表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/70

第22話:これからの事

「_あなたにはつらい事とは思いますが、ハズメはあの黒い影に喰われたのではないかと。。」 「_なんだと!!」 「_オモカゲ、落ち着くんだ。。。シチナさん、シチナさんは黒い影が去った後の村を見ましたか?」 「_いや、私は今の集落に住まう者の事に手が一杯で、あれ以来、元の村へは危険もあり近づけておりません。」 「_そうですか、我々は、その元の兄将子村を見ました。」 「_! 生き残った者はおりましたか?」 「_いえ、村には生き物はおろか植物すら何もないただの荒れ果てた土地となっていました。」 「_そうですか、、、サム殿達はあの黒い影が通ってきた道をご覧になりましたよね。アレは全ての生き物を植物を喰らうのです。地上に在るものはおろか、地下に在るものすら、全てを喰らい尽くしてもその勢いは収まることはありませんでした。アレはまるで飢えた魂の塊のようなモノだと思っています。ですから、村を覆ったアレは村の全てを喰らったのだろうと思います。全ての式はおろか村主までも、、、そうでなければあの結界を破れる道理がありません。神通力を持つ者を喰らって神通力を得る方法が邪法と言うのも分かる気がします。アレは今はグールとは呼んでいますが、きっと邪法の果てに産まれるものなのでしょう。」 「_邪法の果て、ですか。。。それにオモカゲの母親は犠牲になったと。。」 「_はい。アレはハズメの牙や爪で倒せる相手ではありませんし、ましてや結界の中全てを覆われたのでは身を守る場所もございません。。。」 「_。。。母上、、、」 と言うとオモカゲは遠吠えを高々とあげる。それは崖をめぐる風にのって遠くまでこだましていた。



○3月5日:月曜日、4時起床、沈鬱な気持ちで副業部屋へ、テーブルの上にはいろいろな資料が置いてある、最近は主に宗教儀式のことについて調べていたが、その中の一つに目を移す『蟲毒:ヘビやムカデなどをツボの中に入れ、互いに共食いさせ、最後に残ったものを神霊とする。』とある、昨日のシチナの話を思えば、村に残されたもの達でそれが行われたのだろう、胸が痛くなるような話である。しかしその結果があの黒い塊だと言われれば納得せざるを得ないというところもある。サムは他の資料にも一通り目を通すと、サイドラインへと向かう。



場所は崖の集落、クウヤはコボルトの姿で丸くなって眠っている。昨晩の話のあと、コセレガの妻と子に会うか、という話になったが、コボルトの姿に戻ると肩をすくめて丸くなってしまった。オモカゲも丸くなって遠くを睨みつけている。サムはヌバタマを探して村の中を下層に向かって歩き始める。すると幾人かの村人を見つける。村人たちは崖の落ち窪んだところで身を寄せ合っていた、やはり、地の上でないと落ち着かないようだ。それにしても見かける村人は皆一様にうつろな表情をしている。村を失ったことに対する失意だろうか、それとも食料が足りていないのだろうか、そんなことを考えながら村人から奇異な目で見られながらどんどんと下層に進む。5分程降りると、そこにヌバタマとシチナを見かける。そこには華奢な女性が一人、立っていた。彼女がコセレガさんの妻と言う人だろうか。



「_やや、これはサム様、おはようございます。」 「_ああ、おはよう、タマ、シチナさん、それと、、、?」 「_サム殿、こちら私の妻でナーフと言います。」 「_これはこれは、シチナさんの奥様でしたか、よろしくお願いいたします。シチナさんには昨日大変に助けられました。なんとお礼を言っていいものやら、、、」 「_まぁ、まぁ、まぁ、この方ががくもがみ様なの? 全然威圧感が無いとは聞いてましたが、、それにしても!」 「_はは、くもがみと言っても名前だけで、私自身には何も力はありません。いつもタマや他の式に助けられてばかりなんですよ。」 「_あれぇ、腰も低い! 私はもっとあの村主様のような人かと思っていて!」 「_こらこら、よさぬか、サム殿に失礼だぞ。サム殿、家の者が申し訳ない。」 「_は、これは失礼をいたしました。/////// あまりにも想像と違ったものですから、、」 「_いえ、全くかまいませんよ。」 「_サム様、何か御用でしたか?」 「_ああ、今日これからの事を話しておきたくてね。」 「_はい、何か行動を起こされるわけですね。」 と期待に満ちた目でサムを見るヌバタマ。



「_いや、そんな期待した目で見たって突飛な何かを始めるとかじゃないよ。 今日はコボルト達を連れて食料採集と、あとは兄姫村でもやっていた別離の香木を数本で良いから集めてほしいんだ。」 「_食料採集は分かりますが、別離の香木ですか? いったい何に?」 「_ちょっと試してみたいことがあってね。あとは、もしダイフクが戻ったら、、、、」 と懐から出した木の札にさらさらと何かを書きつけていく 「_これをカゲトキとサクラに準備しておくように連絡してもらって、それからダイフクには連絡後はまた戻ってくるように伝えてほしい。」 「_は、承知しました。」 「_あ、シチナさんナーフさん、村で必要な物って何かありますか? もしウリョシの町で手に入るものなら持ってくることが出来ますが、、」 「_そ、それでしたら、、」 とナーフが要望を出す。 「_では、、、、も追加でっと。」 と木の札をもう一枚ヌバタマに渡す。 「_あとシチナさん村のこれからの事、今晩にでも相談させてください。 今は一旦失礼させていただきますね。」 というとサムは食料採集と香木探しに村の上層へと歩いていく。この時すでにサムはLog Outしていて自動操縦になっている。 「_サム殿、、、行ってしまわれたか。。。なにやら面白い御仁であるな、弟よ。」 「_ええ、のんびりするのがお好きな様で、行動力は溢れる程おありなさる。不思議なお人で、、退屈は致しませんな。」 「_ははは、退屈の中に住んでいたようなお前から、そのような言葉を聞こうとは、よくよく良い方に変わったようだな。」 「_? そうですか?」 「_ほれほれ、早く付いて行かないとサム殿に置いて行かれてしまうぞ。」 「_おっと、それでは失礼いたします。兄様に義姉様。」 その後姿を眺めながら、「_あなた、なんだかうれしそうね。」 「_ああ、嬉しい、あの弟があのように成長してくれていて、、、」

 


○3月5日:月曜日、21時サイドラインへ、場所は崖の上の開けた土地、今日も焚火を焚いている。サムの肩にはダイフクがとまり、うつらうつらしている。クウヤとオモカゲは寝息を立てている。サムは静かにシチナとヌバタマの方へと歩いていく、その動作にダイフクは目覚め、コボルト達は耳だけこちらに注目するのに気が付いた。 「_ご主人様、ダイフクめは二つの木札をカゲトキめとサクラめに運んで帰ってまいりましたぞ。」 「_そうか、ありがとうお疲れ様。」 というとその頭を掻いて労ってやってから、シチナに向かって話し始める。



「_シチナさん、シチナさんは今後、兄将子村の人々をどのようにしていくつもりですか?」 「_単刀直入ですね。」 「_はいーー」 「_おい、サムにシチナ、その話、俺らも混ぜろい。」 「_はい当然です。クウヤさんも気になるところですよね。 して、どうなさるつもりですか? シチナさん。」 「_そうだなー。私は今は待ちの時だと考えておりました。というのも、グールの攻撃からも安定して身を守れて、小さい物ですが集落という物も作れました。かといってここに落ち着くつもりもないのですが、、、度重なる移動で村人たちは疲弊しきってしまっています。なので待ちの時というと聞こえはいいですが、ただただ集団としては動けないというのが実情です。」 「_そうですか、確かに、今朝がた見た村人たちは皆一様に疲れた表情をしていましたね。」 「_ええ、あの集落では自由に身体を動かすこともままなりませんから、グールや野生のコボルト等の生物に怯える時間だけがあるというのも良くないのかもしれません。」 「_ということは、何をするにも村人たちには元気になってもらわねばなりませんね。」 「_? 何をなさるつもりです?」 「_いえ、僕も何も考えていませんよ。ただ、まずは可能性の選択肢を多くするという事が大事だと思うのです。少なくとも今のままでは、行動が縛られすぎている。と思いましてね。」 



「_可能性の選択肢。ですか、、、実は、集団では動けていないのですが、私と妻個人はそれぞれ動いておりましてね。 私は狩りとグールの足止めがもっぱらですが、妻の方は諜報が専門でして、、、村周辺の事は窺ってはいたのです。その中で、サム殿やクウヤ殿の事は正体は知らぬままで盗聴しておりました。」 「_!? それって、タマが言っていた。不思議な気配と言っていたのは、、」 とサムはヌバタマを見る。「_アレは義姉様の気配でしたか、、、確かに微弱でも同族の気配なら反応できるはずです。 しかし、あれほど微弱な神通力で盗聴とはいったいどのように?」 と今度はヌバタマがシチナを見る。 「_細かい仕組みまでは、私も聞いていなくてね、何かうまくやったようなのだよ。それで、その盗聴は他の場所にも行っています。」 「_ほう、それはどこか聞きたいな。 しかし、盗めるのは音だけなのか?」 とクウヤが話に入ってくる。 



「_はい、音のみです。仕掛けた場所はまずは兄将子村のSouthWest側の屋敷と関所に、そして兄将薬村の村主の屋敷に、最後が兄将中村の村主の屋敷になります。」 「_俺たちのアジトか、、そんな気配は微塵も感じなかったがなぁ。 それで?」 「_まず、関所の方は式との連結が途絶えました。これはサム殿たちが何かしたのでしょうか?」 「_いや、それはサム達ではない、あの関所を薬村主が襲い、さらにそこをお前の言うグールが襲ったんだ、グールにかかれば、、、どうなるかは分かるだろ?」 「_そうですか、、、それと兄将子村のSouthWest側の屋敷は今や、もぬけのから、これはクウヤ殿たちがこちらに来たということで納得がいきます。」 「_それで、薬村主の屋敷はどうなっているんだ?」 「_そちらは一旦連結が切れたのですが、再度式を送り込んでいます。ですが、めぼしい動きはありません。妻曰く、何かをバリバリボリボリと音がするだけだそうです。」 「_バリバリ? あの屋敷には俺たち以外は人の出入りはないし、いるとすれば薬村主だけだろうが、、、あいつは関所でグールにやられたわけでもないのか? しかしあいつが動けばあの虫の蠢く嫌な音がするはずだ。ただじっとしているとも思えないが、、、」 「_はい、そして最後は中村主の屋敷ですが、こちらは、実のある会話がいくつか、まずは、薬村主の村周辺でトカゲが消失している事、それを調べるために薬村主が向かったこと、その後は、薬村主は何者かに痛手を負ったことをどこかの村主が感ずいたようで、それを肴に酒を飲み交わしているようです。」 「_くそ、あの妖怪どもめ、この状況を楽しんでやがる。」



「_ちょっと質問いいですか?」 とサムがぬっと割って入る。 「_兄将子村の話を聞いた時にも思ったのですが、兄将村群には”むらかみ”は居られないのですか?」 「_むらかみ?」 とシチナが言えば、クウヤは 「_むらかみか、シチナは知らんだろうが他の村ではそういう存在がいるのが普通なのだ。」 「_? そういう言い方をするという事は、兄将村群にはむらかみは居ない?」 「_口外できないことになっているんだがな、、、兄将村群では村主とむらかみは同意なのだ。村主の交代は代々、むらかみが村主を取り込まれて完了するんだ。」 「_むらかみが、村主を取り込む?」 「_ああ、俺というかコセレガの記憶に先々代の村主から先代の村主に代替わりする記憶が残っている。 いま思えば、あれも一種の邪法なのかもな。」 「_取り込まれるとどうなるので?」 「_見た目も物腰も完全に新しい村主のそれにとって代わる。見ただけであれば、ただ古い村主が消えただけの様にも見えるな、だが、神通力はこれまでの村主と新たな村主とが合わさった分になる。と、それだけだと思っていたんだがな。コセレガを喰った今ならわかる。あれはこれまでの村主の記憶の上にさらに新たな村主の記憶を持っていて、その意志は取り込んだ方、この場合おそらくは最初のヤツが持つのだろう、案外それがむらかみなのかもしれん。」 「_何とも、、いけ好かないしきたりばかりですね。。。」 「_だが、他を知らなければそういうモノで終わってしまうのだ。特にこの村ではな。」 「_しかし、それを聞けば、他の村主をして妖怪と呼ぶのも分かります。」



「_そうだ、しかし、その妖怪の一人が意識をなくすなんてのは、ちょっと考えられないことだ、それも、他の村主がしたことなのかもな。」 「_ということは、これから何かをやろうとすれば、その者達が、強力な神通力を持つ者達が邪魔をしてくるかもしれない分けですね。であれば、引き続き盗聴の方はよろしくお願いします。」 「_考えていること、分かっていることが少なくて申し訳ありません。」 と頭を下げるシチナに 「_いえ、よくぞこの状態でそこまで調べられたと感心しました。それでですね。全ての可能性の選択肢を増やすためにですね。明日の朝。試してみたいことがあるのです。」 「_試してみたいこと?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ