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アンナと会う

 レオの親戚ことなど、さっぱり分からなかったが、ゲバラから調査してもらい、その住所を探し当てた。

 親戚は隣の地区に住んでいる。

 オレは隣の地区であるトーレスまで出向き、親戚と面談した。


 親戚の主にレオが死んだ旨を伝え、今はアリーナ一人なっていることを伝えた。

 主は沈痛な面持ちをし、深く沈み込んだ。


 その末、主は一家ともども王都にあるレオの屋敷に引っ越す決心をしたようだ。

 この親戚とレオと親しく、アリーナとも年に三回は会っていたらしい。


 主はいかにも人の良さそうで、それが顔にも出ている。実に温和な顔をしている。


 話がまとまり、オレは主に礼を述べてオットーの街まで馬で帰った。


 一件落着とまではいかないだろうが、これでアリーナが孤児になる心配はなくなった。

 オレはこの結果にある程度満足した。


 だが、レオと彼の妻や両親は、もう帰ってこない。

 レオを殺したものの、オレが暗殺をしたのではなく、介錯という不本意なかたちとなった。


 それもこれも汚い手段でレオを殺したカインのせいだ。

 アイツは許されざる者。

 きっとこの手で、無残に殺してやると、改めて誓った。


 オットーの街に無事帰り、馬を貸し出している店に返却し、帰路に就いた。


 自宅に帰る前、毎日の日課である自宅裏にある家のポストまで足を運ぶ。

 ポストを開けると、中に一通の手紙が入っていた。

 オレはそれを手に取り、自宅へと戻った。


 自宅の玄関を開け、中に入り、2階の私室へと行く。

 机の上に手紙を置き、封を切り、中身を見た。


 本日夜7時、クリュッグの事務所に伺います。

 ハイリッヒ王のことについて相談があります。

 アンナ


 そのように書かれていたので、ピンときた。

 これは恐らくあの件で、エレノア教が動いたのだろう。


 それは、あの愚か者のハイリッヒ王が、自らを神だと名乗ったと新聞の記事に掲載されていたことに起因しているに違いない。


 もう底抜けの馬鹿だな、あの王は。

 そんなことを宣言すれば、エレノア教を敵に回すことになるのは、目に見えているのに。


 そのことを勘案すると、きっとアンナは、ハイリッヒ王に対する教会側の意向を伝えに来るはずだ。

 ルナの一件もあり、彼女と会うのは嫌だが、互いの利害関係は恐らく一致している。

 ハイリッヒの奴を王座から引きずり下ろすのが、教会側の目的なのだろうから。


 ならば、アンナと会わない訳にはいかない。

 ここはアンナが何を伝えに来るのか、エレノア教側はどのような動向に出るのか、見極めた方が得策だ。


 オレは椅子の背もたれに体を預け、アンナとの会談がどのような方向に向かうのか、考えを巡らせた。


 チノが教会から帰って来てから、彼女が作ってくれた夕飯を一緒に食べ、食器を片付けた。

 チノに「これから出かけてくるから」と言い残し、そのままキッチンを出て、外に出た。


 すると心の中で、ルナが語り掛けてきた。


(これからあの聖女と会うのか?)

(ああ、そうだが)

(ならば、私は同席するのを遠慮しておこう。どうもあの女は苦手だ)


 ルナがオレの体から這いずり出てきたが、その姿は見えない。

 きっと、<インビジブル>の魔法を使っているのだろう。


「オレがアンナと会っている間、ルナはどうする?」

「そうだな……その辺の男の精気でも吸ってくるか。私の母はサキュバスだから、男の精気は大好物でな」

「おい、吸うのはいいが、吸い過ぎて相手を干からびかさせて殺すなよ」

「クク。ならば、その一歩手前で留めておくとするか。それではまたな、クリュッグ」

「ああ」


 透明となり人目には映らないルナに返事を返した。

 しかしこれでは、他人が見たら独り言をぶつぶつと呟いている危ない奴に見えるだろう。

 まぁ、この通りに人影はないから、問題ないが。


 ルナと別れ、食後の散歩を兼ねて街中を歩き、事務所へと向かった。


 事務所に着き、玄関先にあるアラートの魔法を込められている魔石があったので、それを一時的に取り除いた。

 それから玄関の鍵を開け、中に入る。


 オレは応接室のソファーに座り、アンナが来るのを待った。


 それから10分ほど経っただろうか、ベルを鳴らす音が聞こえ、玄関を開ける。

 そこには笑顔のアンナが立っており、彼女の後ろにはセダンタイプの豪勢な馬車が停まっていた。

 きっとエレノア教の馬車なのだろう。


 立ち話もなんだし、アンナを中に招き入れ、応接室へと誘う。


 キッチンでお湯を沸かし、茶葉の入ったティーポットに注ぎ、トレーに二つのカップとティーポット、それにお菓子を添え、応接室へと持っていった。


 ティーカップに紅茶を注ぎ、対面のソファーに座っているアンナの方にカップを置く。

 こうしてお茶を淹れるのも癪だが、今はアンナのご機嫌を取った方がいいので、やむなしだ。


「嬉しいです。こうしてクリュッグからお茶を淹れてもらうのは、久し振りです。魔王討伐に行った時のキャンプ以来でしょうか? クリュッグはお茶を淹れるのが上手いから」


 アンナは目尻を下げ、カップを傾けた。一口飲み、ほぅと息を吐く。


「そんな昔話はどうでもいい。それより本題に入ってくれ」

「そ、そうですね。実は……」

「実はなんだよ?」

「ハイリッヒ王を打倒したいのです。これは法王の陰の勅命でもあります。その為にクリュッグにも動いてもらえないでしょうか。協力をお願いできませんか?」

「エレノア教は一国の王を抹殺したいってのか。全く物騒な話じゃねーか」

「ハイリッヒ王は自らを神格化し、教会を厄介者にしています。一国の王としてあるまじき行為です」


 おお、おっかねぇ。やっぱり、大陸全土に影響を持つエレノア教を敵に回すのは、得策ではないな。

 それにしても、ハイリッヒ王はとんだ愚か者だ。

 自らを神格化し、教会に目を付けられたのだから。


「思い上がった王には天罰を加えなければなりません。彼を倒す為なら、教会は躊躇しません。資金援助もします。もし、この話にクリュッグも協力してくれるなら、教会としては出し惜しみしません」

「悪くない話だ。しかし、何故オレなんだ?」

「貴方は王に酷い目にあわされました。彼を憎んでいるかと思いまして」

「王だけじゃねーだろ。カインと……ついでにお前のことも許してはいないんだけどな」

「そ、そうですよね……」


 アンナは萎れて、項垂れた。


「まぁ、いいだろう。こちらにしては、あの大馬鹿の王に鉄槌を喰らわせるいい機会だ。渡りに船だよ、この話は」


 オレは快く承諾した。

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