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一家惨殺

 すぐ後に、大きな一軒家が映し出される。

 すでに家の玄関は破壊されていた。恐らく、斧か何かで。


 ルナが玄関から廊下を進んでいく。廊下の奥にはダイニングキッチンがあり、その奥の部屋がリビング。


 そこはすでに血の海だった。

 レオの両親と思われる男女の遺体と、レオの妻と思われる女性の死体が無残に床に転がっている。

 無残なまでのなます切りだった。

 きっとレオの部下は、慈悲もなく一家を惨殺したに違いない。


「よし、この辺でいいだろう」


 マスクを被った盗賊風の二人の男がいて、そのうちの一人が言った。手には切れ味鋭そうな剣を手にしている。


「これで一家を無残に殺害したのは、クリュッグの仕業だとレオは思うはずだ」


 もう一人の男が応じる。


「そうだな」

「それにしても、カイン様のプランMは素晴らしいな。これでレオとクリュッグが戦えば、どちらかは死ぬ。どちらが死んでも、カイン様のためになる。こんなプランを企画し、実行するなんてカイン様は恐ろしく頭が切れるな」

「ああ、全くだ。流石カイン様だぜ。頭脳明晰なあのお方の下についてれば、俺達にも出世の道が開けてくるってもんよ」

「そうだな。カイン様万歳だ」


 そうして二人の男はいやらしく口角を上げた。


「そういえば、娘がいないな」

「まだ外にいるんだろう。今は6時半ですっかり暗くなっているが、遊びたい盛りだろうからな」

「どうする? ここで待って娘も殺害するか?」

「いや。そうしたいのは山々だが、騒ぎを聞きつけた近所の者が玄関から中の様子を伺っている」

「ならタイムオーバーだな。なぁに、娘は放っておいてもいいだろう。要はクリュッグがレオの家族を惨殺した事実が欲しいだけだからな」

「まぁ、それはクリュッグじゃなくて、カイン様が真犯人なんだけどな」


 一人の男が下卑た笑い声をあげる。


「オレはこのままリビングの窓から出る。ここからなら、丁度裏の家の壁側になっているし、人目にはつかん」

「なら、俺は正面玄関から走って逃げることにしよう。そうすれば、単独犯だと目撃者に思わせることが出来る。そうすれば、レオの奴はよりこの事件を、クリュッグが犯した犯行だと思うだろう」

「分かった。上手く逃げ切ってくれよ」

「俺がへまをするはずもない。そっちこそぬかるなよ」

「ああ、勿論だ」


 二人はそこで別れた。

 一人はリビングの窓を開け、後ろの家に回った。もう一人に目を向けると、玄関から男が「どけどけ!」と怒声を発し、出て行くのが見て取れた。


 オレはルナの視覚と聴覚から魔道ビジョンに送られてくる映像を見て、愕然とした。


 こうなったらもう決定的だ。これでレオとの激突は避けられない。

 レオの屋敷がこの惨状では、真っ先にオレが疑われることになる。


 カインの奴、またしてもはめやがったな!


 怒りの感情が収まらず、走って壁を殴った。

 壁に穴が開き、オレの心にも穴が穿たれた。


 そのままよろよろと魔道ビジョンがあるところに戻り、ルナに声をかける。


「もう分かったよ、ルナ。分かった……」

「項垂れている暇なんかないだろ、クリュッグ? 私はカインがいる私室まで行く。奴を見張らなくてどうするんだよ?」

「そ、そうだよな……悪いがルナ、そうしてくれるか?」

「お安い御用だ。カインの私室は、王城にある一室のうちの一つだ。ヤツの思念を辿り、すでにどこに私室があるか、割り出している」


 そこで魔道ビジョンが途切れた。

 ものの数秒で場面が切り替わる。


 そこはロココ調の家具が備わった部屋があった。室内はやたらと広く、壁には書棚が備え付けられている。

 それに豪勢なダイニングテーブルに、革張りのソファーがあった。もう一方の壁際に、いかにも寝心地の良さそうなベッドが備え付けられていた。

 照明は、豪華なシャンデリアだ。


 奥に机があり、その手前の椅子にカインが座っている。

 奴は爪を噛み、苛立しげに指で机を叩いていた。


 三十分ほどそうしていたが、しびれを切らしたのか立ち上がり、部屋の中をそわそわとうろつき始める。


 さらにそこから二十分が経過した頃、扉からノックの音がした。


「入れ」

「失礼します、カイン様」

「首尾はどうだ?」

「確実にこの手で仕留めてきました。血を浴びた衣服から近衛兵の制服に着替えるのに時間がかかってしまいましたが。勿論、血塗られた衣服は焼却炉に入れてきました」

「レオの家に、凶器であるアサシンのククリナイフを置いてきただろうな?」

「そこも抜かりは有りません。レオの家族を惨殺した血塗れのククリナイフを置いてきました。手袋をしていましたので、我々の指紋はついていないはずです」

「よし、でかした! お前には、中尉に特進するよう王に僕自らが掛け合ってやる」

「ハッ! ありがたき幸せ!」


 近衛兵はカインに敬礼をした。

 彼は「それでは失礼いたします」と言い残し、カインの部屋から去っていった。


 カインはそれからぶるぶると震え出し、そして堪え切れず笑い声を上げた。


「してやったり。これでレオは、クリュッグが一家を惨殺したのだと確信するはずだ。そうなれば、レオとクリュッグとの生死を賭けた一騎打ちとなる。どちらが死んでも僕には都合がいい。完璧なプランだったな、これは! ハーハハハハハハ!」


 カインはさも愉快そうに笑う。それは勇者らしくもない、いびつに歪んだ笑顔だった。

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