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仲間の裏切り

 幸せを噛み締めつつ、王城の中を闊歩していく。

 大理石の床を蹴りつつ、上を見上げると眩いばかりのシャンデリアが吊るされていた。流石に王城だけあって、贅をこらした造りだ。


 そのまま暫く歩き、謁見の間へと入室する。部屋の中央には噴水が置かれ、壁の両脇には近衛兵団が槍を持ち、整列していた。

 部屋の入り口から走るレッドカーペット先に玉座があり、青年の王が足を組み、そこに座っていた。


 オレ達は御前まで行き、地に片膝を付け、首を垂れ、臣下の礼を取った。


「おお! 其方達が勇者カインとその一行か! よくぞ魔王ガイゼルを倒してくれた。礼を言うぞ!」

「ははっ!」


 王の言葉にオレ達は深く頭を下げた。


「其方達があの憎き魔王を倒してくれたのだ。その褒美として、其方達に爵位を与え、相応しいポストを用意した。まず、勇者カイン。其方は伯爵の地位と近衛兵団長の地位を取らす」

「はは、ありがたき幸せに」

「次にクリュッグ。其方には男爵の地位と、王立軍隊の副将軍の地位を……」

「ちょっと待ってください、陛下!」


 王が言いかけたところで、カインが声を上げた。


「失礼ながら我が王よ。コイツ――クリュッグは魔王の山麓に乗り込んでから何の槍働きもしておりません。それどころか、我々の足を引っ張る始末でして」


 え、何を? カインの奴は何を言っているんだ?

 ただ呆然とするオレに、格闘家のレオが口を開いた。


「オイラ達が魔王軍とやり合っている時、コイツなんざ、岩陰に隠れてただ震えていただけだったな。それだけならまだしも、コイツ、魔王からトンズラこきやがった。戦闘から逃げちまったのさ」


 レオはオレを見て、嘲笑した。

 他のパーティーメンバーはオレを蔑視している。


 お、おい……皆、どうしちまったんだよ……

 ついさっきまでオレ達は笑い合い、肩を組んでいたじゃないか。


 オレとアンナがいい仲だとレオのオヤジがからかったり、皆でバカを言ったりしていたじゃないか。

 それが何故、いきなり掌を返すんだよ!?


「本当ね。クリュッグは全く戦力になっていなかったわ。貴方が魔王に相対するなんて無理な話だったの。敵前逃亡するのも無理ないわ」


 アンナは、憐憫の視線をオレに向けた。


 一体、どうしたっていうんだよ、アンナ!? オレ達、恋人同士だったじゃないか。昨日までお互いに恋の花を咲かせていたんじゃないか。それなのに何故?

 お前までオレを貶めるつもりでいるのかよ。


「な、なんと。敵前逃亡とな? 魔王を前にして、このクリュッグとやらは、其方達を――いや、苦楽をともにしてきた仲間たちを捨て置き、遁走したというのか?」

「その通りです、王様。この恥知らずなクリュッグは、逃げたのです。魔王から、戦闘から」


 驚愕する王に対し、カインが肯定した。


「我が賢明なる王よ。クリュッグの処遇については、ご再考を。クリュッグは本当に使えませんでした。その上、コイツは貧民窟の出自で、盗賊ギルドや暗殺ギルドに入り浸っていた札付きのワルだったのです」


 弓使いのトレモロは王に意見した。


 つい先程まで和気あいあいとしていた仲間の言葉が飲み込めず、オレは力なく地に両膝を付けてしまった。



 ――裏切りが……裏切りが待っているのよ。



 こんな時に、大悪魔ルナの言葉が思い出された。嫌だ、もうこれ以上はやめてくれ!


「な、なんという! クリュッグとやらよ、其方は本当に盗賊ギルドや暗殺ギルドに所属していたのか? それに貧民窟の出身とは、真か?」

「事実です、ハイリッヒ王……」


 オレは項垂れた。


「其方は武功も立てず、卑しい出自であり、盗賊ギルドや暗殺ギルドに出入りしていた。なんと汚らわしい奴なのじゃ!」


 王はそこで言葉を切った。そして、間髪入れず壁際にいる近衛兵に命令をする。


「このクリュッグをとやらを引っ立てぃ! このような下賤な輩が我が城に入るなど、言語道断じゃ。とっとと、城外に追い出せ!」

「はっ!」


 二人の近衛兵が槍を携え近づいてくる。オレの顔は蒼白になった。最早、茫然自失だ。

 その時、カインがオレの耳元でぼそぼそと呟いた。


「まぁ、悪く思うなよ。爵位や王城での地位は限られているからな。同じパーティーメンバーでも、出世争いのライバルは一人でも少ない方がいいからな」


 カインの言葉で理解した。

 つまり、いつの間にかオレは権力争いに巻き込まれ、敗北していたんだ。

 王宮という小賢しい人間が集う、ある意味魔宮。その魔宮で、仲間の裏切りにより、門前払いされてしまったんだ。


「それにしたって、この仕打ちはないじゃないか! 皆、仲間だったんだろ、親友だったんだろ? なのに、どうしてこんな仕打ちを! どうして平然と意趣返しを出来るんだよ!」


 オレの荒らげた声を聞き、カインは薄く笑った。


「はん! お前が仲間だ? 親友だ? そんなわけないだろ。笑わせるなよ、全く。僕はなぁ、お前ことがずっと嫌いだったんだ。勇者の僕よりも、冒険者ランクが高いお前が妬ましかったんだよ」

「じゃ、じゃあ。なんでオレをパーティーに入れたんだよ?」

「そんなの決まっているじゃないか。ただ、魔王を倒すのに、お前の力が必要だった。それだけの理由さ。魔王を倒した今、お前は用済みになったんだよ」

「そ、そんな……」


 それきり口を噤んでしまった。まだ茫然自失だ。体に力が入らない。


 オレ達は仲間――いや、それ以上の絆で結ばれた真の仲間、友だったんじゃないのかよ!?

 ボロボロになりながら、強敵の魔王軍四天王を打ち倒し時、皆で手を携えて、信頼し合って、協力し合って……

 キャンプを張ったときだって、夜空の下でオレ達は馬鹿話しながら笑い合ってきたじゃないか。

 それが、なんだってこんな……


 用済み。

 用済み。

 用済み。

 用済み。

 用済み。


 何だよソレ。なんなんだよその言葉は!


 まだカインの言葉が――突然の仲間たちの裏切りが消化出来ず、頭の中でそれらがぐるぐると回っている。

 放心状態になり、膝から崩れ落ちそうだ。だって、まさか、そんな……


 近衛兵がやって来て、オレの両肩を掴かんだ。もうされるがままになってしまい、抵抗する気すら起きない。

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皆様からの応援があると、それを糧に「執筆頑張ろう」と、執筆も捗ります。

ブクマ、評価など、よろしくお願いいたします!

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