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一億円当たったから彼女とだらだらしてみる。  作者: 西順


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28/29

カント曰く

 いつの世も彼女を勤めるにあたって、多芸多才を求められるのは世の常なれど、当代において最も求められる才量とは何であろう。

 料理であろうか? しかしマックとカップ麺で構成される彼氏ならばさほど気にするものでもない。コンビニ弁当でも与えれば大喜びだ。

 洗濯だろうか? あんなものは洗濯機に任せておけば良い。

 掃除であろうか? 彼氏が綺麗好きなれば、自ら率先してこれを行うのでやる必要も無い。

 なれば当代において彼女に必要な才とは何か? デートの予定を立て、それをさりげなく実行するプランナーやコーディネーターの才? ゲーム好きの相手であればゲームの才か? スポーツはやるのも観るのもしない。では何か?

 それは彼氏の心に寄り添う事。心理カウンセラーの素養ではないだろうか。


 そう考えた一人の乙女、叶野 譲は、自室にて机に向かい、パタリと一冊の本を閉じたのだった。

 その表紙に書かれた文字は『心理学入門』。

 複雑な過去を持ち、キテレツな言動をする太郎の為に、一から新たに学問を習おうといういじらしい乙女心だった。

 そこに太郎からLINEのメッセージが来る。

『相談がある』と、譲に滅多に弱味を見せない太郎からの相談メッセージ。

 これは今読んだ本がいきなり役に立つ。と『何?』と返せば、『カント曰く…』と返ってくる。

 太郎は文学部出身の為、哲学に少しばかり足を突っ込んでいる。

 カントというのは18世紀のドイツの哲学者で、『純粋理性批判』などを世に発表し、西洋哲学に多大な影響を与えた人物だ。


(ふむふむ、カントかあ。名言格言も結構多いのよね。哲学まで学ばないといけないなんて、彼女って大変よねえ)


 などと自分に酔っていると、太郎から新たなメッセージが送られてくる。


『ゲームは一日一時間と言うけれど、課金は一日いくらまでならOKですか?』


 思わず机に突っ伏す譲。こんな事言われたら、さっき覚えた心理学など吹き飛んでしまう。

「はあ」と嘆息して気持ちを整えた譲は、(しょうがないなあ)と心の中で呟きながら、それでも一回はこの問題に付き合ってあげるのだった。

 一億円当たった太郎は結構なお金持ちだ。それに仕事もしているので課金なんていくらでもしていいと思うが、太郎も妙な所で小心なクセに、たまに大胆過ぎる行動に出る事があるのは、数々のライダーキック事件で証明されている。

 ここで自身の自制心を他者に求めるということは、ここでアクセルにGOサインを出せば、あとは課金一直線で百万、二百万の大金、いやもっと高額のお金が露と消えるかもしれない。

 ならば譲としてもここは慎重に答えるべきだろう。

 

『私は「オススメ」って出てる月定額を払ってるよ』


 無難過ぎただろうか? 既読は付いたが返信が無い。

 これじゃなかったのかもしれない。そもそもどんなゲームで何が欲しいというのだろう?

 太郎に『何てゲーム?』と送ってみると、返ってきたのは知らないゲーム名だった。何でもこのゲームに出てくるあるキャラの期間限定版が欲しいそうだ。

 そんなに良いものなのだろうか? と少し調べてみると、限定版のキャラというのは通常版のキャラより性能が良いようだ。

 しかし太郎はゲームはテクニックで勝負する派で、あまり強いキャラを使うイメージが無い。

 そこを訊くと、何でもこのキャラは二人一組で、もう一人の方は通常のガチャで出たそうだ。それでもう一方も欲しくなってしまったと言う。何でも二人一組で一枚の絵になるんだとか。

 なるほど、それはちょっと欲しくなるかもしれない。と譲も思う。ゲーム会社も色々仕掛けてくるものだ。ならば、


『基本は一日ガチャ一回。それ以上は私にお伺いを立てる事』

『OK』


 どうやらこの返信が欲しかったらしい。譲は中々上手くいかないものだ。と思いながら心理学の本を本棚に収めるのだった。

 しかしてガチャに心を囚われた太郎が、一日一回のガチャで満足出来るはずもなく、その後再三再四追加ガチャの要請がLINEに届くものだから、譲は再び心理学の本を開き、太郎に課金を止めさせるものは載っていないかと調べるのだった。

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