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第5話:転居と式

サムとヌバタマは薬草を詰めた籠を持って、緑の丘をくだり町に向かう、途中で子供たちが苔桃をたくさん収穫しているのを見かける。家に持って帰ってジャムにでもするのだろうか、それとも船に積むのだろうか。町に付くと少し寄り道をしてサムは金属食器を取り扱うお店で皿を見始める、そうしてスープでも入れるような深い皿を選び購入し、次は櫛やで櫛を買い、皿と櫛は籠の奥に隠すようにしてようやく宿に向かってゆっくりと歩き出す。ヌバタマは不思議そうに見てはいたが、何を問うこともしなかった。



宿に戻ると、得意げな顔をしたカゲトキが出迎えてくれる。 「_やあやあ遅かったじゃないか、サムにヌバタマ。」 「_どうしたんです? カゲトキ良いことでもありましたか?」 「_なんだそのふわっとした返しは、いいかよく聞け? お前に言われてさっそく物件を見に行ったんだが、、、にやり、さっそく決めてきてやったぞ、場所は集会所のほど近く、部屋は一軒家、家賃は格安、それに大家は美人なお姉ちゃんだ。」 「_おお、、、流石ですねカゲトキ仕事が早い、でも、、町の一軒家の相場は知りませんが格安って、、なんかいわくつきとかではないですよね?」 「_いわく? なんだそれは、そんなものは俺が吹き飛ばしてやる! そんなことよりサム、大家が美人なんだ、それも超が付くほどの、そんなお姉ちゃんが安く一軒家を貸してくれるというんだぜ、そんなうまい話に乗らない奴は男じゃない。サム!お前は男か? 男だな、男だろう、じゃあ荷物をまとめて早速行くぞ、おい、お前たち何をしている、ほらさっさと準備しろ、俺たちの借り家が待っているぞ。」 そんなハイテンションのカゲトキに比べて、少し疲れて見えるサクラにサムは 「_サクラ? 大丈夫ですか」 と聞くと 「_ええ、物件を見に行って帰って来てから、カゲトキさまがずっとこの調子で、、、一応部屋の荷物は揃えましたので、あとは行くだけではあります。」 とサクラ。 「_それは、大変だったね。。。まぁそれじゃあ、カゲトキもあんなだし、行って見てみようか。」 「_よし、いいぞ、サム!」



それから、町に来た時よりも増えた荷物をもって坂を下り向かう、場所は集会所のほど近く、50メートルくらいだろうかレンガ造りの壁に一つの煙突のついたの割としっかりした造りの建物だった、サムは先に料金については聞いていたので、そんな格安で借りれるものなのかなこの世界の相場はと驚きをもって見ていた。 「_よし、ついたぞ、ここが我らの借り家だお前たち、こんないい物件を見つけてきた俺を褒め称えていいぞ、カギは今開けるから荷物を入れておけ、俺は大家と話してくる。」 というとその隣の家へと駆けだしていくカゲトキ。 「_やれやれいそがしい奴だね。みんな、とりあえず荷物を入れてしまおう。」 「_サムさま、こんな良い物件、あんな格安で借りられるものなのでしょうか?」 「_うーん、どうなんだろうね。相場がわからないからなんともだけど、なんか怪しい感じはするよね。。。なんせカゲトキだからね。。。」



「_サム! 久しぶりね。」 「_へ? おおおう、あれ? キャミーさん?」 「_なんだか目を離している間に色々増やしたり何かをしてたようじゃない? それで今度は何? 村を出ることにでもしたの?」 「_いや、違いますよ。。。」 と言おうとすると、カゲトキと目が合う、カゲトキは何やら驚いたような顔をしていて会話に混ざってくる 「_ゴホン、サム、この女性とは知り合いなのか?」 「_ああ、カゲトキはキャミーさんに会ったことはまだなかったですかね。。」 「_おい、サムはこの女性、キャミーさんとどういう関係なんだ?」 「_関係? 関係は、、雇用主と労働者ですかね。」 「_サ、サムさまが雇用主なので?」 「_いや、逆だよ。キャミーさんが雇用主で、僕がその労働者だ。」 「_おい、お前が労働者? そんなそぶりはこれまで一切見たことなかったぞ?」 「_まぁ、無職みたいな生活はしてましたからね。でも多少なりとは役に立っているつもりはありますよ。どうでしょうかキャミーさん。」 



「_成果は認めているわ、ただ予想外のことが多くて少し困っているというところかしら。」 「_ははは、そうですね。なんかすごいことをしたつもりはないんですけど、結果大事に成っているような気はしますね。」 「_で、今回は何をするつもりなの? って全てカゲトキさんから聞いたけど。今度はコボルト退治なの?」 「_話が早くて助かります。そうなんですよ。ただの地域貢献です。大事にはなりませんよ。」 「_どうだか。」 「_それで、キャミーさんはなぜこんな所へ?」 「_サム、この女性がこの物件の大家なんだ。」 「_そうよ、大家よ。サムが何か変なことしないか監視できるように適度な物件を見つけておいたのよ。感謝して頂戴。」 「_ああ、それで家賃の安さに納得しました。ありがとうございます。キャミーさん。 まぁ、僕とタマとフクはすぐに出ちゃいますけど、、、キャミーさんがお隣なら、サクラをおいていくのも安心できます。 サクラ、良かったね。」 「_サムさま、サムさまはだいぶんキャミーさんを信用していらっしゃいますが、本当に雇用関係のみなので?」 「_ん? そうだよ。」 「_ちょっと、すぐ出るってどういうこと?」 「_おい、俺も会話に混ぜろ!」 と借り家の前でわやくちゃ始めるサム達であった。



○2月17日:土曜日:20時、サム達は荷物の搬入を終えて一休みしているころ、町の別の場所では、、、「_ミツヤ様、奴らの隣の物件を押えました。」 「_そうか、よくやった。してこれまで宿にしていた部屋からは何か見つかったか?」 「_ええ、見て周りましたし、奴らの連れの荷物も奪い見ましたが、とくにめぼしいものは無く。」 「_、、、これだけ探しても見当たらないとはな、だがアレは町で使うようなものでもない、引き続き監視を続けろ。」 「_はっ!」 「_あと、兄将村群に行く準備も怠るなよ。」 「_承知しました。」 「_しかし、ここまで手こずるとは、、、当初の資金もだいぶん目減りしてきたな、、、本山にかけあうか。。。おい、文の準備をーーー」 と彼らの会話は続く。



○2月18日:日曜日:5時半起床、マーライコー一切れと熱いお茶を持って副業部屋へ、昨日は結局、借り家には名前を付けなかった、そもそも長居するつもりもなくコボルト問題をどうにかできれば兄姫村に戻るつもりだったからだ。だがしかしキャミーさんが大家とは気の利く人である。そんな事を考えながらマーライコーを少しちぎって食べる。しっとりとそれでいてふわふわの触感に甘い香り、何の香りだろうか、はちみつ?砂糖? その正体までは分からないが、その分からないくらいのわずかな甘さがまた美味しい。飲み込み終わった後にまだのこるその甘い香りが心地いい。さてさて、借り家は見つかった、あとは大量の美容薬を作るための道具を揃える必要があるだろう、何が良いかはサクラに聞くとして、サムの出した依頼の方はどうなっているかと思いながらマーライコーの最後の一口をちぎって食べる。口の中の香りが消えたのちに熱いお茶を飲む、そうして一息つくと、サイドラインへと向かうべく、Log Inする。



Log Inすると借り家の中、誰もいない、不自然に感じながらも慌てずに会話ログを確認する。すると、カゲトキとサクラはキャミーの家へ、ヌバタマとダイフクは薬草採集に行ったようだった。何事もなくてよかったと思いながら、サムは一人の家を出て近くの集会所に足を運ぶ、集会所は早朝でも人が多い、人々の喧騒のなかサムは、一通り依頼版に目を通す。特に面白そうなものは無かった。そうして次は受付に並ぶ、受付は依頼を出す人、受ける人が並び、長い行列を作っていた。列の中には知った顔も幾人か見かける。サム達が町でお金を稼ぐようになって一番配慮したのは誰かの商売敵になってしまわないかだった。割のいい依頼を出す依頼主には大抵御用聞きがいて、ほぼ専門でその依頼をこなしている。だから、良い依頼があったからと言ってすぐに受けてはいけない、そういうのは後々騒動の種になってしまう。そのため、サム達は商売敵の居ない美容薬生成や、いくら人手があっても足りない荷運びの仕事をこなしていたのだった。それでも毎日集会所には通っていたので、どれがどの御用聞きの仕事は分かるようになっていた。サムが見かけた知った顔というのは割のいい依頼を出す人とその御用聞きだった。



サムはそんなことを考えながら行列を待つ、そしてようやく受付に着くと、受付嬢がにこっと微笑む、「_サム、おはよう。あなたの依頼、受けるという人が現れたわ、一応住所は貰ったけど、、、あなた分かる?」 「_おはようございます。現れましたか良かった、住所は、、、見てもわからないですねぇ。。。」 「_この町は迷路みたいだから、、でも大丈夫依頼を受けた人がまた顔を出すと言っていたから、この建物の中で待っていて。その人が来たら声をかけるわ。」 「_そうですか、助かります。ありがとう。」 というと集会所内に併設されている、お茶屋で時間をつぶすことにする。しばらくお茶を飲んでぼーっとしていると荷運び仲間が話しかけてくる。



「_おいおい、サムじゃないか、最近はどうした? なんかもっと儲かる仕事を見つけたのか? おいおいお前たちだけじゃずるいぜ? 俺っちにも一口噛ませろよ。」 「_そんな美味しい話はないですよ? あるならこっちが聞きたいくらいです。」 「_じゃあどうしたって、荷運びに現れないんだ? お前たちが森でうろうろしてその帰りにキラッキラの食器を買っていたって話を聞いたぜ、おい森で何を見つけたらそんなことが出来るんだ?」 「_、、、。」 「_おいおい、何を黙ってるんだ? 本当に森で何か拾ったのか?」 「_いやいや、人聞きの悪い自分のお金で買いましたよ、、、それにですね、僕は兄将村群に行こうと思っているんです。。。皿は言うなれば、村で上手くやるための品ってところです。」 「_兄将村群? なんだってあんな陰気な村に、、、あそこじゃ町の者には話しかけもしないらしいぜ?」 「_そうみたいですね。閉鎖的というのは聞いています。ですが、あまりにも情報がなさ過ぎて逆に気になりましてね。一度見に行こうと思ってみた次第です。」 「_おいおい、それは荷運びより儲かりそうなのか?」 「_いえ、ただの興味本位なので。。。儲からないんじゃないですかねぇ。」 「_おいおい、儲からないって、、、いやまてよ、確かに兄将村群のことを知ってるやつってのは聞いたことがねぇ、ならその情報は高く売れるのかもな。。おいおいお前上手いこと考えたもんだな、普通の奴なら『_馬鹿な奴だ』といわれて終っていたぜ? いいだろう、俺っちもその話に乗った! なぁサムよ俺っちたちは仲間じゃねぇか、一緒に儲けようぜ!」 「_えぇぇ、そっちはそっちで行ってくださいよ。」 「_いや、俺っちは付いて行くぞ。なぁ上手くやるからよ、任せとけって。」



「_サムー、サムー、いるー? ご要望の方が現れたわよー。」 「_おっと、それでは失礼しますね。」 渡りに船とばかりに受付へと走るサム、人手は必要かもしれないが、あんなむさいおっさんはいらない。受付には一人の老人と一匹の老いたコボルトとがいた。 「_サム、こちらはバーシルさんよ。バーシルさんこちらが依頼者のサムよ。」 老人はサムの姿を上から下までじっくりと眺める。そうして 「_お前さんの依頼には、コボルトを多く育てた経験のあるコボルトの雌とある。それはこの、老コボルトにも適用されるかの?」 「_ええ、かまいません。でもよろしいので? 大事にされているのでは?」 そのコボルトは老いてはいたが毛並みは良く見えた。 「_ああ、かまわん。こいつの世話をしていたばあさんは死んでしまっての、こいつを見ているとばあさんを思い出してしまっての、、、それに、、それに、ただ狩りも何もせずワシと一緒に過ごすよりは、何かの役に立つほうがよかろう。 まさかお前さん、こいつを食ったりはせぬよな?」 「_いや、食べませんし、狩りにも出しません、大事にします。僕はこの子にはコボルトの世話をお願いしたいのです。」 「_コボルトの世話か、こいつは若い時には多くのコボルトを生んで育てておった、適任かもしらんの。。。」 「_では契約成立でよろしいでしょうか?」 「_僕は問題ありません。」 「_ワシもじゃ、ワシもいつ逝くかわからんからの、大事に看取ってくれるならばそれでよい。」 



借り家に1人と一頭が戻る、家には皆がすでに帰って来ていた。サムが連れて帰ってきたコボルトに皆の視線は集まる。 「_やぁみんな、新しい家族を紹介しよう、フブキだ。」 「わふ。」 「_お、おお、おいおい、お前、それで何するつもりだ? っていうかだいぶ年取ってないか? お前金に困ってこんなの買わされたんじゃあるまいな?」 「_いえ、狙い通りの最高の一頭です。」 というと、ヌバタマとダイフクも怪訝そうにみている、サクラはおっかなびっくりと可愛さのはざまで揺れているようで、若干目が輝いて見える。 するとヌバタマがサムに近づき小声で話す。「_サム様、今家族と申しましたが、まさか式にするつもりでは?」 「_ああ、そのつもりだよ? だから雲龍さんに繋いでもらえるかい?」 「_しかし、この場にはカゲトキもおります。」 「_いいさ、彼のことだ、うすうす感ずいているだろうし、それにこれからも隠し続けるのは面倒だ。ここでやってしまおう。」 「_おーい、なにをひそひそしゃべっているんだ?」 「_ダイフク、サクラ、カゲトキ、彼女にはこれから僕の式になってもらう。」 「「_え!」」 「_は?」



サムは言うが早いか、老コボルトの目を見つめて静かにつぶやく、「_やぁ、フブキ、僕の式になってくれないかい?」


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