食い千切ってやる!
それからレオは押し入れを開け、魔法の棒を取り出し、誰かに連絡を入れた。
そうしてから、彼は脱力し、ソファーに深くもたれた。
そして、20分も経過した頃、数名の男がやって来る。
男達はリビングの惨状に瞠目した。
「れ、レオ先生。これは一体……」
「呼び出してすまねぇ。悪いが、お前等。この部屋を掃除してくれねぇか? オイラは力抜けちまって、出来そうにないんだ」
「し、しかし。ここは衛兵を呼んで、この現場を保全した方が良いのでは?」
「衛兵の捜査なんて、あてにならねぇよ。それよりも頼む。ウチの家族を……早く安眠させてやりてぇんだ」
「わ、分かりました。おい、皆。先生にはいつもお世話になっている。せめて、ここで恩返しをしようじゃないか」
「お、おう」
一人の男性の声に、皆が呼応した。
きっとこの男性達は、レオの生徒なのだろう。
壊れたテーブルやタンス、それに血塗られた絨毯が、生徒達の手によって表に運び出されいく。
それから生徒達は、返り血を浴びた壁を丹念に磨いていくが、完全には血の赤色は消えなかった。
レオはようやくソファーから立ち上がり、両肩に両親の遺骸を乗せ、のっしのっしと歩いて行く。
取り敢えず、両親の遺体を表に出し、戻ってきた。
「なぁ悪いが、誰か葬儀屋まで一走りしてきてくれねぇか?」
「わ、分かりました。オレが行ってきます」
一人の男性がリビングから大慌てで、去っていく。
そして、レオは彼の妻を肩に担いだ。
そこで、レオは初めて涙を見せた。今は物を言わなくなった妻。きっと彼女への愛情や感情が爆発したのだろう。
レオは咽び泣きながらも、妻の遺体を肩に担ぎ、玄関先へと運んでいった。
生徒達がせっせと掃除をしていき、血塗れで荒れた部屋がだんだんと片付いてくる。
その間に、生徒が呼んできた葬儀屋がやって来た。
レオはアリーナに聞かれぬよう外に出て、葬儀屋と打ち合わせをした。
その際、葬儀屋から「どのような棺がいいですか?」と問われたので、レオは「一番上等なやつにしてくれ」とだけ応じた。
葬儀屋が馬車に両親の遺体と妻の遺体を乗せ、去っていく。
レオがリビングに戻ると、あの惨劇が起こった部屋が随分と片付いていた。
両親と妻の遺体から出た血液で、レオのシャツが汚れていた。彼はそれらの衣服をゴミ箱に捨て、洗面所にあるタンスから替えを出し、それに着替える。
リビングに戻ったレオは、頑張ってくれた生徒達に深くお辞儀をした。
生徒達も頭を下げる。その内の何人かは、泣いていた。
「先生、我々は帰りますが、気を確かにもってください」
「ああ、そうだな。お前達、ご苦労だった。この恩は決して忘れねぇから」
「はい! それでは我々は失礼します」
生徒達は帰路に就いた。
そうして、レオ一人になったリビングで、彼は床の戸板を外し、アリーナを抱きかかえてリビングに出す。
「ねぇ、お父さん。お爺ちゃんにお婆ちゃんは? それとお母さんはどこにいったの?」
「お母さん達は、旅に出たんだ。ちょっと遠くまで旅に……」
そこでレオはボロボロと涙を零した。
堰が切れたダムのように涙を流し、肩を震わせた。
「泣かないで、お父さん! お父さんが泣いていると、私まで悲しくなってきて……う、うわああああーん!」
アリーナはレオに抱きついた。
二人の落涙は止まらない。
オレはその光景を魔道ビジョンで目の当たりにして、ギリッと唇を噛んだ。
「ルナ、帰って来てくれ」
「分かった」
魔道ビジョンが途切れ、代わりにルナが現れた。
オレは彼女を目の当たりしても、何も言えなかった。
ルナも何も言わず、無言のままオレの体にずぶずぶと潜り込んでいく。
オレはカインへの怒りに、心がマグマのように沸き立っていた。
気を落ち着かせるため、キッチンでお茶を飲むことにした。
扉を開けたら、コツンと何かにぶつかった。
床に置かれたお盆の上に、サンドイッチが白い皿と共にのっている。
チノが作ってくれたサンドイッチをキッチンに持っていき、それを食した。
オレには娘のような存在のチノがいてくれる。
レオは愛する妻を失った。
オレはサンドイッチを食いちぎった。
カインの奴も食いちぎって血塗れにしてやると、心の中で誓った。




