罵声
「ハイリッヒ王よ、恐れながらもう一点よろしいでしょうか?」
カインが王に言葉をかける。
「なんじゃ?」
「このクリュッグは、伝説級の武具を身に付けています。アサシンである彼に、そのような武具を纏わせたまま我が国で放置しておくなど、危険だと思われます」
「フム……その通りじゃの。おい、衛兵。クリュッグの装備一式を剥いでしまえ」
「ハッ!」
近衛兵は、オレが装備していた武具を剥ぎ取ろうとした。
「ま、待ってください、王様。オレの装備品は魔王がいる山麓から持ち帰った強力なものばかりで、二度と手に入らないかもしれません。どうか、どうかこれだけはご勘弁を!」
そう懇願するも、王は素知らぬふり。近衛兵はオレの貴重な装備品を剥ぎ取った。
流石に抵抗しようとしたが、そうするのを止めた。
この場には近衛兵だけでなく、パーティーメンバーもいる。その全員を相手にしては、オレでも勝ち目はない。
アサシンのズボンだけはどうにか取られずに済んだが、他の装備品は全て没収された。結果、ズボンとシャツ一枚だけのみすぼらしい姿になってしまった。
もうどうしようもない。
親友だと思っていた仲間から裏切られ、貴重な装備品まで取られてしまった。そして、恋人のアンナまでもオレを見限りやがった。
苦心の末、魔王を倒したのにあまりにも酷すぎる仕打ち。硝子が割れるように、心まで打ち砕かれた。
身も心も萎えてしまい、立っているのがやっと有様。
そんなオレを容赦なく近衛兵が引き摺っていき、謁見の間から出た。
そこで後ろから王の声。
「待て、近衛兵よ。その下賤な者が我が城に入ったことに気が立って仕方がない。そやつを城外に出したら、打ち据えよ!」
「はっ! 王の仰せのままに」
城の大玄関口から出た。ふらふらと階段を下っていくと、後ろから突如蹴り飛ばされ、階段を転げ落ちていく。
「うぐ……」
立ち上がろうとしたオレを目掛け、近衛兵共が、槍の柄の部分で滅多打ちにした。
だが、屈強な近衛兵から打ち据えられても、オレの防御力ならまるでダメージはない。痛みも感じない。
周りを見ると、民衆が無様にぶたれているオレを見ている。階段の上を見ると、玄関口にはいやらしい笑みをぶら下げ、オレを指差しているカインがいた。弓使いのトレモロも、魔法使いのキュアも無様なオレを指差し嘲笑している。
魔王を討ち取り、英雄になるはずのオレが、今は仲間達から嘲笑われている。
なんという……なんという屈辱なのだ。
一体、オレがお前らに何をしたっていうんだよ。共に闘ってきた、真の仲間だったんじゃないのかよ?!
つい30分程前は違った。
凱旋パレードの中、胸を張って誇れる友と歩いていた。
それが、なんだよこれ!?
奴等は親友という仮面を被り、魔王を倒すため、オレを利用しただけだったんだ。
不条理だ。こんなの不条理過ぎる。あんまりだ……あんまりだよ……
「おいおい、衛兵さんよ。そのお方は、我々を散々に苦しめていた憎き魔王を倒しただろ? そんな英雄をどんなわけがあってか知らないが、裸にして打ち据えるなんてあんまりじゃないか!?」
街人の一人がそう口にしてくれた。
すると、その場に居合わせた大勢の人々が「そうだそうだ!」と声を揃える。
城外に王とカインがやって来て、騒ぎ立てている民衆達に向かい、声を上げた。
「皆の者、静まれぇ」
王が一喝するように声を発すると、衛兵に怒声を発していた街人達が静まりかえった。それから、王の隣にいるカインがこの場にいる皆に向かい声高に言った。
「愛する街の人々達、これには訳があるんだ。コイツ――クリュッグは、確かに僕たちのパーティーにはいた。だが、こともあろうか、彼は魔王を前にして怖じ気づき、逃走したのだ!」
民衆はカインの言葉に固まってしまった。その数秒後には、怒号が巻き起こる。
「なんだ、このクリュッグって野郎は。魔王を倒した英雄かと思っていたら、敵前逃亡しやがったのかよ!」
「臆して逃げるなんて、戦士の風上にもおけねぇな!」
「いや、コイツは英雄でも勇敢な戦士でもない。卑怯者だ」
「そうだそうだ! クリュッグはとんだ卑怯者だぜ!」
同情的であった街の人々の態度が一変し、俺に向かって罵声を浴びせてきた。