冬日
冬というのはどうしてこうも寒いのだろう。
ヒートテックにセーター、ダウンジャケットにマフラー、毛糸の帽子まで被っても尚寒い。
太郎は冬が嫌いだった。
エアコンもストーブも点けず、部屋の明かりも点けずに隅でうずくまっていた子供の頃を思い出すからだ。
街を歩きながら頭を振る太郎。あの頃とは違うのだ。と自分に言い聞かせる。今は暖かい我が家に気が置けない友人。優しく楽しく可愛らしい恋人までいる。
お金も食べる物も無く、ただひたすらに部屋の隅で父の帰りを待ち続けていたあの頃とは何もかもが違う。
寝る時にこんな幸せな事が俺の人生に起こるはずが無い。これは夢なんじゃないかといつも思う。だから起きたら直ぐに譲にLINEでおはようとメッセージを送る。
既読が付き、おはようと返信が来るまでのなんと長い事か。だが返信が返ってこない日はなかった。
太郎にとってはそれだけで十分であり、他の諸々は過分であり蛇足だ。
今はきっと幸せ過ぎるのだ。今までの人生がそうだったように、いつかきっと揺り返しがくる。太郎はそう考えていた。
だから一億円当たっても派手な使い方はせず、生活費の足しにする程度に留めている。
今は至福の時であり雌伏の時だ。お、上手い事言えたな。まだ心に余裕がありそうだ。と太郎は思った。
寒風吹く街を歩きながら、ふと横を見遣れば、公園では保育所に預けられている子供たちが、保育士を振り回す程元気に遊び回っている。
その微笑ましさにいつか自分も譲と結婚して子供をもうけるのだろうか? と想像しようとするが、その姿をまるで想像出来ない自分に、太郎はシニカルな苦笑をしてしまった。
365日マックに通ってるんじゃないかと自嘲しながら、ダブルチーズバーガーセットを注文し、来たセットを持って外が見える長テーブルの席に着く。一人の時はほぼそこが指定席となっていた。
食べ方にも太郎なりの流儀がある。
一般的な日本人は三角食べを子供の頃から叩き込まれるから、バーガーとポテトを交互に食べ、間に飲み物を挟む。そして丁度最後に全部無くなるように平らげるものだ。
太郎も普通の食事の時はそうやって食べている。
だがハンバーガーの時は別だ。まずコーヒーを一口飲んでから、バーガーを平らげる。そしてポテトを食べつつコーヒーを挟みつつ、スマホをいじるのが太郎のマックでの過ごし方だった。
スマホに入っているゲームアプリのログインボーナスを全て回収してから、LINEやメールのチェックをし、それが終わったらSNSを見て回る。それが終わる頃にはポテトも食べ終わり、コーヒーだけが残った所でゲーム開始だ。
今日も今日とて音ゲーに精を出していた所でLINEの通知が入る。心折れる太郎。相手は真友だった。
無視してゲームを再開しようとすると、連続で何回もメッセージが飛んでくる。
ああ、まっつんはこういう奴だったなあ。と毎回ウザいから忘れていた事を思い出し、LINEを見ると、『紹介したい人物がいる。会えないか?』との事。
俺ごときに会いたいとは奇特な人物も居たものだな。と思いながらも、友人の顔を立てる為に会う事を承諾。その旨をLINEで送った。
さあ、これでゆっくりゲームに浸れると思った矢先、今度は譲からLINEが来て心折れる太郎だった。
お詫びと言っては何だが、と譲に誘われ外食をする事に。言ってもサイゼリアだが。
太郎はドリアを、譲はたらこスパを頼んで互いにその日あった事を話し合った。主に太郎が譲の愚痴を聞く形で。
だが怒っていた譲の顔が段々と笑顔に変わっていくのを見るのは、太郎も嬉しくなるのでそれでよかったのだが。
食事の後は譲を家まで送り届ける。なんとなく別れを惜しんで毎度家が近付く程に歩みが遅くなる。
最後の方はお互い無口になりながら歩き、譲の家の前で二言三言交わして別れる。
喪失感のような寂しさを感じながら家に帰り、温かい風呂に入って気持ちを落ち着け、リラックスした所で風呂から上がりスマホをチェックすると、譲からおやすみのLINEが来ていた。
おやすみ、とこちらも返信すると直ぐに既読が付く。更なる返信は無い。それをするといつまで経っても会話が終わらないので、二人でそう取り決めたものだ。
ベッドに入り目を瞑る。明日もこの夢の続きが見れるといいな。と思いながら…………。




