第3話:町見物と作戦検討
狩人たちからかわいい犬、ならぬコボルトを見せてもらってから考え込んでしまったサム。宿屋に戻ってもまだ考え込んでいた。 「_おいウッドめ、ご主人様の様子がおかしいぞ、お主めら何をした。」 「_俺たちはただコボルトを見せただけだぜ、それ以外は何もしちゃない。本当だ。」 「_しかし、サム様のご様子がおかしいのは確か。」 とヌバタマが言えば、「_サムさま、一体どうされたので?」 とサクラが聞く、 「、、、狩れないんだ。あんなモッフモフでワンワン、キャンキャンしてる愛くるしい奴を、どうやったら狩れるというのか。。。いや、でも、やっぱり無理。うーん。。。。」 それに独り言を垂れ流すサム。すると
「○×△&%$#!!」と突然飛び起きたカゲトキが、口を押えて何かを探している。そして近くにバケツを見つけると、いろいろなものを吐き出す。「_うーん、とりあえず、ここは青少年のいる場所じゃないね。。。ウッドさん、ちょっとこの町を案内してもらえませんか?」 とようやくサムが考え事から帰ってくる。 「_あのくらいの酒で、、、だらしねぇやつだ、まぁ確かにここはサクラ嬢のいていい場所じゃねぇな。よし、不肖、俺が町を案内してやろう。」 「_ウッドさんよろしくお願いします。それじゃあ僕たちは出掛けてきますので、カゲトキはゆっくり休んでいてください。キャベジとヘパリの薬はここに置いておきますから、飲んでくださいね。」と宿屋を後にするサム達
「_ご主人様、先程は一体どうなされていたので?」 「_ああ、コボルト退治のことどうしようと思ってね。今回は思ったよりも厄介そうだよ。」 「_サム様、それほどまでにコボルトは強き者だったのでしょうか?」 「_そうだね。他の者はどうか知らないけど、僕はめっぽう弱いね。とても倒せそうにない。」 「_おいおい、どうしたあんちゃん、早くも怖気づいちまったのかい?」 「_、、、ちょっと今は対応策を思いつかないんですよね。。。だから少し別のことを考えようと思って、町でも散策させてもらおうかと。」
ウリョシ町は小高い丘の上に広がる町で、建物は自由に建てられており、その隙間を縫うように細い路地がこれまた自由に広がっている。その家々の隙間から海が見え、潮風を感じ、ここが港町なのだと思わせる。町には食堂や酒場が多く、いつの時間もどこからか美味しいにおいと音楽の音が聴こえてきてにぎやかだ、一行は、坂を下るようにして進んでいく。町には人が多く、口笛を吹きながら颯爽と坂を上ったり、駆け下りたりする人を見かけ、陽気な、開放的な空気を感じる。道々、海岸線を見渡せる丘の上の大きな広場や、その真ん中に立つ銅像、そこでしばらく休んだのち、さらに歩をすすめ海まででて、港を見せてもらう。小さな小舟が何艘も連なっており、あとは商船だろうか大きな船が係留されている。人は忙しそうにそれでいて楽しそうに荷物や魚を運んだりしている。海から吹く風は丘を登り、その高くに海鳥が旋回している、そして港から見るこれまで歩いてきた街並みは圧巻で、丘の急斜面を扇状に覆うようにみっちりと家々が並んでいる。
「_いや、絶景絶景。」 「_そうですねサムさま、海も綺麗ですが、街並みもここから見るととても綺麗ですね。」 「_なにか歴史を感じさせるよね。」 「_ご主人様、歴史で言ったら、ダイフクめ達の居た村も負けては居りませぬ。」 「_サム様、この町の路地はまるで蜘蛛の巣のようですね。」 「_まーた人が沢山いて騒がしいところじゃよ。」
「_きゃっ!、サ、サムさま、す、水筒から、カエルが!!」 「_ちょ、おいおい、蓋を抑えるな、娘よ。吾輩じゃよ。サムよ。」 「_ああ、ガマ仙人。お久しぶりです。あれ、サクラはガマ仙人に会うのは初めてだっけ?」 「_ガマ仙人?でもこの声は聴いたことがある気がします。そう、リクスと水筒で話しているときに稀に誰かが会話に加わることがあったのですが、、、それがまさか、、カエル?」 「_乙女の会話に加わるだなんて、そんなことしてたんですか?」 「_偶にじゃよ、偶に。」 「_サクラ、この方はね。ガマ仙人と言って、兄姫村の東の森の動く池の番人をしていて、偶に水筒からでてくる、そんなカエルさんなんだ。特に便利な点としては、契約した水筒と池を繋げて行き来できるから、水筒間での会話もできるんだ。」 「_じゃぁこのガマ仙人さまのおかげで、リクスと会話できるのですか?」 「_そうじゃよ。吾輩のおかげなのじゃよ。感謝するのじゃよ。」 「_おお、カエルがしゃべってるじゃないか、あんちゃん法師だったのかい?」 「_なんじゃよ、このむさいおっさんはよ。」 「_ガマ仙人失礼ですよ。彼はウッドさんと言って、今町を案内してもらっているところなんです。 ウッドさん、僕は法師ではありません。このガマ仙人とは縁があって、珍しい場所に来た際に案内する間柄なのです。」 「_ウッドか、案内よろしく頼むよ。」 「_あんた、面白いあんちゃんだとは思っていたが、、、面白いあんちゃんだったな。おう、ガマ仙人とやら、案内は任せとけ。」
「_ウッドさん、次はどこを案内してくれるので?」 「_そうだな、そこに一等大きな屋敷が見えるだろ? あれがこの町の町主様の屋敷だ。っていっても、俺には町主様と縁もゆかりもないからな。紹介はできん。ただ、立派なお屋敷だから見ておいて損はないってしろものだ。よっく見たか、見たら次は集会所に行こうかと思っている。」 「_集会所! いいですねぇ。」 「_ああ、あんちゃんの家でやっていた集会所も悪くはなかったが、本物は依頼量から何まですっげえぞ。」 「_それは楽しみですね。サムさま。」 「_ご主人様、もし絡まれましたら、ダイフクめにお任せを。」 「_いや、わたくしが、、」 「_はっは、この町の奴は気のいい奴がおおいからな、ただ来ただけで絡むような奴はいねぇよ。心配するなあんちゃん達。」
集会所は丘の上、町の入り口に近い場所にあった。建物はレンガ造りの2階建てで入り口は広く扉はなく、いつでも入ってこいと言わんばかりの立派な外観をしている。人の出入りは多く、狩人から町娘まで色々な人々が出入りしている。サム達も入ってみると、左手にずらっと依頼書だろうか、小さな黒板に文字が書かれたものがずらっと壁一面に掛けられていた。近づいてみてみると、イノシシの毛皮や肉それに薬草、香草などの採集や人探しなどの依頼のようだったが、それらを見ていると、わっと人の沸く声がする。そのほうを見てみると、巨大なイノシシが集会所の裏口から運び込まれてくるところだった。ハヤテ号の姿も見える。今朝出会った狩人達が大物を仕留めてきたようだ。それを見るや否や、受付の複数の女性がその獲物に合致する依頼版を集めていって、狩人達のもとへ運ぶ、そして狩人達はそこから受けるもの受けないものを選別しているようだった。 「_こいつはいけすかねぇから受けねぇ。」 なんて言葉も聞こえてくる。そしてその一連のざわめきが収まると、狩人達が集会所内に入ってくる。
「_大物を仕留めてきたようですね。」 サムがいうと、狩人は 「_おう、今朝のあんちゃんか、あんなのはまだ中くらいよ、だがまぁこれで半月は酒の心配をする必要もなくなった。おい、」 と、彼に付き従う少年を呼び止め 「_ハヤテ号たちを家に連れ帰って餌をあげてやってくれ、俺らは酒を飲んでくる。お前らはこれで適当に食っておけ。」 と少量の金とハヤテ号の綱を渡して、集会所を去っていく。その様子を見ていたサムは少年を呼び止める。 「_ちょっとそこの少年、君は、彼の息子さんか何かかい?」 「_息子じゃない、弟子だ。」 「_弟子?」 「_? ああ、俺は狩人になりたくてあのおやじ、チップの弟子をしているんだ。それで、おっさんは俺に何かようなのか?」 「_ええ、ただとは言いません。ちょっとそのハヤテ号、いやコボルトについて聞きたいのです。」 「_ただじゃないか、いいぜなんだ。」 と少年の目の色が変わる。
「_この辺りに野生のコボルトはいますか?」 「_野生? この辺じゃ見ないが、偶にへまをした狩人がコボルトを逃がしちまって、野良化した奴ならいるみたいだが、俺は見たことがないな。」 「_では、狩人達はどこからコボルトを捕まえてくるんでしょう?」 「_それは狩人が持つコボルト同士で子供を作らせて、その子供を一から育てるんだ。俺はこのハヤテ号の子が欲しくてね。今は狩の手法を覚えていて、子が生まれて育て方を習ったら独立するつもりなんだ。」 「_へぇ、コボルトは狩人から弟子になって譲ってもらうのが一般的な方法なのかい?」 「_金のない奴はそうだな、あとは金で買うという方法もあるし、強いコボルトが欲しければ、どこかの村で育てているコボルトを買いに行くという方法もあるらしいが、詳しくはしらねぇ。」 「_ほうほう、興味深い。この町でもコボルトを買うことはできる?」 「_それは何用だ?狩りに連れていく用か?食べる用か?何用かで値段は変わるぜ。」 「_うーん、食用は遠慮しときます。」 「_なら狩る用かそれだと、高いぜ。なんせ、人の言うことを聞くようにしないとダメだし、なにより狩りで役に立つように育てなきゃならないからな。」 「_そしてそれをやっているのが、狩人の皆さんというわけなのかい?」 「_ああ、そうだ、最初から言ってるだろ。なぁ、もういいか、ハヤテ号も俺ももう待てないからな。」 「_ああ、忙しいところをありがとう、参考になったよ。これはお礼だ。」 と少しのお金を渡すと少年は小さな笑みを浮かべて去っていった。
「_サム様、まさか、狩り用にコボルトを買いなさるので?」 「_ご主人様、狩りのお供には我らが居りまする。」 「_お主、やめておけよ、ただでさえお前の周りは鳥や猫がいて物騒なのに、さらにコボルトまで増やすんじゃないよ。」 「_うーん、まだ考え中だけど、皆の心配することにはならないと思うよ。」 とサムは言うと、受付の方へと歩いていき、受付嬢と会話を始める。
集会所の仕組みは、まず依頼受付から始まる。依頼者は依頼指示を受付に申請し、依頼料の半額と手数料を収める。すると、小さな黒板に依頼内容が書かれて、依頼版に並べてもらえる。あとは、依頼を受けてくれる人を待ち、その人と依頼の品が現れたら、残りの半額を払って終了という流れらしい。サムはその流れにのっとり、ある依頼を出す。依頼料の相場は分からないので、受付嬢に聞いて、相場より少し高めの料金を設定しておいた。あとは待ちだ。ヌバタマたちと少し会話してLog Outすることにする。今朝はサイドラインにだいぶ長居してしまった。リビングに戻ると会社に午後出社の連絡をしてから出社することにする。
○2月9日:金曜日:4時半起床、今日は月餅と熱いお茶をもって副業部屋へ、植物に水を上げて周っているとトリコディアデマが枯れてしまっていた。ショック。最近買ったのだが、水を上げすぎたのだろうか、少なすぎたのだろうか。手袋をはめて土から枯れた植物を出し、広げた新聞紙にくるむ。申し訳ないことをしたと思う。すこし落ち込みつつ兄将村群でのコボルト対策を練る。コボルトもゴブリン同様最初から狩るつもりはなかったが、まさかあんなにかわいいとは、あれでは鞭うつことすらできそうにない。代わりの計画を思いつきはしたがいったいどれだけの時間を要するのか見当もつかないし、兄将村群の方には嫌がられるだろうなぁと思う。まぁでもまだ他の策も思いつくかもしれないと思いつつ、月餅を食べる。月餅はその構成要素がほぼほぼ餡子だというのに甘すぎず、みっちり詰まっているというのに重すぎず、美味しい。一口食べてはほのかな甘さを堪能し、その余韻まで楽しむとお茶を飲んですっきりとさせて、もうひと口を楽しむ。そうして一心地ついたところでLog Inすることにする。
場所は、昨日と同じ宿屋、昨日と違うところはカゲトキが部屋にいるということ、そしてそのカゲトキが、部屋の中央で土下座をしているところだった。 「_すまない。酒を飲んで起きたら、金がなかった。。。装備は、、買えない。旅費ももうない。」
いやいや、楽しくなってきたね。




