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第4話:夏の終わりとサムの仕事

サイドラインの高山地帯の短い夏は終わりを告げようとしていた。夏の終われば村の穀物の収穫の始まり、そして狩人達が、そしてリクスもまた帰るとき。無為の家ではその隙をついて、家の建て直しの真っ最中だった。その建て直しには村の大工と狩人達が中心となり、その人手もあって、元はただの小屋であったものが、屋敷といえる大きさになり始めていた。 「_皆さま、お疲れ様です。お茶ここに置いておきますので、水分補給はこまめになさってくださいね。」 とサクラが言えば、大工も狩人もにっこにこで 「「_ありがとうございます。サクラ嬢!!」」と帰ってくる。どうやら狩人の間だけではなく、村人の中にもサクラ派が生まれつつあるようだ。サムは日々家が出来ていくのが楽しくて嬉しくて、出来上がっていく様を木版に書き写していく。いずれ、元の世界でもマイホームをと思うが、、、まぁまだ先の話だろう。



一方、村のとある家、 「「_ミツヤ様、あ奴の木版に何が情報はありませんでしたでしょうか?」」 「_何度か読んだが固有名詞は出てこなかった。まぁそこはあいつが、あれの名前自体知らぬのだろうな。だが何度かのゴブリンとの戦いの記載の中で、風合戦という単語が出てくる、おそらくはそこで使ったのだろう。」 「「_ではやはりあ奴が、我らが望むものを?」」 「_ああ、そうだろうな。」 「_ミツヤ様、急ぎ御屋形様にはご報告いたしますか?」 「_いや、まだ手に入れたわけじゃねぇ、やめておこう。」 「「_はい。」」 「_さて、じゃあ俺はこれで失礼するぜ。。。そうだ、この木版だがな、ばれないように全て燃やしておけ。」 「「_はい、承知しました。」」



10月21日:土曜日:4時起床、サムはバナナと牛乳をもって副業部屋へ、残暑も終わり、ようやく過ごしやすい気候になってきた。観葉植物の中には秋が成長期のものもある、そういうものには栄養剤入りの水を与える。そして多肉植物の枯れてしまった葉をピンセットでとって回る。お、わき目から子株が生えてきている。植物も子供も家も育っていくさまが楽しい、ノドカはまだ意味のある言葉を発することはしないが、テレビをみて演者が動くのに合わせて踊ったりするようになってきた。そして日々真似できる箇所が増えていき、見ていてほっこりする。そんなことを考えながら、園芸用の手袋を外し、バナナを食べる。三口ほどで食べてしまうとコーヒーをすすりながら、テーブルに座る。テーブルには兄姫村での秋祭りの計画表があり、サムはそこで避難訓練担当になっていた。主目的では避難の訓練であるが、祭りの一部として楽しめる要素も取り入れるようにしていた。まだ実行までには時間があるため、さらにアイデアをプラスしていく、一息ついたところでサイドラインへと Log In する。場所は無為の家の離れ、、、母屋は今なお建造中であるが、それまで住むところがないと困るので、先にこれまでの無為の家と同サイズの離れを先に作ってもらっていた。そこには久しぶりにヨモギが来ていた。



「_やぁ、ヨモギ、久しぶりだね。」 「_ええ、神様。」 「_ヨモギはまたそうやって、、、まぁいいや、集落の移動は無事に済んだかい?」 「_ええ、一時的にとは言え大変な手間でありました。」 と恨めしそうにこちらを見てくるヨモギ。 「_ですが、そうとうな神通力持ちが近づいていたことは確か、しょうがないことでありましょう。」 「_今日はその報告を?」 「_いえ、神様がなぜ雨男、雷男と呼ばれるかがわかったので、お伝えに来ました。」 「_お、分かったのかい? それで何でだった。」 「_まず、雨男の件から、我々が集落を移った際に、神様が身を隠していた拠点を見つけました。」 「_ああ、ブラボーグループの観察用の拠点は幾つか作っていたね。」 「_はい、その木なのですが、どれもわれらがレインツリーと呼ぶものでした。ちなみにレインツリーと呼ぶのは、、、」 「_レインツリー、、、雨の木、雨の匂いのする木か!」 「_はい、そうです。ですから我らが神様と会う場合には神様に雨の匂いがついていたのであります。」 「_それで、雨男か。そうか、あの木、身を隠すのに丁度よくて、森の中の仮の拠点は全て、雨の木だった気がするよ。それでか。。でも雷は関係なくない?」 「_神様は、我らゴブリンを追うときに、どのようにしてましたか?」 「_うん? 、、まずはフクに警告音を鳴らしてもらって、次にタマが石を足元に投げて、最後に私が鞭で警告を、、」 「_はい、それです。」 「_?」 「_その際に発生する音を声に出してください。」 「_? 警告音が ”ゴロゴロ” で 石が ”ズドン” で 鞭が ”ピシャリ” 、、、ああそういうこと、全て雷の音か、、」 「_はい、その通りでございます。丁度、神通力の強い者が森をかける際に聞こえてきた音が、我らが神様の音だと申す者がありまして。気が付いた次第です。」 「_なるほどね。いや興味深い、教えてくれてありがとう、ヨモギ。」 「_いえ、私も面白かったもので、、、この間の騒ぎもあり、我らが神が、嵐の神と呼ばれるようになる日も近いかと。」 「_なんだか迷惑そうな神だね。何とかならんものかい?」 「_ゴブリンたちがそれぞれで信奉しておりますので、我にはどうしようもございません。雷様」 「_また君は、、なんか僕の呼び名で遊んでない?」 「_いえいえ滅相もございません。ですが、報告は以上です。」 「_そうか、ありがとう。また来てくれ。」 「_はいそれでは。」


  【サムとヌバタマとダイフクは3体で《いかづち》の権能を得た。】


「_・・・・、ヨモギめ。。。」



サムは、外にでる。そこにはリクスがやって来ていた。 「_おはようサム。もうすぐ屋敷が経ちそうね。」 「_ええ、おかげさまで。チョウザイさんやホウセンさんまで手伝っていただいて感謝しております。」 「_まぁ、元はと言えば私のうちの式が壊しちゃった家だし、それに、チョウザイたちがなぜだか狩人達と意気投合しちゃってね。なぜだか狩人の数名は町まで一緒に護衛してくれるって。」 「_ああ。」 リクス派の結束は固いらしい、、 「_それでね。サムの屋敷が出来たら、いよいよ町に帰ろうかと思っているの。」 「_そうですか、寂しくなりますね。」 「_サムには感謝しているわ。ラクサを看取って葬儀までしてくれて、そして、サクラを式にしてくれて。」 「_いえいえ全てが偶々のめぐりあわせです。」 「_そう? それでもありがとう。少し、サクラと話しても良い?」 「_ええ、かまいませんよ。サクラ、行っておいで。」



サムは離れの縁側に座り、もうすぐ完成する屋敷を眺める。するとまた一人の客が現れる。サムは横目で見ると、「_君はこれからどうするんだい、カゲトキ?」 と話しかける。 「_ああ、一緒にリクスを町まで護衛しないかとは声をかけられている。。。ただ、、、」 「_ただ?」 「_まずは最初に謝らせてくれ、すまない。」 サムは無言で見つめてカゲトキの次の言葉を待つ。 「_実はあんたに近づいた理由だが、、、面白いネタが欲しかっただけなんだ。」 「_?、面白いネタ?」 「_ああ、あんたにはばれちまったが、俺はある目的を持って都市部から来ている。」 「_はぁ、でもやっぱり都市部の出身でしたか。で、目的とは。」 「_俺は売れない物書きなんだ、それで、町で、一人で森のゴブリンをどうにかしちまったって奴の話を聞いて、面白そうだと思って探りに来たんだ。」 「_ほう!」 と背筋が伸びるサム。 「_と言うことは? 書物を書く資格を持っている?」 「_ああ、持ってる。まだ一冊も書いたことはないがね。。。それで、、あんたの家の跡でこれを見つけたんだ。」 と一枚の木版を懐から取り出す。 「_ここにはこう書いてある、毒でもってゴブリンの王を倒したと。。それで後日他の木版も探し来たんだが、その時には一枚も見つけられなかった。。なぁ、こんな面白そうな話はない、詳細を教えてくれないか? それでそれを書物にさせてほしい、お願いだ。」 「_はっはっは、かまわないよ、いや、僕はずっと君を探していたんだ。いや果報は寝て待てとは言うものだね。棚から牡丹餅、人間万事塞翁が馬、家も壊されてみてみるもんだね。」 「_なんだ?、良いってことか? なんか急に気持ち悪いな。。」 「_いいから、いいから、で、カゲトキはリクスと町に行くのかい?それなら木版に記しなおしたものを君に渡すし、行かないならゆっくり話すことにするよ。」 「_もしあんたに断られたら、リクスを町に連れ帰る話を書いてもいいかと思っていたがね。話を聞かせてくれるってんなら別だ、それにあんたのそばにいたほうが退屈しなさそうだ。」 「_よし、それじゃあ、聞く準備、書く準備が整ったらいつでも教えてください。それと僕のことはサムと呼んでくれ、再びこれからよろしく。カゲトキ。」 「_ああ、よろしく頼むよ。サム。」



それからも作業は急ピッチで進み、数日が経つころにはサムの屋敷が完成する。そこでは完成式並びにリクスの送別会が行われていた。その日は大工も狩人も村人も、屋敷の完成を祝い、リクスとの別れを偲び、酒を飲んでいた。リクスとサクラは日差しの差し込む縁側で楽しそうに会話をしている。いつのまにか姿を現したユベシがちゃっかりリクスの膝の上で丸くなっている。無為の家が全壊してしまっていた期間はユベシはずっとサムの現実世界の家で過ごしていた。ちゃっかりしているのである。屋敷の中ではリクス派とサクラ派のお別れ会も行われていた。サクラ派は兄姫村への定住を決めたらしい、彼らはリクス派との別れを惜しんでいたが、口々にリクス嬢とサクラ嬢の幸せを祈ると言っている。これから、彼女たちに近づこうとする男たちは苦労しそうである。サムもこの日は珍しく酒を飲んでいた。そして、むらかみと村主に向かって、ご迷惑をおかけしたと詫びている。 「_まぁ、よい。うちの屋敷も直ったでの。」 とむらかみから言葉をもらい一安心する。時間はゆっくりと、しかし確実に流れていく。色々な人がリクスに挨拶をしていく。その中でひとり顔を赤くしている少年がいる、ヨナンだ、彼は酒を飲んだわけではない。サムはヨナンに近づくと 「_ヨナン君はリクス様に別れの挨拶をしなくても良いのかい?」 とやさしく話しかけるが、ヨナンは難しい顔をして屋敷から走って行ってしまう。「_ああ、ここは様子見が正解だったか、、」と独り言ちていると、 「_いや、あれで良い、ヨナンがリクス嬢を好いているのは分かっていた。。。だが、村主の四男ごときが町主の娘と結ばれることはない。あれであいつも一つ大人になることだろう。」 「_村主様。。お気づきでしたか。。」 「_息子の事だからな、見ていれば分かる。。。」 「_まぁ切ないものですよね。」



そんな、リクスの送別会が終り、サムの酒場兼薬問屋も店じまいし、数日、村の穀物の収穫が終わりを迎えるころ、村祭りが行われる。例年も数日をかけて村中でお祝いをするのだが、今年はそこに避難訓練の儀なるものが入っており、村人は皆楽しみにしていた。その儀式の始まりは村の南東から太鼓の音から始まる。「ドン!ドドン!! ドン!ドドン!!」 するとそこから木の蔦で作った張りぼての巨大な牛が姿を現し始める。牛の脚が地面を叩くたびに太鼓の 「ドン!ズドン!!」 の音が響く、そして牛はゆっくりと村の内垣に近づいてくる。村人は固唾をのんで見つめている。すると今度は町の中心から金属音が鳴り響く 「カン!カン!カン!カン!!、 カン!カン!カン!カン!! 」 そして「_怪物が出たぞー!怪物が出たぞー!! 皆班を組め!決められた班を組め!!」という声が響くと、村人たちが一斉に動き始める。一班10~20人ほどで、皆班名が書かれた半纏を羽織っている。そしてその班が村の誘導員に従って、村の北門と西門へと向かう。その間牛はどんどんと村の中心に入っていき、太鼓の音もさらに大きくなる。村人たちは恐る恐る。子供たちは悲鳴を上げながらも、笑いながら人によっては泣きながら、それぞれの門へ向かって行く。 「ドン!ドン!ドン!! カン!カン!カン!! ドン! カン!カン!!」 と調子のよい音の中、村の北西部へと村人が集まり、班毎に点呼をとったところで、儀式は終了する。そして全員で逃げるのが早かった班から表彰されていく、賞品はないが、早かった班は一番福と言われ、村主より祝詞が唱えられ、一年の無病息災を祈ってもらえる。一番福の班はみな誇らしげな顔をしている。サムは一部始終を見ていて、避難訓練の検証を始める。修正点は沢山ある。徐々に直していこう、危険はいつ来るかわからないのだから。ちなみにこの儀式で使われている牡牛の張りぼては村人からオウシ様と呼ばれて、以後代々ご神体として奉られるようになる。するとどこかの町の式の神通力が年々高まっていったとかいないとか。。。



そうして、夏も終わり、季節は冬へと向かって行く。サムはカゲトキのゴーストライターとなり、生計を立てていくことになる。さてさて、次はどんな問題に巻き込まれていくことになるのであろうか、それは未だ分からない。



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