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第10話:作戦会議と兄王山

うっかり、ゴブリンの集落の部族長になってしまったサム。

6月20日:火曜日:四時半起床、今日は砂糖をたっぷり入れたコーヒーを持って副業部屋へ、昨晩はヌバタマとライダー戦の作戦を練っていた。今朝からはその練習を行う予定だ。だが、騎乗時の技術だけではおそらく勝つのは難しい、武器も含めて、サム自身の耐久力が低すぎるのだ、それについては追加で色々考えてみた。そしてある2作戦で、どうにか勝利をつかもうとしていた。サムはコーヒーを流し込みながら、テーブルの上のメモを何枚か掴む、そしてイメージを固めると、サイドラインへとLog Inする。



場所は、村の葬儀殿の二階入り口前、厳かな気持ちで、中へと入る。少女の寝台からはモウモウと煙が立ち込めていて、その皮膚は今では乾いてしまっているように見える。サムはただ、迷わず、安らかに、天へと登れと目をつぶって祈る。十五分程、そうしていただろうか。目を開け踵を返して葬儀殿から出て行く。入り口ではヌバタマとダイフクが待機していた。



「_待たせたね。行こう。」 というと朝靄の中を歩きだす。そこでふと思う。この時間帯の朝靄は北から南へと上がってくるが、しかし葬儀殿の煙はそれに流されることなく真上へと伸びている。それに、何度か村の外で煙を目にしたがいつも真上へと伸びているのが常であった。 「_ご主人様、どうかされましたか?」 「_、、、いや、なんでもない。」 と答えながら、おそらくはむらかみか村主かその式達の力なのだろう。これは葬儀を頼んだ時に、難しい顔をする筈だ、と内心で思うと同時に感謝する。これは早々にゴブリン達をどうにかして安心させてやりたいなと思う。サムはむらかみや村主と意見の相違がある事は承知していたが、それは立場の違いから起こるもので、根はただの善人だと思っている。きっとサイドラインのスタート地点が、他の場所特に町付近であったなら、もっと困難な物になっていただろう。サムは立ち去りながら、葬儀殿と村主の屋敷前で一礼をしていった。




6月21日:水曜日:四時起床、バナナブレッドとコーヒーと少量の水を持って副業部屋へ、昨日の練習で新たに発生した課題対応を考えながら、観葉植物達に水を入れて周る。やはり耐久力の課題が何処までも大きい、だが逆に言えばそれ以外はなんとかなりそうだ。前には進んでいると一つ頷くとバナナブレッドを一口、しっとりとした舌触りに、バナナの優しい甘さが香る。一拍味を楽しんだ後に、コーヒーでさっぱりさせ、目を覚まさせる。耐久力についてはやはり、萩ノさんの協力が必要不可欠だ、今日会話しようと決め。残りのバナナブレッドを口に運び、バーチェアに向かいLog Inする。場所は葬儀殿、今日も少女への祈りから始まる。その後無為の家へと向かう。道中では、昨日の練習の手応えについて話し合う。



「_サム様、あの後お身体は大丈夫でしたでしょうか。」 「_ああ、特に痛いところはないよ。」 「_ご主人様、ご主人様があそこまでやる必要はあるのでしょうか、あの神器があれば、ゴブリン供を一掃するのは容易いでございましょう?」 「_うんー、可能だろうね。でもやっぱりいたずらに彼らを殺めたくは無いんだ。、デルタグループでの決戦では相手を殺めたけどね。出来るなら殺したくはなかった、、、決戦までしておいて何だけどね。」 「_ご主人様は、、、優しすぎまする。それでご主人様の身に何かあったらどうされます。」 「_そうならないように準備は怠らないつもりだよ。それに作戦はまだあるんだ、その準備と練習にまだまだ付き合ってもらうよ。」




6月22日:木曜日:四時半起床、サイドラインへ、今日はヨモギとの会話、 「_おはようございます、部族長。」 「_やあ、おはよう、ヨモギ、来てくれてありがとう、今日は、ゴブリン達の事を教えてもらいたいんだ。特に君たちの間の戦いについて。」 「_我々の闘争のことですか?そうですね。我々は常に部族内で強きものを育てています。」 「_育てている?ゴブリンライダーやゴブリンメイジをかい?」 「_はい、我々は通常に育っては、その力は多少ばらつきはあるものの皆微々たるものです。そんなものが儀式に出たとしても、戦いを穢すのみ。それで我々は儀式に勝てる強きものを育てます。」 「_儀式用に育てている?儀式とは王を選定する戦いのことかい?」 「_はい、その通りです。」 「_はー、そうか、だからゴブリンライダーやゴブリンメイジは集落の外にでないのかい?」 「_集落の外は危険が多いですからね。」 「_それ、なにやら面白いね。強いなら危険に立ち向かえるんじゃないのかい?」 「_部族長、森には危険が多いのです。人もまたそうですが、それよりももっと恐ろしいものが潜んでいます。そのようなものからは距離をおく必要があります。そのようなものと戦っていては強き種を残せません。」 「_まぁ、そうか、、、あれ、でもそれだとすると、僕が各部族の部族長を倒して周って王になるのは、強き種を残せないことにならないかい?」 「_王は種を残すものではなく、我々を導くもの、権利を持つものであれば、何者がなっても問題ありません。」 「_いや、興味深いね。質問ばかりで申し訳ないけど、後、儀式の時期と、今年はどうして集落の位置が変わったかを教えて欲しいいんだ。」 「_それは、・・・」 と、サムとヨモギの会話は続く、サムはゴブリンの生態に触れ、ただただ興味深いと思いつつ、何処までを、むらかみ、村主に話そうかと考えるのだった。




6月23日:金曜日:四時半起床、サイドラインへ、今日は萩ノさんとの試作品品評会兼作戦会議。火曜日に萩ノさんに防具作成の為に幾種類かの織物の作成をお願いしていたのだった。それは伸縮性のあるものから、耐衝撃に優れたもの、防刃に優れたものなど、様々だ、そしてそれらの性能を見せてもらう。各織物に対し、ヌバタマが全力で伸ばしたり、殴ったり、槍で突いたりする。そして全てが思った以上の性能だった。 「_いや、ありがとうございます。萩ノさん、タマ。」 「_いえ、このくらいは容易いです。それで、ゴブリンとの戦いにはどの布を使いますか?」 「_これら全部をつかう」 「_全部?でございますか?」 「_そう、体の部位ごとに組み合わせて、布の鎧を仕上げて欲しいんだ。僕用と大蜘蛛状態のタマ用に。」 といって、木の板に書いた設計図の様なものを渡す。 「_正直、こういうのを作るのは専門じゃないから、部位ごとの組み合わせは最善ではないかもしれない。だけど作ってみなくちゃわからないこともあるからね。面倒だろうけどよろしくお願いします。」 「_いえいえいえいえ、腕がなりますわ、もし、全体の強度的に組み合わせを変えた方が良い場合は変えてしまってもよろしいですか?」 「_うん、それは構わない。」 「_して、納期は、、、」 と作戦会議は続く。。。




6月24日:土曜日:四時半起床、サイドラインへ、今日は週一のむらかみ様への報告会。でもその前に、葬儀殿へと向かい、少女に祈りを捧げる。煙でよくは見えないが、少女の皮膚はすでに燻製のようになっている。燻葬は今日で終わり、明日はいよいよ兄王山送りだそうだ、サムは煙包まれて天へと登る少女の最期の姿を思い浮かべ、また、安らかにと願うのだった。それから村主の屋敷へと向かう。屋敷の入り口にはツバサが立って待っていて、行くなり屋敷の奥へと通される。



「_おはようございます。ゴブリンの件で報告にあがりました。ですが、まずは少女の葬儀の件、お受けくださってあらためてありがとうございます。」 「_うむ、マレヒトガミは気づいたのかもしれんが、あれはあれでの、手間暇かけておるのだ、そう言ってもらえると助かるの。して、ゴブリンの方はどうかの?」 「_はい、先週以降、村付近のゴブリンの集落の場所は全て把握しました。」とまた、木の板数枚にわたって描いた地図を広げて説明する。 「_ほう、仕事が早いの。」 「_まぁ、把握しただけで、危険が去ったわけではないですけどね。今は、村に近づく個体を追い払いつつ、集落の観察を行なっております。」 「_では、わかったのは、集落の位置だけかの?」



サムは、ヨモギから聞いて、最初に知りたかった内容を把握していたが、全てを話すつもりは無かったし、当然自分がゴブリンの部族長になったことを話すつもりもなかった。だから事前に考えていたことのみを述べることにする。



「_いえ、ゴブリンの観察をしておりまして、姿は見ておりませんが何度か耳慣れぬそれは恐ろしい大声をききました。」 「_耳慣れぬ大声とな?」 「_はい、僕はこの世界のことには疎いので、それがどの様な生物かはわかりません。ただ、声から察するにかなり大きな生物がいるのではと考えています。むらかみ様、村主様は何か心当たりはありませんか?」 「_うむ、なんじゃろうの。EASTの森も、谷より深くは我らも入らぬからの。シュウは何かあるかの?」



「_大型の生物ですか?聞いたことのある巨大な生物はドラゴンですとか&%¥@*などですが、森にいるとは聞いたことがないですね。」 大事なところが文字化けしてしまっている。サムは自分の世界にいない生物だから正しく翻訳されないのだろうなと思う。 「_もしドラゴンがいた場合は脅威になるものでしょうか?」 「_若し森にいるとなれば、ゴブリンたちだけでなく、人にも甚大な脅威となろう。」 「_そうですか、ちなみにその恐ろしい声なのですが、より森の奥の方で聞くことが多かったのです。だからこれは推測なのですか、もしかしたら、今年は森の奥に危険な生物が住み始めたのかもしれません、それで住処を追われたゴブリンたちがより村の方に移住して、村近辺への出現が例年よりも早くなった。とは考えられませんでしょうか。」 「_むむぅ、それはまた厄介な。」



「_ドラゴンとやらは人の力で倒せるようなものなのでしょうか?」 「_いや、無理であろう、ドラゴンは唯一その存在自体が神格化されている生物。生まれたばかりならまだしも、飛ぶようになってしまったら、人の手には負えぬそうじゃ。」 「_そうですか、であれば僕の式の力を使っても退治は難しそうですね。となるとドラゴンに関しては放置するしかないですね。」 「_いや、そういうわけにはいかぬの、もしそんなものがおれば、村の存続に関わる。どうにか対策は立てられぬかの?」 「_ドラゴンをどうにかすることはできませんが、居住地をある程度絞ること。それともし村にやってきた場合に速やかに逃げられるように避難訓練をする。という対策なら取れますかね。」



「_避難訓練とな?」「_はい、村人みんなで逃げる練習をするのです。」 とサムは、避難訓練の意義について説明を始める。最初は面白半分で聞いていたむらかみと村主もサムの説明を受けて、農作業の合間をぬって練習することを誓ってくれた。




6月25日:日曜日:四時起床、サムは熱いブラックコーヒーを片手に副業部屋へ、今日はあの少女の燻葬が終わり、兄王山までその遺体、魄を運ぶ日だ。コーヒーを飲みながら考える。むらかみや村主からは、少女の名前がないのは儀式にも滞りがあるらしく、何でもよいから名付けよと言われていたが、サムはのらりくらりと交わしていた、おそらく今日も言われるだろう。確かに名前もなく天に山に送られてしまうというのは可哀そうとは思うが、別名をつけてしまうのも心苦しいし、それに、それに、名前を付けてしまうと、安らかに天に上るべき少女をサムの力でもって式としてこの世に引き留めてしまうのではということも警戒していた。



「やはり、いずれは少女の名前を確認しに大都市とやらに行ってみる必要があるだろうか。」 と独りごち、ぼんやりと考えるサム。すると、足元に何者かの気配が、、、ユベシだ。ユベシがサムの膝の上に乗りたそうにしているので、膝の上をトントンと叩いてみる。するとユベシはヒョイっと飛び乗り、その足場を確かめるように何周かしたあとに丸くなって横たわる。 「_君は、自由だなぁ。まぁいいや、もう少しゆっくり考えさせてもらおう。」 というとサムはコーヒーをちびちびと飲むのだった。



何分ほどそうしていただろう。今度は副業部屋にピッ、ピッという鳴き声が響く、ダイフクがやってきたのだ。ダイフクはサムの腕にのると、羽をばたばたとして何かを伝えたそうにする。サムはゆっくりとユベシを床に下すとバーチェアの近くに行く、すると、ダイフクの声が、視界にはいる。 「_ご主人様、そろそろ、燻葬が終りまする。」 サムはバーチェアについたキーボードをたたき返事する。 「_フク、連絡ありがとう。これから向かうよ。」 というとバーチェアに座りLog Inする。



視界はゆっくりと変わり、葬儀殿へ、これまで部屋を充満していた煙はもはやない、あの少女の魂は全て天に上ったということだろう。村主は少女の寝殿の奥に立ち、なにやら祝詞を唱えている。おそらく少女の名前の部分に差し掛かったところなのだろう、ちらりとこちらを見てくる、本当につけなくてよいのかと念を押されているようだ。だがサムは首を振って返す。やはり、少女の名前を付けてしまうことは躊躇われた。そして祝詞はまた始まる。十分ほどそうしていただろうか、幾人かの男たちが少女を抱えて、鮮やかな布に包みだす、すると少女は顔と組んだ腕を残してすっぽりと布に包まれる。そしていつの間にやらサムの後ろにいたツバサがその耳元で話しかける。



「_これより、兄王山へ連れていきます。山の上は冷えますのでこれを」 と一枚のポンチョのようなものを貸してくれる。サムはありがとうと答えると、少女を抱えた男たちに続いて歩きだす。葬儀殿を出て、南へ、内垣の南門はこれまでよく通っていた北門と比べるとひどく小さい。そこでもツバサが教えてくれる。 「_South門は死者の魄と、それと連れ添うもののみが通れます。」 「_だから、門が小さいのですね。」 「_はい。」 サムは門の大きさだけでもその世界の文化が通っているのだなぁと感じた。更に真っ直ぐ進み外垣の南門へ、ここには小さな門と大きな門がついている。 「_小さな門は先ほどと同じで、大きな門は家畜を山へ連れて行く用の門となっております。」 とツバサが言うと、なるほど、門を抜けた先、緑が青々と茂る草原でゆったりと、羊だろうか、もこもこな毛をした動物が草を食んでいた。サムは彼らの落とし物を踏まないように少し足元を注意するのだった。



一行はさらに南に進む、ここまでくると背の高い樹木はなくなる。森林限界のようだ、サムは村の位置はある程度高地だと思っていたが、割と歩いてすぐ森林限界が訪れたのには驚いた。そこからは少しの植物と岩と広大な雪景色が広がる。サムは手に持っていたポンチョを頭から被りさらに上を目指す。気づけば皆の吐く息も白く、露出した肌は赤くなっている。そこからどのくらい歩いたろうか、三十分?一時間?山の一部にいくつか穴の開いているが見えてくるようになる。一行は真南からはそれ、そちらに向かっているようだ。近づくにつれその全容が見えてくる。穴の大きさはさまざまで、サムの背丈の何倍もあるものから、人ひとりが這ってようやく入れるようなものまである。一行は山道を穴にそって歩く。ある程度歩くと、穴の数が減ってくる、そして周りの穴から少し離れた穴のところで皆足を止める。 「_サム殿、あそこがあの少女の墓になります。」 「_そうですか、少し、、寂しいところですね。」 「_申し訳ありません。穴は一族ごとに管理となっておりまして、サム殿の一族は初めてになりますので。」 サムはその山道からの全景を見渡す。 「_でも素晴らしい景色だ、村も一望できますし、遠く海も見える。ここからならあの少女の故郷も見えるかもしれません。」 「_慰めになるかは分かりませんが、8の月や9の月になると、この辺りは高山植物が花を付けそれは美しくなります。」 「_そうですか、それは素晴らしいですね。その時になったら必ず来ることにします。」



村主が穴を過ぎて振り返ると、男たちが少女を穴の中へ安置する。そして、祝詞を唱え始める村主、しばらくして、 「_サムよ、最後の挨拶を。」 と言うので、サムは屈んで穴の中にはいる。 「_名も知らぬ少女よ、サインの花のことは伝えた、君の名誉は守れたと思う。この位のことしかできずに申し訳ないが、安らかに眠っておくれ。」 とそのもう乾いた頭と手を触る。そして穴を出て終わりましたと告げると、さらに祝詞がよまれていく。この日は風もなく、無音の中を、村主の祝詞がやけに響いて聞こえた。


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