ラッキー
その日、太郎は友人の相田 真友とマックで昼食をとっていた。
「サンキューな」
「何が?」
いきなり太郎に礼を言われて、真友はキョトンとしている。
「飯村先輩の事だよ。昨日先輩と食事したんだ。まっつんに拾って貰わなかったら、今頃路頭に迷ってたって言ってた」
「ああ、それね。こっちこそありがとうだよ。あんな良い人材、滅多にいないぞ。情報収集能力も部下の管理能力も高い。なにより礼儀のしっかりした常識人ってのが良い」
太郎は褒められているいるのが先輩だと言うのに、まるで自分が褒められているかのようにニマニマしている。
「欲を言えば、太郎も一緒に俺の会社に入ってくれれば言う事無しだったんだけどな」
本気とも冗談ともとれる顔で太郎を勧誘する真友。だが太郎の顔は途端に渋くなる。
「そんな顔すんなよ。言ってみただけだ。しかしタイミング良いな太郎は」
タイミングとは宝くじの事を言っている。真友は太郎が一億円当たった事を知っている数少ない一人だ。だからといって集る事は無い。それで友人関係が壊れるからとかそういった理由ではない。
「でもまっつんの会社って投資会社じゃん。色々秘密にしなきゃいけない事とかあるんだろ? 俺そういうの苦手だからなあ」
真友は自身で投資会社を経営している。大学生時代に始めた株式投資に成功し、株で儲けた金を使ってベンチャー企業に投資をする会社の社長だ。
真友が一億円当てた太郎に集らないのは、自分で相応の金額を稼いでいるからだった。
それだけ稼いでいるというのに、今日の真友は全身ユニクロコーデだ。それは太郎にも言える事だが。太郎も真友も服や食事に頓着しない人間だった。
「確かにな。太郎は態度に出るからな。言われれば向いてない、のか?」
まだ諦め切れない真友だったが、太郎は強く頷く事で向いてない事を主張していた。内心はただ働きたくないだけなのだが。
「まあ今日の所はいいや。しかしホントにタイミング良かったよ太郎は。ラッキーってやつ? 今あの会社株価が急落してるからな」
「そうなの?」
「知らないのかよ」
「俺、あの業界の話題はシャットアウトしてたから」
「ああ、なるほど。ほら、太郎がライダーキックかました部長、飯村さんの案件だけじゃなく、他でも色々やってたみたいでさ、それが年始にババァンと世間に明るみになったんだよ。それで株価大急落。中堅所で堅調だから保険にあそこの株買ってる投資会社、結構あったんだけと、皆大損したって嘆いてたよ。俺は太郎がクビになった段階で手を引いてたから黒字だったけど」
それはインサイダー取引にならないか? と太郎は思ったが、門外漢なので黙っていた。
「ラッキーと言えば、彼女もそうだよな」
「なんだよ、まっつんだって彼女いるだろ」
「そうだけど、俺のは行き掛かり、みたいな所あるからさ」
「その言い方はどうなの? 何? うまくいってないの?」
「ほら、俺も忙しいし、太郎が言ってたみたいに職業柄言えない事も多いだろ? 誰と会ってたとかさ。そこら辺理解してくれないで、誰と会ってたとかしつこく訊いてくるし、もっとデートの時間が欲しいとか、デートがダメになったらなったで、じゃあバッグ買って、とか意味わかんねえ」
太郎も一度会った事があるが、自己主張が強そうな人物だった事は覚えている。会った瞬間に頭から爪先まで値踏みされ、ああ、この人とは会わないな。と思った事を太郎は思い出していた。
「叶野さんって今、彼女検定何級なんだっけ?」
「今3級」
「3級か。付き合い出した時5級だったっけ?」
「ああ、段まであるらしい」
「マジか? この調子じゃ来年の今頃は段位者になってるな」
「多分ね。まっつんの彼女は?」
「…………」
「…………」
「こんな悪ふざけに付き合ってくれると思う?」
まっつんが言葉の裏で察しろ、と言っているのを察する太郎だった。




