大晦日
「ジョーちゃん」
「何? タロちゃん」
「愛してるよ」
「私も愛しているわ。手加減しないけど」
男の名前は枯石 太郎。女の名前は叶野 譲。二人は恋人である。
大晦日に愛を語らう二人。何をしているかというと、大掃除……ではなく対戦ゲームだ。
こたつに入りテレビに向かい、神妙な面持ちをした太郎の目に映るのは、絶賛彼女にハメ技食らわされてボコボコにされている自キャラの姿である。
「チッ」
「え? 今彼女に舌打ちした?」
「まさか。気のせいでしょ?」
「そう」
10分後。
「タロちゃん」
「何? ジョーちゃん」
「愛してるわ」
「俺も愛してるよ。手加減しないけど」
譲の目に映るのは、自キャラに向かってハメ技を繰り出す太郎が操る同キャラだった。
「チッ」
「え? 彼氏に舌打ちした?」
「まさか。気のせいでしょ?」
「そう」
一時間後。
「お昼どうする?」
もうすぐお昼時。譲が太郎に尋ねる。
「マックでよくね?」
「ナイスアイデア」
二人はゲームのコントローラを置くと、外へ出る為に上着を羽織る。
「どうせだから帰りにスーパー寄って、晩御飯用のお蕎麦と天ぷら買ってこようか」
「え? 何そのザ・大晦日みたいな晩飯? そんな意識高い系の晩飯、俺が食べちゃっていいんですか?」
「私が許そう」
腰に手を当てる譲。
「ははあ」
まるで神にでも拝むかのように土下座する太郎だった。
「…………」
「…………」
「こういうの、止め時分かんなくね?」
「分かる」
太郎に激しく同意の譲だった。
マックにて。
「何かミッチー来年彼氏さんと結婚するんだって」
「大晦日にその話?」
「いや、催促してる訳じゃないよ。私もまだ結婚は早いと思ってるし」
何となく心の中で胸を撫で下ろす太郎だった。
「んで、その話をウチの親にしたら、今度彼氏連れて来いって話になってさ。タロちゃん、お正月はウチの家族と初詣行くから」
「マジ?」
「マジ。決定事項ね」
外から帰って来て、やることといったらゲームである。
「いやいや」
「またまた」
何故か同キャラで牽制し合う二人だった。
茹でたお蕎麦に天ぷらを載せただけのものが食卓に供される。おかずはスーパーで買った出来合いだ。
「マジかよ。こんなの出来ちゃうとか彼女力ハンパなくね?」
「ふっ、我が彼女力の前に屈するがよい」
「くっ、これが戦闘力10万の彼女の力か!」
「…………」
「…………」
「さ、冷めないうちに食べちゃお」
「そうだね。頂きます」
お蕎麦も出来合いのおかずも、普通に美味いものである。
除夜の鐘が何処かで鳴っている。
「旧年は色々ありましたが、また来年も宜しくお願いいたします」
「いたします」
こうして二人の大晦日は過ぎていった。




