次の標的
次の標的は自ずと決まった。
それは、わざわざオレをハーベス共和国に紹介してくれたアンナだ。
共和国での話は上手くいった。こうなれば、彼女はもう用済みだ。
アイツを聖女の座から引きずり下ろすことにするか。アイツはルナの気配を感じている邪魔な奴だしな。
場合によっては……アイツに手を下すことになってもやむを得ないだろう。
そのようなことを考えながら、盗賊ギルドへと向かった。
そして、ゲバラから裏ルートで手に入れた聖女のロザリオの写真を買い、それを腕のいい鍛冶屋へと持っていく。
その写真を鍛冶屋の親方であるドワーフに見せた。
「ほう、こいつは金のロザリオか。随分と精巧な装飾が施されているな」
「出来そうか、オヤジさん?」
「ここまで凝ったロザリオを作るなんざ無理だな。素材自体は単なる金なので、問題はないが」
「そうか、駄目か……」
オレは首を振った。
「なんてな。ドワーフの中でも名工中の名工であるオラなら作れる。それもたった一日でな。まぁ、徹夜での突貫作業となるが」
「そ、そうしてくれるか? だとしたらありがたい!」
「ただし、値は張るぜ」
「勿論だ。1000万でいいか?」
「うんにゃ、2000万にしてくれ」
「了解した。オレはすぐ銀行に行って、金を下ろしてくる。オヤジさんは、すぐに仕事に着手してくれないか?」
「おうよ。他の仕事をほっぽって、やってやるぜ」
親方は力こぶを作る。
「あと、もう一つ相談なんだが」
「おうよ」
「その写真を見ると、ロザリオの裏面に隠語で書かれた文字列が彫られているだろ? そいつもどうにかコピー出来ないか?」
親方はロザリオの裏面を写した写真を見る。
「な、なんだこりゃ? 精緻な文字列が彫ってあるじゃねーか」
「ああ、そうなんだ。しかもその文字列はシリアルナンバーなんだ。ってことは、一人一人のロザリオに違う文字列が彫られているということなんだよ」
「そうなのか、クリュッグ?」
「ああ、そうなんだ。親方、その文字列までコピーすることは可能か?」
「結論から言えば、ロザリオとその装飾までは再現させたコピー品は作れる。だが、この精緻な文字列を彫ること、ましてや、一つ一つ違うシリアルナンバーまでコピーすることは不可能だ」
「それは当然だよな。分かった、無理ならばそれでいい。その代わり、裏面の文字列が入っていないロザリオは作ってくれよ」
「そこは合点承知の助。オリジナルと寸分違わないロザリオのコピー品を作ってやるぜ」
親方は自信満々の笑顔を見せた。
早速、オレは銀行に出向き、2500万ダラーを引き出した。
1金貨で1万ダラー。
それが2500枚ともなると、中々の重量物となる。
まぁ、オレの筋力なら楽々運べるのだが。
あのアルフォード男爵から絵画を取り返した謝礼金、5000万ダラーは共和国に運ばず、まだこの街の銀行に預けていたので助かった。
銀行から出て、その足で工房へと戻る。
早速、ドワーフの親方に口止め料込みの工賃2000万ダラーを支払い、自宅へと戻った。
さて、これからやることは二つだ。その内の一つにすぐに着手する。
カレンダーの日付を見る。
今日は11月10日。そして、11月12日はアンナの誕生日だ。
そのことを口実に、早速アンナ宛への手紙を記した。
Dear アンナ様。
ふと、貴方の誕生日が明後日であることを思い出し、こうして筆を取りました。
出来ましたら、11月12日に二人きりでささやかな誕生会を開きませんか?
勿論、出席者はオレと貴方だけです。楽しかった思い出話を肴に、二人でお酒など嗜みましょう。
P.S.
高級ワインと貴方に似合うとっておきのプレゼントを用意して、事務所でお待ちしております。
クリュッグより
なんともご機嫌取りな手紙を書き、封筒に入れる。
その手紙を手にして郵便局に行き、速達で送った。
さて、もう一つの用事は、孤児院の教会だ。
早速オレはそこまで行くことにした。
教会に着くと、懐かしい顔がいた。
オレが餓鬼の頃からお世話になっているシスター。
「あら、クリュッグ。久し振りね。チノちゃんが、この教会を辞めてしまって、なんだか物寂しくなってきていたのよ」
「シスター、その節はどうもご面倒をおかけして」
「で、今日の用事は何かしら?」
「それなんですが……オレも幼少期は、この教会で育った身でもあり、常に神に感謝しております。そこで思い立ったのです。エレノア教国の大聖堂に一度でいいから行ってみたいと」
「まぁまぁ、それはとてもいい心掛けだわ。エレノア教国の大聖堂は、エレノア教にとって聖地ですものね。私が掛け合って、この街の偉い牧師様に『大聖堂への通行許可証』を書いてもらうように掛け合ってみますね」
「それは有り難いです。よろしくお願いします」
「私も牧師様も、クリュッグが多額の献金をしてくれた熱心な信者だと知っています。教会としても、ただの巡礼者に通行証を出すはずもありませんが、他ならぬ貴方なら大丈夫でしょう」
「助かります」
「それじゃあ、夕方に出直してくださいな。それまでに、許可証が発行されているでしょうから」
「恐れ入ります、シスター。それでは後程」
折り目正しく礼をし、そのまま教会から出た。
オレは神など信じていない。無神論者で、己の力だけを信じているのみ。
だが、今回ばかりは神とやらの足を舐めてやってもいいだろう。




