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一億円当たったから彼女とだらだらしてみる。  作者: 西順


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作戦会議

 ヘッドショット。

 銃砲などによって人体の頭部を撃ち抜く行為。

 警察では人質の救出優先や時限装置の起動阻止の為に、犯人を一撃で仕留める必要から重要視され、猟師の間では獲物を苦しめるのは猟師の恥とされる為に重要視されている。

 ただし戦争などにおいては、その的の小ささから頭部よりも確実性の高い胴体を狙う事を重視されている。

 FPS(一人称視点)のアクションゲームやシューティングゲームでは、その難しさから高得点とするゲームが多く、高レベルプレイヤーになるには、いかに素早くヘッドショットを撃てるようになるかが肝要とされる。


 枯石は高台から眼下を通る二台の車、前方のバギーと後方の軍用ジープを見詰めていた。

 腹這いになり、スナイパーライフルの名銃レミントンM700に据えられた、高性能スコープから覗けば、幾分か顔が判別出来る。

 前方のバギーに乗るのが山本で、それを追い掛けるジープに乗るのが相田だ。

 蛇行しながら相田の銃撃をなんとかかわす山本。

 その山本に一発の銃弾が撃ち込まれる。枯石が放った一発だ。

 それは蛇行運転で狙いが定めづらい山本の頭部に命中し、一発で山本を絶命したらめた。

 前方で起きた異常にジープは急停車し、相田がそろりと出てきた所を、ボルトアクションで排莢、充填した枯石の次弾がドンッと一発、相田の頭を貫く。

 事切れた二人に「ふう」と、枯石が嘆息した瞬間だった。


 ダンッ!


 枯石の頭を撃ち抜く銃弾。叶野のスナイパーライフルMSG90が枯石を仕留め、このデスゲームの幕を引く。


「らしく無いッスね」


 勝ったというのに也哉はどこか憮然としている。

 太郎程のプレイヤーならば、也哉が高台に来た時点でその気配に気付いて何かしら対応してくるものだと思っていたが、あっさりヘッドショットで負けたのだ。

 調子が悪いのか? と太郎の方を見遣れば、目を潤ませていた。


「え? ちょ、何で涙目なんですか?」


 年上の大人の男がゲームで負けて泣きそうなのだ、それも居酒屋の個室で。21の也哉は同様せずにいられる訳がなかった。


「いや、ジョーちゃんの事を思うと自然と涙が」


 太郎の言に得心する也哉。本日也哉の姉、譲はインフルエンザで自宅療養しているのだ。太郎は今日也哉に会うなりしきりに譲の容態を尋ね、自分の風邪が伝染ったのではないか、とおたおたしていた。

 風邪とインフルエンザは違う病気なので伝染る訳ないし、最初期に病院に行ったので、実際の所はインフルエンザは小康状態となり、譲は家でピンピンしていた。そう話しても太郎の心配は薄れなかったが。

 伝染るといけないから、とわざわざ家まで見舞いに来た太郎を、譲ママが譲に会わせずに帰したのも影響しているのかもしれない。


「騙されるなよ也哉。太郎は単に花粉症で目ぇうるうるの頭ボーッとしてるだけだからな」

「え? そうなんですか?」


 もう一度太郎を見れば、透明な鼻水をすすっている。危うく騙される所だった。と太郎を白い目で見れば、


「ジョーちゃんを心配してるのはホントだよ。花粉症もホントだけど」


 本音を白状した太郎に嘆息する也哉。

 大人というのはもっと落ち着いた雰囲気を醸しているものだと思っていたが、眼前の三人は大学生の也哉と一緒になってゲームを楽しんでいる。思っていた大人像とイメージが違う。と思う也哉。だからといって三人に悪い印象はないが。


「ってゲームじゃなくてホワイトデーの情報交換じゃなかったっけ?」


 太郎が旗色が悪いと思ったのか、話題をホワイトデーに切り換える。


「そうだったな。って言ってもウチはアクセサリーだろうな。指輪にピアスにネックレス。あとブレスレットもかな。ティファニーでこの四つ買って、って感じだよ」

「おお、ティファニー。俺でも聞いた事あるぜ」


 直ぐ様スマホで調べる太郎。それを横から覗く也哉。出てきた金額に、ちょっと引いている。


「貰ったのゴディバのチョコだろ?」

「ああ」

「それってそんなに高いのか?」


 太郎に突っ込まれて顔を背ける真友。それ以上訊くな。という意思表示のようだ。調べてみれば、10倍から100倍の開きがあった。生暖かい視線が真友に送られた事はいうまでもない。


「はい、次! 次!」


 自分に向けられた視線に耐えきれなくなった真友が真樹に話を振る。


「僕ですか。僕はレストランを予約しています」

「おおお」


 三人が感嘆の声を上げる。


「ミッチーって美味しい料理が好きなんです。自分で作るのも好きだし、どこか食べに行くのも好きで、だから奮発して予約の取り難い高級店を頑張って予約しました」

「おおおお!」


 三人が感嘆の声を上げる。


「あの日下に」

「あの日下相手に」

「いや、前から思ってましたけど、ちょいちょい僕の彼女ディスってません?」


 真樹から顔を背ける太郎と真友だった。


「じゃあ次、也哉くん」

「え? 俺ですか?」


 三人の大人が大学生の恋愛はどんなものか、と期待の目を也哉に向ける。


「俺はスゴいッスよ」

「マジか?」


 太郎が生唾を飲む。


「俺、バレンタインにフラれたんですよねぇ。「他に好きな人が出来たから、今から告白してくる」って」


 うう〜ん、確かにスゴいけど、そうじゃない。と言いたいが言えず、ドンマイと太郎が也哉の肩を叩く。


「ああもう! 何が悪かったんだろうな? 結構尽くしてたんだけどなあ」


 也哉は尽くすタイプだったらしい。

 頭を抱え一人で悶々としている也哉を横目に、真友が太郎に尋ねる。


「で、太郎はどうするんだ?」

「う~ん、普通にチョコか何かお返ししようと思ってたんだが、二人の聞くとなぁ」


 腕を組んでうんうん唸る太郎に、


「いいんじゃないか?」

「いいと思いますよ」


 二人の感想は素っ気ない。


「まあ、ウチの姉ちゃんなら枯石さんから貰ったモノなら何でも喜ぶと思いますよ」


 弟の也哉も呑気なものである。


「とりあえず、可愛い風邪対策グッズでも贈ろうかな」

「いや、そんなのないだろ」


 スマホで調べ出す太郎に真友が突っ込みを入れるが、


「お、あった」

「あんのかよ?」


 あるらしい。


「可愛いマスクだって」

「ああ〜」


 納得いく三人。


「あと、加湿器」

「ああ〜」


 納得いく三人。


「加湿器いいじゃん」

「ダメだ」

「何で?」


 真友の加湿器案、真樹と也哉は同意をみせたが、太郎は直ぐに却下した。


「加湿器はクリスマスにもうプレゼントしてる」

「お前、クリスマスに加湿器プレゼントしたのか?」

「ジョーちゃんの希望だったんだよ、アロマのいい香りのするやつ」

「ああ、あれですか。姉ちゃん、いつも使ってますよ」


 也哉にそう聞かされて嬉しそうな太郎。


「じゃあどうするんだ?」


 真友に話を戻され、またうんうん唸る太郎。


「う~ん、とりあえずマスクは決定で、あとなんか調べてみる」


 太郎のなんとも締まらない提言で、この場はお開きとなったのだった。


 その後、譲ママからのLINEで、『インフルエンザが伝染るといけないから、家に帰ってこないで友達の家に泊まりなさい』と来た也哉を見兼ねた太郎が家に泊めてあげるのだった。


「枯石さん」

「なんだい?」

「兄貴って呼んでいいッスか?」

「よきに計らえ」

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