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一足早く

 だが、問題はある。

 今、絵図に書いたように簡単に事が進めば、苦労はない。

 なにしろ、ハーベス共和国の動員兵数は25万。

 一方、ハイランド王国の動員兵数は倍の50万。

 2倍という圧倒的な兵力の差がのしかかってくる。


 しかし、オレ一人だけで国家転覆することなど不可能だ。

 例え、王国と共和国に2倍の兵力差があろうとも、作戦を練り、戦闘に勝利していけばいい。

 不利な戦況をひっくり返し、逆転していく方がオレの性分にも合う。


 オレがその様に考えていると、ラッセル大臣が声をかけてきた。


「……とはいえ、我が国の兵力は重々承知しております。ですので、クリュッグ様におかれましては、今までの話を聞かなかったことにし、領事館から立ち去るのもやむを得ません。無理強いは出来ませんからね」

「ラッセル大臣。こんな話を聞かされて、オレが引き下がると思ったのですか? オレはハイリッヒ王に貸しがある。そのツケを回収する為にも、ハーベス共和国を絶対戦勝国にしてみせますよ!」

「おお、それでは!?」

「ああ、オレはこの国に亡命する。ハイランド王国で2つの用事を片付けてから」


 オレは白い歯をこぼす。

 これで会談はまとまった。

 オレとラッセル大臣、次いでアルカディア元帥と固く握手する。


 その晩、歓迎の宴が開かれた。その場の主役はオレであった。

 その宴の席で知ったのだが、どうもこの街でやたらと兵士を見かけると思ったのだが、すでに共和国側は、このセメンタの街に3万の精兵を集めているらしい。


 未だに開戦準備中の王国とは違って、フットワークが軽く、感心した。

 この素軽さがあれば、王国に対し勝機があるような気もしてくる。

 兵は拙速を尊ぶからな。


 一晩が過ぎ、ラッセル大臣とアルカディア元帥に丁寧な挨拶をし、セメンタの街を後にした。


 馬を駆け、またオットーの街に帰って来た。


 さて、ここからまた一仕事だ。

 オレの仲間達にも、ハーベス共和国へと移り住んでもらわなければいけない。


 皆を事務所に召集し、各々で話し合うことにした。


「いきなり召集をかけて済まない。皆、聞いてくれ。突然だが、オレはこの王国からハーベス共和国へ亡命することにした。そこで虫のいい話なのだが……出来ればパーティーの皆に付いて来て欲しいと思っている。頼む、この通りだ」


 オレは深々と頭を下げた。


「フム、我は構わぬ。元々、諸国を渡り歩いてきた流浪の騎士だしな。それにお主といると、退屈せずに済みそうじゃ」


 ゼノンはニッカリと笑った。


「あたしも付いて行くー。元々あたしはエレノア教国の生まれだし、この国に未練はないわ。もっともっとほかの国も知りたいの。そして、あたしはクリュッグに付いて行きたい」


 セリーヌは真っ直ぐオレを見た。


「同意してくれてありがとう、ゼノン、セリーヌ。そのついでに話があるのだが……」

「なんじゃい?」

「二人には、50億ダラー分の金貨を馬車で運んでもらいたい。その道中に盗賊団と出くわす可能性が大だ。危険なので、勿論傭兵団もつける。その中に、ゼノンとセリーヌがいれば百人力だ」

「ほほぅ。それは大任だし、骨の折れそうな仕事だのう。だが、危険な仕事ほど面白くはある。このゼノン、しかと承知した」

「ねぇねぇ、クリュッグ。荷馬車の護衛はいいとして、その報酬は?」

「ゼノン、セリーヌ。無事50億ダラーを共和国へ運び込めたら、報酬は一人あたり1億ダラーでどうだ?」

「のったーーー!」


 セリーヌは親指を立てる。

 ゼノンも満足気な顔をしている。


「尚、ハイランド王国国境の関所で、税を納めなければいけない。その荷が金貨なら、50%の税が課せられる。だが、すでに盗賊ギルドに話を通してある。ギルドは関所の役人に賄賂を支払う手筈になっていて、荷馬車の中をあらためないらしい。つまり、馬鹿高い税など納めなくてもいい寸法になっている」

「成程、それは用意周到ね」


 セリーヌは指を鳴らした。


 そこで、俯いているチノに気付いた。


「チノは? 共和国に行くことに気乗りしないのか?」

「う、うん。ちょっとなのです……チノはこのオットーの街が好き。教会の皆も好きなので」

「じゃあどうする? オレについてくるのを止め、この街に留まるか?」

「でも、クリュッグのことはこの街よりももっと好き。だからチノは、クリュッグに付いて行く」

「チノ……」


 13歳という幼い子に負担を求めてしまった。

 だが、彼女はオレに付いて来てくれるという。

 オレとチノはグータッチをして、互いにはにかんだ。


 これで話は決まった。

 明日までに各自の身支度を終え、明後日には50億ダラーを積んだ荷馬車と共に、共和国へ移住してもらうことで一致した。


「ところでお主は明後日の馬車に同乗しないのか?」

「ああ、そうなんだよゼノン。オレはまだこの国でやり残したことが二つばかりある。それにケリをつけ次第、直ちに共和国に向かうつもりだ」

「そうか、分かった」


 ゼノンは得心したようだ。


 皆、一足早く行って、共和国で待っててくれ。

 オレもアンナとカインを倒した後、すぐに駆けつけるから。

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