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一億円当たったから彼女とだらだらしてみる。  作者: 西順


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招待状

 生まれは平安、名工叶野によって打ち出され、朱鞘に納められしその太刀は、刃文は互の目、後の世に磨り上げられて打刀となり、千の戦場を駆け抜けるも、銘は無く、ただ戦場において主人の身を離れぬ献身さにより、『彼女』と呼ばれし一刀。


「それがこれよ」


 ボールペンを構える譲の口から発せられた真実に、太郎は愕然として膝を折る。


「我が主人を討ち滅ぼした枯石家に復讐する為、こうして馳せ参じた次第。主人の仇! 食らえ!」


 ボールペンの姿に化けた名刀彼女が、太郎に振り下ろされる。が、


 ガシンッ


 太郎はそれを寸での所で受け止める。手に持っていたボールペンで。


「そ、それはまさか!?」

「ふふ、その通り。これこそ枯石家に代々伝わりし名刀『彼氏』! 戦場では一番槍を勤め、他の者の三歩先を行ってその影を踏ませない。数多くの武勲を挙げてきた、枯石家伝家の宝刀よ!」

「くっ」


 顔を歪ませながら二撃目を振り下ろす譲。しかしそれも太郎が振るう彼氏によって防がれてしまう。だがなおも譲は彼女を振るう。それは太郎の彼氏によって跳ね返され、


「あ!」


 鍔迫り合いから彼女を跳ね退けられ、譲の彼女は明後日の方へ飛ばされてしまう。


「ここまでのようだな」


 譲の喉元に突き付けられる太郎の彼氏。


「そうね」


 ドスッ


 突き刺されたのは太郎の方だった。


「うぐっ」


 刺された腹を押さえて後退る太郎。横を見ればそこには彼女が落ちていた。では自分が刺されたのは何だったのか? と譲の手元を見れば、もう一本の彼女が握られていた。


「ふふ、これも『彼女』よ。彼女は太刀としても長すぎたので、打刀を二本造れたの。まんまと騙されてくれてありがとう」

「無念……」


 言って事切れる太郎。

 横たわる太郎を見おろす譲の頬を、一筋の涙がこぼれ落ちていくのだった。


 グウ……


「ぷぷ、タロちゃん、死んだ人がお腹空かせちゃダメだよ」

「いやぁ、もうお昼だよ。腹も鳴るって」


 ケロリとした顔で起き上がる太郎。


「そうだね、どうする? マック? カップ麺?」


 何とも片寄った選択だが、二人にとってこれが日常だ。


「マック」

「え?」


 自分で二択を迫っておいて驚く譲だった。


「今日の花粉は凄いらしいよ?」

「それでも行かないと、カップ麺のストックがもう無い」

「ありゃりゃ、この間買ってくればよかったね」


 頷く太郎はリビングの段ボールからマスクを取り出し装着する。

 譲へのホワイトデーのお返しだったはずのマスクは、こうやって太郎によって消費されていっていた。


 マックにて。


「そういえばタロちゃんの所にもミッチーから来た?」

「? いや、来てないけど?」

「ホントに? ウチには来たからもうすぐ来ると思うよ?」

「はあ……?」


 日下が何の用だろう? と頭を傾げる太郎だった。


 スーパーで安売りしていたカップ麺を大量買いして太郎宅に帰る二人。

 そんなものネットで注文すればいいじゃないか、と思うが、メーカー問わず色んな種類のカップ麺を食べたい太郎にとっては、こうやってスーパーで買い物するのがベターな選択だった。


 マンションのエントランスには、郵便受けがある。何日か放置していたので太郎の郵便受けからは紙束が溢れていた。

「はあ」と嘆息して、両手を塞いでいたカップ麺の入ったビニール袋を床に置くと、太郎は紙束を要るものと要らないもので分けていく。


「あ、ジョーちゃん先に入ってていいよ」

「はーい」


 ジョーを先に行かせた後、紙束を見ると三智花と真樹の連名で手紙が届いていた。


「ジョーちゃんが言ってたのってこれか? ってこれ、結婚式の招待状じゃん!」


 いつの間にか真樹と三智花の結婚式まであと二ヶ月となっていた。


(う〜ん。祝うのはいいけど、式に出るのは面倒臭いなあ)


 嘆息しながらビニール袋を担ぎ上げる太郎だった。

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