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一億円当たったから彼女とだらだらしてみる。  作者: 西順


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一息

「また、ですか?」


 前の職場の先輩である飯村に昼食に誘われ、トンカツ屋でロースカツ定食を食べている時の事だった。

 太郎は飯村から新しく出資する企業のホームページ作りを以来されたのだ。


「ああ、頼めるか?」


 人の良さそうな顔の飯村に頼まれれば、太郎としてはNOとは言えない。


「まあ、いつもの事なんで別にいいんですけど、まっつん、相田は何やってんですか?」


 今までなら、こういう事は真友から直接話が通っていた案件だ。間に飯村を挟むなんて、らしくないと太郎は思ったのだ。


「ああ、オフィスの自室でいくつものディスプレイとにらめっこしてるよ」

「え? 経営まずいんですか?」


 太郎の問いはお門違いだったのだろう。ふふ、と軽く笑みを見せる飯村。


「まさか。順調順調超順調だよ。単に社長がマネートレードに専念したい、てんで対外交渉が俺に回ってきただけだよ」


 ああ、と得心する太郎。


「まっつん大学の時からそんなでしたからね。文学部なのに、株にFXに仮想通貨に熱中して、自作の運用ソフトまで作って運用してますからねあいつ」

「文学部は太郎もだろ」

「俺は学業の片手間って感じだったんですけどねぇ。それが今じゃお互い生業になってるんだから、人生分からないものです。先輩も、働き過ぎる癖があるんだから、ちゃんと時間外手当請求しといた方がいいッスよ」


 ロースカツをかじりながら話す太郎に苦笑いを浮かべる飯村。


「それが今俺管理職なんだよなあ」


 そう言えばまっつんが前にそんな事言っていたな、と太郎が思い出す。


「まあ、その代わり給料は前の会社の2.5倍だけどな」

「おお、奥さん大喜びですね」

「喜んでくれてるけど、給料増えたんだし、小遣いも増やして欲しいよ」


 少々肩を落としながら味噌汁をすする飯村。


「ありゃりゃ。まあでも急に前の会社クビになった前例がありますからね。奥さん的にも今は貯金貯蓄の時だと思ってるんじゃないですか?」

「そうかなあ? クローゼットにブランドものの服が掛かってるのは気のせいなのかなあ?」


 飯村の返事に太郎が閉口していると、飯村のスマホに電話が掛かってくる。


「はい、飯村です。お世話になっております。はい、その件でしたらこちらからデータを送ります。はい、ではそのような方向で、よろしくお願いします」


 電話が終わると直ぐに会社にLINEを送る飯村。


「大変そうですね」

「ああ、今は投資先を拡大してる時だからな」

「それで俺の所にも次から次に仕事がコンニチワしてくる訳ですね」

「だな」


 スマホを置いてカツにかぶりつく飯村。太郎は味噌汁をすすってからまた話し出した。


「でもそれなら俺じゃなくてもいいんじゃないですか?」

「webデザイナーか?」

「はい。もちろん俺以外にも囲っているデザイナーはいるでしょうけど、何か俺に回ってきてる仕事量が多い気がするんですけど」

「ああ、それな。確かに太郎以外にもwebデザイナーの(つて)はある。投資する企業とディスカッションする時にホームページどうしますか? こちらでも出来ますけど、そちらで自前で作りますか? って聞くんだよ」

「はい」

「でその時に参考資料として見せるのが、太郎の作ったホームページなんだ」

「なんで?」


 一足先に食べ終わり、お茶をすする太郎の本音だ。


「単純に受けがいいんだよ。太郎に頼むまではもちろん違うデザイナーの作ったのを見せてたんだけど、こちらにホームページの作成以来をしてくるのは3:7ぐらいだったのが、太郎に変えてからは8:2とか9:1ぐらいになったからな。そういう細かい所でも、ウチの会社としてはきっちり儲けておきたいんだよ」

「そういうもんッスか」

「そういうもんだ」


 太郎に遅れて食べ終わった飯村が、手を合わせてご馳走さまをする。と伝票を持ってさっさとレジへ行ってしまう。


「ああ、自分の分払いますよ」

「いいよ。これぐらい奢れるっての」


 そういうと飯村は、太郎がズボンのポケットから財布出すより早く支払いを済ませてしまった。


「すいません、ゴチになります」


 トンカツ屋の店先で頭を下げる太郎。


「気にすんなよ。じゃ、仕事の件会社に帰ってからLINEで送るから、よろしくな?」

「はい、分かりました」


 そうやって別れた平日の昼間だった。

 そしてこの後飯村を見たものはいなかった。…………なんて事はなく、日常は通常運転だ。

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