成人式
晴れ着を着た女性が、雪が降りしきる中、足を滑らせないようにそろりそろりと歩いている。
そんなニュースをテレビで見ながら、太郎と譲の間にも、外に負けない冷たい風が吹いていた。
「謝ったじゃん」
「謝ったら何やってもいいって言うの?」
「ケーキだって倍の二個。俺の謝罪の心も倍でドーン!」
「…………」
「…………」
こたつの上にはミカンとは別に、二個のチョコレートケーキが置かれている。譲はそれを見た後に、窓の外に目をやる。
世間では晴れの成人式だと言うのに、窓を叩きつける程の雪が降っていた。その中を太郎がケーキを買いに走ってきた訳ではない。
「だいたいさあ、既に冷蔵庫の中にケーキが用意してあったっていうのがムカツク! それって最初から私にイタズラする気満々だったって事じゃん」
図星を突かれ押し黙る太郎。気まずい空気を解消する策も思い付かず、目の前のケーキに手を伸ばすと、ぺチッと譲に手を叩かれた。
「なんだよ。食べないんじゃないの?」
「食べるわよ。ケーキに罪は無いもん」
言って譲はチョコレートケーキを二個、ぺろりと食べてしまった。
甘い物を胃に入れて、譲も人心地ついたのか、雰囲気も幾分穏やかになっていた。
「浦安の成人式、ディズニーランドでやるんだって」
「マジ? 浦安に引っ越そうかな」
「いや、もう二人とも成人過ぎてるでしょ?」
「でした」
こたつの上のミカンに手を伸ばす二人。
「そういえば私達の成人式、タロちゃん私の前の席だったよね」
「マジ? 全然覚えてないけど」
「後ろに目が付いてなきゃそうでしょ」
「そりゃそうか。でもよく覚えてたな」
「真友くんとバカな事話してたからね」
真友とは太郎にとって唯一と言っていい友人である。
確かに成人式では真友と隣で話していたが、何を話していたのかまでは覚えていない。太郎にしたら友人とバカ話なんていつもの事で、どの話だろうというほどだ。
「『彼女と哲学』について話してたよ」
アレか! と太郎の脳裏に成人式の思い出がフラッシュバックした。
成人式場の舞台では、市長が益体も無い話を延々としていた。
「太郎、知ってるか? 世の中には彼女と云うものがいるらしいぞ?」
「まっつん、そんな神話や伝説に出てくるものを信じてるなんて、まだまだお子さまだな」
「マジか? でも世の中にはこんなに女がいるじゃないか?」
「確かに女はいる。が彼女となるとどうだろうか? ここにまっつんの彼女はいるかい?」
「た、確かに! ここに彼女はいない!」
「だろ? 彼女っていうのは、幻想の先にのみ存在するのさ」
「なんか、エモいな」
「プラトニックと言ってくれ」
「マジか? 形而上学上の彼女とか、絶対じゃないか!」
「アリストテレスも手が出せないぜ」
ここで後ろの席から笑い声が漏れ聞こえ、太郎は真友と顔を見合せ真っ赤になったのを思い出した。
「あの時の笑い声ってジョーちゃんだったの!?」
「当たり。私とミッチー」
「ぐおおお」とこたつでのたうちまわる太郎。これほどの黒歴史を将来の彼女に掴まれていたとは、太郎にとって思い出のボディブローは効果は絶大だった。
それを見て一矢報いたとほくそ笑む譲だった。




