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第1話:兄将村群からの依頼

○2月3日:土曜日:4時起床、この時期明け方は冷える。温かいココアと塩バタークッキーを持って副業部屋へ、副業部屋は年中気候が安定していて、過ごしやすい気温に保たれている。ココアとクッキーをテーブルに置くと、それまで着ていた半纏をテーブルそばの椅子に掛けて座る。カゲトキが書物を書く資格を有していると分かってからは、書籍”ゴブリン生活新書”、”避難訓練概要”の発行に尽力し、時間は瞬く間に過ぎていった。書籍を書いてから気づいたのは、カゲトキの商才であった。”ゴブリン生活新書”は各都市、町の狩人の集会所に売り込み、”避難訓練概要”は規模の小さい町や村にそれぞれ教本として売り込むように指示を出していた。そしてその狙いが当たったのかまずまず売り上げているらしい。サムとしても、これで多少は世界の発展に貢献できているのではと考えている。



そうそう、リクスからは兄姫村に雪が降りだす頃に、無事ザイヤクシの町に到着したと連絡があった。道中色々あって予定より遅れたとのことだが、リクス派の面々とその都度問題を解決し、今ではリクス派の面々ともども町で落ち着いた時間を過ごしているらしい。サムはガマの水筒をサクラに渡したので、今でも週一位で連絡を取り合っている。そして出版に貪欲なカゲトキがその話をきいて、”リクス道中記”を執筆し、リクス派の拡大に尽力しようとしているようだった。サムは本名は隠してあげたほうがと言っているが、それでは意味がないと係争中である。



そんな過去のことを思い出しながら、さて喫緊は何をしようかと考えながらサムはサイドラインへと Log In する。場所は無為の屋敷の母屋、サムは囲炉裏のそばでユベシの耳周りをカリカリと掻いていた、そしてそこが終ると首の後ろを次は顎下を、最後に背中を撫でると、抜けた毛が囲炉裏の火の上昇気流で上に舞い上がっていく。最近は様々なことが一段落して、ゆったりのんびりとした日常を送っていた。だからユベシを撫でまわして自分もリラックスしているのがもっぱらだった、ユベシがすぷーすぷーと寝息をたてだすと、その儀式は終了する。さて今日は、デークさんの庭を見に行くか、たまった香木をヤクシさんの所に持っていくか、いっそのこと初めて町まで行ってみるかと考えながら屋敷から外に出るサム。



外は一面の銀世界、雪のせいだろうか、夜明け前の時間だというのに明るくそして清涼に感じる。このあたりの気候は日本と比べると降雨は非常に少ない、ただ広大な森から発生する霧の頻度は高く、それがこの季節は雪やダイヤモンドダストが発生し、サラサラの雪を積もらせる。サムは萩ノに作ってもらった褞袍の前を合わせると小さく震えて、空を見上げる。今日も美しく広大な星空が広がっている。囲炉裏の前で熱を吸収した褞袍が、体がどんどん冷えていくのを感じる。寒さが体の中に入ってくる。サムはそれをまるで世界と一つになるように感じ、白い息を吐きながら、自分が完全に世界と一つになるのを星空を見ながら何も考えず待つのが好きだった。そして、体が熱が完全に外気と同じになったと感じると、呼吸を深く深くついてから、屋敷へとまた戻るのだった。



「_サムさん、熱いお茶を入れておきましたよ。」「_ああ、萩ノさん、ありがとうございます。」といって受け取るとそろりそろりと口を付けて飲み、熱が口を食道を通り、胃が温まるのを感じる。「_そういえば、萩ノさん。」 「_はい、何でございましょう。」 「_何だか最近落ち着いちゃってましたが、兄姫村の最も近くに住んでいる息子さん。何か問題が起きているとのことでしたよね? あれどうなりました?」 「_はい、今なお係争中らしく。。。」 「_ありゃ、言ってくれれば良かったのに、何か手助けは必要そうですか?」 「_それが、自分たちで解決してみせると言うばかりで、詳細はよくわかっていないのです。」 「_そうですか。心配ですねぇ。」 と何かやることがないかなぁと探していたところ。突然、屋敷の扉が開け放たれる。



「_サム!仕事だそ!!」 とカゲトキが現れる。カゲトキは今は無為の屋敷の離れに住み込んでいて主にそこで執筆活動に励んでいるのだが、偶に都市部からの依頼事項を持ってやってくるのだった。 「_お、ちょうどいいですね。今日は何です?」 「_よろこべ、サムよ。これも日々の俺の書籍売り込み活動促進のおかげだ。いいかよく聞け、今度はお前の好きそうな案件だ。記念すべき我らが初版、”ゴブリン生活新書”を読んでの要望が、出版部に届いたと連絡があったんだ。いいか、読むぞ。『拝啓、ゴブリン生活新書出版部さま、我々は、兄将村群に住まう村主連合のものです。この度は・・・・』」とカゲトキが全てを読み上げていくが、ようは兄将村群が今現在とある生物による被害に困っておりゴブリン生活新書を読んで、作者の方に調査してもらうことで、その生物からの被害を低減できないか。。という内容だった。「_『・・・何卒よろしくお願い申し上げます。』だそうだ。」 「_おお、地域貢献ですね。それにまた観察日記が駆けそうだしで丁度良いかもですね。してその生物とは?」 



「_ああ、コボルトだ。」 「_コボルト?、うーんイメージが湧かない。」 「_なんだサム、コボルトも知らねぇのか、コボルトってのはな、鋭い牙と爪を持った種族のことだ。俺は戦ったことがある、任せろ。よしいいな行くぞ。」 「_いやいや、ちょっと待って待って。もっといろいろ確認させてくださいよ、それによって準備するものも変わってくるんですから。」 「_ああ? そんなものはまずは行ってから考えればいいだろ? うちの出版部もやる気まんまんでな。金まで送ってきたんだぜ。現地調達でいいだろ?」 「_まぁまぁ落ち着きなさい。」 とやたらと急かすカゲトキにサムは落ち着けと言い聞かす。そのあと色々聞いて分かったのは、兄将村群とは位置としては兄姫村の隣に当たること、ただその間には深い渓谷があることから、直接の行き来はなく一旦北西のウリョシ町近くまで下って、そこから、南西に進む経路をとるらしい。そしてコボルトとはゴブリンより一回り小さいが鋭い牙と爪を持ち俊敏で獰猛な生き物だそうだ。



「_ちなみに萩ノさん、さっきの息子さんの件、この件と同じ問題だったりしますか?」 「_いえ、サムさん、村の名前が違いますし、それに息子が相手しているのはグールと言っておりました。カゲトキさんが持ってきたのとは別件でしょう。」 「_そうですか、同じなら手っ取り早かったんですが。。そう都合よくは行きませんよね。」 「_ええ、でも、我らのことを気遣っていただきありがとうございます。」



「_おう、そっちの話はもういいか? じゃあ行くぞ、何ならもう旅の準備はしてあるんだ。」 「_カゲトキはせわしないなぁ。。。まぁでもそろそろ町の様子を見てみたいとは思っていたから丁度いいのかな。あぁ、その前に村主様に許可を貰わないとなぁ。。。はぁ気が重いなぁ、、、カゲトキ許可貰ってきてよ。」 「_ああ、それならーー」



「_失礼する。サムよ。兄将村群に行くそうだな。」 「_え?カゲトキすでに話を?」 「_当たり前だろ、あとはお前が”うん”と言うだけだんだ。」 「_村主様、本当に行ってもよろしいので?」 「_よい、ただし条件付きでな。。。まず一つ目は、いいかサム、お主達が兄姫村から来たとは絶対に言ってはならん。」 「_、、、そりゃまたどうして?」 「_端的に言うと、兄姫村と兄将村群とはそれはそれは非常に仲が悪い、言わぬほうがお主達の為だ。本来ならば、お主に兄将村群が利するようなことはしてほしくはない。。。しかし、しかし、これは上手くいけば、兄将村群に知られずに奴らの内情を知り、さらに恩を売る絶好の機会。上手くいかなければ、奴らが損をするのみ。それにどうせお主は奴らの言うことを聞かずに奴らの和を乱す。何がどうなっても、拙僧たちからすればいい気味なのだ。」と握りこぶしに力が入る村主。「_ゴ、ゴホンッ!、そして二つ目は、森の巨大生物について、村に危機が及びそうなときに村に連絡する要因を残すという事だ。条件はこの二つで良い。」 「_は、はぁ、前者は承知しました。村主様の僕たちへの評価はさておき、ゴブリン生活新書もそれがどこの村かまでは書いてませんし、自分たちから言わない限りバレぬでしょう。後者は僕も考えていたことです。フクとサクラは連絡要員として残ってくれるだろうか?」 「_いえ、ダイフクめはいつもご主人のそばにおりまする。」 「_わ、わたしだって、サムさまのお傍に。」 「_かっかっか、ワシと萩ノが残ろう。」 「_ご隠居、しかし、ご隠居達では村に入れないでしょう?」 「_村に入らずとも、連絡する手段を決めておけば済むこと。容易じゃ。」 「_サム、蛍雪も、残る。」 



「_うーん、今回は危なそうだから、フクとサクラにも残ってほしいのだけど、、、」 「_ご主人様!!」 「_サムさま!!」 「_わかった、わかったよ、でも危ない所には連れて行かないからね。来てはいけないといった場合は守るようにね。」 「_よし、話は済んだな?じゃぁ行くぞ!サム。」 「_カゲトキもか、、わかった、わかったよ。行こう。準備はもうできているんだろ。」 「_よし、そう来なくっちゃ面白くねぇぜ。ていうか、兄将村群にはもう行くって連絡してたからな。」 「_んなっ!? また君は、、、次からは最初から相談してくださいよ?」 「_いやいや、こういうことは早いに越したことは無いんだ、商機を逃すなサム。」 「_カゲトキはもう、、、、じゃあ、準備して行こうか、タマ、フク、サクラ。外は寒いからね。あったかい恰好をしていくんだよ。」 「_待て待て、この時期でも町は温かい、薄着も準備しておけよ」とカゲトキが言えば、「_え、そうなの?」と屋敷の中をどたどたと歩き回って準備を始めて、その日のうちに出発するサム達一行。



そして、サム達が出かけた後の、村主の屋敷では、、、 「_マレヒトガミ達は行ったか。」 「_はい。本来は村から出したくは無かったのですが、、、」 「_かの者からの指示ではしょうがあるまい。わしらにはどうすることもできん。それに、マレヒトガミ達ならば、あ奴を引っ張り出せるかもしらんからの。。。」 「_はい、心得ております。」 「_しかし、騒がしい者共が行って、これで静かな冬を過ごせそうじゃの。」 「_ええ、本当に。あの者たちが来てからという物何かと忙しい日々が続いておりましたので、これで息が抜けますね。」



さらに、兄姫村某所、「_ミツヤ様、奴らが出発するようです。」 「_ご苦労、それでは奴らが出た2日後に出ることにしよう。そしてウリョシ町で商隊と合流し、兄将村群へと向かう。」 「「_は!」」 「_兄姫村に残るお前たちは、あ奴らの屋敷周辺をばれないように探るように。。それとこの時期でも取れる薬草、香木の類の場所は、お前たちに調べさせた通りだ、それを持って森に入れば怪しまれずに済むだろう。ついでに薬師のばあ様と仲良くなっておけ。」 「「_は!」」



「_よし、準備はいいな? ちなみに、兄将村群までの案内人として、サクラ派の狩人を一人連れてきた。名前はウッドだ。」「_これはこれは、、酒場でお顔は拝見してましたが、きちんと話すのは初めてですね。よろしくお願いします。」「_おう、よろしくだ。兄将村群までは大体2週間の日程だ、まずはウリョシ町まで行くつもりだ。」「_おお、初めての町ですね。楽しみです。」 「_ウッドさま、よろしくお願いします。」 「_”ウッド様”、、、、はい、サクラ嬢、むさい男で申し訳ありませんが、しばしご一緒させていただきます。」 「_ちなみにウッドはサクラも一緒にくると言ったら、喜んで参加してくれた。ウッドはサクラ親衛隊の長、道中でもサクラにつく悪い虫は蹴散らしてくれるだろう。」 「_それはそれは、、、頼りにしてますね。」 そうして、サクラに名前を呼んでもらって、感動に打ち震えるウッドと初めての旅にウキウキを隠せないサム達であった。



と、様々な思惑が交錯するなか、まだ見ぬ町や村での出会いを期待して冬の晴れ間を一行は進む。


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