何だ!? 声を聴くまでに何も気配を感じなかったぞ?」 「_彼女はキャミーさんです。簡単に言うと僕の雇い主、、、まぁもっと簡単に言うと、僕は彼女の式のようなものです。まぁ大分自由にやらせてもらっていますが、、、キャミーさん、こちらの彼は蜘蛛一族のシチナさん、そしてそっちの彼がクウヤさんと言います。どちらもここの前身となった村の出身の方です。新たな村の舵取りは基本は彼らにお願いするつもりです。」 「_サム殿を使役するという事は、、我が一族の神よりもさらに上位の方、、、」 「_サムとの関係は分かったが、、、こいつが現れたことと、新たな村の事、何の関係があるんだ。」 「_はい、それはこれから説明してもらえると思います。まずは聞いてみましょう。お2人とも。」 とサムはキャミーに先を促す。
「_シチナにクウヤね。今さっき、新たな村誕生の儀式が正しく行われ、そして大国主の名のもとに村の誕生が宣告されたわ。といってもよく分からないだろうけど、有り体に言えば、この国に新たな村の誕生が認められた。という事になるわ。」 「_キャミー殿、そうなるといったいどうなるので?」 「_別に何かが大きく変わることは無い、、、はずなのだけれど、兄将村群は元が特殊な村だったから、、、変わることは多岐にわたるわ。まず、これまであった村のしきたりからの解放、むらかみの存在、むらかみと村主の関係、むかかみと村人の関係、むらかみと村の関係、だからもう全てが変わると思ってちょうだい。」 「_全てが変わるとはどういうことだ? それは俺たちが目指したあのしきたりとトカゲからの解放と考えていいのか?」 「_そうよ。一言でいうと、貴方たちが太陽神の畑の労役で聞いた、他の村と同じになるという事ね。だから貴方達の目指した村になったとも言えるわ。」 「_おお! お?」 「_と急に言われましても、実感がわきませんね。クウヤ殿。」 「_うむ。そんなにざっくり言われてもいまいちピンとこないな。」
「_そうね。それは一から説明するわ。まず、むらかみの存在の事からね。今さっきむらかみが誕生したわけだけど、この子はまだ産まれたばかりで、赤ん坊と同じ、知識も知恵も力も全くないに等しいわ。だから神通力も雀の涙ほどしかない。」 「_すみません。キャミー殿、そのむらかみとはいったいどのようなことを私達にしてくれますので? もしくは私たちは何をして差し上げればよいのでしょう。」 「_力を持ったむらかみであれば、一般的には村に結界を張ったり、各種神事の取りまとめ等をしてくれるし、神々との連絡、あとはそれぞれの権能に応じた行動をとったりしれくれる。要は貴方達を結界や各種神事によって守ってくれる存在だと考えていいわ。逆に貴方達から行うことは、奉ることね。」 「_奉るとは、これまでの村のしきたりの様に、祈れということか?」 「_いえ、クウヤさん、それとは違うと思います。確かに祈ることもあるでしょうが、、、これまでの様に強制された祈り、恐れのようなものではありません。ただその存在を信じ、変わらぬ日々を送れることに感謝する。と言った感じでしょうか。」 「_、、、こればっかりは生まれたころからこの村のしきたりを守ってきた貴方達を含めた村の人々には理解しにくいものかもしれないわね。。。」 「_」
「_次は村主についてよ。本来の村主は村の運行とむらかみとの交信、そして各種神事を執り行う者のことよ。本来は村主になるものは都市部に行って修行してそのことを学んで貰うのだけれど、、、この村は依然”穢れ”からの脅威に曝されているし、兄将村群も貴方達の存在を許さないだろうし、修行はもっと安定してからになるでしょうね。」 「_おい、あの妖怪どもに、村の誕生は知られたわけか?」 「_ええ、兄将村群の主は事の変化に気が付いているはずよ。」 「_私達の村の誕生を喜んでばかりもいられないということですか、、、」 「_そうね。私は全てに中立の立場だから詳しくは言えないけど、喫緊に動きがあるはずよ。注意することね。特にむらかみはまだ産まれたばかりで力も弱い、だから、この村の存在もまだ酷く弱々しいの、むらかみの姿のごとく、煙のようなもので少しの風で吹き飛んでしまうわ。」 「_キャミーさん、もし吹き飛ぶとどうなるので? 先程認められたはずの”村”という枠組みが消えてなくなるということですか?」 「_そうよ。」 「_おい、キャミーとやら、ではどうすればよいのだ? 我らに何が出来る?」 「_そうです。私達がコセレガが共に望んだ村、そうやすやすと失いたくはありません。」 「_と言っても、今すぐにむらかみに知恵や知識が付くわけではないの。でもそうね、まずは村主を決めることよ。そうすればむらかみと意思疎通をとれるようになるし、何より守りやすくなる。サムはさっき、クウヤかシチナと言ったけど、どちらが行うの?」
「_、、、私は、この村生まれでも、それに人でもありません。クウヤ殿、ここはクウヤ殿が、、」 「_俺だって、もう人じゃねぇよ。。。俺が、いやしかし、、、」 「_悩んでいる暇はそう無くてよ?」 「_しかし、村主になるという事は、いずれコセレガの子供を”取り込む”という事なのだろう? コセレガに続き、その子供まで喰らうなんてことは俺には出来そうにない。。。」 「_? ああ、本来の村主の交代はそんな”取り込む”なんてことはしないわ。村主の仕事を次の村主に引き継いだら、残りの人生はただ人として過ごすだけよ。安心して? まぁ、あなたはただの人ってわけではないけれど。」 「_では、コセレガの子供はそのままの人として村主を引き継げるという事か?」 「_そうよ。」 「_、、、。」 とクウヤは一同を見回す。一瞬その目線がサムに行くが、、、 「_僕は、僕の家は兄姫村にありましてね。いずれ帰るつもりです。だからこの村の村主にはなれませんよ。」 「_ふん、しょうがねぇ、俺が村主になってやろう、だが、それもコセレガの子供が大きくなるまでだ。それまではむらかみとこの村を守ろう。」 「_おう、たのんだぜ、俺らのリーダー。」 とクウヤの仲間たちが賛同の声を上げる。
「_それでは、村主の任命は不肖この私が執り行わさせていただくわ。」 と言うと、突然辺りが全くの無音、無風になる。そしてキャミーが何事かを唱えだす。『@&%$#><^¥”コウロ”#$%\\\\\"クウヤ"』 するとむらかみがクウヤを見つめる。それにクウヤも答えるかのように目を合わせる。 『クウヤ』 とむらかみが一言唱えると、それまでの無音無風の状態が解除される。 「_ふぅ、これでクウヤがこの村、兄将始村の初代村主になったわ。これで、クウヤはコウロちゃんと意思疎通が行えるようになっているはずよ。でも注意して、これからコウロちゃんは色々なことを学んでいくけど、最初は全て貴方を通してそれは行われる。貴方が正しいと思う事を一杯教えていってあげてね。」 「_お、おぅ、って自信がねぇな。」 「_なに、貴方が正しいと思った行動をとるだけでいいのよ。 それにあなた子供がいるのでしょう? 子育てと同じよ。」
「_子供って、それはコセレガの子供であって、俺の子供じゃねぇぞ。」 「_おいおい、リーダーもうそろそろ認めたらどうなんだ? 確かに最初は俺たち全員でコセレガの記憶を補完し合っていたが、今では俺らは殆ど忘れちまってる。多分だけど、記憶はクウヤ、お前に統合されて行ってるんじゃないか?」 「_!? そうなのか? お前ら、確かに最近急に昔のことを思い出すようにはなってきたが、、、」 「_そうだ、だからクウヤ、子供に会ってはどうだ?」 「_しかし。」 「_クウヤ殿、どちらにしても村主はいずれ子供に引き継がれるのでしょう? むらかみ様を育てるのと同様次の村主も育てるのがよろしいのでは? それに、奥様は未だクウヤ殿の帰りを待って、子供に名前を付けずにいるのです。 私は名前を付けてあげられるのは貴方しかいないと考えています。」 「_、、、あのやろう、まぁだ名前を付けていやがらねぇのか。。。へへ、相も変わらず強情な奴だ。。。名前、つけてやらねぇとな。」 と一人涙を流す、クウヤ。 おそらくこれまでであれば、クウヤの仲間たちも記憶を共有していた為、皆泣くのだろうが、記憶はクウヤに統一されている為、泣くものはクウヤのみであった。
そして数分時間は流れ、サムは今日の所はここでサイドラインを去ろうかとも考えたが、一つ気になっていて重要なことがあるので、この空気の中、申し訳ないと思いながら口を開く。 「_すみません、いいですかね? キャミーさん、ちょっと話を戻しますが、、、先程、”今すぐにむらかみに知恵や知識がつくものではない”と仰っていましたが、力は別、今すぐついたりするものなので?」 「_そうよ、むらかみの力は村の総体に依存するの。」 「_キャミー殿、総体とは?」 「_村の総合力とでも言うと分かりやすいかしら、村の規模、式を含む村に住まう者全ての数とか信頼の厚さとかがそうよ。 兄将村群がやっていた強制された祈りや恐れでも、力を増やせはするけど、それは私は邪道だと思っているわ。」 「_それだと、村の規模も只の人の数も今すぐ増やせるものではないですね。となるとキャミーさん。。。」 「_、、、そうね。今できるのはこの村に力ある者を増やす。と言うことになるわね。今ここにいる面々が正式に村に加入するとむらかみに認められれば、それはすぐさまむらかみの力になるわ。でもあなたたちは既に神通力を持つ者達だから村の式として仕えるのが良いかもしれないわね。」 「_なに、俺たちごときが村の式にだと?」 「_そう卑下しないで、貴方達の神通力は相当なものよ。」 「_お、おう。。。」 「_まさか私が村の式として仕えることになろうとは、、なんという立身出世、望外の喜び。してキャミー殿どのようなことをすれば村の式に慣れますので?」 と前のめりなシチナにサムが声をかける。 「_ちょっとまってください。」 「_サム殿、なんでしょう。」 「_いえ、皆さんが式になるのを止めるつもりはないのです。ただ、一組抜けている者が居ましてね。」 というとサムは後ろを振り返り話しかける。
「_オモカゲ、ヨノウメ、シンリョク、ソラノ、ハチミツ、コウチャ、シロミソ、クロマメ。それに他のコボルト達いるのだろう? こっちにお出で。」 「_ぬぅ、見つかっていたか、、、」 というと、鼻をスンスンとさせながらオモカゲ達 「_君たちも話は聞いていただろう? 君たちはこの村に属するつもりはないかい? というか属するのが良いと思うのだけれどどうだろう。」 「_、、、しかし、」 「_この際、僕の事は忘れてくれていい。そうなることがハズメさんやそれ以外の君たちの祖先に報いることにもなると思うんだ。」 「_うむ、であればすぐにでもこの村に加わろう。」 「_って早いな。。。まぁいいや、という事でキャミーさん彼らもお願いします。」 「_そうね。既にサムの式になっている者達は新たに村の式として、それ以外は村に住まう者として加入してもらうことにしましょう。」 と、キャミーとむらかみのもと、その儀式がとり行われていく。
ところ変わって、中村主の屋敷では、、、「_あらあら、薬村主の奴、あっさりと負けちゃったじゃない?」 「_村人を喰らってまでもあの程度か、まぁあ奴はそもそもが村人をいたずらに減らしすぎていたのだ、村人もうまく使えば力になるというのに、目先の力に走った罰じゃの。」 「_それで、次は中村主さんの番ですけど、大丈夫ですか?」 「_私が? あの程度の神通力の者に負けるとでも?」 「_いえいえ、そうは思いませんが、早くしないと、件の敵は薬村主さんの力まで取り込んで強くなっちゃいそうですよ?」 「_ふん、むしろそうしてくれた方が、あの気持ちわるい薬村主もろとも消せていいじゃない。うん、そうだわ、そうしましょう、私昔からムカデって気持ち悪くて嫌いだったの。」 「_まぁ、好きにせい。お主が何とかしてくれれば、ワシらには関係のない話じゃ。」 「_そぅ、いいの? あの者の神通力を貰って、貴方達より強くなっちゃうかもよ?」 「_くかか、冗談は口だけにしておれよ。」 「_あら、怖ーい。」 「_それじゃ、薬村主さんの催し物も終わったことだし、僕は失礼させていただきますね。次は中村主さんがやるときに呼んでくださいね。」 と親村主が言うとその部屋の御簾が下ろされた場所が光り輝く。 「_!?」
『_者どもよ、ここに在れ!』 と鈴の様に静かながらも良くよく響く声が聞こえる。すると、それまでの様子が嘘のように、全ての村主達が座したまま頭を床に着けるようにして 「_我らはここに!」 と叫ぶかのように答える。 「_兄将院様におかれましてはーーー」 『_数が揃っておらぬようだが?』 「_は、子村主については、反逆の恐れがありましたので、刈り取り、薬村主についてはその不注意からその力を失いました。ですが、奴らの力は我らと比較するまでにも及びません。兄将院様に上納する力は我らの分だけで十分かと、、。」 『_ふむ、、、であれば数はどうでもよい。 それよりも、我が領地の中に新たな村が誕生したようじゃ、、、何をしておった?』 「_!?すぐさま潰してまいります。」 と言うな否や、中村主が兄将院という者に向かって頭を床につけたままの姿勢で、部屋をさっていく。 「_ん? 行くのは今の者だけか?」 と言うと、「ゴトリ」 と言う音が部屋から聞こえる、それは人村主と親村主の首が体分離した音だったが、 「_申し訳ございません。」 とその首たちが答えると、残った体が、その首をもって部屋から出ていくのだった。 『_ふん、有象無象どもめ。』
そして時間は少し遡り、兄将薬村では、、、グールが蠢き村にあるすべてを破壊し、飲み込んでいた。それまでにグールの中にあるのは強烈な飢えのみであったが、薬村主を喰らったことで、怒りも植え付けられていたが、それはグールの意識下において急激な変化をもたらし、今ではその中に自我が芽生えようとしていた。だが未だその意識は完全に一つには成りきらず、飢えのままに血を掘り返し地中に住まう者達まで喰らい尽くす者、目に付くものは全て怒りのままに破壊しようとする者、そして遠い東の先で浄化される一部を感じる者、後は形にならぬ意識達とがせめぎ合っていた。しかし、今現在進行形で薬村主の式を喰らっている過程で、怒りの自我がどんどん勢力を増していた。そしてそれは飢えていることにも怒り、浄化されることにも怒りを感じ始めていた。飢えの怒りはさらなる獲物を求め、浄化への怒りはそれを行う者の破壊を求める。すると自然、その足は、ゆっくりとではあるが、強い怒りと飢えを持ってサム達の居る東へと向かう。




