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一億円当たったから彼女とだらだらしてみる。  作者: 西順


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エイプリルフール

 4月1日。一年に一度、堂々と嘘を吐いていい日とされているが、その起源やルールに明解なものはなく、すべからく曖昧模糊である。

 起源をたどれば、1564年にフランスのシャルル9世がそれまで春だった新年を、1月1日に変更した事に怒った民衆が、4月1日を「嘘の新年」として祝った事が由来とされるが、これには異説がいくつもあり、インド起源説やキリスト命日説、ノアの方舟説、古代ローマ説、彼氏彼女入れ替え説等、その起源が定かなものは無い。

 ルールもしかりで、嘘を吐いていいのは午前中だけで午後にはネタばらしをするのが正しいとか、他人を貶めるような嘘は厳禁だとか、吐いた嘘は一年間叶わないとか、お前には一生彼女が出来ないだとかそんなルールは無い。

 正確には午前にだけ嘘を吐いていいというのは、イングランドなど一部の国だけで、アメリカやフランスなどでは午後も普通に嘘を吐いている。

 午前に嘘を吐いて午後にネタばらしや他人を貶める嘘は厳禁などは、SNSで拡散されたものであるが、リテラシーやマナーの点から見れば正当といえる。

 だが吐いた嘘はその一年叶わないとか、もうオカルトである。

 だが、そんな正体不明で有耶無耶のあやふやで胡乱で胡散臭い日でも、恋人の一言というのはどこか真実味を持っている。


「別れましょうタロちゃん」


 その日太郎宅に来た譲は、沈痛な面持ちで一言も喋る事なくこたつに入り込むと、太郎が淹れてくれたコーヒーをすすり、ただ押し黙り、一時間無言が続き、やっと発した一言がそれだった。

 長い沈黙の時間が続いていたからだろう。その衝撃は太郎の胸に本当に痛いと思わせる一言だった。

 つう、と涙が出るのを両手で隠しながら項垂れる太郎。


「マジか…………」

「…………ええ。前から思ってはいたの。私達、性格が合わないって。でも好きになった人だから、私無理して合わせようとしてた。…………それももうお終い。花見の時に也哉を使って席取りさせてたでしょ? あれ見て思ったの、そうは言ってもそこは自分で席取りするべきだったんじゃないかって。そう思ったら、なんだかタロちゃんの全てが許せなくなってきて、もう私限界なの!」


 顔を両手で覆う譲。それを見て自身の涙を押さえ込んだ太郎が、譲に語る。


「俺も前から思ってたんだ。俺とジョーちゃんでは釣り合わないんじゃないかって」


 いきなり何を言い出すんだ? と涙目の譲が太郎を見遣る。


「ジョーちゃんは料理をした事なければ、すぐムキになるし、たまに変な事言い出すし、でも一般家庭で暖かく見守られながら育った、俺みたいな家庭の愛情を知らずに生きてきた人間とは違う。ジョーちゃんは俺には眩し過ぎるんだよ」


 ボロボロと泣きながら語る太郎の言葉を、譲も泣きながら聞き入っていた。


「タロちゃん……」

「ジョーちゃん……」


 と二人ともその先を口にする事が出来ない。


「…………ああ、ダメだ、言えない!」

「私も無理ー!」


 二人はそう言いながら抱き合うのだった。


「ごめんジョーちゃん、ヒドイ事言って」

「ううん、私の方こそヒドイ事言ってごめんなさい」


 エイプリルフールの化かし合いは、両者負けで決着した。

 しかしその後二人が少し姿勢を正すようになったのは蛇足である。

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