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一億円当たったから彼女とだらだらしてみる。  作者: 西順


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桜餅とタンポポコーヒー

「これ使えますか?」


 珍しく街の洋食屋でランチを堪能した太郎と譲。

 と言うのも昨日スーパーでレジ待ちしていると、唐突に直ぐ前に並んでいたご婦人が、


「これ、明日までなんだけど私行かないから、二人で行ってきて」


 と店のクーポンを差し出してきたからである。

 あまりに突然の出来事に、断る暇もなく、なし崩しでクーポンを受け取った二人は、折角だからと件の洋食屋「salle de reunions(サル ドゥ レユニオン) 」にやって来た。

 頼んだのはランチセット。

 煮込みハンバーグにサラダとコンソメスープ。太郎はライスで譲はパンだ。

 家庭では真似できない手の込んだ味。煮込みハンバーグはデミグラスソースの味だけになること無く、柔らかくも肉の味をしっかり伝え、噛めば噛むほど肉とソースが絡み合い、されど直ぐに解けて嚥下(えんげ)してしまう。残された感情は『勿体ない』だ。

 サラダはしゃきしゃき新鮮で、サニーレタスに玉ねぎ、トマト、パプリカ、クレソンをオリーブ油に塩胡椒だけの味付け。煮込みハンバーグが濃いめの味付けだから口直しに最適だ。

 侮れなかったのがコンソメスープ。具材をしっかり煮込んだ本格コンソメスープはあっさりしていながらもしっかりした旨味があり、玉ねぎ、人参、ベーコン、クルトンにも味が染み込み美味しくいただけた。

 すっかり満たされ幸福顔でレジに行ってクーポンを出す。


「はい。お二人様から1割引かせていただきます」


 1割とは中々大きな額だ。と太郎と譲は二人で顔を見合わせる。


「お会計、3305円です」


 自分の分を払おうとする譲を制して、太郎が二人分支払いをしようとするが、3300円払った所で小銭が尽きる。千円札も無ければ五千円札も無い。あるのは万札二枚のみ。

「はあ」と嘆息して一万円札で払おうとする太郎に、


「五円あるよ」


 と譲が五円玉を差し出すのだった。


「なんかごめんね」


 カッコつけようとしてカッコつかなかった太郎は、帰り道でSuicaで買える自販機で譲にコーヒーを奢る。

 近くのヤバタニエンのベンチに腰を降ろすと、桜はもう葉桜となり、地面一面が桜色だ。そして目の前には和菓子の佐藤屋が見えた。


「あ、帰りにあそこ寄っていい?」

「佐藤屋? いいけど」

「今、あそこの桜餅にハマってるんだよねぇ」

「へぇ、そうなんだ」


 と一口ずつ缶コーヒーを飲む二人。


「知ってる? 桜餅って関東と関西で違うんだよ?」

「そうなの?」

「餡をクレープ見たいした桜餅でくるっと巻いたのが関東風で、餡を桜餅で包んだお饅頭みたいなのが関西風」

「へぇ、よく知ってるね」

「佐藤屋は両方出してるからね」

「なるほど」


 納得してコーヒーを一口飲む譲。


「桜餅と言えば、葉っぱ食べる?」


 と譲。


「え? 食べるでしょ?」

「ええ〜」

「食べないの? 勿体ない。あの塩味がアクセントになって美味しいんじゃない」

「だって葉っぱだよ?」

「そうだけど〜」


 さっきサラダ食べたのにと思うが、まあ、好き嫌いなんてそれぞれだしなあ、と視線を落とした太郎の先には、タンポポが咲いていた。


「ふっ」

「どうしたの?」


 と譲も顔を太郎に寄せて見てみるが、あるのはただタンポポのみ。何ら面白いものはない。


「いや昔、まっつんに「タンポポってコーヒーの味がするんだぜ!」って、タンポポの葉っぱ食わされた事を思い出しちゃって」

「ああ、タンポポコーヒーね」

「え? ホントにあるの!?」

「あるよ。私飲んだことあるし。なんか根っこを乾燥させて作るみたい」


 けろっとそんな事を言う彼女を、訝しげに見る太郎。


「どんな味? って訊くのも変なのか」

「う~ん、私が飲んだのはコーヒーって言われればコーヒーって感じだったかなあ」

「そうなんだ」

「でも需要はあるみたいよ。カフェイン入ってないから」

「へ〜」


 二人はそんな話を終えると、飲み干したコーヒー缶を公園のくずかごに入れてその場を後にするのだった。

 帰りに佐藤屋で関東風と関西風の桜餅を買っていったのは言うまでもなく、譲がはがした桜餅の葉っぱを太郎が食べたのも二人の日常茶飯事だった。

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