第8話:村への報告
雲龍を召喚して、危機を脱したサム。
少年を連れた式、風漢が姿を消すのを見届けると、人に変化する雲龍。 「_ご隠居、突然の呼び出しに答えていただき感謝します。」 「_いんや、なんか危険なようじゃったし、それは別に構わんが、お主神通力もないのによくワシを呼び出せたもんじゃの?」 「_いや、あの少年が式を呼び出すのを真似たらできたという感じで、私も本当にできるとはただただ、驚きでした。」 「_それにしては、発音が堂にいっておったが、、、。」 「_はははは、そういえば、あの言葉ってなんなんです?ご隠居たちや村の人が普段話す言葉とは少し違った発音の言葉のような気がしましたが。」
「_ん?まぁ昔の、、、大昔の名残、じゃの。もう殆ど使う者もおらんし、意味の解る者などおらんじゃろ、まぁだからこそ神通力を使う時の言葉として意味も分からず利用されとる。」 「_呪文や祝詞みたいなものですかね。」 「_ん…そう考えてくれて良い。。。それにしても、己の神通力でなく、ワシの力を使ってワシを召喚するとは、そんな言葉あったかのぅ??」 「_僕は、意味も分からず喋っただけなのでなんとも。。。」 と、新たに気がついた事、自分の世界の言葉、英語がこの世界に息づいていた事を隠すサム。どうして隠したのかは分からないが、何となくまだ知らなくて良いことのように感じた自分に従ったのだった。 「_まぁ、良いか、でもあれじゃぞ、ワシじゃったから良かったものの、他のものを呼び出しておったら、どうなっておったか、、次は使わん方が身のためじゃぞ。」 「_はい、以後気をつけます。」
そんなことを考えながら話していると、雲龍が、 「_うん?さっきの式か小僧が何か落としていったの、ふむ、扇子、じゃな。。。しかもこれ神具じゃな。」と日にかざして見る。 「_神具とは?」
「_ああ、神通力の籠もった道具での、使う者の力に応じて、何かしらの効果が発揮されるもんじゃ。ちょうどよいお主使ってみよ。」 「_え、いいんですか、では、えいっ」 と森の奥に向かって軽く扇いで見る。すると、特に何も起きなかった。 「_やはり、神通力がない者が使っても効果はないの、タマかフクにでも渡してみぃ、なんぞ起こるやもしれん。」 「_まぁ持って行って良い物かと迷いますが、迷惑料として受け取っておきましょう。」 と懐に入れるサム。 「_タマと言えは、お主が危険な目にあっとったのに、今何しとるんじゃろ、これは中々にけしからんの。」 ああ、それは私の指示なのです。と言いながら、森の中をヌバタマ達がいる方向へと歩いていくサムと雲龍だった。
森の中を、20分程歩いたろうか、突然に開かれた土地にでる。
「_ご主人様!ご無事でしたか!!心配しましたぞ!!!」 とダイフクが駆け寄ってくる。 「_ああ、ご隠居が来てくれたからね。助かったよ。それより、無事そうでよかったよ、フク。」 というと、フクは人型のまま頭をグリグリとサムの腹に押し付けてくる。サムは愛おしそうにされるがままにしておき、その背中をさすってやる。すると 「_やや、何か頭に固い物が当たる。」 と言うだいふくに 「_ああ、さっき拾ったんだ。」 と笑みを湛え答えながら、サムは懐に入れた扇子を見せてやる。 「_やややや、それは、先程の小僧の持っていた者では?」 「_そうなのかい?」 「_はい、間違いありません。小童がそれをふるやいなや………はて?何が起きたのだったか。」
「_フク、我々と別れて、2人組の所に飛んで行った後の事を話せるかい?」 「_はいご主人様、まずダイフクめが着いた頃にはすでに、あの小僧と小娘はゴブリンに見つかっておりました。小娘は小僧を連れて逃げようとしておりましたが、小僧はそれを聞かずにゴブリンどもに向かっていきす。ダイフクめはまずいと思いまして、ゴブリンどもに我が必殺の地走り風をお見舞いするべく近付いたところ、小僧がその扇子をふって、で………、何でしょうな、次に気付いた時にはタマの懐におりました?」 「_そうか、あの大風だったからね。フクの記憶も吹き飛ばしてしまったのだろう、でも、それで十分さ、ありがとう。フク。」 「_大風?」 「_ああ、この扇子は神具らしくてね。私がふっても何もおきないが、あの少年がふったら、どうやらこんな大事になるらしいね。」 とその惨状を見る。辺りは切り刻まれた木々の香りに、根ごと引き抜かれた土の香りが充満していた。それを聞いた雲龍が 「_こりゃ、すごいの。人ごときの神通力でこれほどまでの威力とは、、これはただの小僧というわけじゃなさそうじゃの。これはお主、顔と名前を隠しておいて正解じゃったな、じゃなきゃ呪いでもかけられる可能性があったぞ。まぁ、ワシの力を見ておいて、その召喚者を呪おうなどとはせんじゃろが、、、。」 と話していると、森の中から、大蜘蛛化したヌバタマとその上に座る人型の萩ノが現れる。
「_これは、サムさんにお爺様、お戻りでしたか、そのご様子ですとやはりサムさんに召喚されたようですね。どうやったのかまではわかりませんが…、突然に居なくなったので何事かと思っておりましたわ、お爺様。」 「_うむ、してお主達はここで何をしておるのかの?」 「_わたくしたちは、この少女の躯を集めておりました。」 と抱きかかえた少女をこちらに見せる萩ノ。そこに見える少女はまるで生きているかのように見える。血色もよく、傷も見当たらない、手足腰もあるべき所にあるし、美しい桜色の着物も着ていた。先程の絶望的な姿からすると、まるで、それはまるで生き返ったかのように見える。
サムは驚きを隠せないで、 「_萩ノさん、まさか?」 というと 「_サムさん残念ながら、、いくら神通力があったとしても死者の蘇生はできません事よ。いくら生きているように見えた所で、この姿は破片を繋ぎ合せて綺麗に着飾らせたのモノにすぎませぬ。お力になれず申し訳ないです。」 と目を伏せ首を振りながら謝る。 「_いえ、あの状態から、ここまで、、感謝します。ありがとう。萩ノさん、タマ。」 と言うと再び少女の顔をよく見るサム。昼頃に一緒に遊んだ子供達の顔とは一致しないように思えるが念の為、 「_自動操縦よ、先ほど遊んだ子供達の内の一人なら、左手を、違うなら右手を上げてくれ。」 と自身の身体に聞く。するとたちまちに右手が上がる。サムは心の中で少しほっとするが、どこかの娘が死んだことに変わりはないのだ、少しの気休めにもならなかった。
雲龍と萩ノとはここで別れるが、ヌバタマはサムの危機にそばにいなかったことを、サムは一人で危険な場所に行ったことを雲龍からこっぴどく叱られた。その後、三人で村へと戻る。この娘が村の娘なのかということと事の顛末を話合わせた内容を説明しにだ。 「_サム様、この度のこと、むらかみ様にはどのように説明いたしますか?」 「_そうだね。僕らの見たことを正直に話すさ。」 「_この娘、村の娘でしょうか。」 「_どうだろうね。」 「_もし村の娘だと、まずいことになりはしませんか。」 とヌバタマはちらりとダイフクを見る。 「_フクは見ておりませんでしたが、あの娘、もう1人の者の力で死んだことは明白にございます。」 「_むらかみ様との約束、、、”ゴブリンによる村の被害がでたら、ゴブリンを刈り取り、この村を出る“、、、か。」 「_フクよ、お主はなんと答えるつもりなのだ。」 「_ダイフクめは、、、。」 「_フクよお主が、この娘が人のせいで死んだのか、ゴブリンのせいで死んだのかと言うかで、我々の今後が決まるかも知らんのだぞ。それにお主は母親に会えなくなるかも知らんのだぞ!」 「_だが、、、ダイフクめは、、覚えておらんものは覚えておらん!」 「_そう言うと良いよ。フク。君たちは必要のない嘘をつく必要はない。それに、あの家を追い出されたからといって、なんとかはなるんじゃないかな。それに、フクがツバサさんに会うことくらいは許してもらうさ。」 「_ご主人様。。。」 「_サム様、よろしいので?」 「_ああ、村人が森に近づく事を、全く想定していなかった。だからこちらに不備が無いとは言えないからね。この娘が村人ならば、むらかみ様達の判断にしたがうさ。」 それ以降は誰も何も話さなかった。ただサムは自分だけが見た事をどの様に話すかについてを考えていた。
村の入り口まで来ると、ツバサが待っていた。 「_ツバサさん、村人に行方不明者はおりませんでしたか?」 「_まだ、確認中です。」 「_この娘です。」 とヌバタマが娘の顔を見せてやる。 「_申し訳ありません。私も全ての村人を把握しているわけではなく。。この娘、、残念でございますね。」 「_ええ、とても。」 そこにヨナンが走ってやってくる。 「_サム、ツバサ。お父上がお呼びだ、すぐに屋敷に来るように。」
むらかみと村主は既に屋敷の奥に陣取っていた。サム達の姿をみると、 「_マレヒトガミたちは次から次に、、忙しい奴らじゃの。何があった言うてみい。」 「_先程、大きな神通力を立て続けに感じたぞ、お主ら何をした。」 とむらかみと村主。サムは眉の上を申し訳なさそうに搔くと話し始める。
「_我々は何もしておりません。ただどうも少年と少女が、森に入っていたようです。一方は風の神通力を、もう一方は薬の知識をもっておりました。そして、少女の方は死にました。」 「_なんだと、顔を見せてみろ!」 と、そっと薄く顔にかけられた布をどかし顔を見せてやるサム。 「_むむ、判断が付かぬ。ツバサよ安否確認の方はどうなっておる。」 「_すみませぬ。まだ途中でございます。」 「_娘の方は結果を待つしか無いか、あとは風の神通力をもつ少年、か、、、サムよお主その姿は見たか?」 「_えぇ、後姿のみですが、年の頃はヨナン君と同じくらいでしょう。」 「_とういうことはヨナンではないということか。」 と少し安堵したように見える、村主。それにはサムは疑問を覚え 「_ヨナン君も、風の神通力を使えるので?」
「_ああ、兄王の系譜のものは、風の神通力を持つ。」 「_シュウよ。」 と話しているとむらかみが割って入り、なにやら目で合図を送っている様に見えた。すると村主の言葉を引き継いで、むらかみが話す。 「_大風や風刃、人を乗せて飛ばせるくらいの神通力を持つものは、村ではわしのみじゃ。」 「_では、その少年は村の外から来たのかもしれませんね。遠くからではありましたが、風に乗ってNorthWest方向に飛んでいくのを見ました。きっとその力で、崖崩れの道も突破してきたのでしょう。」
「_それ程の使い手となると、大分絞れるの。」 「_名はタカミチと、そう呼ばれておりました。」 「_タカミチか、シュウはわかるかの?」 と聞かれた村主は頭を片手で抱える。 「_ええ、聞いたことがあります。おそらくはゼカの大都市主の息子の1人のはずです。サム、お主失礼な事はしておらぬだろうな?」 と厳しい目を向ける。サムは 「_私は直接は会っておりませぬ。後ろ姿を見かけた程度で、、、名前はこの娘より聞きました。」 と村主の視線を躱し、少女に目線を送る 「_正確には生前の、この娘、ですが。」 「_名前、そうだこの娘自身から自分の名前は聞けなかったのか。」 「_ええ、残念ながら、、、持ち物も何も持っておりませんでしたし、わかるのはこの娘が、タカミチの名を知ることと、薬の知識を持っていて、サインの花を取りに来た様だと、そのくらいです。」 「_この娘、なかなかに良いものを着ておるの。どこぞ良いところの娘かの?」 「_この着物は僕の家人の収集物のひとつにございます。素の服は、この村の娘が着るような服でございました。」 「_うむ、そうか、であればやはり村人の安否確認が済むまでは、この娘のことは判断が付かんの。では、」 と一旦言葉を止めサムを見やり、また話し始める、むらかみ。
「_では、話を変えよう。森で何があった。」 「_我々も、全てを見ていたわけではありません。ですから多分に推測を含みますが、おそらくは、、、」 とサムは話し始める。 「_まず、彼らがどの様に出会ったのかはわかりませんが、2人してEastの森に入りました。目的は薬草のサインの花。そして森のほど中、サインの花を見つけます。そしてそれと同時にゴブリンに襲われます。少女は少年をつれて逃げようとしますが、少年はそうしなかった。何故なら彼には大きな力があったから、、そして彼は大風を使いゴブリンを吹き飛ばしましたが、それは少女もろともだったのでございましょう。。。我々がついた頃には、少年は去り、少女は息も絶え絶えという状態でございました。少女より話を聞いている中、後ろ姿ではありましたが、少年と大男が風に乗って飛んでいくのを見ました。少しは追いかけようと試みましたが、あまりの速さでとてもとても追いつくことはできませんでした。」 とサムは一気に話きる。村主は一言そうかと言うと、しばし黙りまた言葉を発する。 「_ダイフクよ、今マレヒトガミの言ったことに相違ないか?」 「_はい、、、途中までは。」 「_途中までとはどう言うことじゃの?」 「_はい、ダイフクめもその大風とやらに巻き込まれた様で、その2人組が、ゴブリンに襲われるまでしか記憶にございません。」 「_うむ、そうであったか、サムよ今言ったことに嘘は無いかの?実は娘はゴブリンの起こす風で死んだとかでは無いかの?」 「_はい、ございません。なんならこの娘の服を脱がし傷をみるもの良いでしょうし、現場を見てもらうのも良いでしょう。とても、ゴブリンが起こしたものとは思えません。」 とサムは一切の動揺を見せることなく、言い切る。 「_大きな神通力を感じたのと、今の話は矛盾が無いようにもおもえますな。」 と村主が言えば、 「_まぁ、僕たちの誰もその瞬間を見ていないことは確かなので、ご判断はむらかみ様、村主様にお任せします。」 と答えるサム。
「_してサムよ、ゼカの大都市主の息子に姿を見られたか?」 「_僕は先ほど話した通り後ろ姿しか見ていませんが、それも相当距離がありましたので、大風が起きた後に、誰かが来た。くらいは感じ取っていたかもしれませんが、顔が判別できたとは思いません。」 「_そうか。」 「_何か知られてはまずいことでも?」 というと村主の目が若干泳いだ様に見えた。するとかわりにむらかみが静かに話し始める。 「_マレヒトガミよ。今回の事、これより一切、他言無用じゃ。大都市と村との力関係とでも言えばわかるかの?我々は何も見ず、そして何も感じなかった。だから何も起きなかった。」 サムはしばらく考えて 「_承知しました。我々は何も見ておりません。ただーー、この娘はどうしましょう。」 と答える。
「_……難しいところじゃの、、もし村の娘であったとすると、森でゴブリンにやられた事にして葬儀をするしか無い。そしてそうなると、マレヒトガミには約束を守ってもらうしかなくなる。マレヒトガミとの約束は村人も数名知っておるからの。もし村の娘でなかった場合は、この村では葬儀はできんからの、森深くにでも置いてきてもらうしかなかろう。」 「_!、なぜ、村の娘では無いと葬儀ができぬのでしょうか?」 「_サムよ、これは決まりなのじゃ、人は皆その出身地で葬儀を行う事になっておる。」 とかわりに答える村主。
サム達にとっての最善はこの娘がこの村以外の娘で、むらかみとの約束を守ってゴブリン達を大幅に狩ることにならない事、そしてこの村から追い出されない事。だが、この娘にとっての最善は何かというと、きちんと葬儀を行い、死の淵でなお、相手を思いやる心優しい娘を、魂魄をともに安らかな場所に送ってやる事ーー。
丁度その時、部屋にツバサがはいってくる。そして言う。 「_村人の安否確認が終了いたしました。全員無事にございます。」 それを受けて村主は 「_そうか、ご苦労。」 というとサムに視線を戻し、 「_村から出て行かずに済んだな、サムよ。」 と告げる。
「_不憫な娘でございます。出来れば村で葬儀を行なっていただきたく。」 「_それは先程言った通り、ならんことになっている。」 「_ですがこの少女は出身地どころかその名前すらわかりません。もし、知ろうとするならば、ゼカの都市の大主の息子の所まで行く必要がありましょう。」 そしてそうするのはむらかみ、村主も困るだろう?と言外にほのめかす。 「_それはならん。」 「_ならば、この娘を僕の家人としてこの村で葬儀を行なって頂くことは可能でしょうか。」 「_……。」 しばし黙る村主。 「_まぁそのくらいならば良いのではないかの?」 「_大都市から、何者かが、あの娘を探しにきたらどうするので?」 「_もはや、知らぬで通すことは決めたのじゃ、どこかの娘が消えた。その事の責くらいはタカミチとやらに負ってもらうことにしよう。」 「_しかし、、、」 「_何卒、よろしくおねがいします!」 と頭を下げるサムに、村主も諦めの表情を見せる。
「_わかった、わかった。葬儀は行わせてもらう。それでよいか。」 「_はい、ありがとうございます。」 「_報告は以上かの?」 「_はい、僕の家人が森で亡くなった件、は以上にございます。」 「_では、ご苦労であった。」 「_はい、それでは失礼致します。」
サム達が退去した後の屋敷内で、「_むらかみ様よかったので?」 「_しょうがなかろう。マレヒトガミ、かみといっても外法のもの。町の者にも、当然大都市の者にも知られるのはまずいからの、、ましてやマレヒトガミ其の者から行かれた日には、我々がなんと言われるか。ここは隠すしかなかろう?」 「_……、そうですな、しかし厄介な者達を抱えてしまったものですな…。」 「_そこは最果ての村の悲しいところじゃの、シュウよ葬儀の方頼んだぞ。」 「_はい、承知いたしました。」
所変わって、屋敷をでたサム達、 「_サム様、追い出されずに済みましたな。」 とヌバタマ。 「_そうだね。よかったのかな?」 と答えながら、むらかみ、村主は少し我々を追い出したい気持ちがあったんじゃ無いかなと考えるが、ダイフクとツバサが一緒に歩く姿を見ていると、よかったなと思えてくる。 「_サム殿、その少女のご遺体はこちらで預かります。」 と言うツバサに、少女を預け、我々は一旦家に戻りますと告げ、静かに立ち去っていくサム達であった。




