節分
「タロちゃん」
「何? ジョーちゃん」
「私が鬼の星『カノジョ』から来た鬼のプリンセスだって言ったら驚く?』
いつものように太郎宅にてこたつに入り、譲は白くまの二郎に寄り掛かりながらタブレットで電子書籍を見ていた。
同じく黒くまの三郎に寄り掛かりながら電子書籍を読む太郎は、譲の突拍子も無い発言にも、電子書籍から視線は外さない。
「それは驚きだね。もしかしてどこだか分からない方言とか言う感じ?」
「だっちゃ」
共に電子書籍から目を離さず会話は続く。
「実はそれだけじゃないの」
「何だって?」
「実はこうしてタロちゃんの前では女の姿でいるけど、お湯を被ると男になって、水を被ると女になるの」
「なんてこった。じゃあ譲のパパさんの正体はパンダなのかい?」
「ええ、しかもそれだけじゃないの」
「まだあるって言うのか?」
「実は井戸から戦国時代にタイムスリップして犬の半妖と冒険を繰り広げたり、死神のような仕事をしている少年の手助けなんかもしているのよ」
「なんてこった。じゃあここのマンションの大家さんは未亡人で浪人生と恋仲だって言うのか?」
「ええ、その通りよ」
以上の会話を電子書籍から目を離さずにする二人。会話は続く。
「ジョーちゃん」
「何? タロちゃん」
「俺が右手に銃を仕込んだ宇宙海賊だって言ったら驚く?」
「タロちゃんがそんな男の中の男だって事は気付いていたわ。でも、それがバレたら世界中、いえ、宇宙中の女が黙ってないから言えなかったの」
「ジョーちゃん…………。心配しなくたって、俺が好きなのはジョーちゃんだけだぜ!」
「タロちゃん…………、ちょっと待ってLINEが来た」
なんとも締まらない最後だった。
「誰?」
「ミッチー。今度の休みにタロちゃんとミッチーの彼氏さんを加えて2・2でドライブデートしないかって」
「えええ?」
露骨に嫌そうな態度で横になる太郎。
「何でそんな……、面倒臭い」
「結婚する前に友達紹介したいみたい」
「俺日下ともまともに話せないのに、その彼氏となんて話す事ないよー」
「そこをなんとか、お願い出来ない?」
太郎にとっての真友のように、譲にとって三智花は友達の中でも特別だ。三智花にとってもそうなのだろう。だからこその顔合わせなのだ。
とそこに太郎の方にもLINEが来る。相手は三智花だ。そういえば前に会った時に無理矢理LINEのアドレスを交換させられたのを思い出した太郎。
嫌な予感しかしないが、内容を見てみると一言、『無職で暇だろ来い!』と書かれていた。
たった一言でうんざりさせられる太郎だった。
当日。天気は快晴、冬晴れである。絶好のドライブ日和と言える。
レンタカーのワゴン車の前には男女6人が居た。
もこもこで暖かそうだがシャレっ気の無い太郎と譲。一方まさに冬のデートと言った出で立ちの三智花とその彼氏である、山本 真樹、マーくん。それにいつものユニクロの真友に、その彼女の寒くないのその格好? と言いたくなる程胸元と脚を出した格好の鈴木 智恵理である。
何故真友・智恵理カップルがこの場に居るかと言えば、太郎がごねたからだ。
絶対三対一になると思った太郎が、真友を呼んだ。智恵理まで付いてきたが、これで少なくとも一人になることはなさそうだ。と太郎は安心していた。
「ある日本人の旅行者が、アメリカのレストランで美味い料理に出会った。これは是非とも料理人に直接感謝を述べたいと、ウェイターに「料理人を呼んでくれ」と頼んだら、そんなものは居ないと言う。そんな訳ないだろ。「料理人を呼んでくれ」ともう一度言うと、ウェイターは怒って、「営業妨害で警察に通報するぞ!」と脅してくる。怯えた旅行者が「俺は料理人を呼んで欲しかっただけなのに」と言うと保安官が駆けつけてきて旅行者は逮捕されてしまったとさ」
車の中には暖房がかかっているはずなのに、寒い空気が吹き抜けていく。太郎の小話はドン滑りだった。ただ一人譲だけが肩を震わせ笑っている。
「料理人がゴキブリで料理人が保安官っていう事なんだけど…………高等過ぎたかな?」
「いや、高等とかどうでもいいわ。まさか面白い話してって振ったら、アメリカンジョークが返ってくるとは思わないでしょ?」
太郎に対して冷静に突っ込みを入れる三智花。
「え? そうなの?」
「はあ。普通こういう時ってさ、日常の面白い一コマを切り取って話すもんでしょ?」
もんでしょ? と言われても、それは三智花の常識であり太郎の常識ではない。現に譲は太郎の話で笑っている。自分から面白い話はないかと振っておいて理不尽だなぁ、と思う太郎だった。
「大体、何であんたが助手席に座ってるのよ?」
ワゴン車の中では運転する真友、助手席に太郎、三智花、真樹が中間席で、譲と智恵理が後ろの座席だ。
「太郎は直ぐに車に酔うからな」
運転席の真友がフォローを入れる。
「知らないわよそんなの! だったら自分で運転しなさいよ!」
「俺免許持ってない」
「使えねー」
ヒドイ言い様である。横の真樹がちょっと引いている。
「ほら、後ろの席の智恵理ちゃん、つまらなすぎてスマホいじってるわよ」
それはなんだかすまない、と思う太郎に真友が、
「いつもあんな調子だから気にするな」
と言ってくれた。
「とにかく直ぐに席代わりなさい!」
「いや、ここ高速なんだけど」
「だったら次のサービスエリアで代わりなさい!」
「…………はい」
押しきられる太郎だった。
サービスエリアにて、トイレに行った女性陣を待つ太郎たち男性陣。太郎と真友の手にはホットの缶コーヒー、真樹はホットココアだ。
「こういう所の女性トイレってどうして長いんだろうな」
真友の言に太郎と真樹が頷く。
「山本くん、だっけ?」
「あ、はい」
真友に返事をする真樹はどこか緊張している。
「どこで働いてるの?」
「外資の商社です」
「おお、エリート!」
「いえ、そんな僕なんて。相田さんの方が、その年で社長なんて凄いですよ!」
二人の社会人らしいやり取りに、なんとなく入っていけない太郎は、缶コーヒーで冷たくなった手を暖めていた。
「あの、枯石さん」
不意に名前を呼ばれ真樹の方を振り向くと、真樹が太郎に頭を下げている。
「え? 何? どういう事?」
訳が分からず困惑する太郎に、
「今回は友人がご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした!」
謝る真樹。
どういう事かと太郎は真友の方を見遣るが、真友も分かってないらしい。
「あの、僕、枯石さんが殴った部長とは大学からの友人でして、本当に、この度は申し訳ありませんでした!」
ああ、なるほど。と得心する太郎と真友。
「良いよ。っていうか君関係ないよね?」
「それはそうなんですが、枯石さんには一度会ってちゃんと謝っておきたかったんです。それでミッチー、三智花に無理にスケジュール作って貰って」
なるほど、今回のデートにはそういった裏があったのか、とまたも得心する太郎。
「山本くんだっけ?」
「はい!」
「伊集院光のラジオと、久米田康治の漫画は好きかい?」
「はい! 中学から大好きです!」
間髪入れずに返事をする真樹に、スッと手を差し出す太郎。それに応えるように真樹は固く握手をする。その上に載せられる真友の手。三人の男の友情が成った瞬間だった。
その後女性陣と合流し、仲良くなりすぎの三人にちょっと引かれたりしながらも、その日のトリプルデートは成功に終わった。
太郎は車酔いでぐったりだったが。




