初詣
明けて新年元日。
譲の実家、玄関前にて、太郎は胸を押さえて深呼吸していた。
「大丈夫よ。私の家族だもの、タロちゃんのこと受け入れてくれるわ」
「だといいんだけど」
いまだに緊張の面持ちの太郎をよそに、譲はガチャリと玄関のドアを開けた。
とそこに仁王立ちする譲パパの姿があった。
「貴様を呼んだ覚えはない! 帰れ!」
何とも辛辣なお言葉と共に閉められる玄関のドア。
「…………」
「…………」
「じゃ、俺はこれで」
「ちょちょちょ、何かの間違いだって」
帰ろうとする太郎を譲が必死に引き止める。すると再び玄関のドアは開けられた。そこには譲ママの姿があった。
「いらっしゃい。今のちょっとしたジョークだから、上がって上がって」
にこやかに言われ、そっと心の中で胸を撫で下ろす二人だった。
「あ、これ佐藤屋の栗羊羹です」
太郎はお土産として持ってきた栗羊羹を譲ママに差し出す。
「え? そんな気を使わなくていいのに。でもありがと。好きなのよ。ここの栗羊羹」
知っている。お土産を持っていくというのも譲のアイデアなら、佐藤屋の栗羊羹を選んだのも譲だからだ。
二人が居間に行くと譲パパともう一人、弟の也哉くんがこたつに入って寛いでいた。
「いやあ、さっきは悪かったねえ。あ、これおせち、食べて食べて」
先程とは打って変わって朗らかな笑顔でおせち料理を薦めてくる譲パパ。
(ホントにさっきのはジョークだったんだな)
そう思いながら太郎は譲と共にこたつに入った。
と也哉くんと目が合った。何となくお互い照れてお辞儀だけして特に会話は無い。
「さ、おせち食べて食べて」
とデパートで買った重箱入りのおせちを薦めてくる譲パパ。
「おお。こんな贅沢なもの、俺が食べちゃっていいんですか?」
「当然だろ。今日の君はお客様なんだから」
そう言われて伊達巻きに手を伸ばす太郎に、譲パパが質問してくる。
「そういえば太郎くん? だったかな。仕事は何をしているんだい?」
「あ、今は無職です」
「帰りなさい」
「え?」
今にも伊達巻きを口に入れようとしていた太郎の口から、思わず本音がポロリと漏れ、それを聞いた譲パパからまたも辛辣なお言葉が出てくる。
「パパ!」
声を上げる譲だが、ここは譲パパも引かない。
「しかし無職だぞ? さすがに無職の男と娘の交際を認める訳にはいかんだろ? どうせ金も無くて譲に泣きついているんじゃないか?」
「一億です」
「は?」
「え?」
太郎の言葉に譲パパだけでなく也哉くんまで声を漏らす。
「宝くじが当たったんで、貯金なら一億円あります」
太郎を凝視していた譲パパと也哉くんの視線は、次第に譲に移っていった。そんな二人に対して頷きで返す譲。
「な、なんだ。それならそうと先に言いなさい。あ、おせち食べて食べて」
そう言われてやっと太郎は箸で持ったままだった伊達巻きを口に入れることができたのだった。
「で、二人はいつ結婚するんだい?」
口の中の伊達巻きを吐き出しそうになる太郎だった。
元日の神社は人で溢れ、列は遅々として進まない。
そんな中、男三人、女二人で列を進んでいた。男三人がゲームの話で盛り上がっている後ろで女二人の会話というと、
「そう太郎くん今無職なの」
「ちょっと繊細過ぎるのよ太郎は。それで会社で色々抱え込んじゃって。だから一億円当たった時に私の方から言ったの」
「そう。でもこのままって訳にもいかないでしょ? 今の時代何があるか分からないもの。お金は多いに越したことはないわ」
「それは、……そうだけと」
何とも不安そうな目を太郎に向ける譲だった。
その日の夜、太郎宅にて。
「俺、ジョーちゃんの家族とやっていけそうな気がする!」
「そ、そう良かったわタロちゃん」
嬉々として今日のことを話す太郎と対照的に、譲は曖昧な返事しか返せなかった。




