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一億円当たったから彼女とだらだらしてみる。  作者: 西順


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ファミレス

 日曜の朝、太郎より早く起きた譲はキッチンで朝食の用意をしている。と言っても粉末のコーンスープをカップに注いでいるだけだが。

 太郎の朝食はいつもドライフルーツ入りのグラノーラと決まっている。それにアクセントとして温かいコーンスープを付け加えようという彼女なりの思いやりだ。

 だがそんな彼女の優しさは、一挺の拳銃によって打ち砕かれる事になった。


 カチャリ


 と金属の擦れる音が譲の後頭部でする。太郎のMk23が突き付けられたのだ。


「あらあら、おはようの挨拶も無しにそんなものを突き付けてくるなんて、少々悪ふざけが過ぎるんじゃないかしら。それとも、そうやって銃口を突き付けるのがこの家のマナーなの?」


 譲は振り返りさえせずに語る。


「悪ふざけが過ぎるのはそっちだろう?」


 太郎は歯ぎしりをしながらMk23を持つ手に力を込める。


「どういう意味かしら?」

「昨日君が眠ってから、君の素性を調べさせて貰った。叶野 譲なんて人間、世界中を捜してもこの世のどこにも居なかったよ」

「そう、知ってしまったのね私の秘密を。なら、それを知ってしまったあなたがどうなるかも分かっているのよね!?」


 言って振り返る譲の手には、しっかりとガバメントが握られていた。


「くっ! やはり俺を殺す為に送り込まれた殺し屋だったのか!」


 銃口は譲に向けたまま距離を取る太郎。


「ふふ。でもよく見破ったわ。あれだけ完璧に彼女を演じていたのに」

「だからこそだよ。君は完璧過ぎたんだ。あんな完璧な彼女、この世に存在する訳無いからね」

「なるほど。参考になったわ。次の恋人にはもう少しだらしなく接する事にするわ。じゃあ、死んでちょうだい」


 互いに銃の引き金を引く。が銃声が一発だった。

 バタリ、とその場に倒れる譲。


「な、何故だ? 何故俺を撃たなかった!?」


 そう言って譲に駆け寄り抱き上げる太郎。


「ふふ。私もヤキが回ったものね。幾多の戦場を駆け抜け、数多の要人を屠ってきたというのに…………、愛した男は殺せなかった…………。でも、私を殺してくれたのが、あなたで良かった…………。愛してるわ…………タロ…………ちゃん」

「ジョーちゃーーん!!」


 太郎の叫びは虚しく空に掻き消えていくのだった。


「いや、私ら何聞かされてるの?」


 ファミレスにて、至極真っ当な突っ込みをする三智花。

 日曜の昼食を太郎・譲、真友・智恵理、真樹・三智花で摂ろうという事になり、三組のカップルはファミレスに来ていた。


「え? だから朝食はグラノーラとコーンスープだったって話だけど」


 朝食の話になり、太郎が語った物語に譲以外ポカーンである。


「何で朝食の話が殺し合いに発展してんのよ?」

「え? 皆やらないの?」


 太郎に対して譲以外顔を横に振る。


「普通そんな事やらないわよ。っていうかそんな事やってきたら速攻で別れるわ」


 三智花に断言されてショックを受ける太郎。譲の方を見れば、ニコリと笑っている。


「大丈夫! タロちゃん! 今朝も面白かったよ!」


 譲の発言に、ああ、似た者カップルなんだなあ、と思う四人だった。


「しかし普通はやらないのか。…………普通、とは?」

「また、変な事考えてるし」


 と突っ込む三智花に太郎が反論する。


「いやいや、大事だろ。普通というとイメージとしては中ぐらいだ。中ぐらいというと中産階級だろう。衣食住足りて幸も不幸もそれなりだ。大当たりでもなく大外れでもない」

「時代でも変わるんじゃないか?」


 と話に入ってくる真友。


「江戸時代と今とじゃ生活がまるで違うんだ、その頃の普通と今の普通は違うだろ。もっと言えば海外と日本との違いだってある」

「そうだな。中産階級が普通というのも定義し直した方が良いかもしれない。中産階級が現れたのは近代の産業革命以降な訳だし」


 呆れる三智花と太郎が楽しそうなのでニコニコしている譲を横目に、語らう男二人。


「統計学だと平均値もそうですけど、標準偏差というものがありまして…」

「マーくんは話に入らなくていいから!」


 自分の彼氏がこの話に参入しようとするのを慌てて止めに入る三智花。顔が真っ赤である。


「もう、恥ずかしい」


 顔を覆う三智花と「そう?」と平然としている譲に、智恵理はというと、


「あ、話終わりました?」


 一人ドリンクバーに行っていたりする。


 六人の前にハンバーグやらパスタやらサラダなどが次々置かれていく。

 それぞれ自分の頼んだものを食べながら、話は来週末をどうするか? という流れに。というのも来週末は三月末、丁度桜も満開になって見頃だからだ。


「パス」

「パス」

「パス」


 真友の提案に、太郎、三智花、智恵理がNOを突き付ける。


「何故?」

「花粉症の人間に外で花見とか拷問か?」


 太郎の言に三智花、智恵理も頷く。


「あれ? ミッチー花粉症じゃなかったよね?」


 不思議がる真樹。譲も首を傾げていた。


「ついこの間発症したのよ」


 うわあ~、と憐れむ真樹と譲。太郎と智恵理は逆にいらっしゃい、と慈愛の目をしている。


「なんだよ、三組カップルいて、もれなく片方花粉症って、どんな法則だよ」


 不満顔の真友だが、直ぐに笑顔を取り戻す。


「いい酒があるんだけどなあ。仕方ない。一人で呑むかなあ」


 こんな見え透いた一人芝居に誰が乗るのか。


「仕方無いわね。来週の日曜で良い訳?」


 三智花が乗ってきた。智恵理も頷いている。二人ともどうやら相当に酒好きのようである。

 三智花が出席するとなると、その彼氏の真樹ももれなく出席となり、友人の譲も当然出席だ。となれば、


「分かった。出るよ」


 五人の視線を一挙に集め、太郎にYES以外の選択肢が無かったのは言うまでもない事だ。

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