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一億円当たったから彼女とだらだらしてみる。  作者: 西順


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お花見

 お花見の歴史は古く、一説には古事記や日本書紀よりも古いとされる、出雲文字で書かれた古史古伝『叶野文書』において、此花彼女姫なる女神が、飼っていた犬が亡くなった事を哀しみ、火葬した犬の遺灰を庭に撒いたところ、見事な桜が咲き誇った事が由来とされる。


「ねえ、大丈夫なの?」


 不安そうに三智花が声を掛けるのは、恋人の真樹ではなく太郎だ。

 いつもの六人は公園で花見をするために近くのコンビニに買い出しに来ていた。

 時間は昼前の11時。席取りなどを考えれば、花見をするには出遅れている感が強い。というよりもう負け組確定である。

 太郎が席取りをしておくというから、のんびり昼前に家を出たというのに、待ち合わせ場所に行ってみたら太郎がそこにいるのだ。


「心配ない。と思う」

「と思う。って」


 人間、断言されないと不安になるものだ。コンビニで、そんなに食べきれないだろう、という程弁当やその他食料飲料を買い込む太郎に、人間としてのアバウトさが透けて見えて、三智花の口から溜め息が出る。


「ジョー、絶対縁切った方が良いって」


 こそりと譲に耳打ちするが、


「大丈夫よ。タロちゃんだよ?」


 太郎全面肯定派の譲には馬耳東風らしい。

 これでどこも座る所が無くて、ただ公園をぶらっとするだけで終わるような事になったら、太郎を結婚式に呼ぶのは止めよう。と心に誓う三智花だった。


 八幡公園、若者からヤバタニエンと呼ばれるこの公園には、百本を超えるソメイヨシノが植えられている。

 ソメイヨシノはエドヒガン系の桜とオオシマザクラの雑種の交配によって誕生した桜で、現在あるソメイヨシノは全て接ぎ木によって殖やされたクローンである。


「うわあ……」


 時は三月の末、丁度ソメイヨシノの満開と重なり、ヤバタニエンは花見客でごった返していた。


(絶対無理だ)


 太郎と譲以外の四人がげんなりと気分を落ち込ませている中、太郎は人の波をするする抜けて先へ行ってしまう。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」


 慌てて太郎を追いかけると、一本の満開のソメイヨシノの前で止まる太郎。

 ここに席を取っておいたのか? と桜の根本を見れば、男子大学生達五人程が既に宴会をしていた。


「ちょっと、場所取られちゃってるじゃない」


 文句を言う三智花を無視して、太郎はずかずかとその輪の中へ入っていく。


「そういう事か」


 と真樹が三智花の横で呟き、太郎と同じように男子大学生達の輪に入っていく。


「考えたな」


 と真友までが追従するが、訳が分からない三智花と智恵理に譲が、


「あれ、私の弟とその友達よ」


 と教えてくれた。そこでやっと得心した三智花と智恵理。どうやら暇な男子大学生に席取りをやらせておいたらしい。

 言われて三智花が大学生の一人をよく見てみれば、高校以来ご無沙汰の、当時中学生だった也哉の姿が見受けられる。かなり大人っぽくなっているが、当時の面影があった。


「ほれ、補給物資を持ってきたぞ!」


 と言って弁当をブルーシートの上を置くと、「うおおおお!!」と叫んで弁当に群がる大学生達。なるほど、多目に色々買っていたのはそういう事かと納得し、三智花の中で太郎の評価がちょっとだけ上がったのだった。


「更に綺麗所も連れてきたぜ!」

「うおおおお!!」

「全員俺らの恋人だぜ!」

「えええええ!!」


 ノリいいなあ男子大学生は、とか思いながら三智花は靴を脱いでブルーシートに座ると、上を見上げた。満開のソメイヨシノが下に向けて花を開き、淡いピンクの桜と澄んだ青空のコントラストが美しかった。


「ミッチー」


 真樹がさっき買った缶ビールを差し出してくる。他の皆は手に手にお酒を持っていた。


「では、今日という良き日に」

「かんぱ〜い!!」


 真友の音頭で社会人六人と大学生五人の花見が始まった。


「ジョー、知ってたんでしょ?」

「まさか、二人ともいつの間にそんなに仲良くなったの?」


 三智花の振りに首を横に振る譲。話を件の二人に振れば、


「まあ、ちょっとね」

「ちょっとね」


 単に飲みの場で仲良くなっただけなのだが、男の秘密というやつだろうか、発言に含みを持たせる二人だった。


「ええ〜、教えなさいよ〜」

「いや、そこはジョーちゃんといえど言えないなあ」


 深い意味など無い。こういう台詞が言ってみたかっただけだ。このように、男の秘密に深いモノなどそうそう無いのだ。


「兄貴、いいッスか?」


 譲に詰め寄られる太郎に、也哉が話し掛けてくる。


「なに?」

「友達紹介したいんですけど」


 也哉の横にスポーツマンといった大柄な男が座る。


「同じ高校の同級生で、兄貴の大学の後輩なんです。今日兄貴がくるって言ったら、自分も参加するって」

「安西 弘道ッス! 枯石先輩のライダーキックは、今でも伝説として残っています! 伝説の先輩と会えて光栄です!」


 膝に手を当て頭を下げる安西に、酒の席特有の気の大きさで、安西の肩に手を置き、「頑張れよ」と一声掛ける太郎に、


「あんた、大学でもそんな事してたの?」


 と三智花が呆れていた。


「はい! 裏で不正献金を貰っていた学長に、皆が見ている講堂でライダーキックかましたんです!」


 まるでそれが誇る事のように語る安西。

 三智花は呆れ返るばかりだが、智恵理は、


「私それ、ネットで見ました! え? それをやったのが枯石さんなんですか?」

「ま、そうだね」


 缶ビールを飲みながらさも普通の事をしたようにさらっと流す太郎。


「高校、大学、そして社会人。あんたライダーキックしないと生きていけないの?」


 三智花の突っ込みにあはは、と乾いた笑いを浮かべる太郎。そこに真友が、


「こいつのライダーキック伝説は小学校の頃からだぞ」


 と更に合いの手を入れてくる。おおお、と感動する也哉や安西とは違い、三智花は更に呆れ返る。


「いや、感動するなよ。こいつそれで会社クビになってるからね。高校でも停学になってるし」


 と言う三智花の言に、


「大学の時もそれやって決まってた内定先から突っぱねられたんだよな」


 と真友が付け加える。ドン引きの三智花。


「どうすんのあんた? 無職じゃやっていけないよ」

「いやもう働いてるけど」

「ウソ?」


 と譲の顔を見ると頷いている。真樹を見ても、真友を見ても、智恵理さえ頷いていた。


「知らなかったの私だけえ!?」


 マスコミで働いているというのに、情報取得が一番遅かった事にショックを受ける三智花だった。


「因みに何やってるの?」

「webデザイナー。ホームページ作ってるよ」

「へえ」


 無感動な三智花に、安西が語る。


「枯石先輩の作ったホームページはスゲエんすよ! 俺はあれ見て大学選びましたから!」

「ああ、あれはスゴかったよな」


 と安西に追従する也哉。


「そんなにスゴかったの?」


 と興味が出てきたのか三智花が二人に尋ねると、首肯する二人。


「『今こそ変われ!!』って、サイトのトップページにドーンッと出てくるんですよ! あれにやられましたね!」

「へえ」

「俺もそれ見てあの大学にしようか、って思ったんですけど、直後にライダーキック事案があったんで止めちゃったんですよねえ。でも今あの大学スゲエ勢いあるんですよ! 行っときゃよかったかなあ」


 少々愚痴る也哉に、羨ましかろう、とドヤ顔の安西。その横でまるで他人事のように静かにビールをあおる太郎。花見の席は早々にカオスな様相を呈してきた。


 夕方になり、大学生達が帰っていった所で、真友が持ってきたシャンパンを取り出す。


「じゃん! ドン・ペリニヨン!」

「マジか!?」


 五人がざわつく。ラベルを確認する五人を優越感で睥睨(へいげい)する真友。痛い出費だったが、この気分が味わえるならお釣りがくる、特に太郎に対してはそんな想いが強い真友だった。

 真友によって開けられたドンペリの行き先が、紙コップというのはなんとも締まらないが、五人均等に行き渡った所で、


「それでは改めて」

「かんぱ〜い!」


 散りゆく夜桜の美しい夜だった。

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