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第1話:新たな扉

来日、入学、入社、結婚、新たな扉をくぐると新たな出会いや発見、体験があり自分の世界が広がる。これはほんの軽い気持ちで扉をくぐったことで大きく世界を広げてしまう。これはそんなお話。



場所は東京のとある小さな駅のほど近くマンションの一室。洗面所の鏡には短髪に薄く髭をはやしたどこか人懐っこい笑顔をした男が写っていた。男はちょっとだけ真顔になり、べっ甲色をしたフレームの眼鏡をかけ、今度は片方の広角だけを上げ軽い笑顔を見せる。 「うん、これでいいか。」 男は静かにリビングに移り、囁くようにその妻に声をかける 「それじゃ、行ってくるよ。シホ。」 穏やかで暖かな風が入って膨らむカーテンの側で寝息をたてる我が子の顔をみていたシホは、握りこぶしをつくって ”がんばって、サム“ と口パクをする。サムと呼ばれた男はその人たらしな笑顔でもって返事とし、ゆっくりと静かに出掛けていく。本当はもう少し我が子の寝顔を見ていたかったし何時間でもそのやさしい時間に浸っていたかったが、それでは面接の時間に間に合わなくなってしまう。腕時計を見て、一つ深呼吸をして春の空気を吸い込むと面接会場に向かうことにする。面接会場といっても、最寄駅近くの小さなテナントビルの一室、ぽかぽかとした空気の中を道々のムスカリやシャガなど春の花を見つつ軽く口笛を吹きながら歩いて向かう。途中猫を見かけ少し近づき適度な距離で眺める。目的の場所へは約束の時間の10分前に到着出来た。



【副業アサインメント】、それはどこにでもある一階の小さなテナントショップで、入口一面はガラス張り、入ってすぐにテーブルとイスが並んだ商談スペース、すぐ奥が受付でその奥には間仕切りがあるといった作りをしているのが外から見てとれた。サムはためらわず自動ドアから入る 「こんにちーー」 と入店して始めに目に入ったのは、緩やかにウェーブがかかったブロンドの髪で大きな青い瞳の女性がにこにこと微笑む姿だった。さらには 「いらっしゃいませ、初めての方ですね。副業にご興味おありかしら」 と完全な日本語で話す。それにはアメリカ育ち、現日本在住17年のサムも一瞬混乱し、次の一瞬で言葉の意味を理解し、また次の一瞬で何語で返事しようか迷い、その女性に合わせて完全な日本語で話そうとし、でも混乱からややカタコトの日本語でその名と要件を話す。



「あぁ、ご予約の梶井サムさんね。私はキャミーよ。今日はよろしくね。最初に簡単な書類を書いてもらったら早速面接するけど、面接は英語と日本語どちらがやりやすいかしら。」 サムは今度こそきちんとした日本語で答える。 「日本語で話すつもりで考えてきたので、日本語でお願いします。」 そうして面接の準備が進む。商談スペースで氏名、家族構成、住所等を記載して、そのまま面接に、そのままキャミーが面接官に、他に偉い人とか居ないのだろうかとサムは疑問に思いつつも面接は始まる。



「さぁ、サム、さっそくだけど志望理由を聞かせて」 「副業を始める理由としては、最近子供がが生まれて、先々の学費や医療費などが不安になりまして。本業以外でもコツコツと貯金をしていきたいと思い至った為です。本業と言いましたが、平素は勤めに出ておりだいたい9〜20時勤務で原則土日の週休2日制です。こちらでは副業として平日は1〜2時間、週末は3〜4時間、在宅で仕事をさせていただければと考えています。」 キャミーは眉間にしわを寄せ 「あら、それは働きすぎよ、こちらとしては長期的に働いてもらうことを考えているからそんなに毎日仕事して身体を壊してもらっては困るの。それにご家族もいらっしゃるのでしょう?この仕事でご家族の時間を奪ってしまうのも気がひけるわ。もっとのんびりゆっくりいきましょう。」



なんだかゆるーい会社なのかな、ホワイトなのは良いことだが、でも稼ぎが少ないのもこちらとしては…とサムは考える。が面接は続く。



「業務適正をみさせてもらうから、いくつか質問させてね。まず最初にだけど、他人との交流は好き?」 「はい、そうですね。新たな交流は新たな気付き、体験を生むと考えています。だから率先して交流したいと考えています。」 「いいわね。子供やお年寄りは好き?」 「よく話しかけられます。」 「確かに話しかけられそうね。何か特定の神を信じてる?」 「信じてはいませんが、日本的な神様の在り方は好きです。どこにでも何にでも神様は宿る、八百万の神、付喪神だから全てのものを大事にするというようなー」 「あら◯◯教とかじゃないのね。生活リズムは規則的?」 「はい、5時起床、23時就寝、3食もきちんと食べています。」 「いいわね。パソコンは得意?」 「何をもって得意かという所は有りますが、世間一般で言われる内容であれば一通り問題なく使えます。」 「じゃ得意ってことで。キャンプの経験は?」 「子供のころはよくやっていました。」 「やっていたっと。戦闘や競争は好き?」 「極力無い環境を好みます。ですがそうも言ってられないこともあるでしょうね。その場合はしょうがないと思ってやります。」 「ふんふん、何か苦手なものはある?」 「無いです。食べ物の好き嫌いは無いですし、昆虫や爬虫類を食べるのには抵抗はありますが、触る分には苦手とは感じません。」 「いいわね、仕事において必要な物は?」 「喜びですね。自分の喜びが他者の喜びになるような仕事が出来ると達成感がありますね。」 「それは素晴らしいわね。私からの質問は以上だけどサムから何か質問はある?」

「はい、こちらの会社では労働者のスキルに合わせた様々な副業を提供するそうですが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか」



「そうね、気になるわよね。いいわこちらに来てちょうだい」



キャミーは立ち上がり間仕切りの奥へと案内する。軽い気持ちで奥に入ると思わず。おおぉ、と声が漏れる。そこには2m×2mくらい、いやもっとあるか、この建物には非常に不釣り合いな、大きな城にでもありそうな、鉄の大きなヒンジとごつごつとした鋲と小さな窓が付いた、重々しいそして時代を感じさせる古い真っ黒の木製の親子扉があった。否それだけがあった。あまりの存在感に一瞬で圧倒される。次に考えが浮かんだのはこの扉の奥で一生死ぬまで働かせられるのでは、この奥にはそうして働いている人々がいるのではとの考えだったが、それを感じ取ったかのようにキャミーは、



「大丈夫この中でこき使ったりしないから、なんでも雰囲気が大事でしょう」 と言う。



いやこの雰囲気が必要な仕事って何だとサムは思うし、それに一体何処から持ってきたのかとも思ったが、キャミーは早速とばかりに扉に手を伸ばす。サムは協力を申し出ようとしたところ、見た目と異なり扉はすんなりと開いた。この場合、見た目より扉が軽いのか見た目よりキャミーが力持ちなのかと考えてしまう。ダメだ出来事に追いつけていないとサムは強く感じたが、キャミーはお構い無しに 「ささ入って」 と扉の中に入ってしまう。



サムは恐る恐る中を覗き最初に目に入ったのは、バーチェアに座りこちらを向いてニッコリと微笑み腕を組む自分自身の姿だった。



「えっ?」



一瞬、大画面ディスプレイでもおいてあるのかと考えたが、そのような装置は目に入らない、そしてこの部屋を見まわすと出窓が三つに空の本棚が二つ何もおいていないテーブル、それ以外には何も、照明すらないことに気がつく。他にあるのは一本脚のバーチェアを中心に半径2メートル程の円板が床と天井にある。そして他にはその円盤の内側に座るサムの姿だけなのだ。そして上下の円盤が気になり部屋へと入る、すると先程まで居たサムは消え、小さな背もたれとアームレストに足置きが付いたバーチェアのみが残る。そしてなおもバーチェアの近くまで歩き天井と床の円板をみる。見た感じはダークブルーの一枚の円形のただのタイルのように見える。再度部屋を見渡すが、投影装置のようなものは何も見当たらない。サムが一言も発せずにいると



「ふふふ、気になることもあると思うけど、まずは円板の上のバーチェアに座ってみて」



サムは恐る恐るだが好奇心に負け円盤の中に入りバーチェアに座る。するとその瞬間に景色がガラリと変わる。室内であることは変わらないが、その部屋は4倍程の部屋になり丸太の柱に土壁、天井はなく梁とおそらく屋根を構成する竹がそのまま見えている。奥に戸口があるが後は何も無いだだっ広い部屋だった。



「…アレ、っていうか自分の服装までが変わっている。AR?VR?いやそれにしてもリアル過ぎる。ヘッドマウントディスプレイも無しにこんな技術聞いたことがない…。」 「ふふふ、驚いた?まずは操作法から教えるわね。」 「操作法?ですか?」 「そう、まずは上半身からよ、上半身はあなたの動きがそのまま反映されるわ。」



キャミーに言われて手や頭を動かしてみてみると革の手袋、何かの毛織物、皮の帽子がサムの動きに合わせて一切のラグなく付いてくる、それに手袋の革の質感、シワ、毛織物の編目、柄、質感、重さ。まるで自分が着ているようにしか感じない。サムはバーチェアに座っている以外は何か装置を身につけているわけではない。それがどうして自身の動きを検知し、どうやって視覚に作用しているのか不思議でしょうがなかった。



「じゃあ、次は下半身ね。まずバーチェアの足置きに足を置いて、そうしたらそのままバーチェアを前に傾けてみて、座面は水平に保たれるわ。ゲームのコントローラのスティックをイメージしてみて」



サムは言われた通りに少し前に傾ける。すると景色が前に進む、どうやらゆっくり歩いているようだ。椅子を少し右に傾けてみると横歩きを、後ろに傾ければ後ろ歩きをする。次はより前に傾けると軽く走り出す。



「急ブレーキをかけたい場合には、足置きから足を床に下ろして、そのまま椅子の向きを回転させれば体の向きを変えられるわ。」



言われたままに右足を床に付けると、景色が止まる。続いて椅子を左に回転させると体が左に回る、そこからはゆっくりと壁まで歩いていく、そして右手で壁を触ってみる。右手に壁を感じる。さらに手を伸ばそうとするがそれ以上は進まない。まるで実際に壁があるようである。次は右手で自分の頬を触れてみる。頬から感じる感触は自分の指が直接触れる感覚では無く、革の手袋のザラザラとした感触だった。サムは触感すら感じる装置にただただ、驚くのみだった。



「慣れたら、奥の部屋に移動してみて」 「ちょっと待ってください。まだ理解が追いついていなくて、これは、、なにか、の、テストプレイとかですか?あと、自分の家は広くないのでこのような装置は置けないのですが、、、」 「詳しいことは後で話すけど、テストプレイでもないし、装置のスペースについてはなんの問題もないわ」 「在宅でできます?」 「問題ない、問題ない。ささ進みましょ。」



サムはこのような装置が実在するための仕組みを考えみようとするが、考えが何もまとまらない、ならばこのような装置がある前提で、自身に何をさせようというのか、正当な理由を考えようとするが、諦めて興味の向くままに任せて、キャミーの言葉を鵜呑みにし、そのまま奥の部屋へと進むことにする。



戸口をくぐると、そこは土間のような作りで部屋の隅には竃、真ん中には大きなテーブルがあり、テーブルの上には様々な武器が目に入る。見てみると、両手剣だけでも数種類ありさらには、片手剣、ナイフ、大斧、ハンマー、槍、ハルバード、と様々な武器が無造作に置いてある。だが窓から差し込む光を反射するそれらは、確かなツヤと輝きを持っており、その作りから装飾まで一切の手抜きが感じられない。サムは息を飲みながらゆっくりと近づいていく。美しく波をうつように輝く刀身をした両手剣を手に持ってみるが、その重さ、手袋越しに感じる柄の装飾まで、まるで本物を持っているかのようである。サムは様々な疑問には感じながらも好奇心を抑えきれずに今度は肉厚な両刃をもつ片手剣を手に取り、軽く振ってみるとブンッと音をたてる、その手には風を切る手応えまで感じる。当然本当にこんなファンタジー武器を手に持ったことなどないが、やはり本物の感覚と思わざるをえない。



「どうどうどう!気に入った?最初のはフランベルジュで次のはグラティウスっていうのよ。ふふふ、沢山の武器に驚いているようね。これからサムにはこの部屋の中から1つ好きな武器を選んで欲しいの。初回ボーナスよ。」



サムはその言葉よりも、元の部屋にあった本棚やテーブルは見えないのに、キャミーの姿は変わらず見えている状況に不思議さを覚える。だがこの装置の仕組みに目を瞑れば、内容としてはゲームのチュートリアルのように感じる。サムはじっくりとこの世界のテーブルの上の武器を眺め、気になったものは手に取り使い心地を確かめてみるが、どうにもこれで戦うイメージが湧いてこなかった。というかこの武器を使って戦う事があるのだろうかと考えると武器以外の用途でも使えるものが良いのではという気がしてくる。そんな事を考えていると、とあるものが目に入った。



「キャミーさんアレを選ぶのはありですか?」 「へ、どれ?それっ?」



とサムが指差したのはテーブルの上にある武器ではなく、部屋の竃の横の薪に刺さっている片手斧だった。



「だめですか?この位の斧なら実家の薪割りで使っていたんですよね」



とその斧を手に取る。柄は深い飴色をした木製で、刃は肉厚でまるでハマグリのようである。柄と刃の部分はしっかりとついておりガタ付きもなく、重さも申し分ない。テーブルの上の武器のように手入れはされていないが、それもまた用の美、しっかりと働いてくれそうなよい斧である。



「えーーっ、もっとカッコいい武器があるじゃない、せっかく準備したから、テーブルの上からも何か1つ選んで。」



と潤んだ瞳で見つめてくるキャミーを見て、サムはなんだこの美貌の無駄遣いはと思う。そしてもう一つの武器を選ぶことにする、片手は斧なので、もう片手で持てるもの、軽いもの、別の用途も考えられるもので探す。明らかにテーブルの小型の武器が置いてある箇所を見ていると、悲しそうにこちらをみるキャミーと目が合う。その美貌にやはりどきりとするが、自分の考えは変えない。そうして机の上の武器でも最も小さい片刃のナイフを選び、鞘ごと腰ベルトにさす。



「むむむ、ロマンがないわね。。。でもまあ良いわ。じゃあ準備はよい?」 と、キャミーが不穏な事を言うとーーー



「Gyawow Wow!!」 『ガキーン、ガシャーン!!』 「uwaaaaa!」



突如聞こえる金属音と悲鳴。ふっと気がつくとサムは先程まで居た部屋ではなく、森の中に居る。そして周りを見回すと右手に石の敷き詰められた道のようなものがある。まずはそこへと進む。途中もう一度辺りを見るが先ほどの建物は見えないし、キャミーの姿も今は無かった。チュートリアル用の部屋だったのだろうかとゲームとしてこの世界を認識している自分を感じた。道に出て今もなお聞こえる金属音の方、左の方を見ると老人が背丈60センチ程の緑色の肌で大きな鼻をもった生物に襲われていた。その生物は革の腰布を身にまといその手には先が折れた金属の刃物を持っていた。ゴブリンとでも呼べば良いのだろうか、そのゴブリンに老人は攻撃されたようで、足から血を流している。ゴブリンはさらに老人に近づこうとするので、サムは走り寄りながら大声を上げてこちらに注意を向けさせる。さらに周りの状況も見てとる。通りには他に人気はなく応援は期待できなさそう、そして右側には高い石垣があり、明らかに人工物、大声はもう上げている、もし人がいれば様子を見にくるだろう、もしかしたら援護してくれるかもしれない。左側は森、ゴブリンは男性よりも森側にいる為、おそらくはこちらから出てきて襲ったのだろう。ゴブリンはサムの声に反応したのか様子を伺っている、すると

 「Guwow」 と一声上げるとその後ろに二匹の影が増えた。一匹は森から道に姿をだし手には棍棒を、もう一匹は森と道の境の木に登り弓矢をこちらに構えようとしている。三匹一辺に片付けることは出来ない、警戒すべきは弓矢を持つ奴だがいかんせん遠い、まずは手前の一匹とさらに加速しながら弓矢を警戒して体を屈ませて的を小さくする。間近までくると大きく一歩を踏み込みそのままの勢いで、手前のゴブリンを弓矢を構えている仲間のもとへと足を振り抜き蹴り飛ばす。すぐさま左手にナイフを右手に斧を構えて、老人の前に立つと斧を振りかぶり弓矢をもつゴブリンに定めーーーっと蹴り飛ばしたゴブリンが見事弓矢を持つゴブリンの乗る枝に当たり、2匹とも地面に落ちる。瞬時に狙いを棍棒を持つゴブリンの足元に変え、全力で斧を投げる。これまた狙い通りに足元にドンッと音を立てて刺さる。さらに間合いを詰めて 「うおおおお」 と大声を上げるとゴブリンたちはバラバラに走って逃げていく、内一匹は足を引きずり大きな声を上げながら逃げる。サムは強く蹴飛ばしすぎたかと様子を見ようとすると、老人が何か声をあげてるのに気がつく、



「@&%$##¥^=ー:;+><!?」



サムは言葉の意味を理解しようとするが、聞こえてくる言葉の発音は、知っている全ての言葉とは異なっており、戸惑いを見せるが突然視界の右側に吹き出しが現れる。



「_っ!そのゴブリンは追ってはならん!」



おおっと思わず声が漏れる。するとどこからともなくキャミーの声のみがして



「もう見えていると思うけど、この世界の言葉は文字として自動翻訳されるわ。そしてあなたの言葉はこの世界の人には自動翻訳はされない。」 「へ?じゃぁどうやって会話をすれば?」 「椅子の背もたれにキーボードが付いているからそれを出して打ち込んでみて」 「キーボード?」と椅子の背もたれがある辺りを触ってみると何かある感触がする。それを自分の前に出すと透明でボタンのみが光って見えるキーボードが出現した。 「_何をしゃべっておる、いいか、大声をあげて逃げるゴブリンを追ってはならん。おい、聞こえておるのか?、」 驚いている暇もなく、老人が話しかけてくる。サムは急ぎキーを叩いて返事をする。 「_ご老人大丈夫ですか、ひどい怪我だ、ひとまず止血を。。。」 とふくらはぎ部分からの出血を見て取り、首に巻いてあるスカーフを老人の膝下にきつく結び止血する。さらに他に怪我がないかを見回し、なさそうと判断すると再びふくらはぎの傷をみる。傷は深そうだが、出血の為その度合いまでは見て取れない。つい先ほどまではこの世界はゲームと感じていたが、このリアルな怪我や流れた血の温かさに触れ、そう言う認識が出来なくなる。とにかく正しい処置をしなくてはならない。 迷っている暇は無かった、サムは怪我をした老人を背負おうとしたその時、ふと気がつくといつの間にかすぐ側にに子供が立っているのに気がつきビクリとする。



「_む、むらかみ様!」 と老人が言う。 「_君は、いつからここに?ここはまだ危ないかもだから、僕たちと一緒にーー」 「_村の者を守ってくれて感謝する。マレヒトガミよ。今結界の範囲を広げたでの、ここいらはもう大丈夫じゃ」 と一見少年とも少女とも見える子供が言う。むらかみ様、マレヒトガミ、結界と不可思議なワードが並び、次の言葉を打つのに躊躇が生まれる。



「_礼もしたいが、まずはこの者の治療が先じゃ、わしが村まで連れてゆくゆえ、お主はこの先の小屋で待っていてもらえぬか、ではの。」 と小屋の方を指差すと、一陣の風がビュオゥと吹き子供と老人が石垣の向こうへと飛んでいく。



「おおぅ、魔法かなにかか?」 と見上げていると。金髪碧眼の美女がまた現れる。



「さて、大体の操作方法は分かったかしら。」 「いや操作というか、この世界は何なのか、、、何なんでしょう」 「あなたが思っている通りよ。これはゲームではないわ、ここは同時間軸にある別の世界なの。ようは現実ってことね」 「同時間軸?別の世界?」 「そう、この宇宙のルールでは、同時間軸に存在する同種の存在からの知恵の授受はある程度は了承されているの。今サムがここに存在しているのもまた別の世界の技術なのよ。っていきなり言われてもよく分からないわよね。でもサムのいる世界にも過去その時代にはありえないほどの発見や発明を行った人がいるわよね。今あなたの頭に浮かんだ人達は実はその時代の同時間軸の別の世界の存在から影響を受けていたというわけなの。それで私はあなたにこの世界に知恵を授けて発展させて欲しいと考えているの。」



サムはもう全てが分からなくなっていた。あの扉を覗いたた時から理解が全て追いついていない。ただある一つの答えを聞いた時に理解は出来ないが感じることはできた。それはこの世界は現実であるということだ。仕組みはわからないし聞いたところできっと理解は出来ないだろう。いやまた頭の中が混乱をきたしてきた。そこで直前に言われたことに意識を戻す。確かに、過去の神話や歴史を思い描くと、その時代で無双したり大発見をしたりした者はいる。だがしかしとサムは思う。



「それならばもっと軍人とか学者とかその道の人の方が大きな発展をもたらせるんじゃ。あと副業としては規模が大きすぎるんじゃ。」 「いえサムが良いのよ。今あなたが考えている過去の偉人は私から言わせればひどくやりすぎちゃった人たちなの。私はあなたに副業程度の片手間さでこの世界を緩やかにのんびりと発展させて欲しいの、この仕事受けてくれる?」



「・・・・・・・、考えさせてください。」


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