ホワイトデー
ホワイトデーとは、ブラック企業の横行する日本社会に、一石を投じる為に結成されたNPO法人「オセロー」が、ホワイト企業の周知と理解、また多くの企業がホワイト企業になってくれるよう働きかける目的で、日本記念日協会に提出し、制定された日の事である。
3月14日に制定された理由は、この時期多くの企業で春闘が行われるからであり、現在ではこの日にブラック企業の前をデモ隊が行進するのが春の風物詩となりつつある。
え? バレンタインデーにチョコを貰ったお返しをする日? 何の事だろうか? もし仮にそうなら、日本男性の99.9%が貰えなかったからお返ししなくていいぜ! やっほー! と言いつつ心で涙する日と言い換えた方がいい。
叶野 譲は困惑していた。
ホワイトデーに彼氏の家に来てみれば、バレンタインデーのお返しだと言って、太郎は自室から大きなAmazonの段ボールを持ってきたのだ。
こたつのテーブル幅ぐらいある大きな段ボール。ラッピングもされていないのは少々残念だったが、中身は何だろう? とワクワクしながら譲が蓋を開けると、中に入っていたのは大量のマスクだった。
「ええと、これは?」
「マスクだよ」
訊くまでもない事を答えてくれた。満面の笑みの太郎に、譲はそれ以上突っ込みを入れられなかった。
理由は分かる。つい先日自分がインフルエンザに罹ったからだ。それを思えば大量のマスクというのも頷けた。
しかし多いなあ、と手に取ってみると、いくつかパックになっているのだが、それぞれメーカーやデザインが違う事が分かった。
ピンクのものに花柄は当然として、他の色のもあるしヒョウ柄やゼブラのような動物柄のもある。人の口が描かれたモノも結構あった。中々面白いかもしれない。
「ふふん、凄かろう。全部で365枚。一年分あるからね」
なんて無駄な事に労力を割くのだろう。だが太郎のそういう所が嫌いじゃない譲だった。
「わあ、ありがとう! じゃあこれウチに送っておいてね?」
「え? あ、お、おう」
譲に言われて明らかに動揺する太郎。テーブル一杯の大きさの段ボール。いくら中身がマスクで軽いとはいえ、これをえっちらおっちら近くのコンビニなり宅配便の店まで持っていくのは骨が折れる。
とは言え彼女にお願いと言われればやるしかない。何だか今さらながらこれを運んでくれてきた宅配便のお兄さんに申し訳ない気がしてきた。
「ふふ。冗談よ。段ボールはタロちゃんの家に置いといて。中身を少しずつ自分の家に持って帰るから」
言われてホッとする太郎をニヤニヤ見遣る譲だった。
「じゃ、とりあえずこれ一端片しちゃうね」
言って太郎は部屋の隅に段ボールを置くと、代わりにテーブルにカセットコンロを置く。
「え? まさかマスクで終わりじゃなかったの?」
「まさか。ジョーちゃんだってバレンタインに料理してくれただろ? だから俺も料理」
「料理? 危険よタロちゃん」
驚きつつも譲は諭すように手を組み、目で太郎に訴え掛ける。
「大丈夫だよ、鍋だから。知らないのかい? 鍋は適当に材料切って鍋にぶち込むだけで完成するんだぜ?」
と水の張られた土鍋をキッチンから持ってきてコンロの上に置く太郎。
「鍋! その手があったのかあ」
一本取られたとでも言いた気に頭の後ろで手を組む譲。
更に運ばれてくるぶつ切りにされた野菜と肉達。肉は譲が好きな鶏肉だ。
「ええと、確かダシ入れて」
太郎は顆粒ダシを鍋に入れると、そこに肉と野菜をぶち込み火を点ける。
「やるわねタロちゃん」
「ポン酢もちゃんと用意しているぜ」
「くっ、完璧かよ」
やられた、とテーブルに手を付き頭を下げる譲だった。
鍋は変な味になる事もなく、〆に雑炊まで出されて完璧にノックアウトされる譲。二郎にもたれかかり満足そうな顔をする譲を横目に、太郎が空になった鍋を片していく。
片し終わりテーブルをウエットティッシュで拭き終わると、今度は三つの箱がテーブルに置かれた。
今度のは段ボールではなくラッピングされている。
何事か? と譲が太郎を見れば、
「ああ、ついでだよ。マスクだけっていうのも味気ないと思って、小物をちょっとね。だから期待しないで」
そう譲に言い残すと、太郎はキッチンで洗い物を始めてしまった。
何だろう? とあまり期待せずに大中小とあるうち、小の箱を開けて見ると、時計である。
おおお、と一気に自分のテンションが上がるのが分かる。がそのチョコレートカラーの時計を持ち上げると違和感が。スンと香ばしい匂いが譲の記憶からこの物体が何か判断する。
(チョコだわ!? これ!)
それは文字盤まで見事に再現されたチョコレートそのものだった。驚くとともに壊さないようにそっと箱に仕舞い直す譲。
興奮するのを抑えながら次に大の箱を開けてみる。可愛らしい白いくまのぬいぐるみである。
おおお、と手に持つと粉が付いてくる。その白くまはマシュマロで出来ていた。
(これも食べ物なんだ)
ふわっふわのくまを箱に戻し粉を払い、最後に中の箱を開ける。中に入っていたのは、美しいガラスの靴だった。
おおおお! と手に取って様々な角度から眺めた後、匂いを嗅いでみる。
(アメだわ! ガラスの靴じゃなくてアメの靴なんだ!)
一人興奮する譲の所に、太郎が洗い物を終えて戻ってくる。
「どうだった?」
「最高よ!! タロちゃん愛してるわ!!」
大興奮の譲の笑顔に太郎もニヤニヤが止まらなかった。
「でもどうしよう? 食べるの勿体ない」
「ガラスの靴は結構日持ちするみたいだよ」
「ホントに?」
「うん、直射日光さえ避ければ」
「ああ、アメだもんね。じゃあもって1ヶ月ぐらいかなぁ」
「かな」
とりあえずその日は白くまマシュマロを食べ、時計と靴は後日となったのだった。




