第4話:旅費稼ぎと作戦相談
カゲトキが取材費を盗まれて一週間、その際は皆から責めに責められたものの、サムはただ笑って今できることをしようと言うのみだった。だからそれからは各自自分のできる内容の仕事を集会所で見つけてこなしていた。カゲトキは飲食店のウェイター兼ダンサーを、サクラは薬生成を、ダイフクは郵便配達、サムとヌバタマは荷運びと薬草採集をと言った感じだ。カゲトキはその見た目とノリの良さ、そしてダンスの腕で飲食店の名物となり始めていたし、サクラの薬生成では主に美容に関するものを生成してもらって町の奥様方からぼちぼちの売り上げを出していたし、サムとヌバタマとダイフクはただただ地道に仕事をこなしていた。
○2月16日:金曜日:20時、サイドラインのウリョシ町の宿屋の一部屋にて夜の報告会が始まる。 「_やぁみんな、お疲れ様。各自の仕事が軌道に乗り始めたものもあるようだね。まずはカゲトキから、今はどんな感じだい?」 「_ああ、サムの持ってきたキャベジとヘパリの薬のカクテルで酒飲みの舌はつかんだって感じだな。あとは俺の巧みな話術とダンスで店の売り上げに大きく貢献している。。。が、もう薬がなくなっちまったからな、正直今後の売り上げはどうなるかわからんな。。。」 「_ふむ、もう薬がなくなっちゃいましたか、、、結構持ってきたつもりでしたが、困りましたね。この町付近は村と植生が大きく違っていて、それらの薬草は生えていないようなんですよね。だからあとはカゲトキの巧みな話術とダンスでどうにかしてください。」 「_サムさま、わたしのほうはサムさまに言われたように、主に髪と肌に良い薬を生成しております。第一陣は全て売り上げはしましたが少量でしたし、買った人が効果を確認して人気を博す、、という事はなさそうでした。」 「_薬の効果を実感するのはきっと時間のかかるだろうからね。まずは第一陣を売り切ったことを喜ぼう。サクラお疲れ様。」 「_はい。」 「_ご主人様、ダイフクめは郵便の配達を日々行っていますが、いかんせん収入が雀の涙、、、他の儲かる仕事を探したほうが良いかもしれません。」 「_そうか、薄利多売でなんとかなるかと思ったけど、そううまくは行かなかったか、別の仕事の件は考えよう、事によってはサクラの薬生成を手伝ってもらったほうが良いかもしれないね。」 「_そして、僕とタマは地道に荷運びをしているけど、まぁまぁの稼ぎというくらいかな。」
「_どうだい、カゲトキ、全員分の一週間の収入は? 盗まれた金額に近づいているかい?」 「_うーんこの感じだと取り戻すのに1カ月から2カ月はかかっちまうな。」 「_そうか、兄将村群の人たちにはどのくらいの到着予告をしていたんだい?」 「_それはざっくり一月以内と伝えただけだ。」 「_というと、、移動時間も考えると、あと1週間ほどですか。。。まぁ、盗まれた額を全て稼ぐ必要もないですし、必要最低限のものだけを準備することにしましょうか。じゃぁ、皆引き続き一週間、仕事の方をよろしく。あとはカゲトキ、サクラ例の件、どうなりました?」
「_ん、ああ、例の件か、飲食店で狩人達に兄将村群の話はそれとなく聞いてはみているがなぁ、ほとんど情報がないんだ。どうにも閉鎖的な村らしいってことは聞けたがそれくらいだった。」 「_サムさまわたしは薬を売りがてら行商人の人たちに聞いてみました。すると今は村への入り口が閉鎖されていて、その閉鎖している場所で売り買いはできるそうなんですが、村の様子はうかがい知れないとのことでした。」 「_おや、村に行く前に知れることは知っておきたかったんだけど、、、そっちもそういう感じなのか。」 「_さむ、そっちもというと?」 「_ええ、僕たちも漁師の方に聞いてみたものの、特に情報は得られずでした。まぁ漁師の方が村まで行くことは無かろうとは思ってその結果には納得していましたが、狩人も行商人もとなると、、、うーん、でももう少しの間だけ継続して聞いて回ってみてください。」 「_おう。」 「_はい。」
○2月17日:土曜日:4時起床:チョコレートボンボンとコーヒーを持って副業部屋へ、まずはチョコを一口口の中に入れて溶かしながら考える。兄将村群の情報はなかった、このままだと今持っているコボルトの情報のみで準備を整えるしかなくなるので、なにか不測の事態があった時に対応が難しそうだ。口のなかのチョコの外側が溶ける出すとその中から、半生状態のチョコがあふれてきて、あまい香りが鼻の奥まで広がる。しばし、その甘さと香りを堪能しそれだけに集中する。うん、村に行く人員を第一陣、第二陣にわけて、何かあれば、第二陣に必要なものを運んできてもらうのが良いかもしれない。それならまずは第一陣の分だけの準備で済むし、第二陣はもしもの保険としつつ、危険から遠ざけることもできる。サムはコーヒーを飲みながら班分けと喫緊の予定とを検討しメモに書き込む。ある程度イメージが纏まったところで、もう一つのチョコを食べて味を香りを堪能してからサイドラインへとLog Inする。
場所は宿屋、カゲトキは飲食店の仕事を終えて眠る前、他の式たちはこれから仕事という時間。今日の割り振りを発表する。 「_カゲトキはお疲れ様、昨日も言ったけど、カゲトキはしばらくは今の仕事を続けてくれ。」 「_そして残りのみんな、これからの予定を説明します。僕たちはこれからはサクラの作る美容薬の生成に集中します。僕とタマは薬草の採集を、フクはサクラを手伝ってやってほしい。」 「_サムさま、美容薬ですが、既に買った方も効果を確認するまでにはまだ時間が掛かります。第一陣のように物珍しさで買う方は、それほど多くないかと。。。」
「_いや、いいんだサクラ。そしてみんな聞いてくれ。兄将村群へはまずは僕とタマとフクだけで行く。」 「_おいおいサム、俺を置いていくと聞こえたが、何かの聞き間違いか? そもそも村に呼ばれたのは本を出版した俺なんだぜ?」 「_サムさま、わたしは足手まといでしょうか。。。」 「_2人とも、そういうわけではないです、現状足りないものを考えてほしい、それは、情報と資金と物だ。まず情報だけど、これが圧倒的に足りない、正直これがないと何を揃えて持って行くのが良いかがわからない。だからそれはまず第一陣として僕たちが行って調べてくる。村での拠点を定めたら、フクを町によこすのでそれまでに資金を貯めて、そして来るべき時が来たら必要な物を揃えて持ってきてほしい。この作戦の肝はカゲトキとサクラだ、資金調達力の高い二人を町に残していくのはそういう理由なんだ。」 「_サムさまわたし、頑張ります。」 「_サム、そういうことか、、、だが、やはり俺が行かないとダメじゃないか?」 「_大丈夫です。村の人はゴブリン生活新書の本は知っていても、出版した人は知りません。だから誰が行ってもきっとバレませんし、それに僕たちが居ない時に誰がサクラを守るというのです? さらに、資金調達の為には宿屋に泊っていては出費が大きい、至急どこかに部屋を借りる必要があります。そんな大変そうなことを頼めるのはカゲトキしかいないのです。」 「_う、ん、確かに、その辺は俺のほうが他の奴に比べて圧倒的に得意だろうな。。」 「_なのでよろしく、カゲトキ。」
「_さて、タマとフクだけど。タマは戦力の要として村に一緒に行ってもらう。フクは情報伝達の要だ、まずは村での拠点が決まるまでは一緒に行動してもらうが、その後は基本町に居てもらって、、、そうだね。週に一回村へ来るようにしてください。」 「_なんと、それではダイフクめも待機組と変わりないではありませんか。ダイフクめも戦えますぞ。」 「_いや、連絡役は最後の要でもあるからね。危険な場所にはやれない。それにサクラの美容薬生成も手伝ってあげてほしいからね。」 「_最後の。要。 そうでありますか、ご主人様はそれほどまでにダイフクめのことを、、、」 「_そうだ、よろしく頼むよ。」 「_はっ!」 「_じゃぁカゲトキは仕事と並行して住む場所を探してくれ、そして、タマは僕とこれから一緒に薬草を採集したあと、旅に必要な物を見繕おうか。」 「_おう!」 「_はいサム様、承知しました。」
「_あ、そうだ、サクラ。」 「_はい、サムさま。」 「_美容薬の販路だけど、町の女性だけでなく、行商人たちにも勧めてもらえないかい?もしかしたらまとめて買ってくれるかもしれないからね。ただ相手は商売上手だからね。まとめ買いである程度安くするのは良いけど、上手くやれるように最初はカゲトキに付き合って貰うように」 「_、、がんばります。」 と握りこぶしを作るさくら、そうして続けてサムは 「_カゲトキそういうことでよろしくお願いするけど、あまりこちらが儲けすぎるのもきっとよくないからね。上手いところで手を打つようにしてくださいよ?」 と言うと、理解しているのかいないのか 「_おうおう、まかせとけって。おれに任せておけば、、、」 という軽い返事が返ってくる。まぁきっと大丈夫だろう。きっと。
そうして町を出るサムとヌバタマ。町から一歩でても緩やかな丘は続いており、その地には高さ2メートル程とひざ下程の高さの灌木が茂っている。特に町の近くには苔桃が群生しており、灌木の森の中に入っていくと、甘酸っぱい良い香りが広がる。さわやかな木陰の中を歩いて進むと小さな滝が見えてくる、美容薬の薬草の一つは湿気の多い場所に生えるので、その冷たい水をさらさらと流す滝のそばへと分け入っていく。するとプラゾの蔦が見える。プラゾは蔦植物で薬に使えるのはその根っこ部分だ、なので、慎重に蔦をたどり、地面から生えている場所を見つけるとその根を掘り出す、サムは手慣れた様子でシャベルをつかって慎重に掘り出していく、その作業は例えるならば自然薯堀りといったていだろうか。サムがその作業を進める間、ヌバタマはもう一つの薬草を探して他を歩く、探すのは灌木の木陰、白く咲く花、フルニを探す、20分ほど歩いたろうか、目的の花を見つける。その花は花につながる茎の部分がが丸く膨らんでおりそこが薬の材料になる。ヌバタマはそこに咲いている分すべてをとるようなことはせずに5つほどを手に取ると籠の中にその膨らみをやさしく置いていく。そうしてさらに他のフルニを探して森をさまよう。そうして双方の作業が終ると、小高い丘をさらに登り周りに灌木のない、開けた場所にでる。そこには色とりどりの花が咲いておりそこで目的の花を探す、それは白の花弁に赤の花びらをした花でケイトという。使う部分は葉の部分なので、一つの花に付き葉を1枚から2枚とっていく、これは果てしない作業で、二人で黙々と続ける。30~40分ほどそうしていただろうか、ヌバタマが口を開く。
「_サム様、先程の班分けの件ですが、皆を上手く丸め込みましたね。」 「_あれ、ばれた? 上手くやったつもりなんだけどな。」 「_コボルト、わたくしも見ましたが、あれはゴブリンよりも獰猛そうですし、あれが群れで襲ってきた場合は皆危険でございましょう。」 「_そうだね。コボルトはその見た目にも関わらず俊敏で知恵もある、それが村付近ではきっと野生化しているんだろうから、恐ろしい獰猛さも持ち合わせているだろう。そんな場所にみんなは遣れない。できれば僕とタマと、いずれ増えるだろうもう一匹とで、上手くやってしまいたい。」 「_もう一匹? わたくしのほかにですか?」 「_ああ、いま集会所で募集を掛けているんだけどね。なかなか要綱をみたすものが現れなくてね。ある程度薬草の在庫を確保して、要綱を満たす者が現れれば、出発するつもりでいる。」 「_サム様、わたくしはコボルトごときに遅れは取りませんよ?」 「_ああ、それは信用しているし、頼らせてもらうつもりだ。でも今回は、、、いや今回もか、できればコボルトたちは狩りたくないんだ。」 「_では、今回も、積極的には狩らずに対処すると?」 「_甘い計算だけどね。今回もそのつもりだ。まぁきっと上手くいくさ。」 とカゲトキ同様軽い返事を返す。サムであった。
さてさてサムの考える、もう一手、ならぬもう一匹とは。。。




