ライダーキック
「でさ、マーくんが、折角6月に結婚式挙げるんだから、どうせなら華やかな方がいいんじゃないかって。私は別にジミ婚でもいいんだけど」
スタバにて。譲は友人のミッチー、日下 三智花とお茶をしていた。
式に向けての愚痴のはずだが、三智花の顔は満更でもなさそうだ。
「っていうか私の話はいいのよ。聞いたわよ。枯石、会社クビになったんだって?」
三智花にいきなり太郎の話題を出され、飲んでいたフラペチーノを吹き出しそうになる譲。
「どこでその事知ったの?」
いくら三智花がマスコミ系で働いているからといって、個人が会社を辞めたことまで掴んでいるとは、もしや一億円当たった事までバレているのではないかと譲は勘繰ってしまう。
「たまたまね。マーくんと枯石の上司が友達同士だったのよ。言ってたわよ、上司ぶん殴って会社クビになったんでしょ?」
「殴ってないわ、ライダーキックよ」
譲の返答に今度は三智花がラテを吹き出しそうになる。
「ライダーキックって、あの?」
頷きで返す譲。その顔は怒っているようだ。
「出たよ、枯石太郎のライダーキック事件再び!?」
それにも頷きで返す譲。かなり憤っているのだろう。目の前のフラペチーノを一気に飲み干してしまった。
「その様子じゃ、悪いのはその上司みたいね」
「本当よ! その人、縁故採用だからって実力も無いのに部長やってるのよ!? その上タロちゃんが尊敬していた先輩に自分の失敗押し付けて、その人クビにしたっていうのよ!?」
「で、義憤の漢、枯石太郎はそのバカ上司にライダーキックをお見舞いして、自分までクビになったと?」
頷きで返す譲に、三智花は深く溜め息を吐く。
「多分枯石あの業界じゃもう働けないよ」
「そうなの?」
まあ、働けなかった所で太郎はさして困らないだろうと思い、あまり動揺を見せなかった譲に、理解が追い付いていないのだろうと思った三智花は、更に話を続ける。
「枯石のいた会社って、あの業界じゃ中堅どころでね、だから業界じゃ結構顔が広い訳よ。そこの部長が有ること無いこと同業者に言いふらしているんだから、枯石を採用する会社は無いんじゃないかなあ」
「そうなんだ」
呑気な反応をする譲に三智花の溜め息は深い。
「はあ、もういいわ」
言って立ち上がる三智花。手に持ったスマホで誰かに連絡している。
「誰?」
「マーくん。とりあえずそのバカ上司とは縁切るように言わないと。枯石はバカだけど曲がった事する奴じゃないもん」
なんだかんだ自分と太郎の事を信じてくれている友人がいる事に、譲の見ず知らずの上司に対する憤りも、溜飲の下がった気がした。
LINEをしながら去っていく三智花。譲もなんだか太郎と連絡をとりたくなり、LINEでメッセージを送る。
直ぐ既読が付いたのに、1分経っても、5分経っても返信が来ない。
何故だろう? 昨日別れた時には別に機嫌は悪く無かったはずだ。それどころか別れを惜しんでくれていた。では今のLINEで何かやらかしたのか? とそこで譲はある事に気付き電話をする。
「もしもし」
太郎は直ぐに電話に出た。しかしそのテンションはかなりダウナーなものだ。
(やっぱり)
そのダウナーさで譲は察した。太郎がゲームをしていた事に。それもおそらく音ゲーだ。
太郎と一緒に過ごす時間が長くなるにつれ、譲もゲームをよくやるようになっていた。
その中でも音ゲーは二人で楽しめる共通のものの一つだ。
だからこそ分かる。音ゲーの最中に、特にノーミスでプレイ出来ている時にLINEやメールが来ると、全てぶち壊しになってしまう事を。
何故ならLINEやメールはスマホ画面上部に、それが来たと伝えるウインドウが出るのだ。これはキツイ。私ならその日1日不機嫌になるほどだ。と譲の顔は青ざめた。
「ご、ごめん! まさかプレイ中だとは思わなくって!」
そこに太郎がいる訳でもないのに、その場で頭を下げて平謝りする譲。周りの視線はイタイものを見るものだ。
「はは、いいんだよ。誰にだってある失敗さ」
何とも棒読みな返答だった。
その日、譲は仕事を定時で終わらせると、太郎の元に太郎が好きなチーズケーキを持って馳せ参じた。
機嫌を直した太郎と件の音ゲーをする譲。
「ちょっとトイレ」
トイレに立った太郎を横目に、譲は絶好調だった。もしかしたら最高得点を叩き出すかもしれない。と譲は自分の興奮で手がブレないようにするので大変だった。
その時だった。太郎からLINEが来たのは。
その日二人は久しぶりに大ゲンカした。




