カレー
スーパーにて。
「今晩何にするの?」
スーパーに入ると、譲と太郎はカゴをカートに載せ、最初の野菜エリアへ。早くも足を止める譲に、太郎は首を傾げる。
お世辞にも料理が得意ではない譲だ。いつもなら素通りして弁当や惣菜のエリアに直行している。
だが今日の譲は違った。玉ねぎを手に取り、太郎を振り返る譲。
「今日は、カレーにするわ」
「…………マジか」
「マジよ」
「危険過ぎるよジョーちゃん。オムライスの失敗を忘れたのかい?」
「覚えているわ。あの苦い苦い焦げたオムライスの味。忘れる訳無いでしょ?」
「なら、今日は素直に惣菜エリアでカレーを買おう」
「いいえ、ならばこそよ。オムライスは私にはまだレベルが高すぎたのよ。多分彼女検定1級クラスだったのよオムライスわ」
「なるほど。それならば3級のジョーちゃんが出来なかった事も理解出来る。だがカレーは3級レベルなのかい?」
そこで暫し瞑目する譲。数秒の後カッと目を見開き答える。
「いいえ、2級は固いわね」
「なら…」
「でも考えてみて、カレーを美味しく作れれば、私は彼女検定2級の彼女になるのよ」
今度は太郎が目を瞑る。数秒の後、
「GOだ、ジョーちゃん」
太郎に言われて譲はずっと手に持っていた玉ねぎをカゴに入れたのだった。
その後、人参、ジャガイモは問題なくカゴの中にお迎え出来たのだが、問題は肉エリアで起きた。
「え? カレーの肉と言ったら豚でしょ?」
「何言ってるの? 鶏よ」
二人の間に火花が散らされる。
太郎が持つのは豚バラ肉。譲が持つのは鶏もも肉だ。
「いやいや」
「いやいやいや」
互いに自分が選んだ肉をカゴに入れようとして相手がそれを阻止する。そんな攻防が10回程続いた所で、譲が伝家の宝刀を抜く。
「我が家では昔から鶏なの!」
言って譲は直ぐにしまった! と思った。太郎を見れば、豚バラを持ってしゅんとしている。
「いや、まあ、ならそれでいいんじゃない」
とぼとぼと豚バラを元あった場所に返しに行く太郎に、譲が待ったを掛ける。
「両方作りましょう」
その提案に驚く太郎。
「いいのかい? そんな贅沢を俺がしてしまって」
「もちろんよ。私が許すわ」
慈愛に満ちた顔の譲。太郎は子供のように大喜びする。
「だから好きだジョーちゃん! 愛してるぜ!」
「私も愛してるぜ!」
所構わず愛を振り撒く二人だった。
その後食材を全て買い揃えた二人は、太郎宅にてキッチンに立っていた。
目の前には不恰好ながら一口大に切り揃えられた食材たちがある。
「これからどうするの?」
「玉ねぎをあめ色になるまで炒めるってママが言ってたわ」
「あめ色…………って何色?」
「問題はそこよね」
あめと言ってもこの時代千差万別だ。さすがに青色ということはないだろうと当たりを付けてからスマホで検索する。
「昔の水あめの色。琥珀色」
「つまり?」
「つまり、玉ねぎの皮の色みたい」
「なるほど」
二人は二つの鍋でそれぞれ玉ねぎを炒めていく。が、直ぐに焦がしてしまった。
「くっ、さすがは2級。一筋縄では行かないわね。だけど、私のやる気を削ぐまでではないわ」
シンクで鍋の焦げを落としながらも、譲は宣う。
「ジョーちゃん」
そんな譲に太郎が後ろから声を掛ける。その声音は真剣そのものだ。
「何? タロちゃん」
自然と譲の声音も真剣なものになる。
「どうやら火加減が強すぎたみたいだ」
「なんですって!?」
驚いて譲が振り返ると、太郎がスマホの画面を突き出していた。
「ほらここに、中火で炒めるって書いてある」
「中火?」
腕を組んで首を傾げる譲。
「聞いた事ないわね。中火っていうぐらいだから、中ぐらいって事でしょ?」
「多分ね」
「それってどうやるの?」
「さあ?」
「…………」
「…………」
「とにかくやってみるしかないわね」
「だね」
この日二人はもう一度鍋を焦がしながらも中火をマスターした。二人の調理レベルが上がった。
食卓にはカレーが盛られた皿が4つ。豚肉カレーが二皿に、鶏肉カレーが二皿だ。
そしてレンジでチンするレトルトご飯。
「盲点だったわ。お米を買い忘れるなんて」
「次回からの課題だね」
真剣な眼差しで深く頷き合う二人。
「何はともあれカレーは完成よ!」
「そうだね!」
「まさか中火だけで完成するなんて!」
「そうだね!」
「それではいただきます!」
「そう…いただきます!」
譲は豚肉カレーを、太郎は鶏肉カレーを口にする。
「え? 豚意外と美味しいじゃない」
「鶏も美味しいよ!」
この日、二人は四皿のカレーをペロリと平らげたのだった。しかし、
「どうするのあれ?」
「どうしよう」
キッチンにはまだ大量に作られたカレーが鍋2つ分も残っており、その後暫く太郎はカレー漬けの日々を送る事になる。
譲の方でも、事の顛末を譲ママに報告したら、鍋にそのままカレーを放置してきた事が問題にされ、その日の内に冷凍パックを持たされて太郎の家にとんぼ返りする事になったのだった。




