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第18話:クウヤの匂い

オモカゲは蔓草が樹上を覆う森の中を、匂いの主を求めて進んでいた。今い追いかけている者はある意味特殊な匂いをしている為、追うのは容易いのだが、嗅いでいて混乱をきたす匂いをしている、それはこれまで嗅いだことのない匂いと言うわけではない、ある匂いとある匂いが完全に混ざった匂いをしているのだ。匂い、すなわち嗅覚というのはコボルト達にとっては、生きていくために必要な情報を視覚以上に与える。なので、普通の人間が目で見るより多くの情報をコボルト達は取得していることになる。例えば普通の人間が、別の人間に出会った場合、その見た目から、清潔そう、真面目そうと感じたとしても、コボルト達はその人の匂いから、酒の匂いが残っている、昨晩遅くまで酒を飲んでいたのだろう、強い体臭がある、昨晩は風呂に入っていないのだろうと感じ、清潔でも真面目でもない、と別の人物像をそれぞれ思い描くことだろう。



だからクウヤの人物像というのは、サムとオモカゲでは異なるという事になる、サムは、村の中においてある程度の権威を持つ者、力に溢れているが少々粗野である、荒々しいところがあるが誠実な男である。などと見ていたが、オモカゲにとってはただただ面妖なものと言った印象を見て取っていた。それは全て匂いの有無によって、別の人物像を想像していることになる。では別の人物像を思わせるほどの匂いとは何なのか、匂いとは言うなれは空気中や物体から漂う物質であり、嗅覚とはその物質を捉え認識する器官全てである。だから全ての匂いとは物質にまで分解できる、それほどまでに高い嗅覚をもつコボルトを悩ませる匂いとはふつうは二つの物質が別々にそして同時に匂うはずのものが、完全に一つの匂いとして、一つの物質として感じられるという事である。



クウヤは、いやクウヤ達あの屋敷にいたものは全て、人とコボルトの完全に混じりあった匂いをしているのだった。それは単純に人とコボルトが同時に生まれ育ったとしてもそんなことにはならない、人には人の発する、コボルトにはコボルトの発する匂いが物質があるのだ、だからコボルト臭い人間とも、人間臭いコボルトとも違う。視覚で例えるとするならば、それはまるで、丸であり三角形でもある物質を見たかのような、不思議さを得体のしれなぬものという印象をオモカゲはクウヤに対して持っていた。



ちなみにコボルト達にとって、サム達はサム達で混乱させる因子を持っていて、まずダイフクは人型であっても旨そうな鳥の匂いがするし、ヌバタマは人型であって人ではないものの匂いがするが、それでも匂いの変化は感じる、恐れているのか、興奮しているのか、などだ、だがことサムに至っては、それが分からず困惑するところがある、それはサムからは人から当たり前にするはずの匂いがないのだ、汗、脂、糞尿の匂いが一切しない。口臭もないので、今朝や昨日の夜に何を食べたのかも分からない、体臭の変化は相手の感情、状態を知るのに必要な要素になりうるのだが、サムはそれらの匂いがない、だからコイツは、その表情や仕草、会話内容などからそれを判断する必要があり、特段面倒なヤツと言える。今もこうして早い速度に付いて来ているのだが、汗一つかいていない、自分がこれほど動揺しているというのに、コイツときたら、一体今どういう感情で動いているのかも分からない。オモカゲから見るとサムはただただ何も考えていない、何も感じていないものに見えるのだ。



「_おい、サム、本当にこの者の匂い、追っても大丈夫か?」 「_へ? どうしたんだい急に?」 「_、、、オレはクウヤを知らん。匂いの質もも怪しいが、この匂い、相当の数を引き連れているぞ。 それにここからは向かう方角が変わる、、」 といってオモカゲは東南東の方角を見やる。 「_向こうか、、、でもクウヤさん達がが敵になるとは考えられないけど、、、でもオモカゲが二人対多数を恐れるというのも分からないでもない。」 「_おい、オレは恐れてはいない、何かあればオレだけで逃げられる。だがそうすると力の元であるオマエがいなくなる、それはオレがすることの害になる。」 「_いやいや、オモカゲの力の事を心配したのではないよ。確かに状況が動いている今、これまで通りの関係かも分からない、、、、ここは万全を期するべきか。。。今追いかけている匂いは途中からでも追えるものかい?」 「_この匂いは忘れぬ、大丈夫だ。」



「_よし、では一旦、タマかフクと合流してから、続きを追うことにしようか、ここからだと、、、、向こうに歩けばよいかな。」 と言って、サムとオモカゲはヌバタマの待つ森の拠点へと歩を進める。 「_そういえばオモカゲ、クウヤさん達は不思議な匂いをしているといったね。僕はあった時には何も感じなかったけど、、、」 「_ああ、オマエ達の鼻は相当悪いらしい。」 「_まぁ、人と犬、もといコボルトでは嗅覚に差があるものだよ、、、あぁ、でもこの世界には匂いを表現する言葉が多く存在しているようだから、この世界の普通の人も嗅覚が高いのかもしれない、、、」 「_、、、なんの話だ?」 「_ごめんごめん、脱線したよ。クウヤさん達は人とコボルトの匂いが混ざったような匂いと言っていたね。」 「_ああ。人間の匂いでもあるし、コボルトの匂いでもある。」 「_匂いのプロが迷う匂いだからね、素人の僕に分かりはしないだろうね。でもしかし、人であると同時にコボルトでもあるわけか、、、それは混乱しそうではある。。。オオカミ男、いやコボルト男みたいなものなのかな? 、、、この世界には存在しそうじゃない?」 「_オレにはオマエの言っていることが分からない。」 「_そうだね、ははは。」



しかしそれにしてもクウヤ達は何者なのだろうか。正直、追跡するとなると兄将薬村かその西の村に向かうものと思っていたが、、、アジトを離れたのちはサム達と同じような進路をとっている、もしかすると森の拠点から割かし近くにいたりするのかもしれない。さらにもしかしたら本来はこのまま南に行く予定だったが、森の拠点のコボルト達の大合唱を聞いて危険を感じ方角を変えたのかもしれない。しかし、なぜ、サム達度同様に南に進んだのだろうか、、、アジトがトカゲの領域に入ってしまったのだろうか、それでコボルトとトカゲの領域外へと居を移した? いやそれにしても兄将薬村から相当に離れてしまっている。一応は兄将薬村の対コボルトの責任者として、そんなところに居を移すのは不便だし不自然だ、と思ったところでサムはあることを思い出す。



「_そういえば、ちょっと前に君たちが、関所に、人の屋敷に住んでいるときに、急に逃げ出したろ? あれは一体何だったんだい?」 「_アレは、、、アレは何かは分からん、ただ我らの村から出てきた何か。だ。」 「_君たちの村から出てきた?」 「_ああ、アレは、、オレが村から出されて長い時間が経った後いきなり出てきた。オレはまだ、母上を求めて村近くにいたからな。出てくるところも見た。アレは黒い、様々な負の感情の匂いの詰まった何かだ。そして、アレは触れてはならぬものだ、何頭かの仲間がアレに喰われるのも見た。攻撃も効かぬ。アレに牙を爪を伸ばしたものは全て喰われた。」 「_オモカゲがまだ村にいる頃には見たことは無かった?」 「_ない。」 「_黒い何かか、フクの言っていたこととも一致するね。それは関所を壊してしまったみたいだし、正体も気になるけど、オモカゲ達には救われたよ、ありがとう。」 と言って、クウヤ達はそれの存在に気付いて居を移したのかもしれない、もしくは兄将薬村との決裂も考えられると思考を続ける。



そしてオモカゲもまた考えていた、最近は得体のしれないものの匂いばかり嗅いでいると、あの黒い何かにサム達にクウヤ達と、この世には未だ自分の嗅いだことのない匂いの者が多数存在しているのかもしれない。そしてそれは普通の事なのかもしれない、オモカゲは村と森でその人生を送っていたが、サムの口ぶりからすると、村は他にもありそうだし、今の様に多少の未知の事で動揺していてはいけないのかもしれないと、オモカゲは世界の広がりを感じ始めるのだった。



サムとオモカゲは尚も歩き、森の拠点へとたどり着く、そこにはフブキたちと意思疎通をとろうと四苦八苦しているヌバタマと、落ち着かない様子で佇む、ダイフクがいるのだった。 「_やあ、みんな、それにフク、戻って来ていたか、村は見つかったかい?」 「_ご主人様、クウヤめは見つかりましたので?」 「_こっちは、クウヤさんはまだだ、ちょっと少数では何かあった時に対応できないと思ってね、タマかフクに同行をお願いしようと思って戻ってきたんだ。」 「_そうでございましたか。」 「_ダイフクめの村探索ですが、、、途中に古く大きな集落跡のようなものは見かけましたが、それ以降は広く探索はしましたが、人が住んでいるような場所は見つけることが出来ませんでした。。」 「_そうか、、、方角が違ったのかな、、、でも、関所の場所からEast側に進めば付くはずだと思ったんだけどなぁ、、ちなみに大きな集落跡って?」 「_ええ、最初遠目に見たときはそれが村だと思ったのですが、近づいてみると人っ子一人、どころか何かの小動物の気配も草木一本も生えておらず、さらには建物も石の土台を残すのみで、、とても人が住んでいたようには見えませんでした。」 



「_そうか、、、誰も、何も無いか、、、ん? フクよ草木もないと言ったかい?」 「_はい集落跡には自力で動くものも風で動くものも何もございませんでした。」 「_、、、なんだろう、草木一本もないというのは、なにかおかしい気がする、だって、こんな森に囲まれていて、いたら普通の集落跡ならコボルトの集落の様に森に飲み込まれていそうなものだけど、、、オモカゲ、君の居た村には木々が生えていて、その、建物に屋根はあったかい?」 「_ああ、あったぞ。」 「_フク、その集落跡の周囲に神通力の気配はあったかい?」 「_いえ、何も、その集落跡には何者の気配も存在しませんでした。」 「_そうか、わかった、ありがとう。」



「_タマの方は、なにか動きはあったかい?」 「_いえ、この位の時間では何も、、、ただ、式となったコボルト達ですが、喋ることは出来ませんが、概ねこちらのいう事は理解していそう、、、という事は分かりました。」 「_おお、この短時間ですごいじゃないか、こちらの言葉は理解しているか、ならあとはコボルト達の意思表示を伝える方法を見つけたりなんかすれば、、、何かできるのかな?」 「_意思表示ですか、、、試みてみましょう。」 「_おい、オマエら、コイツたちと話がしたいのか?」 「_ええ、フブキたちにあの新規コボルトの世話をお願いしたいのですが、どう指示したものやらと考えていましてね。」 「_、、、あいつらは飢えている、お前たちが満腹にでもすれば言うことを聞くようになるだろう。」 「_そんな簡単にいくもんですか?」 「_おい、オレを何だと思っている、コボルトだぞ。」 「_!、そうでしたね。。。これはうっかりです。」 「_サム様、よくよく考えてみれば、コボルト達の世話の指示はオモカゲにお願いするのが良いかもしれませんね。。。これは気づきませんで、、、」 「_そうだね。じゃぁ、ちょっとオモカゲにお願いしようか、それとタマはコボルト達用に餌の確保をお願いできるかい? それがおわったら今後の事を相談しよう。」



○3月3日:土曜日、20時、ココアとラスクを持って副業部屋へ、メープルナッツ味の一口大のラスクを口に運びながら今後の事を考える。今ある案件はコボルト達の飼育のこと、オモカゲのいた村の事、クウヤ達の事、黒い群れの事、あとカゲトキとサクラの事、限られたリソースで何をどの順で、どの位の力で行うかが肝要だ、サムはココアを飲んでゆっくりと深呼吸をすると 「まずはコボルト。」 と声にだして言う。うん、再度客観視しても、問題ないように思える。次はクウヤ達か、、、サムは残りのラスクを食べてカリカリとした食感とメープルの甘い香りを楽しんだ後にサイドラインへとLog Inする。



場所は森の拠点、辺りは木々のざわめきと焚火のパチパチとした音のみ、ダイフクはうつらうつらと船をこいでいる。驚いたことに新規コボルト達がおとなしくしている、眠っているのだろうか、じっと見てみると、静かに寝息を立てるもの、起きてはいるがじっと横になっているものだちがいた。数も数え終えいなくなったわけではないようだと確認すると一安心して、ヌバタマに静かに話しかける。 「_やぁ、久しぶりに静かな夜だね。」 「_サム様お戻りでしたか、そうですね。町の喧騒も、ウッドのいびきも、コボルト達の鳴き声もない、そんな夜は兄姫村をでてから初めてかもしれませんね。。」 「_こういうのもいいものだけど、それにしてもおとなしくなったものだね。腹が膨れたのと、オモカゲ達の説得の効果かい?」 「_ええ、最初は言うことを聞こうとしませんでしたが、、、餌を目の前にしてオモカゲ達が取り分けてやると途端に、、、こう考えると食事とは大事なものですな。」 「_そうだね、最近はコボルト達の世話に手が一杯で我々のご飯は無いからね。いくら神通力があるとは言え、申し訳ないね。」 「_いえいえ、それは構わないのです。そういえば、我々はサム様の神通力のおかげで食事は不要と依然言いましたが、フブキやオモカゲ達はそうはいかぬようでして。」 「_あれ、そうなんだ。」 「_ええ、彼らはまだ年若いですし、食欲がまだ枯れていないようです。」 「_食欲が枯れる。面白い表現だね。。。まぁ、コボルト達の食糧の件は分かったよ。ついでに我らの食生活もそろそろなにか考えようか。」



「_それで、新規コボルト達はオモカゲ達の言うことを聞いて動いてくれそうかい?」 とサムはヌバタマに聞いたつもりだったが、それまではキナコの子供たちとじゃれあっていたオモカゲが話に加わる。「_ああ、それは大丈夫だ、こいつらはもう我らの群れ、加わった。」 「_そうか、お手柄だったね。ありがとうオモカゲ。」 「_我らはただ力を見せただけだ。それにこいつらも群れる利点は、本能で把握している。」 「_本能か、、、でもあまり大きな群れってのも大変じゃないかい? 限界の数とかは検討が付くかい?」 「_どうだろうな、、、式になった我ら一頭につき、今位の数ならば群れを維持できるだろう。。。まだ増やすのか?」 「_そうだね。僕たちはオモカゲの目的も果たすけど、そもそもはコボルト達をどうにかしに来たのだから。可能ならば可能なだけ救ってやりたい。」



「_数、増やすが先か?」 「_、、、いや、いまは現状の確認が必要だ、まずは明日はクウヤさん達を追う。それ以外はそれから考えよう。どうだろう、タマにオモカゲ。」 「_わたくしは何も問題ありません。」 「_ぬぅ、オレは村が気になるが、、、クウヤというやつを追うほうが近道になるなら、探すほうを優先しよう。」 「_たすかるよ。みんな。。。あ、そうだ、新規コボルト達に朝食を上げたほうが良いかな?」 「_いや、さっきので腹は満たされたはずだ。大丈夫だろう。」 「_そうか、それじゃ、明日の朝までは休むことにしようか、さっさとクウヤさん達を見つけてしまおう。」



そしてところ変わり、とあるはぐれ里では、 「_おかえりなさい、あなた。」 「_ああ、帰った。」 「_なにか浮かない顔をしているわ、何かあった?」 「_いや、奴らの進行速度が落ちたのと明らかに数が減っている。それも、、急にだ。」 「_それはあなたが狩りつくしたのではなくて?」 「_それだとありがたいが、、、どうだろうな、まだしばらく様子を見ないと判断は下せないな。。。お前の方はどうだ、なにか情報はつかめたか?」 「_3つ報告があるわ、1つは兄将薬村に仕掛けた式が消されてしまったわ。それと村はずれの屋敷のほうはもしかしたらもう打ち捨てられたかもしれない。」 「_!、、、情報源がことごとくけされたか、、、確か前に我らの式に気が付いたようなもの達がいたな、その者たちのせいだろうか?」 「_今のところ決定的なことは何も、、、だけど前回の関所の式の消失から間もない期間でのことだからその者たちのせいかもしれないわね、、、それと、」 「_それと?」 「_兄将中村の村主の屋敷への式の設置が完了したわ。こちらから情報を集めてみる。」 「_そうか、、、総合では前進したと考えたいな。 それにしても、関所にいたものか、その奴らが来てからというもの、今までの膠着した状態が嘘のように動き始めている。いったい何者なのだろうな。」 


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