男三人飲み会(ゲーム付)
だだっ広い草原に男が一人立っている。
手に持つのはスカーHと言う最新のアサルトライフルだ。
そんな強力な銃を持っているというのに、男の動向は忙しない。
常に周囲を警戒し、風の音にさえ銃口を向ける。それほどに男は追い詰められていた。
男の名は山本 真樹。この草原で二人の男とのデスゲームを強いられた商社マンだ。
一人は既に死んだ。瞬殺だった。相田 真友とは知り合ってまだ間もなかったが、気さくな良い人だったと記憶している。
そしてもう一人が相田とは長年に渡って親友とも呼べる友人関係を培ってきた男、枯石 太郎だ。
枯石はこのデスゲームの開始と同時に、持っていたAK47で相田を殺害すると、その姿をくらませた。
この見晴らしの良い草原のどこに隠れる場所などあるのか、と疑って見たところで、枯石が姿を消した事実は変わらない。
枯石がいつ襲ってくるのか分からない状況に、山本の心臓はさっきから早鐘のように煩く鳴りっぱなしだ。
ガサリッ
山本の後ろで何か音がした。山本は素早く後ろを向くと同時に銃を構え、
ダダダダダダダダダダダダ………………
7.62ミリ弾を音のした場所に撃ち込む。
「はあ、はあ、はあ」
呼吸を整え、撃ち尽くしたマガジンを交換して銃を構え直し、音のした場所にジリジリと近付いていく。
「嘘だろ!?」
しかし音のした場所には何もなかった。
じゃあどこにいるんだ!? と周囲を索敵しようと振り返った直ぐ目の先、手を伸ばせば届きそうな、いや実際届く距離に枯石がいきなり現れた。
「うわあ!?」
驚きながらも銃口を枯石に向けようとする山本。しかし銃身を枯石の左手で払われ、代わりに右手に持つAK47を自身の腹に押し込まれる。
ニヤリと笑う枯石が、山本の見た最期の景色だった。
「負けたー!」
真樹は持っていた携帯ゲーム機をテーブルに放り投げ、座敷にバタリと倒れ込む。
ここは居酒屋の個室。トリプルデートで仲良くなった太郎、真友、真樹の三人は、日を改めて三人で飲み会を開いていた。
「太郎さん強すぎッスよ~」
年末に発売されたガンシューティングアクションを三人でプレイしていたが、今の所太郎が一人勝ちしていた。
真樹も真友も課金して、それなりに強い装備を手に入れているというのに、初期装備であるAK47を使う太郎にいっこうに勝てないでいるのだ。
「ふっ。君らとは年季が違うのだよ」
格好よくアゴに手を当て決めポーズを取る太郎に、
「いや、カッコつけてるけど、それ無職で他にやる事無いからゲームばっかりしてました、って宣言してるだけだからな」
と真友の冷静な突っ込みが入る。
「そういう正論は俺に一度でも勝ってから言ってくださーい」
「クソー、完全に調子に乗ってやがる」
ジト目で太郎を見ながら、ビールをあおる真友。杯が空になったので、廊下を通る店員にビールのおかわりを頼む。
「太郎さん、もう一回しましょう」
「懲りないねー、真樹くんも」
言ってゲーム機を構える太郎と真樹。
「ああ、俺はいいや。だって勝てないんだもん」
真友は手を振って参戦を拒否。
「なんだ。次は俺の愛銃ソーコムMk23で相手しようと思ってたのに」
「それハンドガンじゃないですか」
太郎の言に真樹から文句が出る。
「っていうかお前ガバメント派じゃなかったか? エアガンも持ってたし。いつからMk23に鞍替えしたんだよ?」
真友の突っ込みに太郎が溜め息を吐く。
「ガバメントはジョーちゃんに取られた」
「ああ」
察する真友と真樹。
「Mk23は取られなかったんだ?」
「Mk23はデカイからな。手に馴染まなかったんだろ」
「ああ」
察する真友と真樹。
「良いですねエアガン。でも高くないですか?」
真樹の問いに太郎はコーラハイを飲みながら頭を横に振る。
「それはあれだ、ガスガンとか電動ガンなんかだな。俺が持ってるのはエアコキって言って、手動の一番安いやつだから」
「へえ、エアガンにも色々種類があるんですね」
「まあサバゲーやろうと思ったら弱いけど、お座敷シューターの俺にはエアコキで充分だよ」
なるほど。と頷きつつ真樹はサングリアをゴクリ。
「でもさすがにハンドガン対アサルトライフルじゃ火力に差がありすぎじゃないですか?」
「ほほう?」
「これで負けたら、俺このゲーム辞めますよ」
「良かろう。引導を渡してしんぜよう」
2分後、ベッドショットで一撃でやられた真樹の姿があった。
ポリポリと何やら無心になってフライドポテトを食べる真樹。ハッと何かに気付いたように話題を振る。
「そういえばそろそろバレンタインですね」
「ああ」
「お二人はどうなんですか? デートの予定とか…」
「いや、全然。太郎は?」
「ウチも。だって今年平日だろ? ジョーちゃん普通に仕事だからなあ。真樹くんは振ったって事は何か予定が?」
「一応レストランでディナーなんぞを」
「フウー」
「ヒューヒュー」
いやいや、と照れながらも満更でもない顔の真樹。
「いやぁ、ありがたいですよ。毎年手作りのチョコとか貰っちゃって」
「手作り!? あの日下が!?」
「嘘だろ?」
「本当ですけど?」
驚く二人に何が不思議なんだ? と言う顔の真樹。
「いや、だってあの日下だよ?」
「はい」
「…………」
「…………」
「…………」
「人は見た目に寄らないものだな」
「そうだな」
「どういう意味ですか?」
目を反らして酒の入った杯を空にする太郎と真友。
「料理得意なんですよミッチー。今度食べに来て下さい」
「遠慮します」
二人の声が揃っていた。不満気に嘆息する真樹。
「お二人の彼女さんはどうなんですか? 料理」
言われて顔を見合わせる太郎と真友。互いに苦笑いを浮かべる。
「ウチは…………去年のバレンタインはゴディバのチョコだった」
それ以上は触れるな。と何やら無言の圧力を感じ、真樹は太郎に話を振る。
「ウチはどおだろう? チョコを湯煎とか言って、お湯をチョコにぶっかけそうだからなあ」
「どんな人なんですか?」
真樹の突っ込みに押し黙る太郎。
「でも叶野さん、彼女検定3級なんだろ?」
「え? 何ですか彼女検定って?」
真友の振りに食い付く真樹。
「太郎の彼女は彼女検定を突破して彼女になった、正式な彼女…………という設定」
「へえ、面白いですね」
「だろ?」
ドヤ顔の太郎。
「なんなら真樹くんの所でも採用していいんだぜ、彼女検定」
「え? いやあ、ウチはそういうの間に合っているので…」
やんわり断られる太郎だった。
「3級でもチョコは難しいのか?」
「今2級ね。こないだ二人で頑張ってカレー作った。って言えばレベルが分かるか?」
「ああ」
察する真友と真樹。
「となると彼女の手料理の代名詞、『肉じゃが』なんて夢のまた夢だな」
真友の言に真樹が頷く。
「肉じゃが? いやいや、そんな空想上の料理を出されましても」
「いやいや、何言ってんだは太郎だろ? お前いつもウチ来てお袋の肉じゃが、美味い美味いって食べてただろ?」
真友にそう言われ、首を傾げ腕を組む太郎。思い出されるのは、確かに肉とじゃがいもが入った料理だ。
「ある…………確かにあるぞ! 俺、肉じゃが食べた事ある!」
「やっと思い出したか。俺ん家じゃ太郎の大好物って認識だぞ?」
「確かに! 俺あれ、大好きだわ! いや、でも、お惣菜の肉じゃが買って食べた事あるけど、味が違ってたぞ?」
「ああ、ウチの肉じゃが、豚じゃなくて牛だからな」
「なるほど…………。ああでも思い出したら食べたくなってきた! どうしようこの気持ち? おばさん作ってくれないかな?」
「それ、頼むの俺なんだろ? 嫌だよいい大人になってそんなの頼むの」
「うぐぐぐ……」
悶々としながら太郎の杯は進み、お開きの頃には一人で歩けない程に泥酔し、二人に抱えられながらもタクシーに押し込まれた太郎だった。




