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第13話:大決戦(前編)

立て続けに勝利を収めたサム達だったが

周囲は、サム達に対する歓声と、ゴブリンたちの悲鳴やうめき声が広がっている。サムは周囲を見回すと、その被害に呆然とする、後方の倒れた木の下敷きになりうめくもの、そして前方のサムの風で吹き飛ばされたもの、風刃で体の一部を切られたもの。サムは頭と右手の防具を外すと、木を退かしに行く、これにはヌバタマも手伝ってくれて、難なくどかして下敷きになった者たちを助け出す。そして、けがをしたものに、ガマが浸かる水筒の水をかけて周る。すると周囲からはまた歓声とざわめきが生まれる。



「_部族長、この集落の者たちも雨男と呼んでいますが、、、何したんですか?」 「_なんでそう呼ばれているかはよく分からないね。」 「_しかし、風の練度の高い者同士の合戦は被害が大きいですね。次からはもう少しうまく戦ってほしいものです。他部族であっても同種の無駄死には気持ちの良いものではありません。」 「_同感だ、風刃は危険だね。次はもっとうまく戦うよ。」



と、話していると、ゴブリンメイジが倒れたあたりから、首飾りと杖が浮かんで飛んでくる。そしてそれぞれがヌバタマの決闘衣装とゴブリンの怪腕に吸い込まれていく。すると一段と大きな歓声が周囲から上がる。このデルタグループの集落での戦いは終わったのだった。正直に言うと、サムはもっと簡単に勝てるものと考えていたが、ライダー戦、メイジ戦どちらもギリギリで勝てたという感じだった。ことによるとこちら側の誰かが死ぬ可能性すらあった。。。そしてサムは思う。この世界でのサムの死は現実世界でどのような影響を与えるのかと、そう思うと戦うということが非常に怖く感じる。今は色々なことがあって流れで戦ってしまっているが、本来のサムであれば戦いを避けることを第一に考えるはずなのだ、それがどうして、、、と考えだすサムだったが答えは出ない、だが答えを出さなくてはならない。そう思って周囲を見回す。ゴブリンたちが割れんばかりの拍手と歓声を上げているものの、そのなかにはもう動かなくなった者たちもいるのだ。サムは答えを出すことを心に誓う。



「_ヨモギよ、ゴブリンたちの葬儀はどのように行われるのだろう。」 「_我らは、基本葬儀は行いません、集落から離れたところに穴を掘って埋めるだけです。」 「_そうか、その穴の場所を聞いてもらっても良いかい?」 「_ええ、、、、、、、、、、、、ここからEastに行ったところにあるそうです。」 「_タマ、ゴブリンたちの遺体を運ぶ、手伝ってくれ。」 「_部族長自らが行わなくとも、ここの者たちがいたしましょう。」 「_いや、僕がやりたいんだ。ここが終ったらアルファグループにも向かう。 「_そうですか、物好きな、、、ちなみに部族長候補の死体は集落そばの静かな場所にそのまま安置することになっています。」 「_何か謂れはあるのかい?」 「_どちらも森に還るという意味では同じです。ただ部族長候補は神通力を多く持っておりますので、森の生物たちの餌とし、そして我らがその生物を餌とすることで、神通力を循環させるのです。」 「_そうか、、、情報ありがとう。」



タマはすでに大蜘蛛化して、ゴブリンの遺体を抱え上げその背中に乗せている。そしてそこにサムも加わり森の外の穴へと運ぶ、往復するたびに他のゴブリン達もそれに加わる。そして何往復しただろう、全てのものを穴に入れると、土や木の葉で蓋をする。そうしてしゃがみ込むと目を閉じ手を合わせて祈る。周囲のゴブリンたちは不思議そうに見ていたが、何匹かはサムの真似をして手を合わせている。次はゴブリンメイジだ、安置する場所をヨモギに聞いてもらうと、サム自らゴブリンメイジを抱えて運ぶ。それにはすべてのゴブリンたちがついてくる、安置してまた手を合わせると、先ほどより真似をするものが増えていた。



「_さて次は、アルファグループの集落へ戻ろう。」 「_部族長、これにいったい何の意味があるので?」 「_、、、ただの自己満足だね。もしくは罪ほろぼしかな、まぁこんなことくらいでって感じだけどね。」 「_不思議なことをなさいますね。」 「_ああ、皆には付き合ってもらって悪いが、、付き合ってくれ。」



そして、アルファグループの部族長候補の遺体安置を行うと、無為の家へと向かう。帰ると血まみれのサムとヌバタマを見て、悲鳴を上げる萩ノだったがゴブリンたちの血であるというと安心した様子を見せ、心なしか誇らしげな顔をする。ガマの薬の効果が切れたのかどっと疲れを感じるサムは、自身の防具の修正点を萩ノに依頼すると、Log Outすることにする。そして副業部屋に戻ると冷めたコーヒーを流し込んで一息つく、そして自分の手を見ると小刻みに震えている。ゴブリンを大量に殺めたショックだろうか、ただの血糖値切れだろうか、、しばらくその手の震えを見つめた後、空いた食器をもってリビングへと戻る。戻ると、ノドカの楽しそうな「キャハハー」といった声が聞こえる。どうやら遊びに来たユベシを撫でまわしまくっている。たまに手でグーっと押したりして、反撃を食らわないか心配になるが、ユベシは耐えてくれているようだった。



「サム、おかえり。」 「ああ、ただいま、シホ、ノドカ、それにユベシ。」 「大丈夫、ひどく疲れたように見えるけど。。。」 「うん、今日はちょっと疲れたよ。」 「やっぱりもう少し仕事量を調整したほうが良いんじゃない?」 「そうだね。多分明日で一段落つくから、そうしたら、もう少しゆっくりすることにするよ。」 「本当?」 「本当本当。約束するよ。それにしても、、、猫ってこんなにおとなしいものかい?」 「うーん、たまに『シャーッ』とは言って教育的指導は入るけど、不思議と手は出さないみたい。でもノドカと遊んでくれて助かるわ」 「ちょっとかわいそうに見えるけど、、、ユベシ、お前も大変だったんだな。」




7月1日:土曜日:20時、サイドラインへ、防具の修正後を確認し、タマとフクに明日に備えて早めに休むように言うと、縁側に出てしばし静かに星を見て過ごしていると雲龍が話しかけてくる。「_大戦だったようじゃの?」 「_ええ、タマはよく頑張ってくれました。僕は、、、もう少し上手く戦えなかったのかと悔やむばかりです。」 「_しかし、勝利は収めたのじゃろ?」 「_本当は対戦者すら殺したくはなかったのですがね。多くのゴブリンを殺してしまいました。」 「_戦いとはそういうものじゃよ、戦うのを選んだからにはそれも、そしてこちら側の誰かが死ぬことも覚悟せねばならん。」 「_はい、浅はかでした。」 「_サムは甘いの。まぁでもそれがサムの良いところかもしれんの。」 「_。。。。。そうでしょうか?」 「_そういうもんじゃ、さ、明日は早いんじゃろ、早く寝ろ寝ろ。」




7月2日:日曜日:4時、サイドラインへ、場所はゴブリンの集落の中でも最大規模を誇るチャーリーグループの集落のほど近く、ヌバタマ、ダイフク、ヨモギ、皆そろっている。



「_みんな、これから最後の決戦だ、準備は良いかい?」 「「_はい。」」 「_ではヨモギ、連絡の方を頼む」 と言うと。 「_?いえ、連絡の方はすでに済んでいますよ?あとは我らが行くのみです。」 「_サム様は興奮しておられるのだ、ヨモギよ」 「_ああ、そうだったね。失念していたよ。それじゃぁ行こうか」



そうだった、サムはヨモギにはまだ、自身がこの世界から見たら異邦人で、体自体はずっとこの世界にあるものの意識の方はそうではない。ということを隠していたし隠すつもりでいた。とっさの判断でフォローしてくれたヌバタマに目線を送り感謝するサム。



「_さて、ヨモギ、この集落の王とやらはゴブリンライダーなのかい?それともゴブリンメイジなのかい?」 「_両方です。ですから正確には”王たち”になります。」 「「「_王たち?」」」 「_はい、王はゴブリンライダー、女王はゴブリンメイジになります。」 「_女王?」 「_はい、王はそれはそれは長く王をしていますが、ゴブリンメイジ戦には興味が無いようで、ついぞ、統一されることは現在までない状態が続いています。」 「_これ、ヨモギめよ、そういうことはもっと早く言わぬか。」 「_いえ、聞かれませんでしたので。」 「_ああ、確かに聞かなかったねぇ。。。」 「_サム様、集落に入ります。」「_ああ、わかった。」



チャーリーグループの集落は、やはり巨大で、アンコールワットや南米のピラミッドを合わせたような造りになっている。よく見てみると周囲に数基あるピラミッドにはゴブリンの像が彫ってあるように見え、、と思ったら、ピラミッドにびしりとゴブリンたちが座っていた、観覧席なのだろうか。相当な数がいることが予想される。そしてその衆人環視の中を進んでいくサム達、中央の一際大きなピラミッドを安楽椅子代わりにして、巨大な、2メートルは超えていると推測されるゴブリンが座っていた。体重は数百キロというところだろう。あれが王に違いない。その傍らにはこれまた巨大なイノシシが鼻息荒くたっていた、その牙も巨大であれで刺されたら一たまりもないだろう。そして王はサム達を一瞥すると興味なさそうに鼻をフンっとならす。



「_これは、ちょっと戦い方を考えないといけないね。まさかこれほどの巨体とは。。。」 「_ええ、サム様。これはいったいどう戦ったものか。。。」 「_部族長。」 「_なんだいヨモギ?」 「_王が女王戦から先にするようにと。。まぁ、王と戦う資格を見せよというところでしょうな」 「_そうか。まぁ、そうだろうね。。。」



サム達が王の大きさに驚きを隠せないでいると、その王の傍らから、一体のすらりとした身長170センチくらいのゴブリンが姿を現す。そしてその手にはゴブリンの怪腕が握られている。こちらも侮れない相手のようだ。サムは右手の防具を外し、メイジ戦用の防具に付け替える。これは防刃性特化のインナーにさらに分厚い防刃性特化のアウトグルーブに着物のようなゆったりとしたそれでいてしっかりと固い袖を持たせていた。そしてその右腕を前に出すように構える。



女王はサムの立ち姿を見ると、笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。。。一向に止まる気配がない。それには堪らずサムも 「_ヨモギ、始めてもよいのかい!?」 と戸惑いをもって質問するがヨモギは 「_もうすでに始まっています。」 とだけ答える。その会話の間もゆっくりと女王は近づいてくる。 「_く!」 っと牽制の意味もかねて、女王の足元に風刃を飛ばす。すると女王は優雅に緩やかに足元を右腕の怪腕で煽ると勢いよく上に跳ぶ、いや飛ぶ。そして左腕にあるもう一本の怪腕を薙ぐ、するとまるで飛ぶ鳥のようにこちらに向かってくる。サムは完全に虚をつかれた形で一歩も動けない、その姿に勝利を確信したのか大きくにやりとした笑みを顔に張り付ける女王は右の怪腕をサムに向かって一閃する。しかしその攻撃はなぜかサムには当たらなかった。



「_・・・・、これはいったい?」 「_サム様!サム様!!、大丈夫ですか?しっかりしてください。」 「_今のは、ヌバタマかい?」 「_ええ、足だけ大蜘蛛化してサム様を蹴飛ばしました。すみません。」 「_いや、助かったよ。ゴブリンメイジ戦、まさか自由に動いてよかったとはね。。。というか少々自由に動きすぎだけど。」



と女王を見ると、片手に持った怪腕を優雅に操り空を飛び続けている。おそらくサムが躱せるとは思っていなかったのだろう、こちらの様子を窺っているように見える。さて、ここから戦いを立て直さないといけない、だが自由に飛ぶ女王を狙うのはなかなか骨が折れそうだ。それに考える間も与えてくれそうにない。女王は、警戒したのか一定の距離をおいて、風刃をとばしてくる。それにサムは受け流すことしかできず、たまにこちらから風刃を飛ばすもこともなげに躱されてしまう。何とか距離を詰める必要があったが、女王の波状攻撃に、近寄るすべがない。。。。じりじりと時間だけが過ぎていく、ダイフクやガマが応援する声が聞こえる。。。焦ってはいる。だがゴブリンの歓声の中を応援する声を聴き分ける冷静さがあると感じた、そうだ冷静さそして余裕がある。ある程度、女王の攻撃に慣れてきたのかもしれない、今一度攻撃方法を考えよう。



今一度自分にあるもの出来るものを考えよう。と考え直すとサムはまるでテニスプレイヤーのように構えて、女王の攻撃に備える。女王が右の怪腕を一閃させれば、体を左に受け流しつつバックハンドで左に薙ぎ躱す。そうして防御にまずは集中する、焦りはない。焦りはない。と言い聞かせて、作戦を練る。今この状態はサムが不利に見えて、女王も攻めてに欠く状態のはずだ。ずっとそうして飛んでいられるのか?だがその前に試せることがあるはずだ。今あるサムの攻撃方法は怪腕を薙いで大風を起こすものと、怪腕を一閃して風刃を飛ばすの2種類だが、それは全て女王に器用によけられてしまう。サムは女王を見ていて一つの方法を思いつく、そして攻撃をいなしつつ、ヌバタマと話を合わせる。タイミングは次に女王がその身体を浮かすために下に怪腕を扇いだ時だ、そのタイミングを待つ、、、、



そしてその瞬間、サムはフォアハンドで思いっきり右から左へ怪腕をないで見せる。すると一際大きな風が起こり、『ビョビョウゥ!!』とうなりを上げる。するとその風をかわそうと、女王はさらに上に飛ぶ、サムはそれを見るや否や全力で地面を蹴りそして薙ぐ、忽ちに土煙をはらんで大きく跳び上がる、そして女王に向かって行く、それには向こうも驚いて一瞬の戸惑いを見せたが、それは一瞬のみで、すぐに右に躱されてしまう。サムはこの機を逃がさないと怪腕を左に薙いで追いかける。にやり、と大きく笑みを浮かべる女王、サムが近づくのを待ち構えていたかのように、わざとサムを迎え入れる。そして怪腕を両方振り上げてクロスして振り下ろす。それにはサムはさらに高く飛び上がることで躱す。だが女王も負けじと怪腕を振り上げる。それも躱すサムだったがそれ以上は高度を維持できずに地面に降り立ってしまう。そして、また膠着状態に入ってしまう。女王は気味の悪い笑顔を顔に張り付けたまま、また遠くから攻撃を始める。



「_ふぅ、奇策は通じなかったか、、、」と棒立ちになるサム 「_ご主人様、あきらめてはなりませぬ!!」と大声を張り上げるダイフク 「_サム様、わたくしはいつでも、、、」 「_そうか、それでは次の攻撃のタイミングで、、」



棒立ちになったサムを見下ろしながら、これで最後とばかりに大きくその怪腕を振り上げる女王。そしてその瞬間は訪れるーー、『ズッドン、ザザーッ!!!』女王は地面にその身体を思い切り叩きつけられていた、そしてそれに呆然としている、なぜか、、、と考える間もなく、サムの風刃がその首を一閃する。そして一瞬の静寂ののち沸き上がる歓声、割れんばかりの拍手、飛び込んでくるダイフク。



「_ごごっご、ご主人様ー!、心配しましたぞー!!、わたくしめはてっきり諦めたのかと!!!」 「_ふー、心配をかけたね。いや思ったよりも予想外のことが多くてね。手こずったよ。」 「_良い戦いだったよー。手に汁にぎる戦いだったよ。しかし、運が良かったの、まさか相手が墜落するとはよ。」 「_ああ、それはヌバタマのおかげですよ。」 「_ん?この小蜘蛛が何かしたのかよ?」 「_ええ、、、」



サムは自らが飛び上がるという奇策を講じたが、成功確率はぶっつけ本番ということもあり三割をきるくらいだと思っていた。だからそれを餌にもう一つの策を講じていた。サムは女王の攻撃を躱しながら自分にある手段を考えていたが、ダイフクの声を聴いたときに気が付いたのだ、サムは一人ではないということを、そうヌバタマがそばにいるということを、すると手段は大きく広がった無数の攻撃方法を思いついた。負ける気はもうしなかった。あとはサムは女王に近づきながら、ヌバタマは女王に糸を付けるタイミングを窺い、それを行った。あとは女王が油断した瞬間、糸を巻き取ればよかった。



「_、、、というわけです。」 「_あの時にそんなことしとったのかよ。でもちょっと卑怯じゃね?」 「_そうですか、式もまた僕の力、僕は僕の全力を使ったまでです。それに僕の別名はくもがみ、蜘蛛の力を使ってなんぼです。」 「_流石流石でございます。ご主人様!それにタマめもよくやったー!!」 「_いえ、わたくしはサム様の指示に従ったのみ」 「_さて、解説の方はもうよろしいですか?良いですか?」と皆の会話に割って入る、ヨモギ。 「_ああ、もういいよ。ヨモギ。」



「_ではっ女王戦はこれにて勝負ありっ!!」


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