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第15話:薬村主とサムの日常の事

太陽の光が大きな屋敷の屋根を照らす。その屋根は光により白く光っていたが一部だけ日の光が照らすのを避けているかのように黒くぽっかりとした巨大な穴が口を開けていた。しかし屋敷の中にはいると、巨大な穴から日の光は届いており、実際は光が避けているのではなく光を吸い込んでいるのだと気が付く、その穴の淵はまだ木と土と埃の湿った匂いがして、舞う埃は穴に吸い込まれた光により輝くように舞っていた。そしてその光は屋敷の中までをも照らす。だが屋敷は広く、吸い込まれた光も届かぬ場所がある、そこは半地下の作りをしており、迷路のように作られた屋敷の最奥で、夜の闇よりも暗い場所だった。そしてそこには大きくうずくまる何かの塊があった、もしその場所に光が届きその塊を目にするものがいたなら、忽ちに悲鳴を上げていたことであろうが幸いにして、そこには光は届かなかったし、屋敷に住まう者は今やその塊のみであるので、悲鳴を上げるものはいない。



その塊からは 『ギチギチ、カシャカシャ』 という何かが引っ切り無しに蠢く音がしていたが、光が届かぬ場所では何が動いているのか分からない、ただ暗がりにいる昆虫の群れであろうか? たった今その群れの数匹かがその塊を逃れ光の方へと向かう、屋敷の陰に姿を現したのは数匹のムカデであった。数匹のムカデは日の光を浴びると驚いたように、穴に吸い込まれ直射する光を避けて屋敷の陰の部分を這いまわる。彼らは塊にいる時は常に餌にありつけていてそれが安住の地だと思っていたのだが、ついさっき巨大な仲間が食べられるのを間近に見て、恐ろしくなり逃げ出したもの達だ。彼らはそれなりに神通力を持っていてそれぞれ思考することも出来たが、塊にいる時にはそれをはく奪されてしまう。しかし、いまや塊には混乱が起きていて彼らは彼らの思考をとり戻し、自由を得んがため動き出したのだが、その思考もすぐに消える。消えた後には 『バリバリ、ボリボリ』 という音が響く、塊から伸びた一匹のムカデが逃げ出した個体を食べたのだった。



塊は先ほどからそんなやり取りを繰り返している。多少なりとも知恵を持つ個体がその塊から離れ、それを強固な怒りの意志をもつ個体に食べられる。元は一つであったものが、恐れを持ち逃げ出し、恐れぬものがそれを怒り食べる。今や塊の中では恐れと怒りの感情がぶつかり合っていた。それは塊にとって一種の精神統一の儀式かのように、怒りの個体が恐れの個体を食べ、精神の全てを怒りで塗りつぶそうとしているかのようである。



そんな塊の中に薬村主の身体は存在しており、そして先ほど目に焼き付いた光景を何度も怒りに打ち震えながら見ていた、何たる失態、何たる醜態、何たる、、、、失ったものは大きく、削られた神通力は二~三割にも及ぶ、部位としては人型になったときの右腕を割り振っていた個体で、今はその右腕を作り直す為に全身の再組成を行っているのだが、食われること恐れる個体が逃げ出すために今一つ作業が進まないでいた。我が身であったものは恐れを相手に抱かせるのが常であり、そしてそれが喜びであった、まさか恐れを抱く側に回ろうとは、、、なんと恨めしい。これでは、こんな姿をもし、他の村主に見られでもしたら、、、なんと惨めなことか、このような感情を持たせるに至ったあの不死の群れが憎くてしょうがない。



それに取り落とした腕は未だ己の式として繋がっており、現在進行形であの不死の群れに食べられている感覚が流れ込んでくる。それが我が身に巣くう者に恐れを抱かせ、同時に怒りも湧いてくる。その感覚が再組成の妨げになっていることは明らかで、いっそこのままの状態で再度戦いに出て、あの腕を取り戻すのが良い考えなのではとも思うが、あの不死の群れを倒す手段が整うまではまだ時間が掛かる。それを早める手段がないものかと考えるが、薬村主の頭は怒り一色で今はそれを考えるのもままならなかった。むしろあの腕をすっかりときれいさっぱり食べさせてしまったほうが、その手段に早く気付けるのだろうが、そもそも力に溺れて脆弱な知能と無駄に高いプライドしか持ち合わせていない薬村主にはそれは出来ないのもしょうがないことで、今しばらくはその塊は、昼間でも光の射さない真っ暗闇で、恐れと怒りのやり取りを続けるのみであった。。。それはサム達にとって幸いと言えるだろう。



○3月3日:土曜日、4時起床、昨晩は会社の飲み会があって、サイドラインには行けなかった。それ程飲んだつもりもないのだが、歳のせいだろうかアルコールがまだ残っているのか少し頭が痛い気がするし、口の中もお酒の匂いが染みついている気がする。サムは念入りに歯を磨くと、義母から貰った栗蒸羊羹と日本茶を持って副業部屋へ、今日はまず日本茶から飲み始める。それだけで機能のお酒が洗い流されていくような気分だ、それから日課の植物の水やりを行う。最近はオベサ・ブロウを購入して育てているのだが、よく見ると、複数の緑の頭の先端から薄黄緑色の芽?なのかが出てきている、この植物はこんな風に育つのかと色々な方向から見て楽しむ。残りの植物たちに水を上げ終わると手袋をはずして、羊羹を一口、この栗蒸羊羹は大きな栗がゴロゴロと入っていて栗を楽しめるのと、その分羊羹部分が弱くなるかと思っていると、小豆のしっかりとした甘みも良く感じられる、サムはしげしげと羊羹を眺めて、 「うーん、これはいい羊羹だ。今度会ったらお礼を言おう。」 と独り言を言って、羊羹を食べ進む。しっかり堪能すると、バーチェアに座り、サイドラインにLog Inする。



そこは、森の中に築いた陣地だったが、そこはコボルトの呻く声で満ちていた。サムは素早く会話ログを確認すると、昨晩ヌバタマが十二頭のコボルトを連れて帰ってきていて、周囲の大木一本につき3匹程度を綱で繋いであり、そして彼らはやはり皆そろいもそろって痩せこけていたが、ヌバタマが晩の内に獲物をとって餌を与えていたようだった。そして食後の眠りの後の大合唱が始まっての今であるようだ。サムはヌバタマを見ると 「_おはよう、ヌバタマ、コボルトの捕獲に餌やり、ありがとう。」 「_いえ、初日で捕まえられて助かりました。サム様の腕は信用していますが、やはり別行動には不安がありますので、、、」 「_そうだね、タマがいてくれて心強いよ。それにしても、、、こんなに鳴くものかね野生のコボルトは、、、これじゃあ他の動物に見つけてくださいと言っているようなものじゃないかな。。。」 「_、、、そうですね。不用意ではありましょうね。でも他の群れに助けを呼んでいるのかもしれませんよ。」 「_、、、まぁ、でも野生のコボルトに黙れだなんて、無理な話か、、、彼らにはここに慣れてもらうまではこのままだね。少なくとも数日は掛かるだろうから、守りはタマと自動操縦に任せたよ。」 「_数日これですか、、、もう少し口の綱を強く結びましょうか?」 「_いや、今のままで良いよ、口と手の綱は仲間同士で傷つけあうのを防ぐのが目的だからね。傷つけあわないなら、たとえうるさくとも外したっていいんだ。」 「_、、、なんというか、サム様らしいですね。。。それでこれからこのコボルト達をどうしますか?」 



「_うん、ひとまずは何もしない。」 「_何もしない?」 「_ああ、まずは先住コボルトの世話からだね。」 というと、サムは陣の奥でそわそわしている先住コボルト達を見やる。 「_さて、君たち、フブキ、キナコ、ゴカホウ、アベカワ、シンゲン、オモカゲ、ヨノウメ、、、、クロマメ、もう気付いていると思うけど、彼らは新しい仲間だ、敵じゃない、だからこれからゆっくりでいい、仲良くしてやってくれ。」 と言うと、サムはこれまでと同様に、いやこれまで以上に丁寧にフブキからブラッシングをしてやる。ブラッシングをしているときにはその対象しか見ず、表情から、体に傷がないかなどを念入りに確かめる。だから先住コボルトのブラッシングを終えるだけで、もう朝の光が射してくる。その日差しを木々の隙間から覗きながら、サムは先住コボルト達と散歩に出かける。「_じゃあ、タマ、僕は散歩がてらクウヤさんの屋敷に行ってくるよ。フクも待っているだろうしね。。。だから、、、ここの事は頼んだよ。まぁ、ちょっと遊んでやるのも良いし、そのままでも良いよ。。。あぁ、もし出来たらでいいけど、彼らの性格が分かるようなら見ておいて後で教えてくれるかい。」 「_承知しました、先のコボルトでわたくしも大分鍛えられましたからね。お任せください。」 「_そうか、ありがとう、それじゃ、行ってくるよ。」 



サムは新規コボルト達に見えるようにして、先住コボルトの散歩に出かける。ちょっと見ているだけでも、威嚇してくるもの、じっとしているもの、怯えて木の陰に姿を隠す者、ただただ弱っているように見えるもの、新規コボルトの性格は様々なようだ。これからは先住コボルトの世話はさることながら、それに加えて新規コボルトの世話、まずは栄養面と衛生面のケアが必要であろう、あとは先住コボルトと新規コボルトの優先順位付けにも気を付けなくてはいけないだろう。やることは多い、あとは勝手に増えないように、雄雌で分けて飼育することも必要かもしれない、去勢手術なんてできるわけがないし。。。多頭飼いは気を付けないといけないことが色々あるなぁ等と考えながらサムはクウヤの屋敷を速足で目指す。



森の中をいくつもの白い小さな雲がいくつも生まれては消える、そして十三頭と一人が森の中を北に進む。サムはいつものようにコボルト達に話しかけ名前を呼びながら歩く、そのおかげか、最近では彼らは自分の名前を把握しているように感じる。試しに 「_ソラノおいで。」 と言うと近くに寄ってくる。そしてサムは小さく切った干し肉をソラノの口に入れてやる。最初の頃は手渡しで餌を上げるのには恐怖があったが、いまでは慣れたもので、やろうとは思わないが舌も掴めたりするかもしれない。今回彼らの人慣れは非常に上手くいった、いや上手く行き過ぎたと思っている、それはおそらくは神通力を持つ者を餌として与えていたことが大きいように感じる。でもこれからはそれは出来ない、なぜならトカゲを不用意に捕まえてくれば、せっかく作った新拠点がトカゲたちにバレてしまうかもしれないからだ。じゃあ、こちらで捕まえて絞めてから持っていけばと思うが、それでは絞めたものに神通力の移譲されるそうで、そう簡単には行かない、希望は新規コボルトをサム達に慣れさせてトカゲの住まうところまで連れてきてその場で食べさせることだが、それができるようになるまでにどのくらいの期間が必要になるだろうか。



「_むしろここで、カゲトキ達を投入して単純に人手をふやそうか、しかし今度は人の方の食糧問題が発生するなぁ、コボルトだけでも手が一杯なのに、、、あぁ、でも信頼できる人手が増える方がうれしいか、、、」 「、、、」 「_やっぱり来てもらっちゃうかぁ、クウヤさんにも関所を通してもらえるように相談もしなきゃなぁ。あとはカゲトキ達に何を持ってきてもらうかか。やることと考えることが多いな。。。」 とブツブツと独り言をしゃべりながら、歩みを進めていく、すると木々の隙間からようやくクウヤのアジトが見えてくる。ダイフクはもう到着しているだろうかと思いながら、コボルト達に話しかける。 「_いいかい? みんな、これから沢山の人に会うだろうけど、だれも君たちの敵ではないからね。それに僕も居るから、安心していると良いよ。分かったかい?」 『ワンワン』 フブキが分かったというように返事をしてくれる、それ以外のコボルトは警戒しているのか、辺りをクンクンと匂いを嗅いでいる。すると 『ピピピ』 と聞こえてサムの肩に小鳥が、ダイフクが止まる。 「_お、フクか、久しぶり。」 「_何をそんなのんびりと! サム様! ご無事でしたか!! そこの屋敷には誰もおりませんし、ここに来る途中には瓦礫の山と不穏な神通力を持つ者がたむろしていたので大変に心配しておりましたぞっ!!!」 「_、、、ん? なんだいそれ?」 とようやく自信を取り巻く環境が動き出していることに気が付き始めるサムであった。


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